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21 書類仕事(ルイ視点)
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アンジュは気絶するように眠った。俺との激しい行為に、よほど消耗しているらしい。かわいそうだと思う一方で、この上なく満たされている自分がいる。
俺は水と布を用意させて、手ずからアンジュの身体をぬぐった。俺がこれほど独占欲の強いアルファだとは、アンジュも思っていないだろう。そう思うと、少しおかしかった。
くたくたの身体を綺麗にしてやって、服を着せてやって、額にキスをした。
最初は、運命の番というだけだった。それだけでも、俺の中で、絶大な存在感があった。
抗いようもなく、本能が飢えていた。だから連れ去ろうとしながら、焦っていた。本能のままに連れ去りたいのに、それはダメだと、理性が訴えていた。
するとアンジュは、鎌を振りかざした。そんなことよりも、麦を刈らなければいけないと言った。俺には、誘拐をやめる口実ができた。
それから俺は、本当のところ、アンジュに頭が上がらないのだ。
アンジュだから、身も心も彼へ惹かれていったし、それに抵抗はなかった。ずっと一緒にいたい。彼が運命の番で、よかった。
だからこそ、俺は今からが踏ん張り時だろう。
俺も服を着替えて、どこに出ても恥ずかしくない格好をする。指輪に、耳飾り。俺の高い身分を示すじゃらじゃらとした飾りを身に着けて、マニュエルたちのいる図書室へと向かった。
部屋の扉をノックしても、返事はない。仕方なく扉を開けると、中はひどい有様だった。あちこちに本が積み重ねられ、マニュエルは一心不乱に本のページをめくっている。エーミールはあちこちを走り回って、本を出したり、しまったりしていた。
「すごい有様だな」
俺が声をかけると、ぱっとエーミールが振り向く。はい、と返事をする声には、生気があった。
「今は侯爵位の貴族が、この国の貴族でない配偶者を娶った記録がないか、探しているところです」
「そうか。成果はどうだ?」
エーミールは、黙って首を横に振る。しかし、まったく諦めてはいないようだ。
「マニュエル様は、法律を見ていらっしゃいます。そちらからも、何かできるんじゃないかって」
まったく二人そろって、見上げた根性だ。俺は思わず笑ってしまった。
マニュエルはやっと顔を上げて、俺によく似た――しかし、俺よりずっと神経質そうな眉をひそめる。機嫌悪そうに「なんですか」と口をへの字に曲げて、にらんできた。
俺はにやりと、意地悪く笑ってやる。
「いや。無意味に気取っていたお前が必死になっているのは、いい気味だと思ってな」
「ふん……」
マニュエルは鼻を鳴らして、再び紙面へ視線を落とした。エーミールはといえば、なぜか顔を赤らめている。ぽそりと、夢見るようにつぶやいた。唇には、ほんのりと笑みまで浮かんでいる。
「僕といるために、こんなことまで……」
ページをめくっていたマニュエルの手が止まる。目がわずかに潤んで、頬も少し赤くなった。恨めし気にエーミールを見つめる。
「お前がどうしてもって言うんだから、仕方ないだろう。何を笑っている」
「マニュエル様も、素直じゃないんですから」
どうやらエーミールには、すべてお見通しらしい。微笑ましいやら呆れるやらで、俺は思わず笑ってしまった。
しかし、状況は芳しいとは言えないようだ。マニュエルの眉間のしわはより一層深まり、エーミールの笑みもすぐに消える。
「しかし……使える条文はないな。エーミールはどうだ」
「今、百年前までさかのぼりました。侯爵位の家に、そういった前例はなさそうです。次は伯爵位の例にあたってみます」
二人の表情には、疲れが見て取れた。今はよくても、じきに限界が来るだろう。
俺は二人を見つめた。俺も恋に狂った愚かなアルファだ。マニュエルのことを笑うことはできないし、エーミールを軽蔑することもできない。
それにそんなことをしたら、アンジュが悲しむ。
「お前たちにひとつ、提案がある」
俺の声に、エーミールは書類を漁る手を止めた。マニュエルは本から顔を上げもせずに、「なんですか」とぶっきらぼうに尋ねた。
俺は息を深く吐いた。そして、ゆっくりと吸う。
「お前とエーミールこそが『運命の番』同士なのだと、証明しよう」
俺は水と布を用意させて、手ずからアンジュの身体をぬぐった。俺がこれほど独占欲の強いアルファだとは、アンジュも思っていないだろう。そう思うと、少しおかしかった。
くたくたの身体を綺麗にしてやって、服を着せてやって、額にキスをした。
最初は、運命の番というだけだった。それだけでも、俺の中で、絶大な存在感があった。
抗いようもなく、本能が飢えていた。だから連れ去ろうとしながら、焦っていた。本能のままに連れ去りたいのに、それはダメだと、理性が訴えていた。
するとアンジュは、鎌を振りかざした。そんなことよりも、麦を刈らなければいけないと言った。俺には、誘拐をやめる口実ができた。
それから俺は、本当のところ、アンジュに頭が上がらないのだ。
アンジュだから、身も心も彼へ惹かれていったし、それに抵抗はなかった。ずっと一緒にいたい。彼が運命の番で、よかった。
だからこそ、俺は今からが踏ん張り時だろう。
俺も服を着替えて、どこに出ても恥ずかしくない格好をする。指輪に、耳飾り。俺の高い身分を示すじゃらじゃらとした飾りを身に着けて、マニュエルたちのいる図書室へと向かった。
部屋の扉をノックしても、返事はない。仕方なく扉を開けると、中はひどい有様だった。あちこちに本が積み重ねられ、マニュエルは一心不乱に本のページをめくっている。エーミールはあちこちを走り回って、本を出したり、しまったりしていた。
「すごい有様だな」
俺が声をかけると、ぱっとエーミールが振り向く。はい、と返事をする声には、生気があった。
「今は侯爵位の貴族が、この国の貴族でない配偶者を娶った記録がないか、探しているところです」
「そうか。成果はどうだ?」
エーミールは、黙って首を横に振る。しかし、まったく諦めてはいないようだ。
「マニュエル様は、法律を見ていらっしゃいます。そちらからも、何かできるんじゃないかって」
まったく二人そろって、見上げた根性だ。俺は思わず笑ってしまった。
マニュエルはやっと顔を上げて、俺によく似た――しかし、俺よりずっと神経質そうな眉をひそめる。機嫌悪そうに「なんですか」と口をへの字に曲げて、にらんできた。
俺はにやりと、意地悪く笑ってやる。
「いや。無意味に気取っていたお前が必死になっているのは、いい気味だと思ってな」
「ふん……」
マニュエルは鼻を鳴らして、再び紙面へ視線を落とした。エーミールはといえば、なぜか顔を赤らめている。ぽそりと、夢見るようにつぶやいた。唇には、ほんのりと笑みまで浮かんでいる。
「僕といるために、こんなことまで……」
ページをめくっていたマニュエルの手が止まる。目がわずかに潤んで、頬も少し赤くなった。恨めし気にエーミールを見つめる。
「お前がどうしてもって言うんだから、仕方ないだろう。何を笑っている」
「マニュエル様も、素直じゃないんですから」
どうやらエーミールには、すべてお見通しらしい。微笑ましいやら呆れるやらで、俺は思わず笑ってしまった。
しかし、状況は芳しいとは言えないようだ。マニュエルの眉間のしわはより一層深まり、エーミールの笑みもすぐに消える。
「しかし……使える条文はないな。エーミールはどうだ」
「今、百年前までさかのぼりました。侯爵位の家に、そういった前例はなさそうです。次は伯爵位の例にあたってみます」
二人の表情には、疲れが見て取れた。今はよくても、じきに限界が来るだろう。
俺は二人を見つめた。俺も恋に狂った愚かなアルファだ。マニュエルのことを笑うことはできないし、エーミールを軽蔑することもできない。
それにそんなことをしたら、アンジュが悲しむ。
「お前たちにひとつ、提案がある」
俺の声に、エーミールは書類を漁る手を止めた。マニュエルは本から顔を上げもせずに、「なんですか」とぶっきらぼうに尋ねた。
俺は息を深く吐いた。そして、ゆっくりと吸う。
「お前とエーミールこそが『運命の番』同士なのだと、証明しよう」
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