16 / 66
間話 1 ―慶夜―
しおりを挟む
ふとした仕草で、奴隷の印が頬に触れる。
兄の名が刻まれた奴隷の印が嬉しくて、弟は繰り返し、首を傾いでみたり指先で触れて確かめては嬉し気に微笑んでいた。
「さ……もう休みなさい。リシェが寝るまではここに居てあげるから」
兄を引き留めることができないことを、弟は切なく思う。だが引き留めて兄の睡眠時間を失くすわけにはいかない。
「ーーありがとう、兄さま。え……と…………」
横になりながら、兄を見上げて言い淀む弟に、クスりと兄は笑った。
「“お休み”の口づけか」
「あ…………の、ごめんなさい…………」
「良い。これは調教ではない」
ちゅ……
兄は、リップ音を響かせて弟に口づけると、弟の眼の上に手を翳した。
「お休み、リシェ」
「はい、お休みなさい。兄さま、ありがとう」
程なく、すーーっと眠りに入った弟を、眼を細めて兄は見入った。
「寝付きが良いのは昔のままだな」
兄は弟の髪をかきあげて額に口づけ、感じ入ったように独り言ちたが、それには控えていた日陰が苦笑する。
「主」
日陰がそれ以上は口にせず、首を振る。
日陰の示唆に思い当たった兄も苦笑を返した。
「私のせいか」
「明日は動けますまい」
それには容易に想像がつく。
「ゆっくりさせてやってくれ」
「心得ました。……主もこちらで寝て行かれては? ーー初夜です」
「……夜が明けたら起こしてくれ」
「承知。お休みなさいませ」
兄は弟の横に身を横たえ弟を抱きしめると、『ん……』と、弟は意識のないまま捩り、自ら心地の良い姿勢に落ち着くと再びすぅ、とした寝息になった。
「日陰、ありがとう」
「主の、御心のままに」
日陰はそう応え、華灯を消した。
§
兄の名が刻まれた奴隷の印が嬉しくて、弟は繰り返し、首を傾いでみたり指先で触れて確かめては嬉し気に微笑んでいた。
「さ……もう休みなさい。リシェが寝るまではここに居てあげるから」
兄を引き留めることができないことを、弟は切なく思う。だが引き留めて兄の睡眠時間を失くすわけにはいかない。
「ーーありがとう、兄さま。え……と…………」
横になりながら、兄を見上げて言い淀む弟に、クスりと兄は笑った。
「“お休み”の口づけか」
「あ…………の、ごめんなさい…………」
「良い。これは調教ではない」
ちゅ……
兄は、リップ音を響かせて弟に口づけると、弟の眼の上に手を翳した。
「お休み、リシェ」
「はい、お休みなさい。兄さま、ありがとう」
程なく、すーーっと眠りに入った弟を、眼を細めて兄は見入った。
「寝付きが良いのは昔のままだな」
兄は弟の髪をかきあげて額に口づけ、感じ入ったように独り言ちたが、それには控えていた日陰が苦笑する。
「主」
日陰がそれ以上は口にせず、首を振る。
日陰の示唆に思い当たった兄も苦笑を返した。
「私のせいか」
「明日は動けますまい」
それには容易に想像がつく。
「ゆっくりさせてやってくれ」
「心得ました。……主もこちらで寝て行かれては? ーー初夜です」
「……夜が明けたら起こしてくれ」
「承知。お休みなさいませ」
兄は弟の横に身を横たえ弟を抱きしめると、『ん……』と、弟は意識のないまま捩り、自ら心地の良い姿勢に落ち着くと再びすぅ、とした寝息になった。
「日陰、ありがとう」
「主の、御心のままに」
日陰はそう応え、華灯を消した。
§
12
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる