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エピローグ

新しい日々

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「М・Ⅰ……それがこの子の識別名だ。でも、こんなので呼びたくないよな……」
「それもそうよね……」
「“マリア”ってどうだろうか。キリストの母である、聖母マリア……ここから名前をもらって“マリア”にしよう。、この子を聖母マリアが守ってくれるように……」
 父はそう言って、一人の赤ん坊に名前を付けた。
「マリア、良い名前だろう?」
 そう赤ん坊に微笑みかける父。  
 彼に抱かれた赤ん坊……私は、その差し出された手を握った。

「マリア凄いな!もうこんなのが分かるのか!」
 父はそう言って喜ぶ。
 私はそれが嬉しくて、たくさんのことを覚えた。
 けれど、その様子を母が見ている。
 最近、母は私を恐れているように感じる。
 きっと年齢に合わず色々なことを知っているからだろう……幼くても分かる。

「マリアはやっぱり天才だよ」
 一人で図鑑を見ている私から離れ、父はそう言った。けれど、母は「そりゃ天才に決まってるじゃない……彼女は私たちが……」と言葉を飲み込む。
 “彼女は私たちが作り出した”
 今なら分かる。そう言いたかったんだと。

 幼い日の記憶が次々に呼び起こされる。
「マリア先生?何見てるんですか?」
さ……。これしかないからね……」
 スクリーンに映し出される、幼い日の自分。
 普通の家族にあるビデオテープや、写真、アルバム……そう言った物は自分にはない。違法な研究、実験で作り出された自分を、両親はどう見ていたのか。今は知ることすらできない。
 マリアはスクリーンに映る自分に微笑みかけた。
 「辛いこともあるけど、今は幸せだよ……」と。

「マリア先生、いつもの食べます?」
「でもさ、私だけだとなんか悪いよな……。暁人はどうする?ゴリラは?まこっちゃんと春の分も欲しいけど……」
「それはご心配なく。ちゃんと全員分ありますから。だから、みんなで一緒に食べましょうか!もうすぐここに集まりますから。ほら、年越しそばだって用意してテレビだってつけておかないと」
 暁人はそう声を掛けた。
 今年もまた、あと数時間で終わる。
 マリアや暁人らにとってこの一年は、濃く、様々なことがあった年だった。
 それを忘れることなく、次に活かし、より良いものとする。それがマリアの願いだった。
「マリア先生!みんな来ましたよ!」
 暁人がそう声を掛けると、マリアは前と変わらない、子供のように無邪気な笑顔を見せた―――。
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