【R18】愛欲の施設-Love Shelter-

皐月うしこ

文字の大きさ
30 / 43

第17話 見慣れた街角 (後編)

しおりを挟む
輝の腕の中で唇をふさがれる。
誰もいないのか、薄暗い店内の中を見渡しながらついてきていたはずの竜の姿は見えない。


「ァッ!?」


舌を絡ませながら遠慮なく下着に手を突っ込んできた輝に反応した優羽は、反射的に足を閉じようと抵抗するが、輝にまたがるように向い合わせで座った状態でそれは不可能に近かった。


「アッ…輝…っ…ヤメッ」


下着に差し込まれた手と、腰に回ってきた腕に逃げられない。


「抵抗されてると余計にいじめたくなるって、わかっててやってんのか?」


くすりと下着に差し込まれていた輝の指が数本、教え込むように優羽を突き上げる。
その強烈な刺激に、優羽は輝の肩に爪を食い込ませるようにしがみついた。


「そうそう、イイ子だな。」


ぐちゅぐちゅと堪能するように指を動かす輝の耳に、優羽の吐息がかかる。
腰に回していた手を優羽の後頭部に回して、泣き叫ぶ子供をあやすように輝は優羽の快楽を撫で付けていた。


「やっイッ…あっ…イクッいアァァ」


指を締め上げて腰を前後に振る優羽の仕草に、輝の嬉しそうな笑みがこぼれ落ちる。


「今度の新作も、優羽のおかげで良いもんになったぜ。」

「~ッ…ん…やッぁアァア」

「ただのリモコンじゃなくて、ラジコン型だからな。気持ちいいだろ?」


二本の指で優羽の中に埋め込まれたものを掴んだ輝は、そのまま優羽の内壁を擦りあげるように強く押し立てた。
すると、涙目を浮かべたまま優羽の中は激しい伸縮をくりかえして痙攣する。


「イヤァァァアぁあッ」


しがみつくのがやっとだと、優羽は輝の肩にその快楽の感想を刻み込んで逝く。
暴れて落ちそうになる体は、膣に差し込まれた指に支えられて輝の上に固定されていた。


「だから、んな顔で見ても俺を煽るだけだって言ってんだろ?」


クスクスと笑う輝の上で、優羽ははぁはぁと唇を噛んで快楽が漏れないように首を横にふる。
店は休業中なのか来客や店員の目を気にせずにはいられるが、壁一枚むこうの外の喧騒にはバレないようにと、それはもう必死だった。


「聞いてんのか?」

「ッ?!」


どうして輝は自分の体でもないのに、こんなに溶けそうになるほど気持ちイイ場所を知っているのだろうか。
輝の指と一緒に、朝から身体の一部と化していた機械を締め上げながら優羽は思う。
そして、それと同時に敗北を受け入れた身体が、何かのスイッチを押した。


「きもち…ィ…ィ───」


すがりつくように、優羽は輝の耳に訴える。


「───あっお願っ…輝のホシイ」


一瞬、輝が驚いた表情をみせた。

その顔が意外で、優羽はくすりと笑みをこぼす。
もう、こんなもどかしさはいらない。
欲しいのは狂えるほどの快感と絶頂だけ。けれど、相手の方が一枚上手だったことに優羽はすぐに困惑の息をこぼした。


「お前、俺のこと嫌いじゃなかった?」

「意地悪言わな…~ッで」


不適な笑みの下に驚きを隠した輝の愛撫がピタリと止む。
優羽は恥じらいも忘れて、求めるように輝の顔を覗きこんで腰をねだるように動かした。


「ちげぇだろ。人にものを頼むときは、どうするか教えてやったはずだぜ?」

「ッ…あ」


服の上から全身を撫でるように手を滑らせる輝の動きに、優羽は小さく口を開いて哀願する。
カチャカチャと器用に優羽を膝の上に乗せたまま、ズボンをおろす輝の行為にゴクリと優羽のノドが鳴った。


「いらねぇの?」


見上げてくる意地悪な眼に逆らえたことは一度もない。


「アッ…欲しい~ッです」


遠慮がちに小さくうなずいた優羽のほほを輝の両手が包み込む。
おねだりの方法は、配下にくだる意思を見せて初めて受領されるもの。


「ん…くださ…ィ…輝さまの…を優羽に…くださッ───」


屈辱に顔をしかめながらねだる優羽の唇を奪いながら、輝は自身の腰をその乙女の花弁に差し込んでいった。


「───ッ?!」


懇願の瞳で輝と口づけを交わしていた優羽は、グイッと引き寄せられた腰に享楽の悲鳴を飲み込む。
いつもと違う感触に、戸惑いと混乱が輝の上で暴れていた。


「お前って、ほんとに最高だな。」


小型のローターを最奥に押し込むように侵入してきた輝が、優羽を抱き寄せながら耳元でささやく。


「優羽、愛してる。」


軽いキスに続いて激しく襲ってくる律動に、優羽は声を押し殺すことも出来ずに輝の名前を叫んだ。子宮の入り口で無機質にうごめく卵型の機械と、なめらかに出し入れされる人間の温かな圧力。
ぶつかり合うように反響し、吐きそうな快楽が込み上げてくる。


「ン…いァアッ…やっく」


感じたことのない奥の奥までの刺激と恭悦。
振動は女の本能を凌辱して、輝の動きに合わせて優羽の身体を揺らしていた。


「気持ちイッ…てッ輝、アッ」


お互い上半身に服をまとったまま、下半身だけが淫らに繋がりを見せる。
ぐちゃぐちゃと淫湿な匂いと生温かな息づかいだけがそこにあり、世界は快楽の波の中で輝だけを求めている。


「~ッ輝……っ…く」


助けを求めるように抱きついた腕を許してくれる存在がいることが幸せで、胸が暖かくなる。感じるままの全てを包み込んでくれる大きな世界が、体の奥底に沸いている感情を飲み込んでいくようで歯止めがきかない。
溺れていくほど怖くて、とてもとても気持ちよかった。


「家じゃねぇのに、んな大声だしてっと誰か飛んでくんぞ?」


輝の言葉に一気に現実に戻された意識が、優羽の理性を呼び戻す。
ビクリと体が硬直し、焦ったように意識を混濁させて抵抗を見せはじめた。


「アッ…いや…輝っぬっ抜いてっ」


それに気付いた輝がクスリと笑う。


「あっ、言ってるそばから──」

「ッ?!」

「───なんてな。」


驚愕の表情で悲鳴を飲み込んだ優羽は、それが単なる冗談だと理解するなり涙を浮かべた目で輝をにらんだ。


「期待したんじゃねぇの?」

「しなッ、ヤァッ?!」

「じゃあ、なんでこんなに締め付けてんだよ?」


グッと深く近寄ってきた輝の腕の中で、優羽はにらんでいた瞳を左右にふる。


「優羽ちゃんは、エロイからしょうがねぇよなぁ?」

「チ…がッ」


もう、荷物のように全身が持ち上がっていた。
愛蜜の匂いが高級店の香りとあわさり、外の喧騒が消えるほど淫湿な音だけが耳に響いてくる。


「違わねぇよ。今も昔も、優羽はエロくて、バカで、いい女だからな。」

「なにッ…あッ…それ…声で──」


不可解な輝の言葉に問い返す暇もなく、優羽は重力に抵抗をみせる身体をのけぞらせた。


「──ヒッあ…ッっく…輝…て…る」


甘く高く響く裏声。
自分のものじゃないような本能に染まるメスの鳴き声。


「バカ。んな声出すんじゃねぇよ。」

「あぁッ!?」

「優羽が悪りぃ。絶対、止めてやらねぇからな。」


そこから先は外のことなんて一切気にしてなんかいられなかった。
弓なりにしなる快楽の波はしばらくの間続き、遊びから本気になった輝の行為に意識が何度か途切れかけていた。


「ほんま、ええ加減にせぇや。」


竜のドスの低い声が聞こえる。


「今日はデートするて、言うてるやろ?」


怒ったような、もどかしいような、あきらかな嫉妬が見てとれるが、輝は気にせず抱き締めた優羽の身体を見せつけるように竜の方へと向かせた。


「ア…ヤッぁ~ッ見な…で」


ドロッと白濁の液を吐き出す恥部を開かれた優羽は、赤面して顔を隠すが所詮無駄な努力。何分たったかわからない時間の中で、ようやく身体が解放される頃には着替えたばかりの服もすっかり朽ち果てていた。


「て…る…~ッキライ」

「わかったから、じっとしてろって。」


竜の視線が気になって仕方がない。
ヒクヒクと力が抜けた身体は、乙女の入口からイヤらしい匂いを放って未だに男を誘い続けている。
見られたくない。
そう思っても、輝に開脚させられた足の前には何故かしゃがみこんできた竜の顔があった。


「こんなに汚されてしもて可哀想に。」

「ヒッ…アァッ?!」


抵抗するまもなく、優羽の下肢に竜の指が差し込まれる。


「こんなん埋められたまんま突っ込まれたん?」

「ヤッぁあっ」

「誰かさんがいちいち感じるから抜けるもんも抜けねぇんだよ。」

「しゃーないから俺がとったるわ。」


行為は終わったはずなのに、"試作品"を回収するためにひざまずいた竜の指が優羽の中を滅茶苦茶にかけずりまわる。
奥に入りすぎてるから取れないと、言い訳のように耳元で繰り返す輝に、持ちこたえた意識もふらついていた。


「アッあっヤメッ竜ちゃ早くッっ」


わざととしか思えないほど時間がかかっている気がした。
すっきりした輝とは対照的に、やまない羞恥のせいで真っ赤な優羽の秘部からは、ドロドロとした愛液が滴(シタタ)り落ちていく。


「お豆さんもカチカチやんか。」

「ッ?!」


一瞬、意識が確実に飛んだ。
指を突っ込んだまま、固く主張する秘芽に竜が吸い付いたのが原因だが、舌先と唇に吸い上げられてしごかれる余韻に頭の中まで溶けそうになる。


「あっぶね。」


跳び跳ねてのけぞった優羽の頭突きをくらいそうになった輝が、クスクスと笑いながら耳に噛みつく。


「何、お前。まだ足りねぇの?」

「ヒッィ…ァッ───」


そんな声で囁かないでほしい。
ビクビクと止まらない腰が前後に暴れ、竜の顔に押し付けるように愛液が飛沫していく。


「ったく、よだれたれてんぞ。」


竜の愛撫と試作品を存分に堪能する優羽の口内に、輝は指を突っ込みながら笑った。痙攣が止まらない。
輝の腕の中で竜の口に犯されて果てる世界は、際限なく続く怪奇のようにどこまでも白く溶けていくようだった。


「───ッア…気持…ち~っイィ」


何も考えられないほどの快楽。
終わることのない愛撫。
甘い痺れと優しく低い声に犯され、暴れる身体を慰めるように撫でられてイク。


「ごちそうさん。」


唇を舐めるように顔をあげた竜の手の中には、奇怪な卵が無事に産み落とされていた。そしてそれを合図に、栓を切ったようにドクドクと溢れだした液体が、優羽の服をさらに汚す。


「すっげぇ溢れてんな。そんなによかったか?」


脱力した身体を預ける優羽のうつろな瞳を覗き込んだ輝が嬉しそうに笑っている。
それを見た竜も困ったように微笑んだ。


「輝はもうええやろ。優羽もらうで。」

「っ~~アッあぁ」


まるで物を渡すように竜に移動させられた身体は、卵を産んだばかりの秘部に太くて長い男の棒を挿入されていく。


「イヤァァあ~もっ無理ぁあ」

「アカンよ。輝に見せつけられて、そのままおれるわけないやろ?」

「りゅ…っヒァ~ッく」


じっくりと時間をかけるように沈んでいく身体は、重力に逆らうように込み上げてくる内臓の圧迫感から逃れようとしていた。
逃げられるわけはない。
わかっているのに、腰をつかむ竜から放れようと本能がその先を否定する。


「俺は優羽がイキまくんのが見れて最高だったけどな。」

「ッア?!」


ポンポンと頭を撫でてくれる輝の手に見下ろされる先で、ついに根本まで差し込まれた腰に優羽の体が弓なりにしなった。


「大丈夫か?」


笑いを押さえきれていない輝の瞳に、悶絶する自分の顔が歪んで見える。


「大丈夫やったら困るんやけどなぁ。」


挑戦的に答える竜の瞳の中でも、卑猥に型どられた女の顔が写っていた。


「ッ?!」


ポンっと軽く前後に動いた瞬間から残念ながら記憶はない。
覚えているのは、からかうように余裕の顔で微笑む男達の間で、泣き叫んで助けを求めていたことだけ。
あーあーと、言葉にならない屈辱の単語を吐き続けながら、愛蜜の爪痕をそこら中に振り撒き、しがみついて噛み締める快楽に何度も上り詰めた。

───────────………

ここが家ではないことに気づいたのは、輝と竜の腕の中から解放され、ソファーに寝かされた体が再び起こされた時だった。うとうとと、まどろみ始めた視界の先で輝が携帯を取り出すのが見える。


「あー。もう店、出てっから。」


誰に対応しているのかはわからないが、普段とは違う単調な輝の声に意識がようやく追い付いてきた。


「やっと起きたか。」


くしゃくしゃと頭を撫でてくれる手が心地いい。
その時、がチャッとドアが開く音がして何かを抱えた竜が入ってきた。


「輝、優羽の服これでええか?」


どこかに行っていたのだろう。
その手に抱えられた女物の衣装と装飾品に優羽はきしむ体をたたき起こす。


「優羽、起きていけるんか?」

「ッ?!」


申し訳なさそうな笑顔に、顔が一瞬にして赤くなったのがわかった。
穴があったら入りたい。
恥ずかしさで消えてしまえるほど、思い返した行為は、状況や場所がまったく眼中になかったことを教えている。耳をすませば、外の喧騒はすぐそこから聞こえていた。


「なんや今ごろ恥ずかしがって、優羽はほんまに可愛いなぁ。」

「んっ」


隣に腰をおろしながら、顔を覗きこんできた竜に唇が奪われる。
ボーッと、どこかうまく働かない頭をそのままにしながら、優羽はされるがまま竜に体を預けていた。


「一晩でなつきすぎだろ。」


少し怒ったような輝の声が聞こえる。


「ええやんか、なぁ?」


嬉しそうな竜の声も聞こえる。

その声のやり取りは、昔から何度も聞いてきたのではないかと疑えるくらいに安心して落ち着く。
昨日会ったばかりの竜が、もっと前から家族の一員だったのではないかと錯覚してしまうほど、あまりに自然に溶け込みすぎていた。


「輝は店あるから、優羽は今から俺とデートするんやもんなぁ。」

「んっ」


たしかに、そんな約束をしていた。
それが今朝だったのかと、信じられないくらい一日が長く感じるが、竜がそう言うのならそうなのだろう。


「ったく、あんま無茶させんなよ?」

「輝に言われたないわ。」


心配そうな顔で優羽と竜の顔を見比べてた輝に、竜の避難の声が上がるのも無理はない。


「そもそもの一連の流れは輝のせいやろ?!」


竜の言葉にもっともだとうなずきながら、優羽は泥だらけの服を輝に脱がされ、代わりに真新しいワンピースを着せられた。
いつも幸彦が好んで送ってくるものとは違う、少しカジュアルな都会の服。


「おぉ。さすが輝が作っただけあって、よー似合うやん。」


服に袖を通して顔を出した優羽は、竜の声に思い出したように首をかしげる。輝が作ったワンピース。
電話で答えていた出勤報告。
都会にある店。
総合的に判断して、実態は謎だが、輝がこの店に関係があるのは間違いない。


「輝の店?」


日本語を覚えたばかりの外国人のように片言で言葉を吐き出した優羽に、輝と竜が顔を見合わせる。


「言うてへんの?」


素朴な疑問を尋ねるように竜が輝に投げ掛けると、輝はそう言えばと首をひねるようにしてうなずいた。


「言ってねぇな。」


手際よく着させられた服は採寸して作られたようにピッタリで、見映えの仕上がりに入った輝の手は流暢に服の端を引っ張っている。
それに呆れたタメ息を吐きながら、今度は竜が乱れた髪を整えてくれるのか、先ほど服と一緒に持ってきたらしい髪留めを使って可愛くまとめてくれた。

慣れた手つきに思わずうなりそうになったが、視界の端に写った鏡の中の自分にその感情はどこかへいってしまった。


「可愛い!」

「非売品のレディースは優羽専用だからな。」


いま、輝の言葉がちゃんと聞き取れなかったかもしれない。


「非売品?」


不可解な顔で輝と竜の顔を交互に見比べながら、優羽は二人に解答を求める。


「ここ、輝の店やねん。」

「えぇッ!?」


最後にブーツを掃かせてくれた竜を蹴りあげんばかりの勢いで優羽は立ち上がった。
いや、実際蹴ってしまっていたが、今はそれどころじゃない。


「えっ、ここ輝の店なの?」


てっきり、どこぞの高級ブランド店だと思っていたのに、まさか大人のオモチャ屋だとは思わなかった。
絶句しながら立ち尽くす優羽の目は、不審そうに輝を見つめる。


「商品運搬ご苦労さん。まっ、これは商品じゃねぇけどな。」


真っ赤な顔で輝を見つめたまま、優羽は一歩後退した。
そのやりとりに業を煮やしたのか、竜が立ち上がりながら優羽越しに輝を見下ろす。


「なに言うてんねん。もろ服屋やん。」

「正確には服飾"雑貨"だけどな。」


どうやら冗談ではないらしい。
二人の会話を聞くうちに信憑性がわいてきた優羽は、自分が着ている服を見下ろしながら納得したようにうなずいた。


「知らなかった。」


脱帽したように口をあける優羽を輝の頭がそっと撫でる。


「たんなる趣味だ。」

「趣味?!」


理解不能。
胸中では、お金持ちの道楽的思考についていけない自分が叫ぶ。
竜もそう思ったのだろう、輝の手の中に帰還した卵をアゴで指しながら助け船を出してくれた。


「ほなら、そっちはなんやねん。」

「仕事に決まってんだろ。」


即答。
これが血は繋がっていないとはいえ、戸籍上は兄なのだから信じられない。


「優羽もやりたい事あったら、言えよ?」

「えっ?」

「なんでも叶えてやるからな。」


本当になんでもやりそうな気がしてくるから怖い。
ドキドキと変に心拍が上がってくるが、しびれを切らせた竜に腕をひかれて、優羽はその場を後にすることにした。


「また、あとでな。」


裏口から見送ってくれた輝を残して、優羽は竜と手を繋いで歩く。


「なんや、どないしたん?」


無言でうつむく優羽に足並みをそろえながら竜が尋ねてくる。
少し沈黙したあとで、優羽は口をひらいた。


「本当に私が魅壷の令嬢でいいのかな?」


さっきから感じていた疑問を素直に口にだしてみた。なんだか不釣り合いな気がして、ざわざわと心が落ち着かない。


「当たり前やん。」


がしがしと大きな手で竜が頭を撫でまわしてくる。


「優羽は大事な存在や。優羽がおるから、俺らがおるわけやし。」

「えっ?」

「いや、ともかく。優羽が何処か別の場所で、俺らの事なんかキレイさっぱり忘れて暮らしていきたい!言うんやったら話はちゃうけどな。」


彼らの事を全部忘れて一人で生きる。それが出来ないことくらい自分が一番よく知ってる。
離れるなんてイヤだ。
必要としてくれている以上に必要としているし、もう彼らなしでは生きられない。心も身体も全部、世界は彼らだけで染まっている。


「それにやな───」


どけられた手につられて、優羽は竜へと視線をあげる。
紅葉に色ずく街路樹の中を歩きながら見上げた竜の顔が、夕焼けで明るく照らされていて、思わずキレイだと立ち止まりそうになった。


「───自信ない思うんやったら、どないしたら自信持てるようになるんか色々してみたらええんちゃうか?」

「えっ?」

「一人ちゃうやん。可愛い優羽のためやったら、なんでもしたるて輝も言うとったやろ?」


もちろん俺もなと、再び手を繋いで歩きだす竜につられて優羽も足をむける。
その心は、さっきまでの不安定さを無くしたように穏やかだった。


「そっか。そうだね。」


うん。と、ひとり納得する。
たしかに竜の言う通りだ。
自信がなければ努力すればいいだけのこと。


「竜ちゃん、ありがとう。」


満面の笑みで優羽は竜の手を引く。歩き出した茜色の空の下で、枯れ葉がキシリと音を立てた。

──────To be continue.
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...