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24.DVD―雪視点―
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『自ら手放してしまった幸せ』と『偶然手に入れた幸せ』のどちらが私にとって本当の幸せだったのだろうか?
母親になってから今日までの間、1度も考えた事がないと言えば嘘になる。
だけど私は、例え過去にタイムスリップ出来たとしても今と変わらない選択をするだろう。
明日の生活の目処が立たず途方に暮れていた私が、優君と再会できた事は奇跡としか言い表せない。
16年という歳月を経て久しぶりに再会した彼は、私の想像していたよりも素敵な男性になっていた。
昔と変わらず優しく接してくれている事に感謝する気持ちと彼を選ばなかった罪悪感に押し潰されそうになる。
いつまでも彼の優しさに甘える訳にはいかないと頭では分かっているのに、この生活をずっと続けていたいと思ってしまう弱い自分がいる。
彼にとって、私が過去の人間である事は理解している。再会した日に彼の口から告げられた言葉がそれを物語っていた。突然彼の前から消えた私はその現実を受け入れるしかないのだ。
再会したあの日、私はこの16年間の出来事を話して楽になりたかった。私の選択は間違っていなかったのだと彼に認めて欲しかった。
優君には言ってないが、私は既に親から勘当されている。そんな私が弱音を吐ける人間は優君以外は考えられなかった。自分がどれだけ都合の良い事を言ってるか理解している。でも、私は彼に拒まれてしまった。
小春の本当の両親が亡くなり、出産を終えた私は日本に帰ってきた。
親になる覚悟のないまま一児の母となってしまった私。
帰国後、真っ先に頼ったのは両親だった。
勝手に家を出た娘が突然帰ってきたと思えば子供を産んでいる状況。
私がどれだけの親不孝をしたか……自分が親となった今なら分かる。
最初に相手の男は誰だと聞かれた。だから代理出産だと正直に話した。
今思えば、あの時に自分の子供だと誤魔化しておけば勘当されていなかったかもしれない。
だけどそれは小春の実の母親である夏月を否定する気がして嘘を吐きたくなかった。
私の告白を聞いた両親の驚いた顔は今でも鮮明に覚えている。
その結果……両親は私を勘当した。
そこからの15年間はとにかく必死で生きてきた。もう頑張る事が出来ず絶望の底で彷徨っていた私を大好きな人が掬い上げてくれた。
自分でその手を取らなかったくせに、私は昔と何も変わらず彼の好意に甘えてばかりだ。
先日の花火大会の後の公園での出来事を思い返す。大人になった彼と初めて2人だけで出掛けた。
恋人らしい何かがあった訳でもないけど、時間を共にしているだけで私は満たされていた。
彼ともっと居たい。無理だと分かっているのにそれを望んでいる自分がたまらなく嫌いだ。
彼ではなく、代理出産のホストマザーを選んだ私にそんな事を願う資格がある訳ないのに。
ここに来てそろそろ2ヶ月近くが経つ、いつまでもここにいる訳にはいかない。タイムリミットは刻一刻と迫ってきているのは自覚している。
そんな不安に苛まれ、最近は眠れない日が増えていた。
「夏月……」
弱気になると、私の半身だった彼女の名前を呼んでしまう。もう彼女が返事をしてくれる事はないのに……。
名前を呟いた事で、家を引き払う際に見つけたナイロン製のCDケースが頭に浮かんだ。
夏月が私に残してくれた数少ない物。そのケースには彼女と一緒に聞いていたミュージシャンのCDが入っているはずだった。当時を思い出してしまうから私はずっと中を見れずにいたのだが、あの時の私は何かに導かれる様に中を確認した。そこにはCDの他に盤面に何も記載のないディスクが入っていたのだった。
「そう言えば優君の持っているパソコンの中に光学ドライブの付いているノートがあったはず」
時刻を確認すれば、まだ0時過ぎ。どうせ眠れないし、中身を確認してみよう。
私はリビングに置いてあるノートパソコンを取りに行った。
何枚かあるけど何が入っているのだろうか?タイトルが書かれていないので中身が分からない。とりあえずその中の1枚をドライブに入れて再生をクリックした。
『はい、ちゅーもーく。現在12月28日22時を過ぎた所です。良い子のお姉ちゃんはもう夢の中でーす』
画面には寝ている私の顔がアップで映っている。突然聞こえてきた夏月の……双子の妹の声に私は固まった。
こんなものを撮っていたなんて……知らない。
『まぁ私の方が可愛いけど、お姉ちゃんの寝顔は可愛いよね。正臣もそう思うでしょ?』
撮影者は正臣さんらしい。夏月の旦那さん。おそらく年末の休みを利用して来ていた時に撮ったのだろう。
同意を求める言葉に頷いたせいで、画面が上下に何度も揺れている。
『冗談のつもりだったのに、肯定されるとそれはそれで照れるね。こほん、さてそれでは……第4回面と向かって言うのは恥ずかしいので寝ているお姉ちゃんに感謝を伝える会を今から始めたいと思います』
『いや、これ3回目な。俺達は雪さんに足向けて寝れないんだから、感謝してるんならちゃんと覚えておけよ……。あと、タイトル。回を重ねる度に長くなっているぞ』
『もぅ、うっさいなー。回数間違えたぐらいで私のお姉ちゃんに対する感謝は変わらないの。正臣はいちいち細かいんだよ。器の小さい男って子供に嫌われるらしいよ?』
『なっ!?』
そこで画面が横に移動する。
「夏月っ!!」
夏月の姿が画面に映った。もう会えないと思っていた彼女が画面の中で笑っていた。
『騒いで起きちゃったらヤバいので、そろそろ本題に入るよ。正臣、ほらちゃんと撮ってよ。今日は検査で赤ちゃんの性別がわかった記念すべき日です!』
『おお。で、どっちなんだ?俺も聞いてないから早く教えてくれよ』
『いつも言ってるでしょ、早い男は嫌われるよって……ごめん。正臣は早くないもんね、そんな怒らないでってば』
『…………』
『それじゃ発表します……なんと女の子です!』
『うわっ、マジか。やったなおい』
『正臣ずっと女の子が良いって言ってたもんね』
彼が女の子を望んでいたのは私も聞いていた。
『ねぇ、正臣。名前なんだけどさ?変えても良いかな?』
『は?いや俺は良いけど夏月ずっと前から決めてたよな。それは良いのか?』
『うん。名前ね……小春にしようと思ってるんだ』
『可愛らしくて良いんじゃないか』
元々小春と名付ける予定ではなかったという事に驚いた。
確か、春に生まれるからそれらしい名前で小さいをつけた方が可愛らしく育ってくれるんじゃないかと言っていた記憶がある。
『春っぽいでしょ?お姉ちゃんにはそう説明するつもりだから話し合わせてね。まぁ、本当は違うんだけどね』
『そうなのか?』
『うん。小春日和って分かる?あれって晩秋から初冬にかけての時期なんだけどさ。私が夏でお姉ちゃんが冬を連想させる名前でしょ?その間を取ると秋になるんだけど……春に生まれる子に秋の漢字を使うのっておかしいじゃない?遺伝子的には私と正臣の子供だけど、私とお姉ちゃんの子供でもあると言っても過言ではないと思うの!!小春日和は時期的にも冬よりだからお姉ちゃんの名前に寄せてる感じがして良いと思わない?感謝の意を込めてたつもりなんだけど、どうかな?』
そんな風に考えていたなんて知らなかった。私が聞いていた名前の由来とは全然違う。
『夏月にしては珍しく考えてるな。俺は良いと思うぞ。だけど何で雪さんに伝えないんだ?』
『え、私がお姉ちゃん大好き過ぎるのバレたら恥ずかしいじゃん』
『……はぁ』
『正臣、なんか文句あるの?言いたいことがあるならはっきり言えば良いじゃん』
『いや、普段のお前のアレな態度で雪さんが大好きって気持ちを隠しているつもりでいたんだろ?やっぱ夏月は凄いな』
『それ馬鹿にしてるでしょ?もういいよ。今から伝えるからちゃんと撮ってね。お姉ちゃん、私達に家族を授けてくれて本当にありがとう。そしてごめんね。私はこれから一生をかけて償っていきます。それと小春の事は絶対に幸せにするから。母子共に健康に出産できる様に私はこれからも祈り続けます。それじゃおやすみ、また明日ね』
そう言って夏月は寝ている私の額にキスをした。
「夏月、今まで見なくてごめんね……」
涙が次から次へと溢れてくる。ぼやけた視界に映るCDケースの中には同じ様なディスクが何枚もある。
実の母親について、いずれきちんと小春に話すつもりでいた。高校生になったし、これが見つかったので良い機会なのかもしれない。
画面が次の動画に切り替わった。小春に話をするにしても動画は全部見ておくべきだろう。
今日から新学期が始まる。5時に起きてお弁当の準備をするつもりでいたけど寝る雰囲気では無くなってしまった。
徹夜すれば良いだけの話。私は改めて画面に意識を向けるのだった……。
母親になってから今日までの間、1度も考えた事がないと言えば嘘になる。
だけど私は、例え過去にタイムスリップ出来たとしても今と変わらない選択をするだろう。
明日の生活の目処が立たず途方に暮れていた私が、優君と再会できた事は奇跡としか言い表せない。
16年という歳月を経て久しぶりに再会した彼は、私の想像していたよりも素敵な男性になっていた。
昔と変わらず優しく接してくれている事に感謝する気持ちと彼を選ばなかった罪悪感に押し潰されそうになる。
いつまでも彼の優しさに甘える訳にはいかないと頭では分かっているのに、この生活をずっと続けていたいと思ってしまう弱い自分がいる。
彼にとって、私が過去の人間である事は理解している。再会した日に彼の口から告げられた言葉がそれを物語っていた。突然彼の前から消えた私はその現実を受け入れるしかないのだ。
再会したあの日、私はこの16年間の出来事を話して楽になりたかった。私の選択は間違っていなかったのだと彼に認めて欲しかった。
優君には言ってないが、私は既に親から勘当されている。そんな私が弱音を吐ける人間は優君以外は考えられなかった。自分がどれだけ都合の良い事を言ってるか理解している。でも、私は彼に拒まれてしまった。
小春の本当の両親が亡くなり、出産を終えた私は日本に帰ってきた。
親になる覚悟のないまま一児の母となってしまった私。
帰国後、真っ先に頼ったのは両親だった。
勝手に家を出た娘が突然帰ってきたと思えば子供を産んでいる状況。
私がどれだけの親不孝をしたか……自分が親となった今なら分かる。
最初に相手の男は誰だと聞かれた。だから代理出産だと正直に話した。
今思えば、あの時に自分の子供だと誤魔化しておけば勘当されていなかったかもしれない。
だけどそれは小春の実の母親である夏月を否定する気がして嘘を吐きたくなかった。
私の告白を聞いた両親の驚いた顔は今でも鮮明に覚えている。
その結果……両親は私を勘当した。
そこからの15年間はとにかく必死で生きてきた。もう頑張る事が出来ず絶望の底で彷徨っていた私を大好きな人が掬い上げてくれた。
自分でその手を取らなかったくせに、私は昔と何も変わらず彼の好意に甘えてばかりだ。
先日の花火大会の後の公園での出来事を思い返す。大人になった彼と初めて2人だけで出掛けた。
恋人らしい何かがあった訳でもないけど、時間を共にしているだけで私は満たされていた。
彼ともっと居たい。無理だと分かっているのにそれを望んでいる自分がたまらなく嫌いだ。
彼ではなく、代理出産のホストマザーを選んだ私にそんな事を願う資格がある訳ないのに。
ここに来てそろそろ2ヶ月近くが経つ、いつまでもここにいる訳にはいかない。タイムリミットは刻一刻と迫ってきているのは自覚している。
そんな不安に苛まれ、最近は眠れない日が増えていた。
「夏月……」
弱気になると、私の半身だった彼女の名前を呼んでしまう。もう彼女が返事をしてくれる事はないのに……。
名前を呟いた事で、家を引き払う際に見つけたナイロン製のCDケースが頭に浮かんだ。
夏月が私に残してくれた数少ない物。そのケースには彼女と一緒に聞いていたミュージシャンのCDが入っているはずだった。当時を思い出してしまうから私はずっと中を見れずにいたのだが、あの時の私は何かに導かれる様に中を確認した。そこにはCDの他に盤面に何も記載のないディスクが入っていたのだった。
「そう言えば優君の持っているパソコンの中に光学ドライブの付いているノートがあったはず」
時刻を確認すれば、まだ0時過ぎ。どうせ眠れないし、中身を確認してみよう。
私はリビングに置いてあるノートパソコンを取りに行った。
何枚かあるけど何が入っているのだろうか?タイトルが書かれていないので中身が分からない。とりあえずその中の1枚をドライブに入れて再生をクリックした。
『はい、ちゅーもーく。現在12月28日22時を過ぎた所です。良い子のお姉ちゃんはもう夢の中でーす』
画面には寝ている私の顔がアップで映っている。突然聞こえてきた夏月の……双子の妹の声に私は固まった。
こんなものを撮っていたなんて……知らない。
『まぁ私の方が可愛いけど、お姉ちゃんの寝顔は可愛いよね。正臣もそう思うでしょ?』
撮影者は正臣さんらしい。夏月の旦那さん。おそらく年末の休みを利用して来ていた時に撮ったのだろう。
同意を求める言葉に頷いたせいで、画面が上下に何度も揺れている。
『冗談のつもりだったのに、肯定されるとそれはそれで照れるね。こほん、さてそれでは……第4回面と向かって言うのは恥ずかしいので寝ているお姉ちゃんに感謝を伝える会を今から始めたいと思います』
『いや、これ3回目な。俺達は雪さんに足向けて寝れないんだから、感謝してるんならちゃんと覚えておけよ……。あと、タイトル。回を重ねる度に長くなっているぞ』
『もぅ、うっさいなー。回数間違えたぐらいで私のお姉ちゃんに対する感謝は変わらないの。正臣はいちいち細かいんだよ。器の小さい男って子供に嫌われるらしいよ?』
『なっ!?』
そこで画面が横に移動する。
「夏月っ!!」
夏月の姿が画面に映った。もう会えないと思っていた彼女が画面の中で笑っていた。
『騒いで起きちゃったらヤバいので、そろそろ本題に入るよ。正臣、ほらちゃんと撮ってよ。今日は検査で赤ちゃんの性別がわかった記念すべき日です!』
『おお。で、どっちなんだ?俺も聞いてないから早く教えてくれよ』
『いつも言ってるでしょ、早い男は嫌われるよって……ごめん。正臣は早くないもんね、そんな怒らないでってば』
『…………』
『それじゃ発表します……なんと女の子です!』
『うわっ、マジか。やったなおい』
『正臣ずっと女の子が良いって言ってたもんね』
彼が女の子を望んでいたのは私も聞いていた。
『ねぇ、正臣。名前なんだけどさ?変えても良いかな?』
『は?いや俺は良いけど夏月ずっと前から決めてたよな。それは良いのか?』
『うん。名前ね……小春にしようと思ってるんだ』
『可愛らしくて良いんじゃないか』
元々小春と名付ける予定ではなかったという事に驚いた。
確か、春に生まれるからそれらしい名前で小さいをつけた方が可愛らしく育ってくれるんじゃないかと言っていた記憶がある。
『春っぽいでしょ?お姉ちゃんにはそう説明するつもりだから話し合わせてね。まぁ、本当は違うんだけどね』
『そうなのか?』
『うん。小春日和って分かる?あれって晩秋から初冬にかけての時期なんだけどさ。私が夏でお姉ちゃんが冬を連想させる名前でしょ?その間を取ると秋になるんだけど……春に生まれる子に秋の漢字を使うのっておかしいじゃない?遺伝子的には私と正臣の子供だけど、私とお姉ちゃんの子供でもあると言っても過言ではないと思うの!!小春日和は時期的にも冬よりだからお姉ちゃんの名前に寄せてる感じがして良いと思わない?感謝の意を込めてたつもりなんだけど、どうかな?』
そんな風に考えていたなんて知らなかった。私が聞いていた名前の由来とは全然違う。
『夏月にしては珍しく考えてるな。俺は良いと思うぞ。だけど何で雪さんに伝えないんだ?』
『え、私がお姉ちゃん大好き過ぎるのバレたら恥ずかしいじゃん』
『……はぁ』
『正臣、なんか文句あるの?言いたいことがあるならはっきり言えば良いじゃん』
『いや、普段のお前のアレな態度で雪さんが大好きって気持ちを隠しているつもりでいたんだろ?やっぱ夏月は凄いな』
『それ馬鹿にしてるでしょ?もういいよ。今から伝えるからちゃんと撮ってね。お姉ちゃん、私達に家族を授けてくれて本当にありがとう。そしてごめんね。私はこれから一生をかけて償っていきます。それと小春の事は絶対に幸せにするから。母子共に健康に出産できる様に私はこれからも祈り続けます。それじゃおやすみ、また明日ね』
そう言って夏月は寝ている私の額にキスをした。
「夏月、今まで見なくてごめんね……」
涙が次から次へと溢れてくる。ぼやけた視界に映るCDケースの中には同じ様なディスクが何枚もある。
実の母親について、いずれきちんと小春に話すつもりでいた。高校生になったし、これが見つかったので良い機会なのかもしれない。
画面が次の動画に切り替わった。小春に話をするにしても動画は全部見ておくべきだろう。
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