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第十一話 一難去って…
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数十分後、緊急の家族会議が開かれた。大学はもちろん(強制的な)自主休学である。
代々陰陽師の名家として界隈で暗躍してきた安倍家にとって、新たな戦力が増えたことは間違いなく慶事だ。しかし、それを隠していたことが、母親の逆鱗に触れたのだ。いや、それだけではない気もするが。
母屋の居間には、母親と晴人と百八、そしてようやく起き出してきた二人の兄、晴臣と晴政が集まり、顔を突き合わせて話し合いが行われた。
話し合い、といっても、晴人が半ば被告人のようになり、母親からの口撃を受け続けるという拷問のようなものである。
しかし、しばらく黙って「はい、はい」とひたすら頭を下げ続けていた晴人に向かって、ようやく長男の晴臣が助け舟を出した。
「まあ良いんじゃないか、結果的にお前はそこそこの力がある式神と誓約を交わしたんだろ?これまで全く修業もしてこなかった晴人にしては大きな進歩じゃないか」
晴臣は、百八にも引けを取らない大柄な体格をしており、それに見合う大らかな心を持っている。黒髪に潔い短髪。まるで、どこかのラグビーチームにでも所属していそうな出立だ。その言葉に、次男の晴政が反応する。
「だけど兄貴、今回の論点は多分そこじゃないぜ。こいつがやったことは明らかなルール違反だ。それに関しては、俺はもののけの意見に賛成だ。最近、ただでさえ協会に認定されていない未登録の陰陽師が増え過ぎてる。安倍家としては、やっぱり見過ごすことはできないんじゃないかな」
晴政は、長男とは対照的に、茶色く染めた長い髪に、引き締まった体つきをしており、こちらはどちらかというとサッカーチームに所属していそうな外見だ。まあ、いずれにしても、二人とも文系で華奢な晴人とは正反対であるということに変わりはない。
「でしょでしょ?母さん間違ってないわよね」
母親が、我が意を得たりといった様子で、晴政の方へ身を乗り出す。
「それにね、この式神ったらやたらと強いのよ。ほとんど素人の晴人が誓約を交わすには明らかに不釣り合いだわ。おまけに属性が『淫』だなんて…母さん嘆かわしい」
大袈裟にしなを作って両手で目元を覆う母親の「演技」を苦々しい気持ちで見つめながら、晴人は居た堪れない気持ちになった。「淫」属性の式神と誓約した代償が何であるか、プロの陰陽師として活躍する二人の兄が知らないはずはない。
——ああ、マジで死にたいわこの状況。
ますます猫背になり、深く俯く晴人に向かって、百八が横から言った。
「おい、こいつらさっきから何を言ってるんだ?俺には全く理解できないが」
「うるさい…お前は黙ってろ」
力なくそう呟く晴人に向かって、晴臣と晴政が大きな笑い声を上げた。
「マジか晴人、お前『淫』属性の式神と誓約したのか」
「いやぁ、事情が事情だとしても、こいつとなぁ」
——そう、俺はこいつと、これから未来永劫エ○チし続けなくてはいけないんです兄さん。
心の中でそう言いながら、晴人は、この状況などお構いなしに食卓の上に置かれた饅頭に手を伸ばす自分の式神を恨めしげに眺めた。
——ったく、マジで欲望の権化みたいな奴だな。
「それはそうと」
ひとしきり笑った後、晴臣が、とっ散らかってしまった空気を取りまとめるように言った。
「晴人、誓約しちまったもんはしょうがない。どちらかが命を落とすまで、式神と陰陽師の誓約は続く——それぐらいは覚えてるよな?」
「ああ…うん」
「んじゃ、お前協会の認定試験を受けろ」
「え、けど俺、正式に陰陽師として働く気なんて全く…普通に就職して、もののけなんかとは無縁な穏やかな生活を送ろうと…」
「まだそんなこと考えてんのかお前」
必死で抵抗する晴人に向かって、晴政が横槍を入れる。
「この家に生まれた時点で、お前の運命はもう決まってるようなもんだ。いつまでもカタギの人生送ろうなんて夢見てるから、こういうことになるんだよ」
——俺ん家はヤクザかよ…
晴人が再び黙り込むと、母親がすかさず追撃を繰り出してきた。
「そうよ晴人、式神と誓約した以上、あなたには協会の認定を受ける義務があるわ。本家から『野良の陰陽師』が出たなんて噂が広まったら、母さん生きていけないもの」
「そんな大袈裟な…」
肩を落とす晴人を見ながら、晴臣が腕を組んで快活に笑った。
「ま、そういうことだ晴人。ここは諦めて試験を受けるんだな。ここに親父がいなかっただけでもラッキーだったと思えよ。そうと決まれば善は急げだ。親父が出張から帰ってくる前に、正式な試験を受けて『陰陽師』として認められれば、誰も咎めやしないさ」
「父さんが帰ってくるのって今日の予定じゃなかった…?」
「そうだ。よって晴人、お前はこれから陰陽庁に向かい、試験を受け、晴れて俺たちの一員になるんだ」
「…てかそんなに簡単に認定されるもんなの陰陽師って?普通もっと半年とか通って、筆記試験とか実地試験とか受けて…」
晴政がため息をつきながら晴人に向かって言う。
「あのなあ、お前、車の免許取るんじゃないんだから」
——いや、陰陽師として認定されるより車の免許取る方が時間かかるなんて、なんか世の中間違ってる気がする。
「試験なんて上手くいきゃあその日のうちに合格できる。母さんから聞くところによると、よほど強い式神なんだろそいつ?」
「それはまあ、多分」
「じゃあ何も迷うことはない。さっと行ってさっと帰ってこい。いいか?期限は今日中だぞ?」
何の言葉も出ない晴人に対して、饅頭を平らげた百八が言った。
「晴人、よく分からんが、『腹ごしらえ』の方が先だ。さっきの戦闘で霊力をかなり使ったからな。とりあえず離れに行ってお前を抱かせろ。話はそれからだ」
その言葉に、晴人はますます体を小さくするほかなかった——
代々陰陽師の名家として界隈で暗躍してきた安倍家にとって、新たな戦力が増えたことは間違いなく慶事だ。しかし、それを隠していたことが、母親の逆鱗に触れたのだ。いや、それだけではない気もするが。
母屋の居間には、母親と晴人と百八、そしてようやく起き出してきた二人の兄、晴臣と晴政が集まり、顔を突き合わせて話し合いが行われた。
話し合い、といっても、晴人が半ば被告人のようになり、母親からの口撃を受け続けるという拷問のようなものである。
しかし、しばらく黙って「はい、はい」とひたすら頭を下げ続けていた晴人に向かって、ようやく長男の晴臣が助け舟を出した。
「まあ良いんじゃないか、結果的にお前はそこそこの力がある式神と誓約を交わしたんだろ?これまで全く修業もしてこなかった晴人にしては大きな進歩じゃないか」
晴臣は、百八にも引けを取らない大柄な体格をしており、それに見合う大らかな心を持っている。黒髪に潔い短髪。まるで、どこかのラグビーチームにでも所属していそうな出立だ。その言葉に、次男の晴政が反応する。
「だけど兄貴、今回の論点は多分そこじゃないぜ。こいつがやったことは明らかなルール違反だ。それに関しては、俺はもののけの意見に賛成だ。最近、ただでさえ協会に認定されていない未登録の陰陽師が増え過ぎてる。安倍家としては、やっぱり見過ごすことはできないんじゃないかな」
晴政は、長男とは対照的に、茶色く染めた長い髪に、引き締まった体つきをしており、こちらはどちらかというとサッカーチームに所属していそうな外見だ。まあ、いずれにしても、二人とも文系で華奢な晴人とは正反対であるということに変わりはない。
「でしょでしょ?母さん間違ってないわよね」
母親が、我が意を得たりといった様子で、晴政の方へ身を乗り出す。
「それにね、この式神ったらやたらと強いのよ。ほとんど素人の晴人が誓約を交わすには明らかに不釣り合いだわ。おまけに属性が『淫』だなんて…母さん嘆かわしい」
大袈裟にしなを作って両手で目元を覆う母親の「演技」を苦々しい気持ちで見つめながら、晴人は居た堪れない気持ちになった。「淫」属性の式神と誓約した代償が何であるか、プロの陰陽師として活躍する二人の兄が知らないはずはない。
——ああ、マジで死にたいわこの状況。
ますます猫背になり、深く俯く晴人に向かって、百八が横から言った。
「おい、こいつらさっきから何を言ってるんだ?俺には全く理解できないが」
「うるさい…お前は黙ってろ」
力なくそう呟く晴人に向かって、晴臣と晴政が大きな笑い声を上げた。
「マジか晴人、お前『淫』属性の式神と誓約したのか」
「いやぁ、事情が事情だとしても、こいつとなぁ」
——そう、俺はこいつと、これから未来永劫エ○チし続けなくてはいけないんです兄さん。
心の中でそう言いながら、晴人は、この状況などお構いなしに食卓の上に置かれた饅頭に手を伸ばす自分の式神を恨めしげに眺めた。
——ったく、マジで欲望の権化みたいな奴だな。
「それはそうと」
ひとしきり笑った後、晴臣が、とっ散らかってしまった空気を取りまとめるように言った。
「晴人、誓約しちまったもんはしょうがない。どちらかが命を落とすまで、式神と陰陽師の誓約は続く——それぐらいは覚えてるよな?」
「ああ…うん」
「んじゃ、お前協会の認定試験を受けろ」
「え、けど俺、正式に陰陽師として働く気なんて全く…普通に就職して、もののけなんかとは無縁な穏やかな生活を送ろうと…」
「まだそんなこと考えてんのかお前」
必死で抵抗する晴人に向かって、晴政が横槍を入れる。
「この家に生まれた時点で、お前の運命はもう決まってるようなもんだ。いつまでもカタギの人生送ろうなんて夢見てるから、こういうことになるんだよ」
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「そうよ晴人、式神と誓約した以上、あなたには協会の認定を受ける義務があるわ。本家から『野良の陰陽師』が出たなんて噂が広まったら、母さん生きていけないもの」
「そんな大袈裟な…」
肩を落とす晴人を見ながら、晴臣が腕を組んで快活に笑った。
「ま、そういうことだ晴人。ここは諦めて試験を受けるんだな。ここに親父がいなかっただけでもラッキーだったと思えよ。そうと決まれば善は急げだ。親父が出張から帰ってくる前に、正式な試験を受けて『陰陽師』として認められれば、誰も咎めやしないさ」
「父さんが帰ってくるのって今日の予定じゃなかった…?」
「そうだ。よって晴人、お前はこれから陰陽庁に向かい、試験を受け、晴れて俺たちの一員になるんだ」
「…てかそんなに簡単に認定されるもんなの陰陽師って?普通もっと半年とか通って、筆記試験とか実地試験とか受けて…」
晴政がため息をつきながら晴人に向かって言う。
「あのなあ、お前、車の免許取るんじゃないんだから」
——いや、陰陽師として認定されるより車の免許取る方が時間かかるなんて、なんか世の中間違ってる気がする。
「試験なんて上手くいきゃあその日のうちに合格できる。母さんから聞くところによると、よほど強い式神なんだろそいつ?」
「それはまあ、多分」
「じゃあ何も迷うことはない。さっと行ってさっと帰ってこい。いいか?期限は今日中だぞ?」
何の言葉も出ない晴人に対して、饅頭を平らげた百八が言った。
「晴人、よく分からんが、『腹ごしらえ』の方が先だ。さっきの戦闘で霊力をかなり使ったからな。とりあえず離れに行ってお前を抱かせろ。話はそれからだ」
その言葉に、晴人はますます体を小さくするほかなかった——
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