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【金平糖のお家】
しおりを挟む真由美は、目を閉じて、先生の奏でるお琴の響きに、身をまかせた。……
想いが、込み上げてくる。
想いの波が、寄せては返し、
想いの花が、咲いては散っていく。
不思議だった。
心の奥底で眠っていた想いの数々が、先生の奏でる音色に誘われて、目を覚ましては、蝶のようにヒラヒラと真由美の脳裏を飛び回る。
こんな風に、想いを味わえたのは、始めてのことだった。
想いを味わうとは、何て不思議な感覚なんだろう。……
やがて、曲を弾き終わると、先生は静かに語り出した。……
「おじいさんが、このお琴を買ってくれたのは、わたしが三十五歳の時。
あの人は、金平糖職人で、その道一筋に生きていました。
当時は、あの人の作った金平糖を、小さなお店でわたしが売っていたの。だから、食べていくのがやっとでした。
それなのに、あの人ときたら、わたしにお琴を買ってあげようとして、朝から番まで、金平糖を、作って、作って、お店からあふれるくらい作ったのね。
そうしたら、ある日、たまたまお店の前をこの町で一番お金持ちの社長婦人が通りがかって、わたしに言ったの。
《このお店にあふれている金平糖を全部使って、小さなお家を作ってくれないかしら?》 って。
何でも、【ヘンデルとグレーテル】のお話が大好きな3歳の男の子と、5歳の女の子に、クリスマスプレゼントとして贈ってあげたいんですって。
それを聞いたあの人は、大喜び。社長婦人のお屋敷の客間へ、33日通いつめて、12月23日の夜に、とうとう作り上げたわ。
屋根が水色、窓が白、壁が黄色で、ドアが赤い小さなお家だった。ちゃんとドアや窓も開いて、子供がやっと2人入れるくらいの大きさだった。
それはそれは子供たちは大喜びで、社長婦人にも感謝されて、わたしたちにも、まとまったお金が入ったわ。
あの人はそのお金を全部使って、一番高価なお琴を買ってきた。
それが、これなのよ」
先生は、お琴を、撫でながら、真由美に優しい眼差しを向ける。
〈続く〉
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