ファーストコンタクト狂騒曲

九束

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地球は保護国になりました

吸血鬼アイドルと雑にキャトられる日本人

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「田中―?午後の出入星申請審査はもう終わったー?」

「あーもう少しっす、しかし出入星業務増えてきましたねぇ」

時刻は夕暮れ。ボスの確認に返答をしながら午後分の審査を続ける。

そしてディスプレイに映る大量の出入星申請書類を見ながら田中はげんなりした気分になっていた。


観察官事務所の設置直後は少数の政府関係者だけだった出入星も、最近民間人向けの出入星を本国が認めたことによりエルフ部族連合はもとより、さまざまな人種が入星してきている。

ちなみに、「入国」ではない理由は、銀河連邦の法令上は保護国は一般的に自然保護区のような扱いで、保護国への立ち入りには当該宗主国の許可がいるものの、同一国内の移動扱いだかららしい。


当然、その立ち入りに関する権限は観察官事務所の仕事となる。

「今はまだ週に数十人程度だけど、たぶんこれから半年以内に数十倍になるわよ」

「うげぇ…審査業務分離して増員しません?」

「私も一日中審査業務とかだとほかの仕事に影響が出るから、ちゃんと増員の予算は取ってあるわ」

ボスの言葉に少し安心する。

今のペースで増えられると、ちょっとほかの業務に支障が出てくる。

短期滞在者はともかくとして、長期滞在予定者の審査は結構面倒なのだ。

今は9割方は数日から数週間の短期滞在者が主だが、中には1か月以上の長期滞在者もちらほら出てきている。

「そういえば、ここ数日の申請、かなりヴァンパイア族の比率が増えてますね。何かあったんですか?」

ヴァンパイア族が構成するブラム公国はエルフ部族連合の友好国ではあるものの、確かバルカンあたりの国の宗主国になっていたはず。

なんで態々日本の方に来ているんだ?



「長期滞在でアイドルやってるヴァンパイアの影響じゃない?」

そう言ってボスがニュース動画を見せてくる。

そこには『吸血鬼アイドルの食事のための献血にファンが殺到』という内容のニュースが流れていた。

「あーウラドちゃん…でしたっけ?」

10代くらいの見た目のヴァンパイア少女(推定)の写真を見ながら思い出す。

あ、そうだ思い出した。この子のことは覚えている。

「入星直後にハロウィンの渋谷スクランブル交差点でゲリラライブやって大問題起こした子ですよね」

「それが起爆剤になって一気にファンが付いたみたいよ、ほら」

ボスがそのヴァンパイア少女の公式チャンネルとみられるページを俺に見せてくる。

えーと、何々…

「おぉぅ、登録者数300万人ですか、この短期間で凄いですね」

あの子が入星してまだ数か月もたってないぞ?

「元々ヴァンパイア族はヒューマノイドに対して好意的に接させるようなフェロモンを出す性質があるから、ハロウィンのあれで固定ファンがついて、そのあとは本人の才能でここまで伸びたんじゃないかしら?」

「そういう種族もいるんですねー…」

エルフの長命特性といい、ヴァンパイアの子の魅了?特性といい、まれに良くファンタジー要素ぶっこんで来るよなぁ宇宙人。

そんなことを考えながら、今後は日本国内からの出星申請書類に目を通す。

「…んん!?」

「どうしたの田中」

「あ、いや。まだ中を見てないんですが…ちょっと数が多いなと」

民間人の出星申請なんて月に1件あればいい方だぞ?
今日は…48件!?

いやいやおかしい。宇宙人の入星と違って地球人の出星はまだ制度が整ってないから基本例外以外ないはずだ。

現状の仮運用では宇宙人側の身元保証人がないと基本的には申請すらできない制度になってる。

ちょっと中身を見るか…。

うん、いるね。身元保証人。

「ちょっと見せてもらえる?」

後ろからボスも申請データをのぞき込む。

「申請書類は整っていて…身元引受人は全員ヴァンパイア族になってますね。渡航の目的は…結婚???年齢は様々だけど、性別は全員男性…」

「………………」

「ボス?」

後ろを向くと、ボスが頭を抱えていた。

これは何か厄介ごとの気配がする。

「あ、じゃあそろそろ定時なんで俺は上がりますね」

「田中、残業よ」

うへぇ。




☆彡




都内の埋め立て地に設けられた宇宙人用港湾区画。

その一角を歩きながらボスに問いかける。

「今回はどんなトラブルなんです?」

「密輸とキャとられかしらねー…」

割とやべぇワードが出てきたぞ。

「まぁ多分見ればわかるんじゃないかしら?あ、あれがあの女の船ね」

ボスが目線を向ける先には自動搬入ロボットで冷凍コンテナを宇宙船に運び込んでいる小柄な少女。


うん、ウラドちゃんだね。


あ、こっちに気づいた。




…逃げた! 黒か?

うーわすげえ、ジャンプでコンテナの上に飛んで行ったぞ。




「ボス、どうしま…って早!!」

横を見ると、ボスがウラドちゃんを追いかけてすごい勢いで走っていく。

靴からなんか緑の光出てるし。なにあれ?



いきなりサイバーパンクファンタジーな雰囲気が乱入してきて呆然とする田中。

そんな田中をよそに、ヴァンパイアの少女とエルフさんは港湾のコンテナで元気に追いかけっこ。




「おーこりゃすげぇ…アメコミの格闘シーンかな?」

そんなことを思ってるとクレーンの上からウラドちゃんをボスが突き落とした。

そのまま片手をひねり上げて拘束するボス。

「私悪いことしてないわよ!!」

「それを判断するのは、観察官の私よ」







俺たち3人は、ウラドちゃんが所有者と思われる船の前に戻ってきた。

「これは貴女の船ね?」

「そうよ」

「この時間凍結コンテナの中身は?」

「私がファンから集めた献血」

「履歴によると、この船は最近地球と地球圏貨物ターミナルを行ったり来たりしてるわね。なんで?」

「……」

「今日ね、日本人がいきなり数十人も出星申請したの。身元引受人は貴方達ヴァンパイア族。そういえばその身元引受人も今日出星みたいね?」

「あのバカども…なんでそんなまとめて出星殺到してんのよバレバレじゃない…」

淡々と問い詰めるボス。小さく悪態をつくウラドちゃん。




聴取の結果。今回の舞台裏はこういうことらしい。

好奇心旺盛な美少女ヴァンパイアのウラドちゃんはまだ見ぬ旦那様兼専属食糧庫を探して日本に襲来。

日本を選んだ理由は入星を一番早く解禁したからだそう。

その場のノリでハロウィンライブ。ファンがついちゃった。

でも私の旦那様にしたい人はいないなぁ。

あれあれ?なんか人気出ちゃった。まあ、ちやほやされるのは気持ちがいいし良いか。

え? あ、本国の貴族の方々? はい! いつもお世話になっています!

お前の動画を見たぞ? えぇへへ恐縮っす。

日本人の血はおいしそうだな送れ? ハイヨロコンデー!

ヴァンパイア族は上下関係に厳しいの。貴族には頭が上がらない。

交友関係を持てるならただで数回ファンから集めた血液を渡すぐらいはなんてことはない。



……

………

ん? あ、また貴族様方から連絡?

血はおいし…え? あの血液の中に運命の人がいた? 今すぐこっちに来る?

来訪時のガイド報酬は弾むから引き合わせも頼む?

仲間にも紹介するからどんどん血を集めて送ってこい?  報酬は弾むって?

うーん、どうしよっかなぁ。確かにちょっと今配給権すごく欲しいことは欲しいんだけど…。

配偶者目的のヴァンパイアに血を売るのって違法っすよね?

報酬はこれ?





……ハイヨロコンデー!




私のファンのきみー? 

はーいウラドちゃんだよー。ウラドぉーちょっとあなたと直接会いたいなって❤

はーい貴族様こちらがあなたの運命の人兼私のファンでーす。

あー貴族様困ります急に魅了をかけちゃダメです事前に話してた通り地球人はマナ使う能力無いから簡単にかかっちゃいます。

あらー貴方完全にその貴族様に惚れちゃってるわねー。

ファンがへってかなしいなーつぎいってみよー。








悲報、日本人男性 ヴァンパイアに魅了されてキャトられ始めていた。




「この血液は没収ね」

ウラドちゃんの自白を一通り聞いたボスは心底どうでもよさそうに判決を下す。

「後生よ観察官様!!今更急に売血止めたら私が本国の貴族様方に殺されるわ!!!」

ボスに縋りつくウラドちゃん。

「ほ、ほら!銀河連邦構成国同士だと違法だけどここは地球!日本の法令が適用されるから無償で送る血液は合法!私もツアーガイドとしてしか報酬を受け取ってないから無罪!!」

んなもん通るかい!!

「あー、まー、そう言われてみればそうね」

「そうなんすかボス」「でしょでしょ!」

「まぁ正直そっちはどうでもいいのよ」

「いいのかよ」「え、いいの?」

俺とウラドちゃんの声がはもる。

「そんなことよりね?私が聞きたいのはこっち…あなた、売血の利益で希少薬剤を買い集めてるでしょ。この成分は…オーク向けの媚薬じゃない?どういうこと?私としてはそっちの確認が本命なのよ…」

さっきの心底どうでもよいといった表情から真剣な目線でウラドちゃんに聞くボス。

それに対してウラドちゃんは少し言いよどんだうえでボスの耳元でこそこそ話し始めた。

「それは……が私のプロデューサで……が……の秘書官で」

ウラドちゃんの説明を聞いたボスは、そっちだったかーと安心した表情になっていく。

「まぁ、それならいいわ。ただし、売血の件も含めて私に情報は逐一共有すること。書類は出さないでね。出すと不許可にしかできないから」

「やったー日本の観察官様ってば話が分かるー!」

「あの、俺にも説明してくれない?」

こういう問題では慎重派のボスが大丈夫というんだから心配はないんだろうが、それでも気になるもの気になる。

「あー…ちょっとこれは私の方で預からせてくれないかしら?」

「…えー。ここまで付き合わせてそりゃないっすよボス」

「大丈夫、私の予測だとあと数か月もあれば田中も知ることになるし、割と私たち宇宙人側のプライベート寄りだから心配ないわ」

「……まぁボスがそういうなら」

なんとなく腑に落ちないが、今の所はいったん引き下がっておこう。


「あとあの、魅了された日本人男性の方…」

「そっちはそのままでいいんじゃない?」

軽く流すボス。

いやいやあの、自由意志とか…。

「私たちヴァンパイア族は愛が重い性格だから大丈夫よ。始まりは魅了だけど、そこから愛が芽生えればそれでいいじゃない。地球で言うところのお見合いみたいなもんよお見合い」

そうか?

「ねっ?」

にこっと俺に対してウインクをしてくるウラドちゃん。

「そうかな…そうかも」

そんな気がしてきた。

あ、そういえば今日は妻が俺の好物のラザニア作ってくれてるんだった。

もうめんどくせぇや。かーえろ。
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