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4.家なき母娘
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店に向かいながら、これからの事について考える。
お金に困っているのは明らかだ。食うに困るという状況、借金をしている可能性も十分考えられる。
もしも雪さんが体を売ってでもお金を稼ぐなんて言い出したら……つい悪い方向に考えがいってしまう。
このまま考えていても好転する訳でもないと思い直し、どんな状況下だとしても最大限の支援をするという事で一旦結論づけた。
店に着くと注文の品は既に出来ていた。おばちゃんにお礼を伝え素早く支払いを済ませる。
僕は来た道を急ぎ足で引き返した。
道中、僕の帰りを待たず雪さん達が出て行ったかもしれないという嫌な予感が頭を過ぎった。
不安に駆られた僕が、慌てて家に駆け込んだ事は言うまでもないだろう。
「ただいま」
「優君、お帰りなさい」
「お、お帰りなさい」
幸いにも2人は僕が出て行った時と同じ様にソファーに座っていた。
こうして誰かにお帰りなさいと言ってもらえたのはいつぶりだろうか?
何となくリビングに重苦しい雰囲気が漂っている気がした。よく見ると、小春ちゃんの目が赤くなっている。僕の居ない間にどんな話をしていたのだろうか?
気にならないと言えば嘘になるが、詮索するよりも食事を摂ってもらう方が優先だ。僕はその事に気づいていないフリをした。
「さあ、2人とも。まずは食事にしよう」
ダイニングテーブルへ移動する様に促し、テーブルに弁当を並べていく。
全員揃ったのを確認して、2人が食べやすい様に僕は真っ先に手を付けた。
お腹が空いていたと思われる2人が黙々と食べ続けるので、僕も彼女達に倣って会話は控えた。
食事中、正面に座る2人に気づかれない様にジッと見つめる。
それにしてもよく似ている。最初に会った時にも思ったが母娘というより少し歳の離れた姉妹と言われた方がしっくりくる。
髪の色に違いはあるが、同じ髪型をしている所からも仲の良さが窺えた。
雪さんの髪は茶色に染められており、肩に少しだけかかったミディアムボブ。上品な感じで纏められていてとてもよく似合っていた。
今年36歳のはずなのに、見た目は20代としか思えない。
歳を重ね綺麗になったな……と思う反面、彼女の今日に至るまでの16年間という歳月を僕が知らない事に胸が痛んだ。
小春ちゃんは学生らしく髪は染めておらず、綺麗な黒髪が目を惹いた。雪さんと髪型こそ同じではあるが色が違うだけでも印象がかなり変わる。
彼女は、僕の記憶の中にある学生時代の雪さんにとてもよく似ていた。
彼女の成長していく姿を側で見ていられたなら、この胸の痛みは消えるのだろうか?
何を馬鹿な事を……僕は頭を振ってそんな邪な考えを追い出した。
「優君、私達の顔に何か付いてる?」
雪さんが不安そうな声を上げた事で我に返った。2人の手元を見れば、既に半分近く弁当を食べ終えていた。
「いいや、美味しそうに食べてるなって思っただけだよ」
はぐらかしたつもりだったが、それを聞いた雪さんが申し訳なさそうな顔をした。
「そんな顔をしないでくれ。久しぶりにこうして一緒に食事出来たのだから。ほら、豚汁が冷めないうちに食べてしまおう」
僕は誤魔化す様に、再び食事を摂り始めたのだった。
食事が終わると、またもやリビングは重苦しい雰囲気に包まれた。
雪さんは先程から何か話そうと口を開いては閉じるといった行動を繰り返している。
どう切り出すべきか決めあぐねているといった感じだろう。僕は助け舟を出す意味も兼ねて彼女に言葉をかけた。
「雪さん、ゆっくりでいいから1つずつ順を追って話してもらえないだろうか?」
雪さんは僕の言葉に頷くものの、暫く待っても言葉が出てこない。
彼女の隣に座る小春ちゃんが心配そうな面持ちで雪さんを見つめている。
そこでふと気づいた。雪さんの歯切れが悪いのは、もしかしたら僕の前から消えたあの日の事から説明しようとしているからではないだろうか?
その事が気にならないと言えば嘘になる。だけど、彼女としても切り出しにくいだろう。
僕としても、知らない男と雪さんの恋愛や結婚生活の話を聞いてしまえば、冷静でいられる自信はない。
それに大事なのはそんな昔の事ではなく、今なのだと自分に言い聞かせる。尤もらしい理由を並べ立てて、過去と向き合う事から僕は逃げてしまった。
「雪さん、僕の方から質問させてもらうから答えられる範囲で話してくれないか?答えにくい質問は黙秘してくれて構わない」
「はい……」
「まずは雪さんと小春ちゃんの現状について教えてもらえるかい?」
お腹が満たされた事もあり緊張の糸が切れたのだろう。雪さんの瞳から一筋の涙が溢れた。
「ゆ、優くん。あのね……私達行く所がないの」
そう言って彼女はここ最近に起きた出来事をポツポツと話し始めた。
お金に困っているのは明らかだ。食うに困るという状況、借金をしている可能性も十分考えられる。
もしも雪さんが体を売ってでもお金を稼ぐなんて言い出したら……つい悪い方向に考えがいってしまう。
このまま考えていても好転する訳でもないと思い直し、どんな状況下だとしても最大限の支援をするという事で一旦結論づけた。
店に着くと注文の品は既に出来ていた。おばちゃんにお礼を伝え素早く支払いを済ませる。
僕は来た道を急ぎ足で引き返した。
道中、僕の帰りを待たず雪さん達が出て行ったかもしれないという嫌な予感が頭を過ぎった。
不安に駆られた僕が、慌てて家に駆け込んだ事は言うまでもないだろう。
「ただいま」
「優君、お帰りなさい」
「お、お帰りなさい」
幸いにも2人は僕が出て行った時と同じ様にソファーに座っていた。
こうして誰かにお帰りなさいと言ってもらえたのはいつぶりだろうか?
何となくリビングに重苦しい雰囲気が漂っている気がした。よく見ると、小春ちゃんの目が赤くなっている。僕の居ない間にどんな話をしていたのだろうか?
気にならないと言えば嘘になるが、詮索するよりも食事を摂ってもらう方が優先だ。僕はその事に気づいていないフリをした。
「さあ、2人とも。まずは食事にしよう」
ダイニングテーブルへ移動する様に促し、テーブルに弁当を並べていく。
全員揃ったのを確認して、2人が食べやすい様に僕は真っ先に手を付けた。
お腹が空いていたと思われる2人が黙々と食べ続けるので、僕も彼女達に倣って会話は控えた。
食事中、正面に座る2人に気づかれない様にジッと見つめる。
それにしてもよく似ている。最初に会った時にも思ったが母娘というより少し歳の離れた姉妹と言われた方がしっくりくる。
髪の色に違いはあるが、同じ髪型をしている所からも仲の良さが窺えた。
雪さんの髪は茶色に染められており、肩に少しだけかかったミディアムボブ。上品な感じで纏められていてとてもよく似合っていた。
今年36歳のはずなのに、見た目は20代としか思えない。
歳を重ね綺麗になったな……と思う反面、彼女の今日に至るまでの16年間という歳月を僕が知らない事に胸が痛んだ。
小春ちゃんは学生らしく髪は染めておらず、綺麗な黒髪が目を惹いた。雪さんと髪型こそ同じではあるが色が違うだけでも印象がかなり変わる。
彼女は、僕の記憶の中にある学生時代の雪さんにとてもよく似ていた。
彼女の成長していく姿を側で見ていられたなら、この胸の痛みは消えるのだろうか?
何を馬鹿な事を……僕は頭を振ってそんな邪な考えを追い出した。
「優君、私達の顔に何か付いてる?」
雪さんが不安そうな声を上げた事で我に返った。2人の手元を見れば、既に半分近く弁当を食べ終えていた。
「いいや、美味しそうに食べてるなって思っただけだよ」
はぐらかしたつもりだったが、それを聞いた雪さんが申し訳なさそうな顔をした。
「そんな顔をしないでくれ。久しぶりにこうして一緒に食事出来たのだから。ほら、豚汁が冷めないうちに食べてしまおう」
僕は誤魔化す様に、再び食事を摂り始めたのだった。
食事が終わると、またもやリビングは重苦しい雰囲気に包まれた。
雪さんは先程から何か話そうと口を開いては閉じるといった行動を繰り返している。
どう切り出すべきか決めあぐねているといった感じだろう。僕は助け舟を出す意味も兼ねて彼女に言葉をかけた。
「雪さん、ゆっくりでいいから1つずつ順を追って話してもらえないだろうか?」
雪さんは僕の言葉に頷くものの、暫く待っても言葉が出てこない。
彼女の隣に座る小春ちゃんが心配そうな面持ちで雪さんを見つめている。
そこでふと気づいた。雪さんの歯切れが悪いのは、もしかしたら僕の前から消えたあの日の事から説明しようとしているからではないだろうか?
その事が気にならないと言えば嘘になる。だけど、彼女としても切り出しにくいだろう。
僕としても、知らない男と雪さんの恋愛や結婚生活の話を聞いてしまえば、冷静でいられる自信はない。
それに大事なのはそんな昔の事ではなく、今なのだと自分に言い聞かせる。尤もらしい理由を並べ立てて、過去と向き合う事から僕は逃げてしまった。
「雪さん、僕の方から質問させてもらうから答えられる範囲で話してくれないか?答えにくい質問は黙秘してくれて構わない」
「はい……」
「まずは雪さんと小春ちゃんの現状について教えてもらえるかい?」
お腹が満たされた事もあり緊張の糸が切れたのだろう。雪さんの瞳から一筋の涙が溢れた。
「ゆ、優くん。あのね……私達行く所がないの」
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