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【美しさは愛です】
しおりを挟む「どうしたら、先生のように美しくなれるんでしょう。美しさの秘訣を教えて頂けませんか? 」
真由美の口から、自然とついて出た言葉だった。
「今日は、本当に感動しました。お琴の演奏もとても素晴らしくて……わたし、こんなに美しい響きを聞いたことがありませんでした。
音楽を美しいって、先生にお会いして、初めて感じたんです」
先生は、真面目な顔つきをして、何も答えなかった。
沈黙が流れていく。
たった二、三分の間だったかもしれない。
しかし、真由美には、〈また、わたしは場違いなことを言ってしまって、先生を不快にさせたのだろうか? 〉と、その理由をぐるぐる頭の中で三十回ほど巡らせ、正座している足の指が痺れてくるのには、十分な時間だった。
「ふぅ~~」
と不意に、先生の口から風のような大きなため息がもれた。
「一時は、あなたに男の作法を教えなくてはならないのかと、ヒヤヒヤしたけど……」
先生がいたずらっ子を叱るような目で、真由美を見た。
「あなたは面白いほど、率直で素直な人ね」
真由美にとって、後ろ髪をひかれるというよりは、前髪をひかれる言葉だった。シビレた足の親指がシャキーンとなる。
「あのね、音はね、あらゆるものと、つながっているの。……タンスやこの家。世の中やお天道様。そして、私やあなたと……」
「はい。……」
「わたしの場合、お琴をひきながら、ただ、つながりを味わうの……」
「はい。…」
「味わっていくうちに、何かが、こう深ぁーく、突き詰められていく」
目が丸く見開かれ、開いた口がパクパクとなる。まるで金魚みたいだ。
真由美が驚いた時に出る癖だった。
「そんな境地を……わたしも…味わってみたいです」
どこから出るのか分からないような上ずった声だった。金魚は、人間に返った。
「あなたがもし、わたしのひいたお琴の響きを美しいと感じたのなら、それはお琴の響きが美しいのではないのよ」
「…………」
「お琴を通して、響いてくる愛が美しいの」
先生の眼差しは赤々と熱っぽくなり、キラリと光るものが浮かんだ。
「このお琴はね。おじいさんがくれた形見なの……」
先生は、優しくお琴をなでたかと思うと、アメイジング・グレイスのサビの部分を奏(かな)ではじめた。
〈続く〉
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