僕、天使に転生したようです!

神代天音

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 あったかい。柔らかい。けど、硬い。

 ふと、そう思って目が覚める。
 僕、こんなところで眠った記憶ないんだけど。そう考えて目を開けようとしても全く目が開かない。僕はどこにいるんだろう。
 なんだか暖かくて、柔らかい。そして狭い場所。なんで僕はここにいるんだろう。ここにくる前は何をしていたんだっけ?

 うーん? うーん?

 唸って考えると、だんだん思い出してきた。僕はトラックに轢かれて死んだんだ。かっこかわいい鳥を助けて。あれはオオタカだったのかな? 鋭い顔でとってもカッコよかった。でも、怪我しているみたいで道路で動けなくなっていたところを助けたんだ。
 それで僕は死んだ。

 僕はどんな人間だったんだっけ?

 うーん? うん?

 今度は全く思い出せない。自分がどんな人間だったのか。何をしていたのか。全く思い出せない。なんでだろう。

 ——ぴしり。

 もう少し考えたかったけど、時間がないみたい。なんとなくわかるんだ。この場所はもうすぐなくなっちゃう。だから早く出ないといけない。
 自分の手を必死に動かして、硬いところを叩く。するとまた——。

 ——ぴしり。

 皹が入った。もう少し。
 そうやって繰り返して行くうちに、明かりが見えてきた。もう少し。

 ——ぴしり。

 硬いものを破って、その外に出ると同時に目が開く。

「ぅぅ……」

 眩い光で目が潰れて何も見えない。しばらく目を擦って悶えていると落ち着いてきた。

 そして、初めて硬いものの外を見る。
 そこは、どこかの部屋のようだった。
 家具が置いてあって、生活感がある。ただし、なんだか薄汚い。
 自分がいる場所の下を見ると、なんだか殻のようなものが散らばっている。僕はもしかして、今卵から生まれたのかな?
 そして、今目の前に見えている2人は親なのかな? 目の前には2人人間がいた。しかも1人はなんだか髪の毛の一部が羽みたいになっている。大きな羽がついているのも見えるし。人間じゃないみたい。ファンタジー小説でいうところの、鳥獣人ってやつかな?
 ちなみにもう1人は普通の人間ぽかった。

 気になって、じぃーっと見つめてしまう。でも、2人はそんな僕をなんだか薄気味悪い笑顔で見つめるんだ。なんだかいいものを見つけて、それを利用する大人みたいな笑顔をしている。要するに、悪い顔。
 でも、2人はきっと僕の親。そんなふうに思っちゃ失礼だよね。
 僕はこれからよろしくという思いを込めて、にこっと笑いかけた。






 僕が硬いものから出て早数年。僕は12歳になっていた。ちなみに名前はまだない。
 やっぱり僕はあの殻から生まれたみたいで、2人は僕の親だったみたい。
 でも、2人は親として僕に何もやってくれない。ごはんはときどきしかくれないし、基本放置。何日も外に行って帰ってこないことだってあった。よく僕生きてるなって思う。
 しかも、恐ろしい会話をしていることがあるんだ。

「こいつは売れる」
「高値で奴隷商に売りつけよう」

って。
 こんなところ、もう早く逃げたい。でも、僕は転生したってだけで、この世界のことについて何にも知らない。逃げる勇気だってない。だから逃げられない。毎日「今日売られるのかな」と思って暮らして行くしかない。

 「はあ。人生初めからハードモードすぎる」

 周りに2人がいないことを確認して独りごちる。もし2人がいるときに喋ろうものなら、殴られてしまうから。
 もういつのまにか、殴られても仕方がない、運がなかったと思うようになってしまった。

「今は2人もいなし……」

 あたりを見回して、ぽつりとつぶやく。
 ちょうど今は2人がいないので、僕は羽を思いっきり伸ばした。
 実は僕、生まれ変わったら羽が生えていた。純白の大きな羽だ。まるで天使みたいで自分でも気に入っている。
 でも、親と全く同じではない。僕は人間でも鳥獣人でもないっぽい。
 だって、髪の毛の羽が僕にはない。羽が生えている方の親……おそらく父親は髪の毛の一部が羽根のようになっている。羽が髪の毛のように頭から生えているみたいに見えるんだ。それが、僕には全くない。もう片方の親……多分人間の母親と同じような髪。
 おそらく、人間と鳥獣人の間に生まれた子供だからだろう。他にもいるのかな? 僕みたいな鳥獣人。天使みたいな人。いつかここから出られたら、自由になれたら会ってみたいなあ。



 なんて、呑気に考えている暇はなかったらしい。
 呑気に羽を伸ばして、親との違いを考えたその翌日。家に知らない人が来た。
 言ったらいけないんだろうけど、太っていて、脂ぎっていて、笑顔がブヒブヒしているというか。本当に申し訳ないし失礼だとは思うんだけど。そんな人が家にやってきた。

「ほぉ、これが例の子ですか。いいですねぇ、これは! まるで天使のようではないですか!」
「そうでしょう。金貨1000枚で特別にお譲りしますよ」

 僕がまるで天使のような羽を持っているのは否定しない。むしろ自分でも完全に同意したいと思ってる。
 でも、会話内容がやばい。完全に僕を売る方向で進んでるよね!? これ!?
 
「金貨1000枚ですか……。いいでしょう。その額なら十分お釣りが来る。では、契約いたしましょう」

 僕の頭の中がワタワタしている間にどんどん話が進んでいく。僕は金貨1000枚で売られるらしい。
 金貨一枚10000円だと仮定して……だいたい一千万円? 僕の命やっす! 絶対この人奴隷商とかでしょ? もう奴隷商でいいよね。僕の一生奪うんでしょ? にしては見合わない。せめて二億円くらいかけてもらわなきゃ。いや、そういうことじゃないんだけど。
 どうしよう。両親と奴隷商らしい人間はニヤニヤしながら紙に何やら書いている。
 きっと今逃げなきゃこの先ずっと僕の人生はどん底だ。きっと見せ物にされる。きっと一個人として扱ってはもらえない。僕の頭がそう警鐘を鳴らしていて。

「に、にげよう!」

 小声で決心する。
 勇気がないだとか、世界を知らないだとかどうでもよかったんだ。勇気は出せばいい。世界はこれから知ればいい。
 少なくとも珍しいからと売られて、人に所有される人生よりは知らない世界に飛び出していく方がはるかにいい。
 幸いにも枷も何もつけられていない。バレなきゃ逃げられる。

 両親の方を見ると、いつも通りまるで僕の方を見ていない。奴隷商も契約に集中していて、全くこっちに気づいていない。
 おあつらえ向きに、近くの窓は開いている。そおっと窓枠を上り、外に出る。裸足なのはこの際気にしてはいけない。服がボロボロすぎて大切なところを隠せていないし、むしろ引っかかってるだけなのももはや気にしない。
 とりあえず今は。

「はしろう!」

 後ろを覗いても、まだ両親と奴隷商は気づいていないらしく、何も追ってきていない。
 そして、僕にはラッキーなことに、家の周りは森だった。それも広い広い、終わりの見えない森。ここに紛れて仕舞えばこっちのもの。
 僕は林に飛び込んだ。
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