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20、アルト視点
彼女はミリアに助けを求めたようだ。
だが、ミリアは微笑んだままの表情を変えず聖女を見ていた。
「もうどうにもなりませんわ。聖女は特別でしたもの。自分の人生だけでなく他者の人生を変えるほどに。なのに愚かなことをしたのですから報いを受けるのは当然ですわね」
おっとりとした声で聖女に言う。
ミリアは知っていたのだろうか?
「ミリア様?」
「だから、神様に祈りなさいと忠告しましたのよ」
「ミリア様はわかっていたの?」
ミリアは静かに頷いた。
それを見て、聖女の表情が怖いほどに一変し、怒りに満ちた顔でミリアを見る。
「わかっていたのに教えてくれなかったの!?」
「いいえ、私の言葉を理解しなかったのはサシャ様ですわ。これでも助言はいたしました。貴族の在り方なども。でもそれを軽んじたのはサシャ様自身ではありませんか。こうなった以上、ゆっくりとお一人で考えるべきですわ」
ミリアは笑みを湛えたまま聖女を見ているだけ。
こんな顔をするミリアをみたことがない。感情が込められていない言葉を紡ぐ彼女は知らない。
胸が、本当に苦しい。
「・・・ミリア。こうなることを・・・知っていたの?ならなぜ言わなかったの?」
メリアーナ嬢がミリアを見て言った。
柔らかな笑みを絶やさなかったミリアがフゥッと息を吐きながら仕方なさそうに話す。
「聖女、聖女と囃し立ているこの国に呆れたからですわ。強欲な思考、おざなりな治世、そんなものが嫌になったので嫌がらせをしようと思いましたの。ちょうど役に立ってくれそうな聖女様もいましたし。それでも、矯正できるかな?とは思ったりもしましたけど、無理そうなので途中で諦めましたけれど・・・」
最後にふふふっと口元を隠し笑い声を上げた。
一つ一つの動作が綺麗で、目が離せない。
「そんなことで・・・。国が混乱に陥るかもしれないことをわかってるの!?」
「こんなことで混乱に陥るなら国なら未来はありませんわね」
ミリアはそんことをいう女性ではない。
国を・・・殿下やメリアーナ嬢を思っていて、助けたいと語り合っていた優しい女性だった。
あの女の正体を知っていたらすぐに知らせてくれて、解決しようと相談していたはずだ。なのに、目の前にいるミリアは違う。
僕はこんなミリアを知らない。
もう僕の知っているミリアはもういない。
彼女に幻滅した。裏切られた気がしたが。
そこにいるミリアに対して苦々しい気持ちが溢れてくる。
その瞬間、僕はとあるセリフを口にしていた。
「ミリア・アスローディ伯爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう」
「・・・」
彼女の笑は一層深くなる。
なんでそんな顔をするんだ。婚約破棄を待ち望んでいたのか!!
「不謹慎な」などと周りがざわめいている。殿下さえ驚いていた。
なにより、僕にとってその顔が憎らしく思う。
「ミリー!」
彼女の美しい顔は変わらない。
パンッ
そんななか、中年の男性が颯爽とやってきたかと思うと彼女の頬を叩いた。
「恥晒しが。行くぞ」
「アスローディ伯爵!?」
「このような晴れやかなパーティーの日を台無しにした責任は娘に取らせます」
ミリアの父親であるアスローディ伯爵だ。彼は怖い顔で彼女の腕を掴み引きずるように歩きだした。
彼の怒気に誰もが言葉が出ずにいる。
扉を出る寸前、ミリアが彼の手を振り切った。
「ミリア!」
彼女は少し歪なカーテシーを見せる。
「ミリア。行くぞ」
挨拶を終えたのを確認して伯爵は再び、ミリアをつれていなくなった。
しばらくすると静かだった会場が少しずつ声がもどる。
殿下はあの女を兵に渡すなど処理をしていたが、僕はその場に立ち尽くすしかなかった。
胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのようでどうにもできないでいた。
「アルト様・・・」
アリナ嬢がそばでいてくれる。
それだけで救われた気がした。
だが、ミリアは微笑んだままの表情を変えず聖女を見ていた。
「もうどうにもなりませんわ。聖女は特別でしたもの。自分の人生だけでなく他者の人生を変えるほどに。なのに愚かなことをしたのですから報いを受けるのは当然ですわね」
おっとりとした声で聖女に言う。
ミリアは知っていたのだろうか?
「ミリア様?」
「だから、神様に祈りなさいと忠告しましたのよ」
「ミリア様はわかっていたの?」
ミリアは静かに頷いた。
それを見て、聖女の表情が怖いほどに一変し、怒りに満ちた顔でミリアを見る。
「わかっていたのに教えてくれなかったの!?」
「いいえ、私の言葉を理解しなかったのはサシャ様ですわ。これでも助言はいたしました。貴族の在り方なども。でもそれを軽んじたのはサシャ様自身ではありませんか。こうなった以上、ゆっくりとお一人で考えるべきですわ」
ミリアは笑みを湛えたまま聖女を見ているだけ。
こんな顔をするミリアをみたことがない。感情が込められていない言葉を紡ぐ彼女は知らない。
胸が、本当に苦しい。
「・・・ミリア。こうなることを・・・知っていたの?ならなぜ言わなかったの?」
メリアーナ嬢がミリアを見て言った。
柔らかな笑みを絶やさなかったミリアがフゥッと息を吐きながら仕方なさそうに話す。
「聖女、聖女と囃し立ているこの国に呆れたからですわ。強欲な思考、おざなりな治世、そんなものが嫌になったので嫌がらせをしようと思いましたの。ちょうど役に立ってくれそうな聖女様もいましたし。それでも、矯正できるかな?とは思ったりもしましたけど、無理そうなので途中で諦めましたけれど・・・」
最後にふふふっと口元を隠し笑い声を上げた。
一つ一つの動作が綺麗で、目が離せない。
「そんなことで・・・。国が混乱に陥るかもしれないことをわかってるの!?」
「こんなことで混乱に陥るなら国なら未来はありませんわね」
ミリアはそんことをいう女性ではない。
国を・・・殿下やメリアーナ嬢を思っていて、助けたいと語り合っていた優しい女性だった。
あの女の正体を知っていたらすぐに知らせてくれて、解決しようと相談していたはずだ。なのに、目の前にいるミリアは違う。
僕はこんなミリアを知らない。
もう僕の知っているミリアはもういない。
彼女に幻滅した。裏切られた気がしたが。
そこにいるミリアに対して苦々しい気持ちが溢れてくる。
その瞬間、僕はとあるセリフを口にしていた。
「ミリア・アスローディ伯爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう」
「・・・」
彼女の笑は一層深くなる。
なんでそんな顔をするんだ。婚約破棄を待ち望んでいたのか!!
「不謹慎な」などと周りがざわめいている。殿下さえ驚いていた。
なにより、僕にとってその顔が憎らしく思う。
「ミリー!」
彼女の美しい顔は変わらない。
パンッ
そんななか、中年の男性が颯爽とやってきたかと思うと彼女の頬を叩いた。
「恥晒しが。行くぞ」
「アスローディ伯爵!?」
「このような晴れやかなパーティーの日を台無しにした責任は娘に取らせます」
ミリアの父親であるアスローディ伯爵だ。彼は怖い顔で彼女の腕を掴み引きずるように歩きだした。
彼の怒気に誰もが言葉が出ずにいる。
扉を出る寸前、ミリアが彼の手を振り切った。
「ミリア!」
彼女は少し歪なカーテシーを見せる。
「ミリア。行くぞ」
挨拶を終えたのを確認して伯爵は再び、ミリアをつれていなくなった。
しばらくすると静かだった会場が少しずつ声がもどる。
殿下はあの女を兵に渡すなど処理をしていたが、僕はその場に立ち尽くすしかなかった。
胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのようでどうにもできないでいた。
「アルト様・・・」
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それだけで救われた気がした。
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