淫の陰陽師—式神と夜の契り—

よしの

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第二十六話 一時休戦

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「だーめだ、絶対今回はダメ」

 その日の夜、晴人は離れにある自室で、百八との攻防を繰り返していた。半分はだけたシャツを何とか元に戻そうとしながら、すでに着物を脱いでいる式神を睨みつける。

 確かに、先の戦闘で百八が霊力を使ったのは事実だ。しかし、それは晴人が望むところではなく、むしろ邪魔をしただけだった。こちらが止めるのも聞かず、勝手に暴走したのに、体を求められるのはどう考えても納得がいかない。

 ——これでお灸を据えられたら、こいつも少しは俺の言うことを聞くようになるんじゃないか…

 式神を制御する方法について、兄たちに指南を受けようと思ったが、何しろ百八が「淫」の属性を持っているだけに、なかなか聞きづらい部分がある。

「晴人、それはルール違反だぞ!俺はお前を守るために力を使ったんだ。だから対価を求めるのは当然の権利だ」

 百八は、なおも食い下がり、晴人を押し倒そうと力ずくで体をぶつけてくる。さらにその唇が、晴人の首筋を、鎖骨を、甘く刺激する。

「っん…ん」

 しかし、ここで快楽に屈してしまっては、永遠に彼を操ることなどできない。レイやミヤビにあれほどの力の差を見せつけられた晴人の胸には、これまで芽生えていなかった新たな感情が生まれていた。

 ——こいつを、どうにかして俺の思うがままに操りたい。

 そのためにも、ここで体を許すことは絶対に避けなければならない。
 晴人は、ともすれば快楽に流されそうになる体を必死の思いで律しながら、百八に向かって言った。

「お前は俺の言うことを聞かずに余計な真似をしただろ?それで俺がどんなに肩身の狭い思いをしたか、考えてみろよ。これはその罰だ」

「何言ってるんだ晴人、目の前にもののけがいたら、戦うのが式神の性ってもんだ。それに、お前は俺を操れるほどまだ強くない」

「う…」

 それを言われると、何とも言い返しようがない。そもそも、晴人はまだ第五位の試験をクリアして、陰陽師として認定されたばかりだ。
 幼少期から修業をサボっていたせいで、陰陽師としての技量もまだ足りていない。正直、力関係で言えば百八の方に軍配が上がる。

「で、でもっ…だとしても、これからは俺の言うことを聞いてくれないと困るんだ。何だかよく分からないけど、俺あのグループに入れさせられて…だから他のメンバーの人たちに迷惑かけるわけにはいかないだろ!もしこれからもそういう態度を取るなら、お前なんて嫌いになってやるからな」

 晴人が勢い込んでそう言うと、百八は不意に腕に込めていた力を弱め、しゅんとしたような表情で顔を俯かせた。

「晴人…俺のことが嫌いなのか?」

「ああそうだよ、俺に迷惑ばっかりかけるし、空気は読まないし、エロいし!大っ嫌いだ」

「そうか…分かった」

 百八はそう言うと、まるで盛りの過ぎたひまわりのように項垂れ、三毛猫の姿に戻っていた。

 ——あれ?案外あっさり引き下がったぞ。

 そのまま、まるで泣いているようにうずくまる百八を見ながら、晴人はわずかに憐憫の情が湧いてくるのを感じた。

 ——まあ、こいつも悪気があったわけじゃないんだし、俺もちょっと言い過ぎたかな…

「百八、そんなに拗ねるなって」

「だって俺のこと大嫌いなんだろ、晴人は」

「いや、それはつい口走っちゃっただけで…別にそこまで嫌いってわけじゃ」

「じゃあ好きなのか?」

「うーん、好きっていうかなんていうか…」

「ほらな、やっぱり嫌いなんだ」

「い、いやそんなことないよ。嫌いっていうのは撤回。だから機嫌直せって」

 そう言って、まるで本物の猫に接するように、丸くなった背中を撫でる。

 ——その瞬間…

「晴人!ありがとう、俺が悪かった!」

 百八が猫の姿のまま晴人の胸に飛び込んできた。そのままこちらに腹を向けて、前脚を揃える。

 ——何だ、こいつも可愛いとこあるじゃん。

 晴人はそう思いながら、百八を抱き抱えると、立ち上がってベッドへ向かった。今日あったことが、まるで一日の間に起きた出来事とは思えない。枕に頭をつけて横になると、どっと疲労感が体を襲った。

 ——やばい…このまま寝ちゃいそうだ。

 そう思いながら、瞼を閉じる。しかし、うとうとし始めた晴人の体の上で、不意に何かが重みを増した気がした。さらに、耳元に吹きかけられる息。

「よし、作戦成功」

 目を開けると、そこには人間の姿に戻った百八の、ニヤリと笑う不敵な笑みがあった。

 ——だ、騙された。こいつ、意外に演技派か…!

「お、おいお前」

「言っただろ晴人?式神と陰陽師が交わした誓約は絶対だ。お前には俺の求めに応じる義務がある」

 そう言いながら、百八ははだけたシャツの隙間から手を入れ、晴人の胸の双蕾を優しく刺激する。すでに慣れ親しんでしまった快感が、晴人の全身を甘く痺れさせる。

「はっ…あ…んっ」

 思わず喘ぎ声を漏らす晴人の唇を塞ぐと、百八は耳元でこう囁いた。

「大丈夫だ。今日の戦いで俺はまたレベルアップした。それに、もっと強力な力を手に入れる方法もあるんだ」

「っ…ん…強力な力?」

「ああ、お前から霊力を補給したら、その方法を教えてやろう——」

 晴人は、百八の目が、欲望にぎらつくのを感じながら、再び快楽の渦に飲み込まれていった——
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