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第二十九話 前線へ
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その言葉を聞くが早いか、自分以外の四人がサッと立ち上がった。晴人も、慌ててワンテンポ遅れで席を立つ。
ケージの中の百八が、鳴き声を上げながら暴れている。
「鴻巣さん」
ミヤビがリーダーの方を見る。
「祓う…しかないですね。状況的にいささか厄介ではありますが」
レイが、シャツの胸に手をやりながらそう答えた。その瞬間、晴人は彼の式神の姿を思い出し、「厄介」という言葉の意味に心の中で頷く。
確かに、この場で「あれ」を召喚するのは、危険かもしれない。下手をすると、他の乗客まで巻き込みかねない気がする。
——だからといって…うちのもな…
縦横無尽に車内を暴れ回りながら、矢を乱れ打ちする百八の姿を想像し、思わずゾッとする。
大きさは人間大だが、彼は周囲に一般人がいることなど構いはしないだろう。
最初の一人を皮切りに、次から次へと乗客たちが前の車両からこちらに向かって逃げてくる。「もののけ」という言葉に反応し、座っていた乗客たちも、荷物を手にさらに後方の車両へと向かい始め、通路はまさにパニック状態になった。
「おいおい、こりゃちょっとまずいんじゃないのか?もののけより先に、客を静めないと…このままじゃ人的被害が出るぜ」
響が、その様子を見つめながら言った。
「そうね、てかそもそも、この状態じゃ私たちも身動きが取れない」
一葉が、彼の言葉に頷き、レイの方へ視線をやる。
「こういう場合、自分たちが陰陽師であることを明かしても規定には反しないのよね?」
「ええ、むしろそうしないと、この場をおさめることはできなさそうですね。ひとまず彼らを安心させなければ」
レイがそう答えた瞬間——
「皆さぁぁん‼︎」
響が、まるで拡声器を通したかのような大きな声で、右往左往する乗客たちに向かって叫んだ。鼓膜が破れそうなその大声に、晴人は思わず耳を塞ぐ。
——もうちょっと音量調節してくれよ…
「我々は陰陽師です。陰陽庁の規定により、今からこの車両は我々の指揮下に置かれます。もののけは、確実に俺たちが祓います。だからどうかお静かに、道を開けてください」
しかし、大ボリュームの響の言葉により、あれほど騒々しかった車内が一気に静まり、代わりに安堵の溜め息のようなものが、徐々に聞こえてくるのを晴人は感じた。
——そっか、声がでかいってのも役に立つ時があるんだな。
「響さん、有難うございます」
レイがそう言って、通路へと向かう。
「それでは皆さん、参りましょう。私が先頭に立ちますので、ついてきてください」
「はい」
メンバーの声が揃う。晴人は、何となく自分もグループの一員になれたような気がして、ほんのわずかに胸が高鳴るのを感じた。こんなときに不謹慎だが、気分が微かに高揚してくる。
その高揚を胸に、「もう出ていいぞ」と言って、足元に置いたケージの扉を開け、三毛猫姿の百八を解放してやる。百八は、待ってましたとばかりに勢い良くジャンプし、晴人の左肩に飛び乗った。
そのままレイに続き、前方の連結デッキを目指す。
「どんな敵が出てくるか分かりません。絶対に油断しないように」
「分かってるってリーダー。あ、もし車両がぶっ壊れても、私たちに賠償責任が課されることはないのよね?」
「ええ、規定上、もののけを祓うために公的施設及びインフラを破損したとしても、陰陽師に弁償の義務は発生しません。ただし、人命を奪った場合は話は別です」
「なるほど、確かに『厄介』ね」
行列の一番後ろで、一葉とレイのやりとりを聞いていると、百八が耳元で晴人に囁いた。
「おい、今回もこの前と同じクラスの強い奴だといいな」
「は?言っただろ、この次はみんなに迷惑をかけないよう、大人しくしてろって。またああいうことしたら今度こそお仕置きだからな」
「分かってるって。ただワクワクするってことが言いたかっただけだよ」
——本当に理解してんのかこいつ…
晴人は俄かに不安になりながらも、他のメンバーに置いていかれないよう必死でついていく。
やがて、いくつかのドアを通り抜けると、前方から何か巨大な獣が暴れ回っているような物音が聞こえてきた。明らかに、この次の車両に標的がいる。
「どうやらこの先のようですね」
「ああ、妖力をビンビンに感じる。かなり強力なもののけだな」
レイの言葉に、響が応じる。
「リーダー、誰が先陣を切る?もし車内に乗客が残っていた場合、ミヤビの式神が最適だと私は思うけど」
一葉が、横から口を開く。
確かに、と晴人は思った。彼の式神の能力なら、周囲にダメージを与えることなく、敵を弱体化させることができる。まさにこの状況にうってつけの力だ。
しかし、しばらく眼鏡に手を当てて黙考した後、レイは驚くべき言葉を口にした。
「そうですね、私もその意見には賛成です。ですが——ここは一葉さんと、晴人さんにコンビを組んでもらうことにしましょう」
「え!俺ですか⁉︎」
思わず、自分でもびっくりするくらい大きな声が出る。ミヤビの視線が痛い…。
「ええ、晴人さんの式神も一葉さんの式神も、この狭い車両で戦うのに適した大きさです。晴人さんの式神で敵を撹乱しつつ、一葉さんの式神でトドメをさす。この方針で、まずはやってみたいと思います」
「了解」
一葉が、眉間に皺を寄せながら、晴人の方を振り向いた。
「じゃあ行くわよ新人君、びびって遅れを取らないようにね」
「…はい」
——こんな展開になるはずじゃなかったのに…
肩に乗った百八が、尻尾をぶんぶん降りながら「にゃあ!」と鳴き声を上げるのを聞き、苦々しい気持ちになる。
一葉は、そんな晴人には構いもせずに、レイを追い抜いて先頭に立つと、ヒュッと鋭い指笛を吹いた——
ケージの中の百八が、鳴き声を上げながら暴れている。
「鴻巣さん」
ミヤビがリーダーの方を見る。
「祓う…しかないですね。状況的にいささか厄介ではありますが」
レイが、シャツの胸に手をやりながらそう答えた。その瞬間、晴人は彼の式神の姿を思い出し、「厄介」という言葉の意味に心の中で頷く。
確かに、この場で「あれ」を召喚するのは、危険かもしれない。下手をすると、他の乗客まで巻き込みかねない気がする。
——だからといって…うちのもな…
縦横無尽に車内を暴れ回りながら、矢を乱れ打ちする百八の姿を想像し、思わずゾッとする。
大きさは人間大だが、彼は周囲に一般人がいることなど構いはしないだろう。
最初の一人を皮切りに、次から次へと乗客たちが前の車両からこちらに向かって逃げてくる。「もののけ」という言葉に反応し、座っていた乗客たちも、荷物を手にさらに後方の車両へと向かい始め、通路はまさにパニック状態になった。
「おいおい、こりゃちょっとまずいんじゃないのか?もののけより先に、客を静めないと…このままじゃ人的被害が出るぜ」
響が、その様子を見つめながら言った。
「そうね、てかそもそも、この状態じゃ私たちも身動きが取れない」
一葉が、彼の言葉に頷き、レイの方へ視線をやる。
「こういう場合、自分たちが陰陽師であることを明かしても規定には反しないのよね?」
「ええ、むしろそうしないと、この場をおさめることはできなさそうですね。ひとまず彼らを安心させなければ」
レイがそう答えた瞬間——
「皆さぁぁん‼︎」
響が、まるで拡声器を通したかのような大きな声で、右往左往する乗客たちに向かって叫んだ。鼓膜が破れそうなその大声に、晴人は思わず耳を塞ぐ。
——もうちょっと音量調節してくれよ…
「我々は陰陽師です。陰陽庁の規定により、今からこの車両は我々の指揮下に置かれます。もののけは、確実に俺たちが祓います。だからどうかお静かに、道を開けてください」
しかし、大ボリュームの響の言葉により、あれほど騒々しかった車内が一気に静まり、代わりに安堵の溜め息のようなものが、徐々に聞こえてくるのを晴人は感じた。
——そっか、声がでかいってのも役に立つ時があるんだな。
「響さん、有難うございます」
レイがそう言って、通路へと向かう。
「それでは皆さん、参りましょう。私が先頭に立ちますので、ついてきてください」
「はい」
メンバーの声が揃う。晴人は、何となく自分もグループの一員になれたような気がして、ほんのわずかに胸が高鳴るのを感じた。こんなときに不謹慎だが、気分が微かに高揚してくる。
その高揚を胸に、「もう出ていいぞ」と言って、足元に置いたケージの扉を開け、三毛猫姿の百八を解放してやる。百八は、待ってましたとばかりに勢い良くジャンプし、晴人の左肩に飛び乗った。
そのままレイに続き、前方の連結デッキを目指す。
「どんな敵が出てくるか分かりません。絶対に油断しないように」
「分かってるってリーダー。あ、もし車両がぶっ壊れても、私たちに賠償責任が課されることはないのよね?」
「ええ、規定上、もののけを祓うために公的施設及びインフラを破損したとしても、陰陽師に弁償の義務は発生しません。ただし、人命を奪った場合は話は別です」
「なるほど、確かに『厄介』ね」
行列の一番後ろで、一葉とレイのやりとりを聞いていると、百八が耳元で晴人に囁いた。
「おい、今回もこの前と同じクラスの強い奴だといいな」
「は?言っただろ、この次はみんなに迷惑をかけないよう、大人しくしてろって。またああいうことしたら今度こそお仕置きだからな」
「分かってるって。ただワクワクするってことが言いたかっただけだよ」
——本当に理解してんのかこいつ…
晴人は俄かに不安になりながらも、他のメンバーに置いていかれないよう必死でついていく。
やがて、いくつかのドアを通り抜けると、前方から何か巨大な獣が暴れ回っているような物音が聞こえてきた。明らかに、この次の車両に標的がいる。
「どうやらこの先のようですね」
「ああ、妖力をビンビンに感じる。かなり強力なもののけだな」
レイの言葉に、響が応じる。
「リーダー、誰が先陣を切る?もし車内に乗客が残っていた場合、ミヤビの式神が最適だと私は思うけど」
一葉が、横から口を開く。
確かに、と晴人は思った。彼の式神の能力なら、周囲にダメージを与えることなく、敵を弱体化させることができる。まさにこの状況にうってつけの力だ。
しかし、しばらく眼鏡に手を当てて黙考した後、レイは驚くべき言葉を口にした。
「そうですね、私もその意見には賛成です。ですが——ここは一葉さんと、晴人さんにコンビを組んでもらうことにしましょう」
「え!俺ですか⁉︎」
思わず、自分でもびっくりするくらい大きな声が出る。ミヤビの視線が痛い…。
「ええ、晴人さんの式神も一葉さんの式神も、この狭い車両で戦うのに適した大きさです。晴人さんの式神で敵を撹乱しつつ、一葉さんの式神でトドメをさす。この方針で、まずはやってみたいと思います」
「了解」
一葉が、眉間に皺を寄せながら、晴人の方を振り向いた。
「じゃあ行くわよ新人君、びびって遅れを取らないようにね」
「…はい」
——こんな展開になるはずじゃなかったのに…
肩に乗った百八が、尻尾をぶんぶん降りながら「にゃあ!」と鳴き声を上げるのを聞き、苦々しい気持ちになる。
一葉は、そんな晴人には構いもせずに、レイを追い抜いて先頭に立つと、ヒュッと鋭い指笛を吹いた——
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