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六章~目指す場所~
成長?
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「暑い……そして苦しい…………なんでお前は首に乗るんだよ」
『きゅぅ~』
日本に戻ってきて早三日、置いて行かれた事が寂しかったのかもさに貼り付かれている。日中はフィオの頭や肩に乗ってたりするが、寝ている間に俺に乗っていやがる。エアコンはタイマーで切れてるし、もさもさ、ふさふさなやつが首に乗っかっているのはかなり暑苦しい。首に乗って巻きつくように寝るから息苦しいし、その上両隣にフィオとティナも居るし……お前ら暑くないの? 寝ている間に汗掻くとか不快でしょうがないんだが。
「お前の飼い主はフィオだろうが、何故俺の首に巻きつく?」
『きゅぅ、きゅぅ~』
首根っこを掴まれてぶらぶらしてらっしゃる。可愛げはあるし懐かれてるのも嫌じゃないが、息苦しくなって目が覚めるのは最悪の寝覚めだ。
「風呂…………」
もさをフィオの腕の中に収めて風呂に向かう事にした。
「お二人とも起きてきませんね」
「そっすね」
汗を流して惧瀞さんともさ、二人と一匹で朝食。今更だがもさって人間の食事食べていいんだろうか? ティナが雑食だとは言ってたけど、普通に肉じゃが食べたり刺身に醤油を付けてるのは心配になるな。預けている間に女性隊員にケーキを貰ったりもしてたらしいし、虫歯になったりしないんだろうか?
「抗議とかってどうなってるんですか?」
「あまり良い感じではないみたいです。今回の件は過激反日派や愉快犯によるものと報告されているみたいで、逆に逃げている途中で怪我をさせてしまった市民への謝罪と賠償を求められているって聞いてます」
なんじゃそりゃ…………無茶苦茶じゃん。
「それ、飲んだりしませんよね? 俺謝る気は無いですよ?」
「流石にそんなものを日本政府も飲んだりしないですよ。でも、もう少し強気で頑張って欲しいですねぇ…………LSDなんていう強烈な幻覚作用のある薬物を使ってきたり、突然襲い掛かってくる相手なんだから」
お茶を啜りながら惧瀞さんがそう言う。惧瀞さんが持ち帰った注射器の中身はLSDとか言う薬物だったらしい。日本では麻薬に指定されているもので、どっかの宗教団体が洗脳に使ったりもしてた物らしい。洗脳してフィオ達を従わせる気でいたのかと思うと虫唾が走る。
「はぁ、とにかくもう日本を出たくないですね」
「ですねぇ~、でもこれで魔物が国外に居る可能性が少しは減ったんじゃないですか? これから海外での出没の情報も疑ってかかれますし、もしかしたらもういないのかもしれませんね」
だといいんだけどなぁ、デミウルゴスとかの事件の後から今まで魔物に因る事件が起きていないらしいし、もしかして本当に狩り終えた? だとしたらヴァーンシアに戻る用意でもし始めた方がいいかな……戻る気でいるけど確実に戻れるとも限らないんだよな…………変な世界に行ったりしないよな? ……頼むぞもさ! 全てはお前に掛かっている。
「だったら楽なんですけどね」
「まだ起きてきませんね。ティナ様、やっぱりまだ体調が悪いんでしょうか?」
「あ~、そりゃないと思います」
戻って来てからいつもの調子に戻ったし、本人も治ったって言ってる。あの国の空気が悪かったせいね、とも言ってたし本当に空気の悪さで体調が悪かったのかもしれない。
「っ! っ! っ!?」
ナイフの刃が顔を掠めて行く。相変わらず速過ぎだ、見えていても反応が出来やしない。昼前に起きてきたフィオ達と昼食をした後訓練、日本に戻って来てからフィオがやる気満々で三日連続だ。攻撃の当てられない相手や銃を向けられたのが原因っぽい、そのせいで俺にも銃弾を躱したり弾けるだけの動きを要求してくる。もう何度刺されただろうか? 実際に刺されてるわけじゃないけど、顔、首、脇等、身体すれすれの位置に刺突を繰り出されてナイフの腹の部分で軽くトントンと叩かれる。もし仮にギリギリで避けていてもこれだと横薙ぎで切られている、銃弾は曲がんないけど…………実力の違いは分かってるけどいつまでも女の子に負けているというのも悔しい。どうにかしたいんだけなぁ。
「ワタル、雷での強化は?」
「あぁ~、あれか…………普段から運動の効果が出やすくするのと慣れる為に身体に電気を流してはいるけどなぁ、身体能力が変化する程やるのはちょい怖くて?」
この世界には治癒能力を持ってるやつなんていないし、もし魔物が残っていてそれがデミウルゴスみたいなのだったりしてこっちが動けなくなってる時に出てきたら困るし。
「使って、ワタルは私の動きはちゃんと目で追えてる。あとは反応するだけ」
「それが難しいんだろうが、見えてるからって動けるわけじゃないだろ」
「見えてるんだから動ける、慣れ」
んな無茶苦茶な…………元々が凄い人間だったならそれも可能かもしれないが、そういうわけでもない。剣の紋様のおかげで動けてるだけだぞ?
「もう一回」
「んにゃ!? いきなりやるなよ! 鼻が無くなるかと思ったわ!」
顔に放たれた刺突を背中を逸らせて回避したが、鼻の頭に刃の冷たい感触、ちょっとズレてたら鼻無くなってたよ!?
「ワタルは不意打ちの時の方が反応が速い事がある」
知らんわっ! 会話しながらも次々と突きが繰り出されてくる。剣で弾くか逸らすか、若しくはフィオの腕に掌底なんかを打ち込んで横に流すか、どれをやるにしても身体の反応が追いつかない。視覚で認識出来ても動きがついていかない。
「ちょっと休まないか? 暑すぎる」
「ワタルが一発当てるか、ちゃんと避けたら」
またそれか……昨日も一昨日もそれだった。結局当てる事も避ける事も出来なくて、ティナが止めに来てどうにか休憩という感じだった。だが今日は秘策がある、グミを投げてフィオの隙を作る! …………って全然隙なんて出来ないじゃん。グミなんて無視してガシガシ突き込んでくるよ!?
「あれ? お前何もぐもぐしてんの?」
「グミ、捨てたら勿体ない。こんな事しないで真面目にやって」
すいません。それにしても、食ってんのかよ……投げたグミ回収しつつ俺に攻撃してんのか。フィオにはまだまだ動きに余裕があるらしい。しょうがない、いっちょ電撃強化も使ってみるか、お菓子つまみながら戦ってるフィオに負けてるのは悔しすぎるし。
「っ! その調子」
とは言われても! かなりギリギリだ、刃の真ん中辺りで受けるつもりが反応が遅くて鍔で弾いた。回避も自分で避けてるのかフィオが意図的に外してるのか分かりゃしない。
「っ! はぁっ!」
っとに、当たりゃしない。振り上げた俺の剣を避けながらそのまま跳んで一回転して俺の後ろに着地、ホント身軽だな…………ていうか一発ってどうすればいいんだ? 当てたら怪我じゃ済まんだろ、かと言って寸止め出来る技量は無い。どうにか攻撃を流してフィオに触れさえすればいいか? 電撃強化も長くは使えないし、ここは一気に――。
「痛っ――ふに? あ!?」
「…………」
フィオの攻撃を弾いて頭にぽんと手を乗せようと手を伸ばそうとしたタイミングで汗が流れて来て目に入った。一瞬目を瞑った間になんでこうなった!? はたから見たら小さい娘の胸に手を伸ばした変質者でしかないこの状況…………。
「えっと――」
「ワタルは…………触りたいの?」
頬を朱に染めて、少し瞳をうるうるさせて見上げてくる。その表情止めてくれ。
「違っ! わざとじゃないって! 本当は頭に手を乗せるつもりだったんだって! でも目が汗に入って――じゃない、汗が目に入ってそれで――」
「ならなんでいつまでもフィオの胸に手を当てたままなのかしら? ……小さい方が良いの?」
後ろからした声にビビって横に飛び退いた。おぉう……声にドスの利いた感じがあったけど、威圧感のある笑顔とセットだと迫力が増すな。
「いや、良いとか悪いじゃなく事故だから」
「ふ~ん、それならどちらが好みなのかしら?」
「え~っと、好みとかは別に…………」
ティナにじぃっと見られる。なんかフィオも自分の胸をぺたぺたしながら見てくるし。
「ま、まぁあれだ。フィオに当てはしたんだから休憩休憩――」
「質問に答えてからよ」
「私も知りたい」
フィオも何変な興味出してんだ!? そんなの知ってどうするんだよ! ……二人に腕を掴まれて開放してもらえそうにない。この炎天下日差しの下で立ち続けるのは地獄、適当に答えて日陰に行かねば。
「あ~、身体のバランスが整ってればいいんじゃないか? 低身長で巨乳とか高身長で貧乳とか極端にアンバランスじゃなかったらいいかな」
二人とも自分の身長を確かめたり胸触ったりし始めたんですけど……フィオはぺたぺた、ティナはふにふにって感じの擬態語が合ってる、同じ行動なのにこうも違うか胸囲の格差…………でもフィオのも柔らか――忘れろ! 忘れろ! 首を振ってさっきの記憶を消そうと試みる、最近二人に引っ付かれる事が多いせいで悶々とする事も多いんだから余計な事を記憶すんな。
「私身長はそれなりにあるし、この位の大きさで丁度いいわよね?」
「押し付けんな、汗付くぞ」
腕にふにふにがぁあああ~。
「私は? 小さい? だめ?」
勘弁してくれ、頭くらくらしてくる。引っ付く二人を引きずって木陰に入って倒れ込む。
「如月さんもフィオさんもお疲れ様です。飲み物と、今日はシュークリームにしてみました」
「しゅーくりーむってなに?」
「菓子だ。おっ、これ冷たい、アイス?」
「はい、冷たい物の方が良いかと思って普通の物とは別にアイスが入っている物も買ってみました」
中身が柑橘系のアイスだったらしくさっぱりしてて美味しい。果肉なのか皮なのか、少し硬い食感があるのも中々良い。
「惧瀞の持ってくる物は美味しいわね~」
「本当ですか! ありがとうございますぅ~。それにしても如月さん、いつの間にかフィオさんの動きに付いて行けるようになってて凄いです、もしかして銃弾も躱したり弾いたりも出来るんじゃないですか?」
「あー、どうかな? フィオはまだまだ手加減してるだろうし」
「どうなんですか? フィオさん」
聞いてないな、シュークリームをパクついてティナと一緒にぽぅっとして幸せそうにしてる。
「フィオさん?」
「ん? …………出来ると、思う、でもムラがあるからまだ試したら駄目」
え…………? 出来るようになったら試す気でいたの!? 躱せるようになったとしても銃なんて向けられたくないんですけど!
「やっぱりー。如月さん凄いです、どんどん強くなっちゃいますね」
いやいやいやいや! なってない、なってないから、一時的な強化だし凄く疲れるし、成長してるとかじゃないから。
「訓練はフィオさんがしてますけど、ティナ様はしないんですか?」
「んー? 私はワタルと戯れるの担当~」
「そ、そうなんですね…………」
ティナが腕を絡めて身体を寄せてきたのを見て惧瀞さんが赤くなってる。何を想像してるのやら……俺は何もしてないぞ?
『きゅぅ~』
日本に戻ってきて早三日、置いて行かれた事が寂しかったのかもさに貼り付かれている。日中はフィオの頭や肩に乗ってたりするが、寝ている間に俺に乗っていやがる。エアコンはタイマーで切れてるし、もさもさ、ふさふさなやつが首に乗っかっているのはかなり暑苦しい。首に乗って巻きつくように寝るから息苦しいし、その上両隣にフィオとティナも居るし……お前ら暑くないの? 寝ている間に汗掻くとか不快でしょうがないんだが。
「お前の飼い主はフィオだろうが、何故俺の首に巻きつく?」
『きゅぅ、きゅぅ~』
首根っこを掴まれてぶらぶらしてらっしゃる。可愛げはあるし懐かれてるのも嫌じゃないが、息苦しくなって目が覚めるのは最悪の寝覚めだ。
「風呂…………」
もさをフィオの腕の中に収めて風呂に向かう事にした。
「お二人とも起きてきませんね」
「そっすね」
汗を流して惧瀞さんともさ、二人と一匹で朝食。今更だがもさって人間の食事食べていいんだろうか? ティナが雑食だとは言ってたけど、普通に肉じゃが食べたり刺身に醤油を付けてるのは心配になるな。預けている間に女性隊員にケーキを貰ったりもしてたらしいし、虫歯になったりしないんだろうか?
「抗議とかってどうなってるんですか?」
「あまり良い感じではないみたいです。今回の件は過激反日派や愉快犯によるものと報告されているみたいで、逆に逃げている途中で怪我をさせてしまった市民への謝罪と賠償を求められているって聞いてます」
なんじゃそりゃ…………無茶苦茶じゃん。
「それ、飲んだりしませんよね? 俺謝る気は無いですよ?」
「流石にそんなものを日本政府も飲んだりしないですよ。でも、もう少し強気で頑張って欲しいですねぇ…………LSDなんていう強烈な幻覚作用のある薬物を使ってきたり、突然襲い掛かってくる相手なんだから」
お茶を啜りながら惧瀞さんがそう言う。惧瀞さんが持ち帰った注射器の中身はLSDとか言う薬物だったらしい。日本では麻薬に指定されているもので、どっかの宗教団体が洗脳に使ったりもしてた物らしい。洗脳してフィオ達を従わせる気でいたのかと思うと虫唾が走る。
「はぁ、とにかくもう日本を出たくないですね」
「ですねぇ~、でもこれで魔物が国外に居る可能性が少しは減ったんじゃないですか? これから海外での出没の情報も疑ってかかれますし、もしかしたらもういないのかもしれませんね」
だといいんだけどなぁ、デミウルゴスとかの事件の後から今まで魔物に因る事件が起きていないらしいし、もしかして本当に狩り終えた? だとしたらヴァーンシアに戻る用意でもし始めた方がいいかな……戻る気でいるけど確実に戻れるとも限らないんだよな…………変な世界に行ったりしないよな? ……頼むぞもさ! 全てはお前に掛かっている。
「だったら楽なんですけどね」
「まだ起きてきませんね。ティナ様、やっぱりまだ体調が悪いんでしょうか?」
「あ~、そりゃないと思います」
戻って来てからいつもの調子に戻ったし、本人も治ったって言ってる。あの国の空気が悪かったせいね、とも言ってたし本当に空気の悪さで体調が悪かったのかもしれない。
「っ! っ! っ!?」
ナイフの刃が顔を掠めて行く。相変わらず速過ぎだ、見えていても反応が出来やしない。昼前に起きてきたフィオ達と昼食をした後訓練、日本に戻って来てからフィオがやる気満々で三日連続だ。攻撃の当てられない相手や銃を向けられたのが原因っぽい、そのせいで俺にも銃弾を躱したり弾けるだけの動きを要求してくる。もう何度刺されただろうか? 実際に刺されてるわけじゃないけど、顔、首、脇等、身体すれすれの位置に刺突を繰り出されてナイフの腹の部分で軽くトントンと叩かれる。もし仮にギリギリで避けていてもこれだと横薙ぎで切られている、銃弾は曲がんないけど…………実力の違いは分かってるけどいつまでも女の子に負けているというのも悔しい。どうにかしたいんだけなぁ。
「ワタル、雷での強化は?」
「あぁ~、あれか…………普段から運動の効果が出やすくするのと慣れる為に身体に電気を流してはいるけどなぁ、身体能力が変化する程やるのはちょい怖くて?」
この世界には治癒能力を持ってるやつなんていないし、もし魔物が残っていてそれがデミウルゴスみたいなのだったりしてこっちが動けなくなってる時に出てきたら困るし。
「使って、ワタルは私の動きはちゃんと目で追えてる。あとは反応するだけ」
「それが難しいんだろうが、見えてるからって動けるわけじゃないだろ」
「見えてるんだから動ける、慣れ」
んな無茶苦茶な…………元々が凄い人間だったならそれも可能かもしれないが、そういうわけでもない。剣の紋様のおかげで動けてるだけだぞ?
「もう一回」
「んにゃ!? いきなりやるなよ! 鼻が無くなるかと思ったわ!」
顔に放たれた刺突を背中を逸らせて回避したが、鼻の頭に刃の冷たい感触、ちょっとズレてたら鼻無くなってたよ!?
「ワタルは不意打ちの時の方が反応が速い事がある」
知らんわっ! 会話しながらも次々と突きが繰り出されてくる。剣で弾くか逸らすか、若しくはフィオの腕に掌底なんかを打ち込んで横に流すか、どれをやるにしても身体の反応が追いつかない。視覚で認識出来ても動きがついていかない。
「ちょっと休まないか? 暑すぎる」
「ワタルが一発当てるか、ちゃんと避けたら」
またそれか……昨日も一昨日もそれだった。結局当てる事も避ける事も出来なくて、ティナが止めに来てどうにか休憩という感じだった。だが今日は秘策がある、グミを投げてフィオの隙を作る! …………って全然隙なんて出来ないじゃん。グミなんて無視してガシガシ突き込んでくるよ!?
「あれ? お前何もぐもぐしてんの?」
「グミ、捨てたら勿体ない。こんな事しないで真面目にやって」
すいません。それにしても、食ってんのかよ……投げたグミ回収しつつ俺に攻撃してんのか。フィオにはまだまだ動きに余裕があるらしい。しょうがない、いっちょ電撃強化も使ってみるか、お菓子つまみながら戦ってるフィオに負けてるのは悔しすぎるし。
「っ! その調子」
とは言われても! かなりギリギリだ、刃の真ん中辺りで受けるつもりが反応が遅くて鍔で弾いた。回避も自分で避けてるのかフィオが意図的に外してるのか分かりゃしない。
「っ! はぁっ!」
っとに、当たりゃしない。振り上げた俺の剣を避けながらそのまま跳んで一回転して俺の後ろに着地、ホント身軽だな…………ていうか一発ってどうすればいいんだ? 当てたら怪我じゃ済まんだろ、かと言って寸止め出来る技量は無い。どうにか攻撃を流してフィオに触れさえすればいいか? 電撃強化も長くは使えないし、ここは一気に――。
「痛っ――ふに? あ!?」
「…………」
フィオの攻撃を弾いて頭にぽんと手を乗せようと手を伸ばそうとしたタイミングで汗が流れて来て目に入った。一瞬目を瞑った間になんでこうなった!? はたから見たら小さい娘の胸に手を伸ばした変質者でしかないこの状況…………。
「えっと――」
「ワタルは…………触りたいの?」
頬を朱に染めて、少し瞳をうるうるさせて見上げてくる。その表情止めてくれ。
「違っ! わざとじゃないって! 本当は頭に手を乗せるつもりだったんだって! でも目が汗に入って――じゃない、汗が目に入ってそれで――」
「ならなんでいつまでもフィオの胸に手を当てたままなのかしら? ……小さい方が良いの?」
後ろからした声にビビって横に飛び退いた。おぉう……声にドスの利いた感じがあったけど、威圧感のある笑顔とセットだと迫力が増すな。
「いや、良いとか悪いじゃなく事故だから」
「ふ~ん、それならどちらが好みなのかしら?」
「え~っと、好みとかは別に…………」
ティナにじぃっと見られる。なんかフィオも自分の胸をぺたぺたしながら見てくるし。
「ま、まぁあれだ。フィオに当てはしたんだから休憩休憩――」
「質問に答えてからよ」
「私も知りたい」
フィオも何変な興味出してんだ!? そんなの知ってどうするんだよ! ……二人に腕を掴まれて開放してもらえそうにない。この炎天下日差しの下で立ち続けるのは地獄、適当に答えて日陰に行かねば。
「あ~、身体のバランスが整ってればいいんじゃないか? 低身長で巨乳とか高身長で貧乳とか極端にアンバランスじゃなかったらいいかな」
二人とも自分の身長を確かめたり胸触ったりし始めたんですけど……フィオはぺたぺた、ティナはふにふにって感じの擬態語が合ってる、同じ行動なのにこうも違うか胸囲の格差…………でもフィオのも柔らか――忘れろ! 忘れろ! 首を振ってさっきの記憶を消そうと試みる、最近二人に引っ付かれる事が多いせいで悶々とする事も多いんだから余計な事を記憶すんな。
「私身長はそれなりにあるし、この位の大きさで丁度いいわよね?」
「押し付けんな、汗付くぞ」
腕にふにふにがぁあああ~。
「私は? 小さい? だめ?」
勘弁してくれ、頭くらくらしてくる。引っ付く二人を引きずって木陰に入って倒れ込む。
「如月さんもフィオさんもお疲れ様です。飲み物と、今日はシュークリームにしてみました」
「しゅーくりーむってなに?」
「菓子だ。おっ、これ冷たい、アイス?」
「はい、冷たい物の方が良いかと思って普通の物とは別にアイスが入っている物も買ってみました」
中身が柑橘系のアイスだったらしくさっぱりしてて美味しい。果肉なのか皮なのか、少し硬い食感があるのも中々良い。
「惧瀞の持ってくる物は美味しいわね~」
「本当ですか! ありがとうございますぅ~。それにしても如月さん、いつの間にかフィオさんの動きに付いて行けるようになってて凄いです、もしかして銃弾も躱したり弾いたりも出来るんじゃないですか?」
「あー、どうかな? フィオはまだまだ手加減してるだろうし」
「どうなんですか? フィオさん」
聞いてないな、シュークリームをパクついてティナと一緒にぽぅっとして幸せそうにしてる。
「フィオさん?」
「ん? …………出来ると、思う、でもムラがあるからまだ試したら駄目」
え…………? 出来るようになったら試す気でいたの!? 躱せるようになったとしても銃なんて向けられたくないんですけど!
「やっぱりー。如月さん凄いです、どんどん強くなっちゃいますね」
いやいやいやいや! なってない、なってないから、一時的な強化だし凄く疲れるし、成長してるとかじゃないから。
「訓練はフィオさんがしてますけど、ティナ様はしないんですか?」
「んー? 私はワタルと戯れるの担当~」
「そ、そうなんですね…………」
ティナが腕を絡めて身体を寄せてきたのを見て惧瀞さんが赤くなってる。何を想像してるのやら……俺は何もしてないぞ?
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