【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

文字の大きさ
13 / 28

13 噂話

しおりを挟む
 そしてまた文化祭の準備のために、登校する日がやってくる。
 その間、リョウちゃんと会うことはなかった。僕は塾の方で夏期講習が入っていたし、リョウちゃんは樹くんの面倒を見るので忙しかったみたいだ。
 でもずっと、メッセージのやり取りはしていた。僕は相変わらず、リョウちゃんのおかげで恋を知ったことを伝えられていない。だから自分の卑怯さに胸が痛むけど、楽しくて、幸せ。

 そんな矛盾した気持ちを抱えたまま、登校する。
 教室に着くと、もうリョウちゃんは来ていた。

「おはよ、ハルくん」

 爽やかな笑顔が眩しい。僕はきゅっと目を細めて、「おはよ」と返す。
 今日も、出し物のお化け屋敷の準備だ。
 お化け屋敷の、はずなんだけど。

 リョウちゃんは、血のりまみれでフリルたっぷりのシャツを着て、ぺらぺらの黒いジャケットを羽織らされている。胸元にはリボンタイ。下は制服のスラックスだけど、すごく様になっていた。
 教室には冷房がついているとはいえ、見るからに暑そうな格好だ。だというのに、僕の胸はどきんと鳴った。
 周りで、女子たちがきゃあきゃあ言っている。

「やっぱイケメンのバンパイア姿はいい! よすぎ!」
「かっこよすぎる~! 宣伝効果めちゃくちゃ高くない!?」

 どうやら、リョウちゃんはこのクラスの宣伝塔になるらしい。本人はにこにこ笑いながら、「ありがとう」とお礼を言っている。
 その懐の深さに、僕の胸がきゅんと高鳴った。暗幕をちくちく縫い合わせながら、バンパイア姿のリョウちゃんをちらちら見る。たしかに、すごくかっこいい。
 僕と同じく裁縫班の女子三人組も、ひそひそと噂していた。

「やっぱ須藤くんてやばくない? 学年一位で、サッカー部レギュラーで、イケメンでさ」
「盛りすぎ。あんな王子様みたいな人、実在するんだね」
「雲の上の存在だわ……」

 そうだ。リョウちゃんは、すごい。とはいえ雲の上の存在ってわけでも、ないんだけど。
 黙々と手を動かしていると、彼女たちの噂話は、さらにディープなところへ向かっていった。

「そういえば、須藤くんが桂木くんを好きってやつ、マジ? サッカー部同士か~」
「え、それどこで聞いたの」
「結構いろんなとこで回ってる。まあ、噂は噂だけどさ」
「あんまり言わない方がいいよ、そういうの……」

 思わず、手が止まる。顔をあげると、三人は顔を寄せ合って、真剣な表情をしていた。

「しかも須藤くん、後夜祭で告白するらしいよ。ソースは須藤くんにフラれたサッカー部のマネージャー。告ったらそう言われたって」
「うわ。もう決まりじゃない? 誰に告るのか分かっちゃうじゃん」
「あんたら、口を動かさないで手を動かしてねー」

 どきん、と心臓が嫌な跳ね方をした。そんな、と思う。
 リョウちゃんの恋人は、僕なのに。
 いや……これは、恋を教えてもらうだけの、契約だ。本当に付き合っているわけじゃ、ない。
 女子たちは、まだ顔を寄せ合っている。

「これは……学校中の女子、泣いちゃうんじゃない?」
「大事件だ、男子も泣くね。あんなかっこいい二人、かなうわけないじゃん」
「はあ……イケメン同士、お幸せに……」
「はいはい。そもそもただの噂なんだし、止め止め」

 この話がそれ以上続くことはなく、暗幕が縫い上がる。
 完成したものを引き渡すと、今これ以上の仕事はないみたいだ。文化部は、それぞれの部活の準備に行っていいと言われた。
 なんとなく、クラスには居づらい。リョウちゃんはといえば、段ボールを塗る作業をしていた。
 リョウちゃんは僕の視線に気づいたのか、顔をあげる。その微笑みを見るだけで、僕は気持ちがぱっと晴れるはず。なのに、今日はなんでか、そうなってくれない。

「ハルくん。これ終わったら、一緒に自販機行こう」
「ん……僕、文芸部の方があるから」

 首を横に振って、リョウちゃんを見ずに教室を出た。
 桂木くんとのことは、単なる噂話でしかない。
 でもリョウちゃんに好きな人がいるかもしれなくて、不安になる。
 噂になるってことは、何かあるんだろう。火のないところに噂は立たぬ、と言うくらいだし……。

 もやもやしながら、文芸部室の扉を開けた。中にいるのは、鈴木くんだけだ。
 鈴木くんは顔をあげて、「やあ」と僕に微笑みかける。その顔が、ちょっと疲れているように見えた。
 僕は何も言わずに、鈴木くんの隣へ並んだ。部誌の原本作成のために、部員の作品をテープで貼って、見開きページを作る必要がある。その作業を、すこしずつ、一人でやっていたみたいだ。

「手伝うよ」

 テープを分けてもらって、紙を貼り合わせていく。しばらく、僕たちは無言だった。
 そして先に口を開いたのは、鈴木くんだった。

「ハルくん。何かあったのかな」

 顔をあげると、鈴木くんは、最後の一組をテープで貼り合わせていた。これで、文芸部で今やれる作業もおしまい。

「部員の悩みを取り除くのも、次期部長の務めだよ」

 そう言って微笑む彼の、思慮深い目つきに、僕は頷いた。椅子を引いて座る。

「じゃあ、友達の悩みを取り除くのは、僕の務めだ。何かあったの?」

 鈴木くんは、ぽかんとした表情で僕を見下ろした。だけどうっすら頷いて、僕の隣の席に座る。
 しばらく、僕たちは無言だった。僕は息を深く吐いて、吸って、微笑む。

「もしかして僕たち、お互い、恋について悩んでいるのかな」

 鈴木くんは目線だけあげて、僕を見た。こくりと頷く。

「……聞いた? 桂木くんと、須藤くんが、両想いだって」

 改めて聞くと、がん、と頭を殴られたみたいな衝撃があった。そしてそれは、鈴木くんも同じだったんだろう。
 僕はうつむいて、視線を膝の頭へと向けた。

「鈴木くんも、聞いたんだ。両想い、までは、知らなかったけど……。リョウちゃんが、桂木くんに告白するって、噂されてた」

 そう、と鈴木くんが頷く。二人きりの部室には、暗く、重苦しい空気が立ち込めていた。
 僕たちは、顔を見合わせる。つまり二人そろって、告白する前に、失恋した可能性があるということだ。

「ハルくん。僕は……どうすればよかったんだろう」

 鈴木くんが、ぽろりと言葉をこぼす。僕は彼の肩に手を置いて、力を込めてさすった。鈴木くんは疲れた表情で、僕へ微笑みかける。

「男同士だからとか、僕みたいな男なんて、とか。そんなこと、考えなくてよかったのにね。……どうしたら、よかったんだろう」

 その言葉に、胸が痛くなった。どんなに無念だろうと思う。鈴木くんは、ずっと桂木くんのことが好きだったんだ。
 たとえ確定した失恋じゃなくても、怖いに決まってる。
 かける言葉がみつからなくて、きゅうと唇を丸めた。鈴木くんは、僕としっかり目を合わせて、頷く。

「ありがとう、ハルくん。君も、つらかっただろう」

 その言葉に、不意を突かれる。僕はぽかんと口を開けて、しばらく経って、うなずいた。

「うん、つらかった。……でも、鈴木くんの方が長く、恋をしていたわけだし、そっちの方がきっとつらいよ」
「いいや。だからといって、僕が、友達の苦しみを無視できると思うかな?」

 こんな時だっていうのに、鈴木くんは茶目っ気たっぷりに言う。僕は思わず、ふっと力が抜けた。笑顔になって、頷く。
 手を離して、自分の膝と膝の間で指を組んだ。鈴木くんも力なく猫背になって、深いため息をつく。
 部室に、沈黙が流れた。

「……僕たち両方、失恋、かなぁ」
「うーん……。決まったわけじゃない、けど」

 僕たちは、二人そろって頭を抱えた。
 失恋したと考えることもできるし、しょせんは噂だと一蹴することもできなくはない。
 つまり今の僕たちは、すごく中途半端な状態だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

処理中です...