【完結】農民オメガ、領主の跡取りアルファに見初められるけど畑の方が心配

鳥羽ミワ

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27 結婚式

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 それからしばらく。ルイ様とマニュエル様の「後継者争い」は、思ったよりもずいぶんあっさり、決着がついた。
 周りからの圧倒的な支持を得て、マニュエル様が当主になったんだ。
 もともと長男であるルイ様に跡を継がせたがっていたのは、領主ご夫妻だけだったそうだ。そこへルイ様とマニュエル様の「運命の番」にまつわるいざこざがあって、でもそれもみんなのおかげで、なんとかおさまりがついた。
 ルイ様は「せいせいした」と上機嫌に言って、その日はワインをたくさん飲んでいた。俺に難しいことはよく分からないけれど、丸くおさまってよかったな、と思う。
 そもそも俺は読み書きができない。こんなのが領主さまの妻になったら、みんなが困ってしまうだろう。
 だからといって、読み書きができればいいってものじゃない。エーミールはこれから、マニュエル様の隣で、すごく大変なことがいっぱいあるだろう。
 だけど今回の一件で、あれだけの根性を見せたんだ。きっと大丈夫。
 領主様ご夫妻は、すぐに家督をマニュエル様にゆずって、田舎へ引っ込んだ。マニュエル様は当主になってすぐ、エーミールとの式を挙げて、結婚した。
 エーミールがすごく綺麗で、幸せそうで、本当にいい式だったことを覚えている。
 そして俺の方は、その一年後に、やっと機会がめぐってきた。

 信じられないくらい豪華なドレス――といっても、下はズボンだけど――を着せられて、地面に付くくらい長いベールもかぶせられる。
 摘まれたばかりの花がたくさん頭に載せられて、若干重たい。耳たぶや指には、信じられないくらいぴかぴかの宝石のついた飾りを、たくさんつけた。

「派手すぎない?」

 今日の式で、俺をエスコートする役を買って出たエーミールに愚痴る。エーミールは「そうでもないよ」と笑った。目が少し遠くを見ている。どうやら、あの式は、いい思い出ばかりでもないらしい。

「僕の時の方が、ずっとすごかったよ」
「ああ……」

 たしかにエーミールの方が、ドレスには生地がたっぷり使われていたし、フリルやレースもすごかった。なんというか、マニュエル様の執着の重さが、衣装にすら現れていた気がする。
 二人してぼんやりしている間に、出番だと呼ばれた。俺たちは連れ立って、控え室にしていた衣装部屋から、会場になっている聖堂に向かった。
 こういうとき、本当だったら俺の家族がエスコートしたり、側にいたりするべきらしい。だけど父さんと母さんは、恐れ多いからって、式に出席してくれなかった。かろうじてフランクは、精一杯のお仕着せを着て、会場の隅っこにいるらしい。
 そのフランクを、なんとか見つけ出す。久しぶりに見る弟は、ますます大きくなっていた。ひらりと手を振ると、フランクは目元を押さえて頭を下げる。泣いているんだろうか。
 なんだか、俺まで泣きたくなってしまった。鼻を啜ると、「まだだよ」とエーミールが囁く。
 その言葉を頼りに、顔を上げた。
 祭壇の前に、ルイ様が立っている。俺をじっと見つめていた。
 今すぐ走り出したい。駆け寄って、あの胸に飛び込みたい。
 野蛮な衝動を抑えて、一歩ずつ、丁寧に歩く。ルイ様の近くまで来ると、エーミールが手を離した。ルイ様が手を差し出して、俺は迷わず手を重ねる。
 一回りも大きさの違う掌が、愛しい。

「綺麗だ」

 褒め言葉に、俺は思わず笑ってしまった。うれしい。
 祭壇の前に立つ。司祭様から祝福をいただいて、俺たちは頭を垂れた。
 そして、永遠を誓うためのキスをする。ルイ様が俺のベールを上げた。
 俺もまっすぐ、ルイ様を見上げる。

「とうとうですね」

 俺の言葉に、ルイ様は目を伏せて、ちいさく笑った。かっこいい。
 ときめく俺の肩に、ルイ様の手が置かれる。俺が少し背伸びをすると、ルイ様も背を屈めた。
 唇が合わさる。そのやわらかさと温かさのことは、もしかして、死ぬまで忘れないのかもしれない。
 お互いの息が離れる。そしてどちらともなく、もう一度唇を合わせた。

 わっ、と聖堂の中が湧き立つ。たくさんの拍手と歓声を浴びながら、俺とルイ様は結ばれた。
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