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第三十六話 邂逅
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新幹線での移動は、あっという間だった。車窓の景色が変わるごとに、晴人の意識も移ろっていく。
驚き、不安、憂鬱——気がついた時には、京都駅に到着していた。
「どうぞ、お忘れ物のないようにお気をつけください——」
車内アナウンスを聴きながら、荷物と百八を入れたキャリーバッグを抱えて、ホームへと降り立つ。
後ろでドアが閉まった瞬間、何故か取り返しのつかないところまで来てしまったような気がして、晴人は思わず、複雑な気持ちで次の駅へと向かう新幹線の後ろ姿を見つめていた。
「新人君、何ぼさっとしてんの?置いてくわよ」
一葉が晴人に向かって言葉を投げる。
「あ、はい、すみません」
——なんか最近、謝ってばっかりだな…
苦笑しながら、すでに歩き始めている第4グループのメンバーの後を追う。
ホームの隙間から覗く空は、まるで晴人の心を映しているかのように灰色だ。シトシトと降り続く雨の音に混じって、ロビーで聞いたレイの言葉が蘇る。
( 京都にて、安倍晴清様と合流し、『三隠者』を討伐せよ、と——)
——まさかこんな展開になるなんて、予想もしてなかったよ、父さん。
考えてみれば、父親とはもうずいぶん会っていない気がする。出張に出たのはいつだっただろうか。
そう、本当は百八と誓約を交わした日に、彼は帰宅するはずだった。しかし、延長に延長を重ね、気づけばかれこれ一週間以上が経過している。
LINEでメッセージを送ろうかとも思ったが、何となく迷った末に、やめておいた。色々と報告することがありすぎて、何と送れば良いか分からなかったからだ。
もののけに襲われたこと、式神と誓約を交わしたこと、陰陽師の認定試験に受かったこと、そして、「同業者」として同じ指令のもとで働くことになったこと——
考えてみれば、波瀾万丈すぎる展開である。
——父さん、元気かな。てかこの人たちと一緒に会うのも何か気まずいんだけど…
前を歩く他のメンバーたちの背中を追いかけながら、晴人は心の中で小さくため息をついた。
——まあ仕方ないか、こうなったら父親に恥をかかせないよう、気をつけるのみだ。
「おい、晴人!」
キャリーバッグの中から、百八が晴人に話しかけてくる。
「ん?どうした?」
周囲に不審がられないよう、小声で返事をする。
「俺いつまでここに入ってりゃ良いんだよ、早く出してくれ」
「あー悪い、駅の外に出たら、な。もうちょっとの辛抱だよ」
「もうちょっとってどれくらいだ?」
「もうちょっとはもうちょっと。子供じゃないんだから大人しくしてくれよ」
——はあ、早くこいつをちゃんと制御できるようにならないと。父さんの顔を立てるためにも。
そう考えた瞬間、昨夜の百八とのやりとりを思い出し、何となく気恥ずかしくなる。誓約の力を深めるために、百八とあんなことをしなければならないんて。
「今俺、やる気充分だからな。いつでももののけを祓えるぞ」
「あー分かった、分かった」
そんな会話を交わしていると、先頭に立っていたレイが不意に歩みを止めるのが見えた。そのまま、どこかに向かって深々と頭を下げる。
見れば、他のメンバーたちも、皆同様にお辞儀をしている。
——え、まさか…もう?
嫌な予感がして、レイたちが頭を下げている方向を見ると——そこに確かに「彼」が立っていた。
——父さん。
長い髪を、後ろで束ねたいつものヘアスタイルに、黒い和服という人混みでは目立ち過ぎる格好。いや、それでなくとも、その強い眼差しを見ただけで、彼が只者ではないことは十二分に分かる。
何というか、ただそこにいるだけで、人目を惹きつけるオーラがあるのだ。
駅の入り口前に設けられた、吹き抜けになったスペース。その中央に立っていた彼は、大きく一度頷くと、そのまま一歩一歩、床を踏み締めるように、こちらに向かって歩いてきた。
レイをはじめとする、他のメンバーたちが、緊張しているのが分かる。
——うわ、こういう場合俺も一応頭下げといた方が良いのかな…けど、父さんは父さんだし…
晴人がそんなことを考えているうちに、彼はすでに目の前まで近づいてきていた。
レイが、頭を上げ、静かに片手を差し出す。
「初めまして、お初にお目にかかります。鴻巣レイと申します。第4グループの、リーダーを務めております。この度は、お仕事をご一緒できるとのこと、誠に光栄です」
彼——晴清は小さく頷き、レイの差し出した手を軽く握った。
「話は聞いている。何、そんなにかしこまることはないよ。それより…うちのが迷惑をかけていないか心配でならん」
そう言うと、晴清はその強い眼力を晴人の方へ向けた。
一瞬、何もかも見透かされているような気がして、目を逸らしたくなる。
「晴人、まさかこんなところでお前に会うことになるとはな」
「あ、ああ、父さん、久しぶり」
——それはこっちのセリフだって…
思わずそう言いたくなるが、レイたちがいる手前、心の中に留めておく。
「まあ、後でゆっくり話をしよう」
晴清は、晴人に向かって小さく頷くと、そのまま他のメンバーの方へ視線を移した。
「指令の内容は、把握しているな」
レイが、小さく「はい」と答える。
「『三隠者』の討伐をしろと、鶴原局長から指示を受けております。ちなみに、敵の拠点の目星は、これから…?」
「いや」
晴清は首を横に振り、まっすぐ前を向いたまま言った。
「もうついている。というか、一体はすでに我々の下にいる。この、京都駅の地下に——」
驚き、不安、憂鬱——気がついた時には、京都駅に到着していた。
「どうぞ、お忘れ物のないようにお気をつけください——」
車内アナウンスを聴きながら、荷物と百八を入れたキャリーバッグを抱えて、ホームへと降り立つ。
後ろでドアが閉まった瞬間、何故か取り返しのつかないところまで来てしまったような気がして、晴人は思わず、複雑な気持ちで次の駅へと向かう新幹線の後ろ姿を見つめていた。
「新人君、何ぼさっとしてんの?置いてくわよ」
一葉が晴人に向かって言葉を投げる。
「あ、はい、すみません」
——なんか最近、謝ってばっかりだな…
苦笑しながら、すでに歩き始めている第4グループのメンバーの後を追う。
ホームの隙間から覗く空は、まるで晴人の心を映しているかのように灰色だ。シトシトと降り続く雨の音に混じって、ロビーで聞いたレイの言葉が蘇る。
( 京都にて、安倍晴清様と合流し、『三隠者』を討伐せよ、と——)
——まさかこんな展開になるなんて、予想もしてなかったよ、父さん。
考えてみれば、父親とはもうずいぶん会っていない気がする。出張に出たのはいつだっただろうか。
そう、本当は百八と誓約を交わした日に、彼は帰宅するはずだった。しかし、延長に延長を重ね、気づけばかれこれ一週間以上が経過している。
LINEでメッセージを送ろうかとも思ったが、何となく迷った末に、やめておいた。色々と報告することがありすぎて、何と送れば良いか分からなかったからだ。
もののけに襲われたこと、式神と誓約を交わしたこと、陰陽師の認定試験に受かったこと、そして、「同業者」として同じ指令のもとで働くことになったこと——
考えてみれば、波瀾万丈すぎる展開である。
——父さん、元気かな。てかこの人たちと一緒に会うのも何か気まずいんだけど…
前を歩く他のメンバーたちの背中を追いかけながら、晴人は心の中で小さくため息をついた。
——まあ仕方ないか、こうなったら父親に恥をかかせないよう、気をつけるのみだ。
「おい、晴人!」
キャリーバッグの中から、百八が晴人に話しかけてくる。
「ん?どうした?」
周囲に不審がられないよう、小声で返事をする。
「俺いつまでここに入ってりゃ良いんだよ、早く出してくれ」
「あー悪い、駅の外に出たら、な。もうちょっとの辛抱だよ」
「もうちょっとってどれくらいだ?」
「もうちょっとはもうちょっと。子供じゃないんだから大人しくしてくれよ」
——はあ、早くこいつをちゃんと制御できるようにならないと。父さんの顔を立てるためにも。
そう考えた瞬間、昨夜の百八とのやりとりを思い出し、何となく気恥ずかしくなる。誓約の力を深めるために、百八とあんなことをしなければならないんて。
「今俺、やる気充分だからな。いつでももののけを祓えるぞ」
「あー分かった、分かった」
そんな会話を交わしていると、先頭に立っていたレイが不意に歩みを止めるのが見えた。そのまま、どこかに向かって深々と頭を下げる。
見れば、他のメンバーたちも、皆同様にお辞儀をしている。
——え、まさか…もう?
嫌な予感がして、レイたちが頭を下げている方向を見ると——そこに確かに「彼」が立っていた。
——父さん。
長い髪を、後ろで束ねたいつものヘアスタイルに、黒い和服という人混みでは目立ち過ぎる格好。いや、それでなくとも、その強い眼差しを見ただけで、彼が只者ではないことは十二分に分かる。
何というか、ただそこにいるだけで、人目を惹きつけるオーラがあるのだ。
駅の入り口前に設けられた、吹き抜けになったスペース。その中央に立っていた彼は、大きく一度頷くと、そのまま一歩一歩、床を踏み締めるように、こちらに向かって歩いてきた。
レイをはじめとする、他のメンバーたちが、緊張しているのが分かる。
——うわ、こういう場合俺も一応頭下げといた方が良いのかな…けど、父さんは父さんだし…
晴人がそんなことを考えているうちに、彼はすでに目の前まで近づいてきていた。
レイが、頭を上げ、静かに片手を差し出す。
「初めまして、お初にお目にかかります。鴻巣レイと申します。第4グループの、リーダーを務めております。この度は、お仕事をご一緒できるとのこと、誠に光栄です」
彼——晴清は小さく頷き、レイの差し出した手を軽く握った。
「話は聞いている。何、そんなにかしこまることはないよ。それより…うちのが迷惑をかけていないか心配でならん」
そう言うと、晴清はその強い眼力を晴人の方へ向けた。
一瞬、何もかも見透かされているような気がして、目を逸らしたくなる。
「晴人、まさかこんなところでお前に会うことになるとはな」
「あ、ああ、父さん、久しぶり」
——それはこっちのセリフだって…
思わずそう言いたくなるが、レイたちがいる手前、心の中に留めておく。
「まあ、後でゆっくり話をしよう」
晴清は、晴人に向かって小さく頷くと、そのまま他のメンバーの方へ視線を移した。
「指令の内容は、把握しているな」
レイが、小さく「はい」と答える。
「『三隠者』の討伐をしろと、鶴原局長から指示を受けております。ちなみに、敵の拠点の目星は、これから…?」
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