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【出ていく決心】
しおりを挟むそのまま数秒間、見つめ合う。
アイアイの方は、なかなか目をそらさない。
そのうちに優吾の番が来た。
シロクマから渡された皿を受け取り、優吾はその場を離れた。
優吾は、背中にアイアイの視線を感じていた。
でも、振り向こうという気になれなかった。
この時、優吾は明日にでも病院から立ち去ろうと決心していた。
やはり、動物たちの保護を受けるのは、心のどこかに抵抗があった。
病院のベッドに戻り座っていると、以前自分が住んでいた不忍池のほとりの大きな銀杏の木の事が気になりだした。
大丈夫だろうか。
あそこは住み心地が良かったから、もうすでに他のホームレスの縄張りにされていないとも限らない。
誰かがあそこへ引っ越さない限り、優吾がここに運ばれてくる以前のまま、わずかな持ち物やダンボールは、あそこに置いたままのはずだった。
銀杏の木の下に、服も、食器も、画材道具もそのまま置いてある。
盗まれないとも限らなかった。
上野公園のホームレスたちのルールでは、公園内に置いてあるものは皆、
忘れていったものと判断するのは当たり前のことだった。
あの場所を他の者に奪われたくはない、そう思った時、今夜ここを出ようと決心した。
さっそく優吾は、そのことをケイコと三上さんに伝えにいった。
この時にはすでに三人は、仲の良い友達になっていた。
たった5日間の間に、不思議なほど、三人は打ち解けていた。
おそらく三人とも、死にかけていた所をここへ運ばれてきたという同じ境遇にあったためだろうか。
〈続く〉
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