32 / 56
【忘れがたい日々 】
しおりを挟む夕方、三上さんの個部屋に三人が集まった。
「そうかあ、優吾さん、もう行っちゃうんだ」
ケイコが下を向いて呟いた。
「そうですよ。いつまでもここにお邪魔になるわけには、いかないですよ。いつまた、他のホームレスが運ばれてくるか分からないですし。こう言っては変ですけど、やはり人間が動物たちに養われているのには問題があります」
優吾が答えるわりに、横から三上さんが口をはさむ。
「あら、どうして? 」
ケイコが不思議そうな顔をして、三上さんを見る。
「だって、それじゃあ、まるで『猿の惑星』みたいじゃないですか。このままいくと、きっと最後には、すべての人間が動物たちに支配される結末になるんじゃないですかね」
三上さんは、優吾とケイコの顔を心配そうな顔をして、交互に見る。
かつてサラリーマンだった三上さんは、リストラされてからというもの、
極度に心配性になってしまい、困っているのだという。
「ほーら、また、三上さんの心配癖がでた」
ケイコは笑いながら、三上さんを鉄砲で撃つような真似をしてみせる。
その後、深いため息をつくと、
「結局はさあ、なるようにしか、ならないんじゃないかな。もし『猿の惑星』みたいに人間たちが動物たちに支配される世の中になったとしても、それはそれで自然な事なんじゃないかな? 優吾さんはどう思う」
ケイコが優吾の方を見た。
「そうだな。あながち動物たちも悪い奴らじゃないよな。こうして俺たちに食事を与えてくれているわけだし。それも自分たちの餌を減らして半分は俺たちみたいなホームレスに分け与えてるんだもんな。まるで神様だよ。『猿の惑星』の世界も実際にそうなったらそうなったで、ぜんぜん面白い世界かもよ」
自然に優吾の口もとから、笑い声があがった。
同時にケイコも三上さんも吹き出した。
「これはいい、傑作だ。それなら『猿の惑星』の世界が実現した時のために、今から動物たちに取り入って、家来にでもしておいてもらわなきゃあ、損だよね」
三上さんが笑いながら言う。ケイコもそれに応じて、
「あたしも、姫の座をこれから奪うために努力しなくちゃ! 」
二人の目に涙が浮かんでいる。
優吾も笑っているうちに目元がほころんだ。
どうしたのだろう。涙腺が弱くなったのだろうか。
涙が零(こぼ)れてくる。
〈続く〉
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる