傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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30 決起

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 顔合わせを済ませたその日のうちに、ダンジョン攻略メンバーと現場を見に行くことになった。フラエは騎士団時代の装備を身に着け、集合場所へ向かう。フラエは基本的に、軽い身のこなしが一番の強みだ。それを殺さないために、いつも皮鎧などの軽い防具しか装着していない。他の騎士たちも、今日はあくまで視察ということで比較的軽装備だ。

 騎士としての装備を身に着けたフラエを見て、グノシスは少し目を見張ったようだった。それを無視して「ディール」と話しかける。

「どうしたの?」

 首を傾げる彼を見上げ、フラエは「ディールが僕の代わりに、体温調整してくれるんだよね」と続けた。

「うん、そうだよ」

 背後からひしひしとグノシスの視線を感じたが、フラエはそんなこと知ったことではなかった。フラエは「今日、ちょっと練習しよう」とディールに提案する。

「視察が終わった後、一緒に少しだけ残ってほしい」

 その言葉を聞いたグノシスが何か言いたげに口を開いたところで、出発の号令がかかった。ディールは頷き、「また後で話そう」と歩き出す。

 結局その後、会話する暇もなく、一行は王都の西南にある山へと向かった。行軍中に無駄口を叩く騎士はいない。
 ほとんど獣道のような登山道を行き、ちょうどダンジョンの入り口になると思われる開けた場所へと出た。
 木はすべて伐採され、根こそぎさらわれているようで、綺麗な更地だ。水場が近いとの話だが、実際には少し距離があるだろう。
 あと数日で大規模ダンジョンに変異するというのに、辺りは平穏を保っている。鳥の声すら聞こえたが、確かに洞窟の奥からは、渦巻くような熱気を感じた。

「ここは元々霊脈になっており、火属性の魔力が噴きだしやすい場所ではあるんです」

 研究所からやってきた担当の研究員が解説する。専門分野だけあって、饒舌だ。

「洞窟底部が、霊脈と接続しています。伝承によるとそこに火竜がいるとのことです、はい」

 彼は緊張から脂汗を掻いているようで、額をしきりに拭っていた。騎士の一人が挙手し、「本当に、竜がいるんですか?」と訝しげに言う。

「竜なんて、伝説上の存在でしょう」
「それが、案外馬鹿にできないものでして」

 研究員は汗をふきふき答える。

「霊脈には潤沢な魔力溜まりが形成されやすく、時に魔力が、精霊という生命体をつくり出すことがあります」

 フラエと目が合う。研究所ですれ違うことがある程度の顔見知りだが、それでも遠目に頷くと彼は少し安心したようで、ほっと口を開いた。

「特にここの霊脈は強力であったと、観測所の古い記録にもあります。近年は勢力を弱めていましたが、それが勢いを取り戻したとあれば……」

 その後の言葉をグノシスが引き継いだ。腕組みをし、横柄に口を開く。

「大精霊、竜がそこにいても不思議ではない、と。面白いではないか」

 彼は完全に勝つ気でいるようで、余裕の笑みを浮かべている。無性に腹が立って、許されるのであれば脛を蹴ってやりたい、とフラエは思った。

「竜が何するものぞ。私の剣の前では無力だ」

 自信満々のグノシスを皆がどこか(程度の差はあれど)胡乱な目で見たが、一部の騎士たちは「おお……!」と色めき立っている。どうやら彼は王宮騎士団内で上手くやっているらしい、ということは分かった。

 士気が上がる様子を見ていた研究員は、「それでは、中の方も見て参りましょうか」と入り口を指す。すっと集団の中から護衛の騎士が抜けて、彼の傍についた。研究員も防具をつけており、物々しいそれを指先でぽりぽりと掻いている。

 一行は洞窟内を降りていく。確かに火属性の魔力溜まりが形成されているだけあって、中はかなり蒸し暑い。フラエが汗を掻いていると、ふと周りが涼しくなる。見れば、ディールが魔力操作で気温を下げてくれたようだった。

「ありがとう」

 ほっと息をつくと、彼は蕩けるような笑顔で「どういたしまして」と言った。その端正な笑みに、周りの騎士が息をのむ気配がした。どうにも居心地が悪くて、自然と足早になる。ディールはそれに難なくついてきて、「あまり早く歩くと、隊列を乱すよ」と窘める。そうだね、とフラエも足並みを緩めて、歩みをそろえた。

 グノシスはといえば、思いの外真面目に説明を受けているようだった。それでも時折こちらに鋭い視線を感じるが、仕事はきちんとこなしているようなので、フラエは無視した。
 ディールが物言いたげにこちらを見ているので、「どうかした?」と見上げれば、彼は少し顔を赤くして顔を逸らした。
 
「いや、……殿下がよく、こちらをご覧になると思って」
「うん」

 こくりと頷く。ディールはそれきり、「それだけだよ」と黙る。ここで噂話をしたり、軽口を叩いたりするほど軽率でも軽薄でもないらしい。フラエも、ディールのそうした部分は好感が持てるところである。

 洞窟の最深部へとたどり着くと、そこには熱く真っ赤な溶岩がぐつぐつと煮えていた。魔力操作で保護してもらっていなければ、ひとたまりもないだろう。
 研究員も自力で魔力操作を行っているようだが、不慣れであるのと目の前の凄まじい光景に、少し腰が引けているようだ。それでもなんとか汗をぬぐい、説明のために口を開く。

「こちらがダンジョン最深部となる可能性が高い、霊脈との接点になります。この真下に霊脈が走っており」

 その言葉に、何人かの騎士が足元を見る。

「竜が眠っている場合、この溶岩の下、直接霊脈に接するところにいるでしょう」

 つまり、この足元の下に、竜がいるかもしれないのだ。フラエは興味深く地面を見たが、何人かは尻込みしたように後ずさりした。ディールも少し驚いたような、怯えたような顔で地面をつま先で擦る。

「現状分かることはここまで、です。如何せん火属性ダンジョンというものは発生が珍しく、発生したとしても小規模なまま自然消滅することが多いですから、情報が少なく……」

 ざわめく騎士たちに、焦ったように研究員が言う。グノシスは堂々たる歩みで前に出て、彼の肩を叩く。

「説明、ご苦労。感謝する」

 そして彼を押しのけるように最も目立つ場所に立ち、腕組みをした。

「確かに現状、分かることは少ない。だが安心しろ。私は、強い」

 そう言った彼に対する反応は、二極化していた。彼の発言を自惚れと取って悲観したり呆れたりする者と、彼の言葉に目を輝かせ、信じる者。フラエは前者で、呆れたように腕を組んでちいさく笑った。彼はぐるりと全員を見渡し、そして、フラエとばちりと目が合った。

 思わず逸らそうとしても、彼の視線は強い。不思議な魔力で引き合うように見つめ合う二人に、自然と視線がフラエへと集まった。フラエの噂は騎士の間にも広まっているようで、あの研究員だ、と囁く声があちこちで聞こえる。殿下に求愛されただの、精霊のいとし子だの、好き勝手ざわめく彼らから守るようにディールが少し前に出る。

「君たち、失礼だぞ。リンカー殿は、」

 その言葉を「ディール」と肩を叩くことによって制する。彼は従順に黙り込み、フラエはそっと前に出た。騎士たちからは白い視線を向けられているが、それはフラエの知ったことではない。

「僕は役目を与えられて、ここにいます。作戦の足は引っ張らないよう努力します」

 そう言うと、騎士たちは少し気まずそうに目を逸らした。ずっと静観していたグノシスは「フラエ=リンカーの出番がないほど、私が活躍してみせよう」と拳を突き上げた。彼に悪気がないのは分かっているのだが、フラエはどうにも気が抜けた。彼は得意げにフラエを見て、騎士たちはグノシスの発破に応じるように拳を突き上げる。

「フラエ」

 心配するようにディールが肩を叩く。気遣いに関しては、グノシスよりは彼の方がよほど上手だ。フラエは苦笑して、「大丈夫だよ」と言った。

「あの人、気の遣い方が下手すぎるだけだから」

 その言葉に、ディールが少し微妙な顔をした。妬んでいるような、戸惑っているような顔に、フラエは「君の方がよっぽど上手だ」と言った。それにディールは気分が少し持ち直したようで、「この後、一緒に残ろうね」と囁きかける。フラエは頷き、グノシスはこちらなど気にしていないようだった。
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