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第十話 乱舞
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蛇男は、百八に噛み付かれた部分をさすると、忌々しげにこちらを見つめ、再び首を伸ばして戦闘態勢に入った。
さっきまで人間の形をしていたそれは、皮膚に鱗が浮き出た薄気味悪いもののけの姿に変わっている。
「ふん、野良の陰陽師ごときが式神を使いこなせるのか?」
蛇のもののけは、挑発するように赤い舌をチロチロと動かしながら、ビー玉のような目をくるりと一回転させた。その動きは、明らかに人間のものではない。晴人は、思わず鳥肌が立つのを感じながらも、両膝の震えを何とか抑え込もうと努力した。
——ダメだ、ここで俺が弱気になったら。百八なら大丈夫。あのでっかい狐だって簡単に倒せたんだから。
すると、そんな晴人の心の声が聞こえたかのように、これまで全く言葉を発しなかった背の低い男が、冷静な表情のまま口を開いた。
「あの稲荷は確かに強力だったが、年を経すぎて弱ってた。だけど俺たちは違う。小僧の使う式神なんかに負けたりしない」
妙に抑揚を欠いた口調が、むしろ恐怖感を煽る。
「お前、百八だろ?まだ生き残っていたとは驚きだな。まあ、『カグラ様』に敗れて生き恥を晒しているというところか」
小男は、そう言ってククッと喉の中で笑い声を漏らすと、ニンマリと口を開けた。間髪を空けずに、その巨大な口の中から、紫色をした何かが勢い良く飛び出してくる。途端に、生臭い異臭が離れ全体に満ちてゆく。
——これは…舌か⁉︎
しかし、ヌメヌメとした粘膜に覆われたそれが、自らの首元に届こうとしたその刹那、百八は寸出のところで横に向かってジャンプし、攻撃を回避した。一度飛び出した舌が、同じ速度でスルスルと小男の口の中へと戻ってゆく。
「ったく、蛇の次は蛙かよ」
百八は、面倒臭そうにそう呟くと、二体のもののけを前にして仁王立ちになり、彼らに向かって中指を立てて見せた。
「てめえら二人揃って気持ち悪いんだよ。それに俺が生き恥を晒してるって?馬鹿か。好機を待ってるだけだ。再び奴と合間見える時をな」
そう言うと、着物の懐からあの巨大な弓を取り出す。さらに、その左手にはいつの間にか狐のもののけを射抜いたあの矢が握られていた。
——へえ、なんかかっこいいじゃん。
晴人は思わずその広い背中を見つめながら、何だか誇らしげな気持ちになった。
——これで属性が『淫』じゃなきゃあ最高なんだけどな…
「さあ来い蛇と蛙!お前らみたいな下級のもののけは、俺が晴人を抱くための餌みたいなもんだ!」
——ほら、やっぱりこういうこと言う。
しかし、うんざりする晴人をよそに、彼らの間に生まれた火花は燃え盛ろうとしていた。今度は蛇男の頭と蛙男の舌が、さっき以上の勢いを伴いながら、同時に百八に向かって飛んでくる。
「百八!」
思わず晴人は叫んでいた。しかし、百八は一瞬こちらを振り返ってニヤリと笑うと、高く上にジャンプして二人の攻撃をかわした。そのまま、空中から二本の矢を発射する。
ひゅん。
空気を切り裂くような小気味の良い音が鳴り響き、矢は蛇の頭と蛙の舌をかすめた。しかし、致命傷を与えることはできない。再びくるくると元の位置に頭を戻した蛇のもののけが、ヒャハハと奇妙な笑い声を上げて言った。
「俺たちが下級ならお前は何だ百八?『淫』の式神が偉そうな口を叩くな」
「あん?」
百八はそう言って、骨の音を鳴らしながら、首を左右に振った。
「だからお前らは下級なんだよ」
——その瞬間。
百八の言葉に呼応したかのように、射抜き損ねてどこかへと消えた矢が、まるで生きているかの如く再び空を切り裂きながら、こちらへと戻ってきた。
「な、何だ?」
蛇のもののけが思わずのけぞる。しかし、時すでに遅し。勢いを取り戻した二本の矢は、目にも止まらぬ速さで二体のもののけの頭を射抜いていた。
「馬鹿…な…」
蛙のもののけが、やはり抑揚のない口調で、情けない断末魔の叫び——いや、呟きを漏らす。そして、次の瞬間、頭を貫かれたもののけたちは、どさっとその場に横倒しになって倒れた。
「やった…はは…俺やっぱ当たり引いたわ」
晴人は思わずそう言いながら、仁王立ちになったままの百八の元へ、自然と駆け寄っていた。
「お前、すごいな。めっちゃ簡単に倒しちゃうじゃん」
やや興奮気味にそう言う晴人に向かって、百八は再びあの好色そうな笑みを浮かべて言った。
「報酬が良いと頑張れる。これが式神の鉄則ってやつだ」
そのまま晴人をかき抱き、口づけしようとする百八を必死で押し戻す。
——これさえなけりゃあ最高なんだけど…
「ま、待て、今はマジでダメだ」
晴人は、そこでようやく、離れの玄関でじっと立ち尽くす母親の方へ視線を送った。母親は、いつになく厳しい表情で晴人を見ると、スッとこちらに近寄ってくる。
「あ、あれ?もののけの死骸が消えないうちは、結界がまだ有効なはずじゃ…?」
「陰陽師同士ならその結界を破って近づける。もちろん、あの女はずっとあそこで俺とお前の勇姿を見守っていたぞ」
——マジか。
目を釣り上げて自分の方へと向かってくる母親から必死に目を逸らしながら、晴人はその場に立ち尽くすほかなかった。
——絶対怒られる。式神と誓約したことを隠してただけじゃなく、そいつの属性が『淫』だなんて母さんが知ったら。
しかし——
母親は、厳しい表情を崩さずにすくっと晴人の目の前に立ちはだかると、こう言った。
「晴人…あんたね」
「はい」
「母さんより強い式神と誓約するなんて——一体どういうつもり?」
さっきまで人間の形をしていたそれは、皮膚に鱗が浮き出た薄気味悪いもののけの姿に変わっている。
「ふん、野良の陰陽師ごときが式神を使いこなせるのか?」
蛇のもののけは、挑発するように赤い舌をチロチロと動かしながら、ビー玉のような目をくるりと一回転させた。その動きは、明らかに人間のものではない。晴人は、思わず鳥肌が立つのを感じながらも、両膝の震えを何とか抑え込もうと努力した。
——ダメだ、ここで俺が弱気になったら。百八なら大丈夫。あのでっかい狐だって簡単に倒せたんだから。
すると、そんな晴人の心の声が聞こえたかのように、これまで全く言葉を発しなかった背の低い男が、冷静な表情のまま口を開いた。
「あの稲荷は確かに強力だったが、年を経すぎて弱ってた。だけど俺たちは違う。小僧の使う式神なんかに負けたりしない」
妙に抑揚を欠いた口調が、むしろ恐怖感を煽る。
「お前、百八だろ?まだ生き残っていたとは驚きだな。まあ、『カグラ様』に敗れて生き恥を晒しているというところか」
小男は、そう言ってククッと喉の中で笑い声を漏らすと、ニンマリと口を開けた。間髪を空けずに、その巨大な口の中から、紫色をした何かが勢い良く飛び出してくる。途端に、生臭い異臭が離れ全体に満ちてゆく。
——これは…舌か⁉︎
しかし、ヌメヌメとした粘膜に覆われたそれが、自らの首元に届こうとしたその刹那、百八は寸出のところで横に向かってジャンプし、攻撃を回避した。一度飛び出した舌が、同じ速度でスルスルと小男の口の中へと戻ってゆく。
「ったく、蛇の次は蛙かよ」
百八は、面倒臭そうにそう呟くと、二体のもののけを前にして仁王立ちになり、彼らに向かって中指を立てて見せた。
「てめえら二人揃って気持ち悪いんだよ。それに俺が生き恥を晒してるって?馬鹿か。好機を待ってるだけだ。再び奴と合間見える時をな」
そう言うと、着物の懐からあの巨大な弓を取り出す。さらに、その左手にはいつの間にか狐のもののけを射抜いたあの矢が握られていた。
——へえ、なんかかっこいいじゃん。
晴人は思わずその広い背中を見つめながら、何だか誇らしげな気持ちになった。
——これで属性が『淫』じゃなきゃあ最高なんだけどな…
「さあ来い蛇と蛙!お前らみたいな下級のもののけは、俺が晴人を抱くための餌みたいなもんだ!」
——ほら、やっぱりこういうこと言う。
しかし、うんざりする晴人をよそに、彼らの間に生まれた火花は燃え盛ろうとしていた。今度は蛇男の頭と蛙男の舌が、さっき以上の勢いを伴いながら、同時に百八に向かって飛んでくる。
「百八!」
思わず晴人は叫んでいた。しかし、百八は一瞬こちらを振り返ってニヤリと笑うと、高く上にジャンプして二人の攻撃をかわした。そのまま、空中から二本の矢を発射する。
ひゅん。
空気を切り裂くような小気味の良い音が鳴り響き、矢は蛇の頭と蛙の舌をかすめた。しかし、致命傷を与えることはできない。再びくるくると元の位置に頭を戻した蛇のもののけが、ヒャハハと奇妙な笑い声を上げて言った。
「俺たちが下級ならお前は何だ百八?『淫』の式神が偉そうな口を叩くな」
「あん?」
百八はそう言って、骨の音を鳴らしながら、首を左右に振った。
「だからお前らは下級なんだよ」
——その瞬間。
百八の言葉に呼応したかのように、射抜き損ねてどこかへと消えた矢が、まるで生きているかの如く再び空を切り裂きながら、こちらへと戻ってきた。
「な、何だ?」
蛇のもののけが思わずのけぞる。しかし、時すでに遅し。勢いを取り戻した二本の矢は、目にも止まらぬ速さで二体のもののけの頭を射抜いていた。
「馬鹿…な…」
蛙のもののけが、やはり抑揚のない口調で、情けない断末魔の叫び——いや、呟きを漏らす。そして、次の瞬間、頭を貫かれたもののけたちは、どさっとその場に横倒しになって倒れた。
「やった…はは…俺やっぱ当たり引いたわ」
晴人は思わずそう言いながら、仁王立ちになったままの百八の元へ、自然と駆け寄っていた。
「お前、すごいな。めっちゃ簡単に倒しちゃうじゃん」
やや興奮気味にそう言う晴人に向かって、百八は再びあの好色そうな笑みを浮かべて言った。
「報酬が良いと頑張れる。これが式神の鉄則ってやつだ」
そのまま晴人をかき抱き、口づけしようとする百八を必死で押し戻す。
——これさえなけりゃあ最高なんだけど…
「ま、待て、今はマジでダメだ」
晴人は、そこでようやく、離れの玄関でじっと立ち尽くす母親の方へ視線を送った。母親は、いつになく厳しい表情で晴人を見ると、スッとこちらに近寄ってくる。
「あ、あれ?もののけの死骸が消えないうちは、結界がまだ有効なはずじゃ…?」
「陰陽師同士ならその結界を破って近づける。もちろん、あの女はずっとあそこで俺とお前の勇姿を見守っていたぞ」
——マジか。
目を釣り上げて自分の方へと向かってくる母親から必死に目を逸らしながら、晴人はその場に立ち尽くすほかなかった。
——絶対怒られる。式神と誓約したことを隠してただけじゃなく、そいつの属性が『淫』だなんて母さんが知ったら。
しかし——
母親は、厳しい表情を崩さずにすくっと晴人の目の前に立ちはだかると、こう言った。
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「はい」
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