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【市川紋之介に託す 】
しおりを挟むリクガメをいち早く見つけたのは、ケープペンギンだった。
「カンガルーのポッケにいるんだもんな、そんなところにいちゃあ、分かるわけないよ」
ペンギンはクチバシを高々と上げて、唾を飛ばす。
「しょうがないわい。まともに歩いてくると丸一日かかるんだからな。これが知恵というものじゃな。ま。そういうこと」
「知恵というよりは、もうろくしたんだろ。三年前までは幹部連の集まりには、一日前から歩いて来ていたのに。今では、若い衆にお守りしてもらってるというわけだ」
誰にでも厳しいトラは、リクガメにも辛口なことを言う。
「まあ、そういじめるな」
リクガメはカンガルーに助けられ、フクロの中から出してもらい、床の上に置かれた。
「参加することに意義があるのだから」
すかさずリクガメの言葉にケープペンギンが口をはさむ。
「よっ。お見事」
少し間を置いてから、ゆっくりと長老のアイアイが口を開く。
「そろそろ本題に入ってもいいかな? 」
皆がうなずく。
「この間、途中まで話したと思うが、お園の伝説の続きをまた話そう」
長老のアイアイは、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
――時は明治時代、東北の漁村で暮らしていた海女の大島ゆいは、沈没船から桜色の小さな箱を持ち帰った。
当然、大島ゆいは、箱を開けて、中身を見た。
しかしながら、桜色の箱には、ゆいを喜ばすものは何も入っていなかった。
入っていたのは、黒い灰だけだ。
それも箱の中にギッシリと。
ゆいは、箱の中を覗いた時、何だか気持ちが悪くなった。
変な臭いがしたらしく、何度も吐いた。
ゆいは、これは何かとんでもないものを拾ってしまったという予感を覚えた。
長い間、息の続く限界まで、海を潜り続けてきた海女の第六感が働いたとでも言うべきか。
捨てようと思うが、自分が捨ててしまうと、何か自分の身に良くないことが起こるとも限らない。
ゆいは、どうしたものか考えているうちに思い浮かんで来たのは、誰か他の人に遠い所へ捨ててもらってはどうだろうか、ということだった。
ゆいは東京に住んでいる町役者で幼なじみでもあった市川紋之介にこの桜色の箱を託すことにした。
〈続く〉
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