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第2章:巡る記憶の回想
第3話:噛み合わない会話
いくら薄暗い雰囲気が漂う山奥に建っている洋館といえ、朝は朝としてやってくる。
木々が吐き出す濃密な酸素は窓を曇らせ、視界を白い靄に包んでいるが、それは日常。何の変哲もないお決まりの朝と同じ。ただ、いつもとひとつ違う事と言えば、洋館の中で昨日までは見られなかった一組の男女が寝室を共にしているということだけ。
「おはようございます」
一瞬、記憶が切断されたような錯覚に朝を疑う。
悪夢すら見ない暗闇から目を開けてすぐに、美麗な顔で覗き込まれているとは誰も思わないだろう。
「驚いた顔も可愛いですね」
声にならない叫び声と共に目覚めた乃亜は、隣で寝転ぶ萌樹から距離をとるように体をずらす。けれど、それが何の役に立つのか。結局、一ミリも離れない距離を保ったまま、乃亜は萌樹と同じ布団で朝を迎えていた。
「喉。は、大丈夫そうですね」
「え?」
そう言いながら首筋にかかった髪を流されて思い出す。
「っ」
パシっと乾いた音は、乃亜が萌樹の手をはらった音。萌樹の言うとおり、喉は無事に機能している。それでも呼吸に違和感を覚えているのも否定できない。
「そんなに警戒しなくてもアレは挨拶のようなものです」
赤い瞳の中で乃亜の顔は言葉を探して口を閉ざしていた。
初めて感じた肌の痛み。体感したことのない感覚が這い上がり、残された牙の痕が指先に触れたせいか、何かを言い返そうとした声が喉につっかえたように出てこない。それでも萌樹を見つめる乃亜の瞳は、戸惑いと疑心と恐怖を混ぜた色で訴えていた。
「ですから、そういう顔はいけません」
「なっ」
なぜそこで照れたような、嬉しそうな顔をするのか。理解できない嗜好に混乱が追加される。整った顔に赤みが差し、潤んだ瞳で見つめられる破壊力をわかっていてそうしているのか、この場合は興奮から来る自然現象だとはいえ、萌樹に関してはそうも言い切れないから恐ろしい。
「朝から誘っているんですか?」
「何を言、っ…きゃぁ」
じっと観察するように見つめること数秒。
元から近かった距離は萌樹の腕の中に納まったことで、さらに密度を増す。
「えっ、ちょ…まっ、待って…服、服は」
「脱がせました」
「脱がせ…っ…え、え?」
顔にばかり向いていた意識が、二人の格好の違いに認識の渦を巻く。
薄いシャツに自分を保護した萌樹と全裸の乃亜。気のせいでなければ、先ほどから体の曲線をなぞるように、肌の上を萌樹の手が滑っていくのを感じる。首、鎖骨、肩、二の腕、脇腹、腰、太もも。順当に撫で落ちていく手の感覚に、萌樹を見つめていた乃亜のまぶたがピクリと揺れた。
「ふふ、可愛いですね。昨夜のお詫びに、と言ってはなんですが」
「っ…んっ…ちょ、萌樹…ッ」
右手で肌を堪能したまま、空いた左手が伸びてきた頬は萌樹の唇を受け入れる。
愛撫同様、キスにも順番があるらしい。頬、こめかみ、まぶたに軽く触れた唇は、瞳を閉じた乃亜の唇に舌と指をねじ込みながら深く口付けを落としてくる。
「ふぁ…ァ…っ~~ンッ」
口内を蹂躙される刺激に逃げそうになる顔は、口の中に差し込まれた指のせいで遠くへ行けない。
おまけに、いつの間に上を陣取ったのか、足の間に体を滑り込ませた萌樹の重力に乃亜の裸体は完全に退路を塞がれていた。
「食事は全員揃うまで無しだと釘を刺されましたので、噛んだりしません」
「ァッ…はぁ…ッく…ぁ」
左手の人差し指と中指の二本を乃亜の口に差し込んだまま、耳に移動した萌樹の声が甘く囁いてくる。
くすくすと耳から鎖骨にかけて鼻で匂いを嗅ぐように息を吸った萌樹に、いやでも昨晩の牙の感覚がよみがえってくるのを止められない。いつ、ぶつりと音を立てて肌に食い込むかわからない痛み。想像するだけで自然と体に力がこもる。
「噛みませんよ」
「~~っ…ぅ…ぁ…んっ」
「その代わりに」
体を覆っていた温もりが剥ぎ取られて、下着もつけていない乙女の花弁が萌樹の下で浮き彫りになる。
硬直していた身体がその動きについていけるわけでもなく、結果として、乃亜は萌樹にその恥部をさらすようにしてベッドの上で震えていた。
木々が吐き出す濃密な酸素は窓を曇らせ、視界を白い靄に包んでいるが、それは日常。何の変哲もないお決まりの朝と同じ。ただ、いつもとひとつ違う事と言えば、洋館の中で昨日までは見られなかった一組の男女が寝室を共にしているということだけ。
「おはようございます」
一瞬、記憶が切断されたような錯覚に朝を疑う。
悪夢すら見ない暗闇から目を開けてすぐに、美麗な顔で覗き込まれているとは誰も思わないだろう。
「驚いた顔も可愛いですね」
声にならない叫び声と共に目覚めた乃亜は、隣で寝転ぶ萌樹から距離をとるように体をずらす。けれど、それが何の役に立つのか。結局、一ミリも離れない距離を保ったまま、乃亜は萌樹と同じ布団で朝を迎えていた。
「喉。は、大丈夫そうですね」
「え?」
そう言いながら首筋にかかった髪を流されて思い出す。
「っ」
パシっと乾いた音は、乃亜が萌樹の手をはらった音。萌樹の言うとおり、喉は無事に機能している。それでも呼吸に違和感を覚えているのも否定できない。
「そんなに警戒しなくてもアレは挨拶のようなものです」
赤い瞳の中で乃亜の顔は言葉を探して口を閉ざしていた。
初めて感じた肌の痛み。体感したことのない感覚が這い上がり、残された牙の痕が指先に触れたせいか、何かを言い返そうとした声が喉につっかえたように出てこない。それでも萌樹を見つめる乃亜の瞳は、戸惑いと疑心と恐怖を混ぜた色で訴えていた。
「ですから、そういう顔はいけません」
「なっ」
なぜそこで照れたような、嬉しそうな顔をするのか。理解できない嗜好に混乱が追加される。整った顔に赤みが差し、潤んだ瞳で見つめられる破壊力をわかっていてそうしているのか、この場合は興奮から来る自然現象だとはいえ、萌樹に関してはそうも言い切れないから恐ろしい。
「朝から誘っているんですか?」
「何を言、っ…きゃぁ」
じっと観察するように見つめること数秒。
元から近かった距離は萌樹の腕の中に納まったことで、さらに密度を増す。
「えっ、ちょ…まっ、待って…服、服は」
「脱がせました」
「脱がせ…っ…え、え?」
顔にばかり向いていた意識が、二人の格好の違いに認識の渦を巻く。
薄いシャツに自分を保護した萌樹と全裸の乃亜。気のせいでなければ、先ほどから体の曲線をなぞるように、肌の上を萌樹の手が滑っていくのを感じる。首、鎖骨、肩、二の腕、脇腹、腰、太もも。順当に撫で落ちていく手の感覚に、萌樹を見つめていた乃亜のまぶたがピクリと揺れた。
「ふふ、可愛いですね。昨夜のお詫びに、と言ってはなんですが」
「っ…んっ…ちょ、萌樹…ッ」
右手で肌を堪能したまま、空いた左手が伸びてきた頬は萌樹の唇を受け入れる。
愛撫同様、キスにも順番があるらしい。頬、こめかみ、まぶたに軽く触れた唇は、瞳を閉じた乃亜の唇に舌と指をねじ込みながら深く口付けを落としてくる。
「ふぁ…ァ…っ~~ンッ」
口内を蹂躙される刺激に逃げそうになる顔は、口の中に差し込まれた指のせいで遠くへ行けない。
おまけに、いつの間に上を陣取ったのか、足の間に体を滑り込ませた萌樹の重力に乃亜の裸体は完全に退路を塞がれていた。
「食事は全員揃うまで無しだと釘を刺されましたので、噛んだりしません」
「ァッ…はぁ…ッく…ぁ」
左手の人差し指と中指の二本を乃亜の口に差し込んだまま、耳に移動した萌樹の声が甘く囁いてくる。
くすくすと耳から鎖骨にかけて鼻で匂いを嗅ぐように息を吸った萌樹に、いやでも昨晩の牙の感覚がよみがえってくるのを止められない。いつ、ぶつりと音を立てて肌に食い込むかわからない痛み。想像するだけで自然と体に力がこもる。
「噛みませんよ」
「~~っ…ぅ…ぁ…んっ」
「その代わりに」
体を覆っていた温もりが剥ぎ取られて、下着もつけていない乙女の花弁が萌樹の下で浮き彫りになる。
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