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第三十七話 地下への潜入
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どこまでも続くような長い階段を降りると、そこには、漆黒の闇が広がっていた。
梅雨時であるとはいえ、それだけでは説明できないようなねっとりとした湿った空気を感じ、晴人は思わず首元を拭う。その一方で、足元から冷気が漂ってくるのは、ここが地下だからか、それとももののけの根城になっているからか。
「どうも有難う。ここまでで結構。あとは我々にお任せくだい」
晴清がそう言って、鉄道会社の職員に頭を下げる。
すると、ここまで案内をしてくれた職員の男性は、それに応えて深々とお辞儀をした後、逃げるようにその場を立ち去った。
無理もない。晴人だって、この暗闇の中のどこかに、得体の知れない邪悪なものが潜んでいると思うだけで、すでに足がすくみそうになっている。
——あー、マジで今すぐ俺もあの人に続いて帰りたい…
晴人たち一行がいるのは、京都駅の地下に設けられたシェルターのような場所だった。シェルターといっても、実態は小さな照明が点々と灯されているだけの、コンクリで舗装された広大なトンネルだ。しかも、全体が入り組んだ迷路のようになっており、何とも言えない「ダンジョン感」を醸し出している。
どの角を曲がっても、不意にもののけが襲ってきそうな雰囲気だ。
「さて、どこからどうやって攻めるか——」
——まさかのノープランすか…
冷静な表情で顎に手をやる自分の父親を見ながら、晴人は思わず心の中で突っ込む。
「この面積です。やはり何組かに分かれて行動するのが適切では?」
レイが、普段よりもわずかに緊張した面持ちでそう口を開いた。
「うむ」
晴清がその言葉に頷く。
「そうだな、ちょうどこの場には六人いる。二手に分けるとしたら三人ずつ、もしくはペアになって三組という手もあるが——どうするか」
すると、やはり緊張した表情のミヤビがそっと声を発した。
「失礼ながら…敵の力量や能力に対する情報が不足している中で、バラバラになるのはあまり得策とは言えないのではないかと考えますが…」
「私もそう思います」
一葉がそれに続く。
「六人いるとはいえ、陰陽師としての力にも個人差があります。今行動を別にするのは、かなり危険を伴う気がします」
陰陽師としての力の差——その言葉に、晴人は心の中で大きく頷いた。
——俺はまだ、「一人」にカウントされて良いレベルじゃない…ちょっと悔しいけど、それが現実…
「なるほど」
晴清は彼らの言葉にも頷いてみせると、よりによって晴人の方へ視線を向けてきた。
「おい、晴人、お前はどう思う?」
——父さん、ここで俺に振るとかなしでしょ…俺に発言権なんてないって…
そう思いながらも、仕方なく弱々しい笑みを浮かべつつ、小さな声で返事をする。
「…俺も二人の意見に賛成かな。こういう時は固まって動いた方が良い気がする」
闇に吸い込まれてしまいそうな晴人の言葉を受け、晴清はじっと考えるようにしばらく目を伏せた後、全員を見渡して言った。
「よし、じゃあとりあえず、途中までは固まって行動するとしよう。ある程度敵の『匂い』が把握できたら、そこからは状況に応じ、何グループかに分かれて対象を挟み撃ちにする。反対意見は?」
響が挙手をした。
「すみません、反対ではないですが、提案です。いざという時の為に、互いにカバーし合うペアを先に決めておいてはどうでしょうか?万が一、もののけが不意に現れた場合に備えて——」
「ふむ」
晴清がその言葉に頷く。
「そうだな、はは、普段単独行動に慣れているせいか、こうした時の対策の立て方がよく分からん。じゃあ鴻巣君、グループ分けは君に任せよう」
「承知いたしました」
レイがその言葉を受け、静かに返事をした。
「それでは、僭越ながら——」
そう言って、ぐるりとメンバーたちに視線をやる。
「私とミヤビ、桜さんと片岡さん、そして晴人さんと晴清様を、『いざという時の』ペアにしておくのはいかがでしょうか?」
「賛成です」
「異議なし」
「了解」
ミヤビ、一葉、響、それぞれが頷く。晴人も、少し慌てて彼らに続き声を発した。
「も、問題ありません」
——とりあえず父さんとペアなら安心かもな…絶対守ってくれんだろ…スキル的にも一番バランスが取れてる気がする。
そう思いながら、恐る恐る晴清の方へ視線をやると、静かに首を縦に振る父親の姿が見えた。
「承知した。では、ひとまず敵の『匂い』が感知できる程度まで、そのペアで固まりながら、奥へ進むとしよう。先頭は鴻巣君と一ノ瀬君、続いて桜君と片岡君、しんがりは私と晴人、で問題ないかな?」
その言葉に、全員が頷く。
「よし、じゃあ鴻巣君、リードを頼む」
「承知いたしました」
レイの声を合図に、晴人たち一行は狭いトンネルの中を歩き出した。
当然ながら、誰も言葉を発する者はいない。肩に乗った百八も、珍しく口を閉じたまま大人しくしている。
——こいつも、この空気に気圧されてるのかな?
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、不意に隣を行く晴清が、そっと晴人との距離を詰め、懐に手を入れて、小さな短冊のようなものを取り出した。
無言で、それを晴人の目の前にかざす。
わずかな照明に照らされ、そこに書いてある文字がぼんやりと浮かび上がる。それを目にした瞬間、晴人の体に衝撃が走った——
※お読みいただいている皆様へ
恐縮ですが、作者都合により、次週から毎週火曜・木曜の更新になります。
梅雨時であるとはいえ、それだけでは説明できないようなねっとりとした湿った空気を感じ、晴人は思わず首元を拭う。その一方で、足元から冷気が漂ってくるのは、ここが地下だからか、それとももののけの根城になっているからか。
「どうも有難う。ここまでで結構。あとは我々にお任せくだい」
晴清がそう言って、鉄道会社の職員に頭を下げる。
すると、ここまで案内をしてくれた職員の男性は、それに応えて深々とお辞儀をした後、逃げるようにその場を立ち去った。
無理もない。晴人だって、この暗闇の中のどこかに、得体の知れない邪悪なものが潜んでいると思うだけで、すでに足がすくみそうになっている。
——あー、マジで今すぐ俺もあの人に続いて帰りたい…
晴人たち一行がいるのは、京都駅の地下に設けられたシェルターのような場所だった。シェルターといっても、実態は小さな照明が点々と灯されているだけの、コンクリで舗装された広大なトンネルだ。しかも、全体が入り組んだ迷路のようになっており、何とも言えない「ダンジョン感」を醸し出している。
どの角を曲がっても、不意にもののけが襲ってきそうな雰囲気だ。
「さて、どこからどうやって攻めるか——」
——まさかのノープランすか…
冷静な表情で顎に手をやる自分の父親を見ながら、晴人は思わず心の中で突っ込む。
「この面積です。やはり何組かに分かれて行動するのが適切では?」
レイが、普段よりもわずかに緊張した面持ちでそう口を開いた。
「うむ」
晴清がその言葉に頷く。
「そうだな、ちょうどこの場には六人いる。二手に分けるとしたら三人ずつ、もしくはペアになって三組という手もあるが——どうするか」
すると、やはり緊張した表情のミヤビがそっと声を発した。
「失礼ながら…敵の力量や能力に対する情報が不足している中で、バラバラになるのはあまり得策とは言えないのではないかと考えますが…」
「私もそう思います」
一葉がそれに続く。
「六人いるとはいえ、陰陽師としての力にも個人差があります。今行動を別にするのは、かなり危険を伴う気がします」
陰陽師としての力の差——その言葉に、晴人は心の中で大きく頷いた。
——俺はまだ、「一人」にカウントされて良いレベルじゃない…ちょっと悔しいけど、それが現実…
「なるほど」
晴清は彼らの言葉にも頷いてみせると、よりによって晴人の方へ視線を向けてきた。
「おい、晴人、お前はどう思う?」
——父さん、ここで俺に振るとかなしでしょ…俺に発言権なんてないって…
そう思いながらも、仕方なく弱々しい笑みを浮かべつつ、小さな声で返事をする。
「…俺も二人の意見に賛成かな。こういう時は固まって動いた方が良い気がする」
闇に吸い込まれてしまいそうな晴人の言葉を受け、晴清はじっと考えるようにしばらく目を伏せた後、全員を見渡して言った。
「よし、じゃあとりあえず、途中までは固まって行動するとしよう。ある程度敵の『匂い』が把握できたら、そこからは状況に応じ、何グループかに分かれて対象を挟み撃ちにする。反対意見は?」
響が挙手をした。
「すみません、反対ではないですが、提案です。いざという時の為に、互いにカバーし合うペアを先に決めておいてはどうでしょうか?万が一、もののけが不意に現れた場合に備えて——」
「ふむ」
晴清がその言葉に頷く。
「そうだな、はは、普段単独行動に慣れているせいか、こうした時の対策の立て方がよく分からん。じゃあ鴻巣君、グループ分けは君に任せよう」
「承知いたしました」
レイがその言葉を受け、静かに返事をした。
「それでは、僭越ながら——」
そう言って、ぐるりとメンバーたちに視線をやる。
「私とミヤビ、桜さんと片岡さん、そして晴人さんと晴清様を、『いざという時の』ペアにしておくのはいかがでしょうか?」
「賛成です」
「異議なし」
「了解」
ミヤビ、一葉、響、それぞれが頷く。晴人も、少し慌てて彼らに続き声を発した。
「も、問題ありません」
——とりあえず父さんとペアなら安心かもな…絶対守ってくれんだろ…スキル的にも一番バランスが取れてる気がする。
そう思いながら、恐る恐る晴清の方へ視線をやると、静かに首を縦に振る父親の姿が見えた。
「承知した。では、ひとまず敵の『匂い』が感知できる程度まで、そのペアで固まりながら、奥へ進むとしよう。先頭は鴻巣君と一ノ瀬君、続いて桜君と片岡君、しんがりは私と晴人、で問題ないかな?」
その言葉に、全員が頷く。
「よし、じゃあ鴻巣君、リードを頼む」
「承知いたしました」
レイの声を合図に、晴人たち一行は狭いトンネルの中を歩き出した。
当然ながら、誰も言葉を発する者はいない。肩に乗った百八も、珍しく口を閉じたまま大人しくしている。
——こいつも、この空気に気圧されてるのかな?
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、不意に隣を行く晴清が、そっと晴人との距離を詰め、懐に手を入れて、小さな短冊のようなものを取り出した。
無言で、それを晴人の目の前にかざす。
わずかな照明に照らされ、そこに書いてある文字がぼんやりと浮かび上がる。それを目にした瞬間、晴人の体に衝撃が走った——
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恐縮ですが、作者都合により、次週から毎週火曜・木曜の更新になります。
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