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【シャワーのように降ってくる声】
しおりを挟む夜になっても、ボート乗場では絶えず人だかりがしていた。
優吾は、人ごみを抜け出して、不忍池のほとりに戻り、ダンボールに密閉された小屋の中で横になった。
うとうとしながら眠りかけていると、優吾の意識の中に、ときおり遠くで話している人の声が聞こえてくる。
捜索は真夜中にも続いているようだ。
「ねえ。これも伝説と何か関係があるのかしら? 」
「おうよ、よくねえことは始まってるようだぜ」
「これからどうなっていくのかしら? よくないことは、あたしたちの身にも降りかかるの? 」
「そんなこと、オレがわかるか! でもよお、マタマタのじいさんはこう言っていたぜ。『たとえお園にどんな災いが起ころうとも、ジャイアントパンダがなんとかしてくれるだろうよ』ってね」
「マタマタのじいさんて、爬虫類館に住んでいるヘビクビガメのおじいさん? 」
「そうだ」
「あたしも、その話をもっと聞きたいなあ。明日にでもマタマタのおじいさんに会いにいこうよ。あんたも一緒に行ってくれる? 」
「いいぜ。でもよお、何も会いに行かなくたって、明日の夜になれば、向こうからやってくるぜ。桜の状態をリクガメのじいさんといっしょに見にくるって言ってたからよお」
「それじゃあ、明日はマタマタのおじいさんに会いに桜並木の道に行くことにしましょう」
うすぼんやりとした、霧のようなベールの向こう側から、カラスの春一郎とレイ子の声が聞こえてくる。
優吾は、半分眠っている状態のまま、その声を聞いていた。
春一郎とレイ子の声は、頭の上から、シャワーのように降ってくるという感じだった。
〈続く〉
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