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使命が生まれた日
しおりを挟むクリスマスイブの夕方、勇気は雪丘公園にやってきました。
ノコノコとここまでやってきてしまった自分に、勇気自身でも驚いていました。
採用通知の真相が、ここへ来れば分かるかもしれない、そう思って来てはみたものの、
これを送ってきた奴に文句の一つでも言ってやろうかと無性に腹が立って仕方がありません。
こうして滑り台の前に立ち、見上げていると、子供の頃の自分が蘇ってきます。
滑り台が大好きだったこと、ズボンの尻が擦り切れるまで滑ったことが思い出され、
あのヒュンと滑っていく時の何とも言えない感覚も、同時に蘇ってきました。
滑っていく瞬間の、ワクワクドキドキする気持ち、そして、ヒュンと、まるで瞬間移動するような滑る感覚が
たまらなく好きでした。
「そうそう、お前さんには、その感覚がわかる……それは才能じゃよ」
たっぷりとした白髭をはやした丸眼鏡をかけたおじいさんが、勇気の前に立っていました。
見れば勇気のお父さんを一回り大きくしたような体格のいいおじいさんでした。
「サンタクロースが空へ駆け上る時、駆け降りる時、この滑り台を滑る時のような感覚になる。
ヒュンとな。それを心地よく感じられるというのだから、お前さんにもいよいよ来るべき時が来たというものさ」
「何の話を言っているのか分かりませんが、あなたは、採用通知を送った方ですか?」
勇気は、おじいさんの全身をまじまじと眺めながら、そう尋ねました。
何だかおじいさんの体の輪郭が光っているような気がしました。
「君に採用通知を送ったのは、天の意志さ。ワシは、君の使命を伝えに来ただけじゃよ」
「使命ですか?」
勇気は不思議そうに尋ねました。
「そう、誰しも使命を持って生まれてくるが、君の使命は特別じゃ」
いつのまにか、勇気は、目の前のおじいさんの話に、ひきこまれていました。
「僕の使命って、何ですか?」
そんな問いが、勇気の口から、ついてでました。
「君の使命は、空を飛翔(かけ)るサンタクロースになることさ」
「サンタクロースって、本物のですか?」
勇気は、ポカンと開いた口がふさがらないまま、尋ねました。
「そうさ。本物のサンタクロースだ」
「僕がなれるんですか?」
「やってみるかい? もうすぐプレゼントを配る時間だ。
これから大忙しだぞ。どうする?」
「……………」
「やってみます!」
勇気の考えとは裏腹に、心の奥底の想いが、そう答えていました。
変わりたい。夢のあることをやってみたい。今までそう思って生きてきたけれど、
今日までそんなチャンスには一度も巡り合えませんでした。
勇気は、鳥肌が立つような心のざわめきを感じながら、
これから師匠となるおじいさんの差し出された手を、強く握り返していました。
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