Where In The World

天野斜己

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本編

No,20

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温かな光に包まれている中、ベルナルディーノ様とは違うどなたかのお声がした気がした。



 『…わらわがかけた呪いを解くためには、犠牲・・が必要だった…
 …それは、生命いのちを賭けた愛情だ…己の全てを投げ打つ覚悟だ…
 …わらわの負けだ…盟約通り、永遠に我が呪いを封印しよう…』



 深い深い、宇宙の深淵から響いてくるようなお声。
そんなお声が聴こえたような気がして。
 恐る恐る眼を開けると、ベルナルディーノ様は微笑んでおられた。

女神・・は、嬉し気に愛おしそうに陛下の姿を映し。
掌に輝く光の球体を乗せて、それに息をフウッと吹き掛けた。
すると光の玉それは、陛下の身体に吸い込まれてゆき。
陛下の全身を眩い光が包み……あたしの肩に伏したままだった、陛下の呼吸いきが再びあたしの頬に掛かるのを感じた。


 「…陛下…陛下…聞こえますか…?」
 泣きたい気持ちで、そうっと呼び掛けてみると。

 皇帝陛下がそっとそのを開けられ。
 間近でしっかりと見つめ合ってしまい。
 「…ナツキ、ナツキ…ッ、…もう二度と離さぬ…っ!!」
しっかりとした声の陛下に、思いっ切り抱き締められた。



……陛下だ。

……陛下……だよね…?

こんな公衆の面前で、あたしを抱きしめるこの男性ひとは……シルヴィオ陛下……だよね…?



 最初は陛下が生きている事が嬉しくて嬉しくて。
ただ、それだけだったのに。
あんまり突飛な行動をされるから、段々自信が無くなってしまった。
この銀の髪も水色アクアマリンの瞳も、美しい容貌も陛下以外有り得ない筈なのに。
だって。


「…ナツキ…頼む…ヴィオと呼んでくれ…」


うおぉぉぉーーー、いきなり愛称ヴィオ呼び、キターーーッ!!
 何だ、この甘ったるい瞳は!? あたしの頬を両手で挟んで甘い瞳で見つめて、腰が砕けるような低音バリトンで囁き掛けてくるこの男性ひとは一体、誰だ!? まさか、陛下の皮を被った宇宙人か!? 並行世界パラレルワールドの異世界人か!!??
こんな陛下を、あたしは知らないっ!!




 「おーい、お二人さん。とりあえず、二人っきりの世界から戻ってきてくれ。」
あたしの混乱をブッた切って下さったのは、フレド殿下だった。

ハッと我に返って陛下の腕の中から抜け出そうとするが、強い腕の力がそれを許してくれない。それどころか。

 「…何だ、フレド…邪魔するな。」
 低いひっくい陛下のお声。
 「…いや俺だって、野暮な事はしたくないんだが…お前、状況理解ってる…?」
クイッと親指で指し示したのは……

あたしは渾身の力で陛下の腕から抜け出して、その場で土下座をした。
あたしの願いを聞き届けて下さったベルナルディーノ様に。



女神ベルナルディーノ様、私の願いをお聞き届け下さいまして、本当にありがとうございました!」


 『…良い…それに、本当に礼を言いたいのは、わたくしの方じゃ…』


 「…は…?」


 『…いや…それよりも、その者は長い間、苦しんで参った…
 …その分も、末永う幸せにな…
 …わたくしからこの皇国ブリュールと我が名を冠する都と…そなたら夫婦に祝福を授けよう…』


その女神様のお言葉が聴こえた瞬間、そこに集まってひれ伏していた群衆の熱狂は頂点に達した。歓声が地鳴りのように沸き上がり「神子様、万歳!」「皇帝陛下、万歳!!」「神聖ブリュール皇国に栄えあれっ!!」との歓喜の歓声が木霊した。
 何と言っても神話でしか語られる事のなかった女神・ベルナルディーノが顕現し、死んだと思った皇帝が生き返ると云う奇跡を見せつけられ、とどめに女神ベルナルディーノ様から直に祝福を授けられたのだから。いつの間にか姿を消していた影武者さんの事なんて、もう誰も問題になんかしないだろう。
あたしの隣りには陛下とフレドも平伏していて。
その陛下の背中には、攻撃された時裂けたのだろう服から見える肌にはあれ程出血していた傷跡が微塵も残っていなかった事が何よりも嬉しかった。あたしのドレスとフレドの礼服を汚している血の跡さえ愛しく嬉しかった(照)。


こうして【創都祭】の祭事は、これ以上はない奇跡と恩寵をもたらし。
ベルナルディーノ様のお姿が消えた後も、群衆の歓喜の声はやむ事はなかったのだった。




※ ※ ※



「…あの…陛下、離して下さい。」
 「ヴィオ。」
 「…あ…」
 「……………」
 「……………」
 「…ヴィ…ヴィオ…離して下さい…」
 「嫌だ。」

……う~~……恥ずかしいよォ~~~~

 今現在、あたしはシルヴィオ陛下の膝の上。
 大事な事なので二度言います。
いえ、三度でも四度でも連呼します。
 陛下に膝抱っこされているのだっ!




あの熱狂の祭事の後、あたしを姫抱っこした陛下は当然のようにあたしを元の部屋に連れて行った。デーボラを始めとするアデラやクラリッサには「…お帰りなさいませ…っ!」と泣かれ。この皇国に着いて何日もするのに、「…ただ今…」と呟いた瞬間。

 (…ああ…ブリュール皇国に帰って来れんだなァ…)
と、実感する事が出来たのだった。

そうしてお風呂に入れられ、血だらけになっていた身体を洗い慣れたワンピースに着替えている間。陛下もお風呂に入り、改めて侍医に診てもらい完治とのお墨付きをもらったのだった。『いや~、摩訶不思議…いえ、奇跡…っ、…まったく女神様の奇跡でございますな…っ!!』との感嘆の言葉をもらしながら。
それは良いんです。
そこまでは良いんですよ。
だけど!
創都祭の晩餐だと言って迎えに来た陛下があたしをエスコートした先は、陛下のお部屋だったのだ。そうして一緒に夕飯を取った後! 食後のお茶だと言って、何と珈琲が運ばれて来て! 二人っきりにされると始まったのですよ!
 寝椅子での『膝抱っこ』と云う名の拷問羞恥プレイが!!

折角の珈琲が冷めてゆくが、とにかく深呼吸。
スーハー、スーハー、スーハー、スーハー。
うん、少し落ち着いた。



普段のあたしなら、こんな羞恥プレイは到底耐えられない。
でももう少しで、あたしは皇国ここを去らなければならないのだ。


……陛下の……ヴィオの顔を見ていられるのも、後もう少しの間だけ……

 ……束の間だけでも、夢を見させて欲しい……


「…あの…お礼を言うのが遅くなってしまいましたけど…助けて頂きまして、ありがとうございました。」
 「礼など要らぬ。夫が妻を助けるのは当然の事だ。」
 「~~~~////」 ……ダメだ…っ、…しっかりしろ…っ!!
 「…それよりも間に合って、本当に良かった…そなたの身に何かあったら、悔やんでも悔やみ切れん。」
 大事な物を抱くように、抱き締められる。
 陛下の……ヴィオの背中に腕をまわし、傷跡があったあたりをそぅっと撫でる。
 「…本当に、もう大丈夫なんですか…?」

あの時の。
あの瞬間の絶望を思い出して。
あたしはかなり真剣に問い質したのだが。


それに返って来た言葉は、つやっぽい低音バリトンだった。



 「…そんなに心配なら…自分で確かめてみるか…?」
と。








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