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25 愛していますよ
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裁判は終わった。俺たちは部屋を出て、廊下でたむろっていた。
結果として、マニュエル様とエーミールの結婚は、認められることになった。
とはいえ俺は、本当に何もしていないから、手を叩いて「おめでとう」と言うことしかできない。
だけどエーミールは感極まったみたいに、俺へ抱きついて、お礼を言ってきた。
「ありがとう、アンジュ。君のおかげだ……!」
「え? 俺、ほんとに何もしてないよ」
きょどきょどと目を泳がせていると、マニュエル様とばっちり目が合う。マニュエル様まで「ありがとう」と頭を下げるものだから、俺はどうすればいいのか分からなくなった。
ルイ様へ目配せして助けを求めると、ルイ様まで俺に頭を下げる。
「いきなり巻き込んで、すまなかった」
「それは、まあ。はい」
ルイ様の言い分だけは分かる。まったく、とんでもない目に遭った。
げんなりしながら文句を考えている間に、マニュエル様が頭を上げる。
「兄上も、ありがとうございました」
「ふん。せいぜい感謝することだな」
泣いていたくせに、えらそうに言う。だけど俺は、弟にカッコつけたいルイ様の気持ちを尊重して、黙っていることにした。エーミールも、くすくす笑っている。
俺はなんだか胸がいっぱいになって、エーミールの肩を叩いた。
「お疲れ様。おめでとう、エーミール」
心からの祝福の言葉だ。やっと言えた。
エーミールは「うん」と頷いて、俺の肩に目元を埋めた。しゃくり上げ始めたエーミールを、マニュエル様が「おいで」と優しく引き剥がす。
マニュエル様の腕の中で、エーミールは本格的に泣き始めた。これは、俺たちがここにいたら邪魔だろう。
俺はルイ様の手を引っ張って、「行きましょう」と促した。ルイ様もおとなしく手を引かれてくれた。
二人連れ立って別館を出て、お屋敷にある、俺たちの寝室に入る。俺は寝台へぼすんと座り込んで、深々とため息をついた。
安全な場所だ。ここにきて、恐ろしさがやっと、遅れてやってくる。心細くなって、猫背になった。
ルイ様が隣に座って、抱きしめてくれる。蜂蜜酒の香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
「すまなかった。よく頑張ってくれたな」
とうとう俺の緊張の糸が、ぷつんと切れた。俺はわあわあ声をあげて、「ごめんなさい」とルイ様に謝った。俺が謝る側なのに、泣いてしまって、なんなんだろう。
「う、運命の番じゃないって、言ってしまいました」
「ああ。勇気がいっただろう。よくやってくれた」
ルイ様の胸に甘えて、すり寄る。ルイ様は俺をますます強く抱きしめた。
その温かさに、どこまでも気持ちがゆるんでいく。
「さいしょ、最初は、ぜんぜんそんなふうに思ってなかったのは、本当なんです。でも今は、ちゃんと」
俺は思いつくままに言葉を並べていく。ルイ様は辛抱強く俺の背中を叩いて、俺の言葉を待ってくれていた。
「……好きです。愛しています」
だというのに、俺は、たったこれだけしか言えなかった。
俺には教養がない。文字の読み書きだってほとんどできない。そんな人間が、貴族の番になるだなんて、馬鹿げている。
でもそんなのどうでもいいくらい、俺はルイ様に惹かれていた。この人の隣にいるためだったら、どんな苦労だってする。
だというのにルイ様は、「知っている」と穏やかに頷いた。
「お前のことも分かっている。お前は、俺の隣にいてさえくれれば、それでいい」
「本当に? それじゃ俺は、ただの役立たずじゃないですか」
「そうだろうか。お前がいなかったら、俺はもう、何もできそうにないんだがな?」
恐ろしいことを、するりと言う。俺は「もう」と笑って、ルイ様の胸を軽く叩いた。
ルイ様は「本当だぞ」と、囁きかけてくる。
「お前のためならなんでもする。お前がいなかったら、何もできない。俺はそういう、弱いアルファだ」
心なしか、声が色っぽい。思わず黙り込むと、さらに畳み掛けてきた。
「お前は俺の生き甲斐だ。そういう愚かな俺は、好きか?」
まったくずるい聞き方をする。俺はやけくそになって、叫んだ。
「ええ、愛していますよ!」
ルイ様は「泣くなよ」と笑って、俺の目尻に吸い付いた。涙を唇で拭われて、俺は「もっと」と抱きついた。
結果として、マニュエル様とエーミールの結婚は、認められることになった。
とはいえ俺は、本当に何もしていないから、手を叩いて「おめでとう」と言うことしかできない。
だけどエーミールは感極まったみたいに、俺へ抱きついて、お礼を言ってきた。
「ありがとう、アンジュ。君のおかげだ……!」
「え? 俺、ほんとに何もしてないよ」
きょどきょどと目を泳がせていると、マニュエル様とばっちり目が合う。マニュエル様まで「ありがとう」と頭を下げるものだから、俺はどうすればいいのか分からなくなった。
ルイ様へ目配せして助けを求めると、ルイ様まで俺に頭を下げる。
「いきなり巻き込んで、すまなかった」
「それは、まあ。はい」
ルイ様の言い分だけは分かる。まったく、とんでもない目に遭った。
げんなりしながら文句を考えている間に、マニュエル様が頭を上げる。
「兄上も、ありがとうございました」
「ふん。せいぜい感謝することだな」
泣いていたくせに、えらそうに言う。だけど俺は、弟にカッコつけたいルイ様の気持ちを尊重して、黙っていることにした。エーミールも、くすくす笑っている。
俺はなんだか胸がいっぱいになって、エーミールの肩を叩いた。
「お疲れ様。おめでとう、エーミール」
心からの祝福の言葉だ。やっと言えた。
エーミールは「うん」と頷いて、俺の肩に目元を埋めた。しゃくり上げ始めたエーミールを、マニュエル様が「おいで」と優しく引き剥がす。
マニュエル様の腕の中で、エーミールは本格的に泣き始めた。これは、俺たちがここにいたら邪魔だろう。
俺はルイ様の手を引っ張って、「行きましょう」と促した。ルイ様もおとなしく手を引かれてくれた。
二人連れ立って別館を出て、お屋敷にある、俺たちの寝室に入る。俺は寝台へぼすんと座り込んで、深々とため息をついた。
安全な場所だ。ここにきて、恐ろしさがやっと、遅れてやってくる。心細くなって、猫背になった。
ルイ様が隣に座って、抱きしめてくれる。蜂蜜酒の香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
「すまなかった。よく頑張ってくれたな」
とうとう俺の緊張の糸が、ぷつんと切れた。俺はわあわあ声をあげて、「ごめんなさい」とルイ様に謝った。俺が謝る側なのに、泣いてしまって、なんなんだろう。
「う、運命の番じゃないって、言ってしまいました」
「ああ。勇気がいっただろう。よくやってくれた」
ルイ様の胸に甘えて、すり寄る。ルイ様は俺をますます強く抱きしめた。
その温かさに、どこまでも気持ちがゆるんでいく。
「さいしょ、最初は、ぜんぜんそんなふうに思ってなかったのは、本当なんです。でも今は、ちゃんと」
俺は思いつくままに言葉を並べていく。ルイ様は辛抱強く俺の背中を叩いて、俺の言葉を待ってくれていた。
「……好きです。愛しています」
だというのに、俺は、たったこれだけしか言えなかった。
俺には教養がない。文字の読み書きだってほとんどできない。そんな人間が、貴族の番になるだなんて、馬鹿げている。
でもそんなのどうでもいいくらい、俺はルイ様に惹かれていた。この人の隣にいるためだったら、どんな苦労だってする。
だというのにルイ様は、「知っている」と穏やかに頷いた。
「お前のことも分かっている。お前は、俺の隣にいてさえくれれば、それでいい」
「本当に? それじゃ俺は、ただの役立たずじゃないですか」
「そうだろうか。お前がいなかったら、俺はもう、何もできそうにないんだがな?」
恐ろしいことを、するりと言う。俺は「もう」と笑って、ルイ様の胸を軽く叩いた。
ルイ様は「本当だぞ」と、囁きかけてくる。
「お前のためならなんでもする。お前がいなかったら、何もできない。俺はそういう、弱いアルファだ」
心なしか、声が色っぽい。思わず黙り込むと、さらに畳み掛けてきた。
「お前は俺の生き甲斐だ。そういう愚かな俺は、好きか?」
まったくずるい聞き方をする。俺はやけくそになって、叫んだ。
「ええ、愛していますよ!」
ルイ様は「泣くなよ」と笑って、俺の目尻に吸い付いた。涙を唇で拭われて、俺は「もっと」と抱きついた。
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