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【胸さわぎ】
しおりを挟む老人の言葉を裏付けるように、司会者は、幾つかの文献を取り上げて、
それらの災いが記してある箇所を画面に映しながら、誇張もこめた不安な声を出し、読み上げていく。
それに合わせて、スタジオの観客席からどよめきがおこる。
優吾は、たまたまその時アメ横を通りがかり、飲食店の店頭に置かれたTVにふと目を止めた。
そしてしばらく立ち見した。
TVに出ている老人は、しきりに今年は上野に災いが起こるかもしれないと繰り返している。
その言葉を聞いた時、優吾は妙な胸騒ぎを感じた。
でも、すぐに歩き出した。
ダンボールを見つけなければならない。
上野の災いよりも、屋根のない小屋で寝なければならないというそちらの災いの方が優吾には気がかりだ。
やがて、ダンボールは無事に見つかり、優吾はそれを抱えてパン屋の裏のゴミ置き場に立ち寄った。
ゴミ袋を漁ると、売れ残りのパンらしいものが三個見つかった。
優吾はそれも持ち帰った。
不忍池のほとりに戻ってくると、向こうに見えるボート乗場に人だかりがしているのが見える。
気になって行ってみると、ボート池には、8隻(せき)ものボートが浮かんでいる。
それも同じグレーの作業服を着た男たちだ。
優吾はボート乗場の人だかりから聞こえてくる話し声を耳にして、すぐに今起こっている出来事を飲み込むことができた。
2時間前にボート池に浮かんでいた一隻(せき)のボートが転覆したらしいというのだ。
ボートに乗っていた若いカップルは、転覆した時に一緒に池に落ちたきり、いまだに見つからないらしい。
今、懸命に捜索を続けている最中だという。
なるほど、池の中からひょっこりダイバーが顔を出した。
それがまた、水の中に消えていく。
しばらく、人混みの後ろから首をのばして見ていると、交代に3人のダイバーの頭が、あちこちの水面から現れる。
なかなか池の中に落ちたカップルは見つからないらしい。
「上野公園の桜が咲かないのは、これから上野に災いが起こることを、我々知らせるための一種のデモストレーションなのかも知れませんね」
そんなTVの老人の言葉を、優吾は思い出していた。
〈続く〉
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