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《第6章》狂乱の獣たち

第5話:三匹と一人

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第5話:三匹と一人

翌日、国中の人間が知ることになった一連の事件は、ニール第一王子から王位継承権が弟のクリス第二王子に譲渡されるという形で決着がついた。国内に混乱を招き入れた罪でコカック・ジェイン大臣は大臣の座を降ろされ、爵位も剥奪されたと聞く。
ただ、どちらもリズにとっては些末なこと。国の歴史がどう歩みを変えようと、フォンフェンの森に君臨する王たちと歩む未来は変わらない。


「イ、ッいく・・ぁアアぁ・・んッ~~っく」


獣亜人と同等の力を授ける代わりに、人間としての尊厳を破壊するエデンという薬は、もちろんシュゼンハイド王国で禁止とされ、今後その劇薬に頼る者に相応の罰がくだされることが決まった。そして、人間にも獣亜人にもなれなくなった可哀想な兵士たちは、たった一晩で逆さ三日月を浮かべた戦士たちに一人残らず刈り取られた。


「そこ、ッ・・~~ヤッ、アッぁあ」


雨の水たまりは朝に色を変え、赤い大地へと染まった王国では明朝、各地で群青兎=ブルーラビットの姿が目撃されたという。
人間から人間を守り、人間では守れなかった屍を積み上げ、国を動乱から救った獣たちはアルビノ種とされる白兎の遠吠えにひざをついて頭を下げると、そろってフォンフェンの森へ帰っていったらしい。


「ねぇ、リズ様。乳首噛んでもいい?」

「リズ、ルオラに噛ませたらどうなるかわかってるよな?」


シュゼンハイド王国に住む人間たちのほとんどが、彼らを神秘の生物と崇める気持ちがわからなくもない。朝焼けに染まる群青の毛並みは美しい外見を連れて、波打つ空の海となり心の目に焼き付いた。「美しい」と形容する言葉はこのためにあるのかと思えるほど、朝の光景はそこから数日たった今でも興奮気味に語り継がれている。


「ヤァ・・だめっルオラ、やだ・・ァッ」


それは第三者の話だと、リズは全身を硬直させてルオラの牙に耐える。何度目の夜かわからなくなるほど、すっかり溶けた身体を酷使して、リズは夫たちに褒美を与えていた。


「~~~ぁ、イクッぁっ・・や、ぁ」

「リズ様、何度いえば理解されるのですか。この場合は『もっと』と鳴くのだと教えて差し上げたでしょう?」

「ヒッぅ・・イッてぅ~~ぁ・・アァッ」


ルオラの白い耳の向こう側。開脚させられた足の間には、その美しい獣の一人が鎮座していた。蜜を吸った木の杭は内蔵された宝石を擦り合わせるだけじゃ飽き足らず、シシオラの手で遊ばれている。抜いては差して、刺してはえぐる。速度も加減も気分しだいで色々変わる。


「ずっとこうして欲しかったのでしょう。離れていたあいだも微弱に震わせて、誘っていらしたではありませんか」

「違っ・・ぁッ、やっイッてる・・の・・動かさな・・~~ァア」

「リズ、シシオラとばっか遊んでないで、俺とも遊ぼうぜ?」

「ヤッぁ~~~ぁっ、あぅッ・・ぃ、あ」

「リズ様、そんなに腰を浮かせて。可愛らしい」


シシオラに差し込まれた木の玩具が奥壁を削って潮を吹かせる。それでも尻穴に埋め込まれた人外の異物は、それこそゼオラの好み通りに運動をし、リズの快楽を誘っていた。


「イヤァ・・~~っ、止めてッあ止まってぇ」

「止まるかよ」


仰向けのままベッドに横たわるゼオラに突き上げられて、リズは見開いた瞳で天井を見つめる。お尻の穴に挿入するゼオラに体を預け、木の玩具で犯すシシオラからは逃げられず、心臓にかぶりつくルオラの舌に成すすべはない。揺れ動く視界の端には、この宴を楽しむ男がみせる黄金色の輝き。


「イクッぁ~っ、アッ・・ぁ・・いくぅッぅぁぁ」


噴き出してしまうのを止められない。シシオラの手を汚し、玩具を濡らし、シーツに水溜まりを作る体液が弧を描いて彼らの視界に躍り出る。
下腹部に埋まったゼオラの放出が収まったあと、静かに抜けていくのを痙攣しながら見送っていたリズは、次いでシシオラが入ってくるのを見守っていた。


「熱いほど蕩けていますね」

「ッ・・んっ・・アッ」

「リズ様、次は僕といっぱい遊ぼうね」

「~~~~~、ぁッ」


刺さる人物と玩具の主導権が移行しただけで、リズに訪れる悲劇は変わらない。どの組み合わせになっても尻穴は愛し尽くされ、膣は暴虐に蜜を撒き散らすだけ。


「リズ様、ここも噛んでいい?」

「やだやだヤッ~~ぁ・・ヒッ・・ァッめ」

「なにー?」


聞こえないと笑う吐息が充血した実を口に含んでいる。その瞬間、暴れるリズの身体は獣の腕で簡単に押さえ込まれた。


「ほら、そういう音出すだろ」


くすくすと笑うゼオラの声が、跳ねるリズの花芯に牙を立てたルオラの白い耳を見ながら告げる。


「大丈夫だ、リズ。とれてねぇし、絶頂を味わっとけ」


痛みと直結した快楽の恐怖を訴えるリズの絶叫をなだめるように、ゼオラは額にキスを落とす。逃げ出そうともがく本能を押さえ込まれ、なお、与えられる奇行を受け止めるほうが困難だというのに、彼らはそれを喜んで推進してくるのだから叫ぶ以外の方法が見つからない。


「リズ様、いっつも取れたって錯覚しちゃうよね。それなのにイッちゃうんだ」

「ルオラの甘噛みなんかで取れるわけないでしょう」


後頭部と足の間から聞こえてくる笑い声に痙攣がやまない。


「爪先まで力はいっちゃって、可愛い」


伸びた足の付け根を広げられ、貪られる果肉の硬さが自分でもわかる。


「ちゃんとついてるって、わかるでしょ?」


ほらっと、ザラついた舌に弾かれた身体が揺れ惑う。逃げたくても逃がしてくれない人たち中心で、リズは小さな鳴き声を繰り返していた。


「こんなに勃起するならヒルワームに喰わせるのもありかも」

「~~~ァッ・・っひッん・・ぁ」

「コイベリーの赤い実以上に色付いた果肉が大好物な虫だから。リズ様の実もきっと気に入るだろうな」

「・・・ヤッ・・ぁっ~~~ィッ、あ」

「それはまた今度にして、今夜は僕が本当にとれるまで食べてあげる」

「ひぃ・・ア・・ァッ」


敏感に腫れた神経の芽に感じなくて済むならそれがいい。イク。その二文字以外を教えてくれるなら、あげたい悲鳴はいくらでもあるのに、絡み付く兎の毛はどこまでも優しくて温かい。


「リズ様の心臓、はち切れそう?」

「こっちの実も摘み取れそうだな、ん?」

「潰してしまいそうですよ。人間の肌は柔らかく、脆いですから」

「ッ・・ぁ、あ」

「リズ、おーい。全身が楽器みたいだな」


リズの乳首を指の腹で撫でまわしながらゼオラが笑っている。その様子に苦笑した真下のシシオラが困ったようにリズの腰を押さえつけた。


「リズ様、気絶していないで。動きますよ?」

「~~~~~っく・・ァ、ししぉ・・ら~~ィッあぁッるぉ・・ら」


シシオラに背を預けて弓なりにしなる身体は、顔を埋めて果肉を味わうルオラの白い耳を見つめる前に群青の耳に固定される。腸壁にシシオラの白濁を注がれ、ルオラに吸われる淫核の下で打たれた杭の宝石が擦れるのを感じながらゼオラに落とされたキスの隙間、リズは叫びきれない快楽を放っていた。


「ぉッぁ・・だ、ァッ、ヤッ」


シシオラが抜けて、ルオラが入ってくる。相変わらず膣には玩具が刺さったまま。一緒に抜けそうになったのは、もちろん。ゼオラが指で押さえている。


「リズ。ルオラに噛まれたらどうなるか覚えてるか?」


脱力した神経がルオラを迎え入れたあと、今までと同じように背を預けて仰向けになった身体の端からゼオラが覗き込んでくる。指で押さえられたままの玩具のうえ。ルオラの噛み痕が残る場所は、まだ敏感な神経が硬く尖って赤い実を差し出していた。


「その声じゃ、覚えてるみたいだな」


自分じゃない声が『もう終わり』だと鳴いている。群青兎語は独特の発音で習得が難しいが、『いや』『だめ』が通じないのなら他に何と鳴けばいいのだろう。


「リズ様、そう怖がらないで。ゼオラが薬を塗ってくれますよ」


先ほどまで真下で尻穴をえぐっていたシシオラが、満足そうな笑みで覗き込んでくる。
『もっと』その鳴き声が正解だと、唇に寄せられた囁きに、リズはキスを拒否して首を横に振った。


「無駄な抵抗が好きですね」

「~~ッぁ、アァ・・んっぁ」


結局はシシオラに口内をこじ開けられて、ゼオラが指にした薬の冷たさに鳴き声が漏れる。


「よかったね。リズ様」


口内を堪能した後、乳首に埋まるシシオラの群青を見つめながら、リズは律動を始めたルオラを恨んだ。見えない視界の奥でゼオラの指で塗り込まれる神経の蕾が、泣けるほど情緒を壊してくる。


「~~~ッ、ぁ・・うっァッあ・・ぁヒッ・・~~ゃアッぁ」


終わらない愛撫と刺激と施術に、どこへ向かえばいいのかわからない感情が助けを求める。


「ッく、ぃくッ・・ィ・・~~~ァッ」


もう何度目になるかわからない絶頂を三匹の温もりの中で迎えていた。自分では止められない。誰にも止めてもらえない。交互に役割を変えて、趣向を変えて迫ってくる獣たちの瞳に崩れた顔のメスが映っている。
だらしなく愛蜜を撒き散らし、奇声と嬌声を漏らしているだけの女。それを「可愛い」と口を揃えて愛でてくるのだから狂っていると思わざるをえない。人間嫌いの彼らの愛は、ことごとく片寄っている。
どうして自分を。
思わない日がなかったといえば嘘になる。それでも、きっとそれは些細なこと。あの手足の先まで凍てついた八歳の夜。闇に浮かぶ逆さ三日月と出会った事実は消しようもない。


「~~~~ぉ・・ァッあ・・ぅ、アッ」


白く熱い液体がルオラと一緒に尻穴から抜けていく。緩んだ筋肉がぱっくりと口を開けて、注がれた精液を垂らしていた。


「リズ様、こちらへ」


シシオラに抱き起こされて、額に張り付いた髪を爪ですくって耳にかけられる。そのまま抱きつきたかったが、なぜか再度ベッドに戻されたリズは背中を支えるよう仕組まれた枕に疑問符を浮かべた。


「リズ様ってば、脳みそまで溶けてバカになっちゃった?」

「・・ンッ~~ぁ、っ・・んっ」

「美味しい。ねぇ、もっと舌出して」

「んッ、ン・・ぁ」


開脚させられた足に群青と純白の尻尾が絡み付く。その柔らかな感触にさえ肌が震える淫乱な自分をリズはどこか他人事のように見つめていた。


「リヒド」


ゼオラがかけた声に重たい腰をあげたのは、傍観を決め込んでいたもう一人の影。


「リズ様、今夜の主役が来ましたよ」


シシオラに頭を撫でられて視線を誘導される。その瞬間、状況に危機を察したリズの身体は反射的に押さえられ、無抵抗に光景を眺める他に許されなかった。


「~~~~ッ、あ」


眼帯を外したリヒドが木の杭を抜こうとしている。


「リヒドってば、リズ様が僕たちに抱かれてるの見るの大好きだよね」

「変態ってことだろ」

「ひどい言われようだ」


だけど事実だと、リヒドはリズに刺さった杭を勢いよく抜いた。
全員がそろって唇を歪めるのも無理はない。


「玩具ひとつ抜くだけでイクほど犯されて、汚されて、それでも穢れないリズが愛しいよ」


声を噛み締めて絶頂を味わうリズには聞こえない話。それでいい。監獄に似た檻の外に出ることは二度とない。息の出来ない苦しさを、言葉に出来ない愚かさを、隠しもせずに欲しがっているのはリズも同じ。


「よかったですね、リズ様。大好きなリヒド様が正式にリズ様の番として群れに参加するのですよ」


内臓を押し上げ、息苦しさを連れて埋まってくる最後の存在をリズは受け入れる。
何を口にしたのかは覚えてない。どこまで意識があったかのか。荒く繰り返される吐息に溺れた身体は、沸き立つ甘いミルクの紅茶に沈んでいくみたいだった。

・・・・《第6章》狂乱の獣たち Fin.
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