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【血のざわめき】
しおりを挟むちょうど良いことに、一週間後に、村を出て東京で働くという若者がいた。
ゆいは事情を話し、手紙を添えて、桜色の箱を市川紋之介に渡してくれるように頼んだ。
市川紋之介、彼ももとはこの村の出身で、お日さんのようにカラッとした迷信も何も信じない明るい男だ。
彼なら大丈夫だろう。
きっとどこか都合の良いところに手際よく捨ててくれるに違いない。
ゆいは、桜色の箱を村の若者に託すと、ホッと胸をなで下ろした。
******
時は二ヶ月が過ぎ、箱は無事に東京の市川紋之介の手に渡った。
市川紋之介は、その時、上野のお園の近くに住んでいた。
ゆいの手紙を読むと、こう書かれていた。
《どうぞ、これをどこかそちらの土地で捨ててください。これは海の中の沈没船から拾ってしまったものです。一度海の中から拾ってしまったものを、わたくしが自分で捨てるのも何か不吉な気がして、あなた様にわたくしに代わって捨てていただけたらと思いました。どうぞご処分を迅速に行うようお願いいたします。お手を煩わせてしまい、ごめんなさい》
紋之介は、ゆいからの手紙を読み終わると、桜色の箱を手に取ってみた。
桜貝が箱の外側に何重にも織り重なっている。
それがゴツゴツと外側に凸面を作らずに平面に敷きつめられているところは、なんとも不思議だった。
これはよっぽどの腕利きの職人がつくった箱なのではないだろうか。
紋之介はしきりに箱を眺めては感心する。
やがて、箱を開けてみた。
本当だ、中身は灰だった。
少し嫌な感じの臭いがして、頭がふらついた。
なあに、ゆいは心配しすぎだぜ、と紋之介は思う。
これはずっと海の中に沈んでいたから、たんに箱の中身が腐って灰のようになっているだけだ。
しょうがねえな、ひとっ走りお園に行って捨ててくるか。
紋之介は、さっそく箱を携えてお園に向かった。
夜のお園は薄暗く、けたたましい鳥の鳴き声が聞こえる。
紋之介は不忍池のほとりまでやって来ると、あたりを見回した。
どこか捨てるのにいいところはないだろうか。
ふと、目をとめた先に、大きな銀杏の木が見えた。
紋之介はその下まで歩いて行った。
ここでいいだろう。
箱を開けると、その下に撒きはじめた。
少し撒いただけで、思った以上に煙が上がる。
〈続く〉
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