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第1章:異形頭の六賢人
05:砂が落ちる刻
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朝の記憶がランタンとサックで終わったなら、昼の記憶はシュガーとリンネルで終わったといえる。
「…………はぁ」
オフィリアは、わかりやすく不機嫌な息を吐いて頬を膨らませた。
暖炉の火が木の灰を積もらせて、その上に炭が複数転がっている。
部屋は温かい。ソファーの上でふわふわの毛布に包まれているから寒くはない。
それでも、火が消えてしまう前に追加の薪を暖炉に放り込むべきだろう。
「………腰が……痛い」
リンネルはどこへいったのか。
無人の室内に苛立ちが募る。
「指いっぽん、動かしたくない」
どうせ誰も聞いていないのだから、文句や愚痴を呟きたくなる。それでも悲しいかな。修道院で培われた自己犠牲の精神が染み付いた身体は、もそもそとソファーを降りて、暖炉にくべる薪を探していた。
「オフィリア、起きたか」
「……サブリエ?」
すぐ近くにいるようで、遠くから聞こえてきた声にオフィリアは首をかしげる。
見える範囲に人影はない。
時刻は夕方をすっ飛ばして夜になりかけている。窓から差し込む最後の光が細くなって消えていくから間違いない。
「サブリエ、どこ?」
「階段を上った先だ。そこにおる」
そうして顔をあげた場所に合点がいった。
室内の半分ほどを占める中二階部分。本棚や低いテーブルや椅子が置いてある書斎、または、読書室というべきかもしれない。
彼らは「賢人」というだけあって、色々な書物を好んで保管している。
「サブリエ、ここにいるの?」
オフィリアは薪をくべるのをあきらめて、階段をのぼることにした。毛布をマントのように巻き付けているのは、リンネルが全裸で放置していったせい。
「オフィリア、こっちだ。ゆっくりでいい」
壁に設けられた窪みの椅子に座る影が本を閉じて手招く。片ひざを立てて座っている影のかたちは、サブリエで間違いないだろう。
「なんだ、リンネルも連れてきたのか」
「………え?」
「今からの時間、オフィリアはわしと過ごす」
伸びてきた手に捕まって、オフィリアはサブリエの腕のなかに招かれた。その際、まとっていた毛布が落ちたのは仕方がない。
その毛布が消えて、代わりにリンネルが立っていたのはどういうわけか。
それは、深く考えてはいけない。というより、考えられない。
オフィリアにとっては、突然全裸にされたことのほうが衝撃的な事実。
「……ッ、ぅ」
サブリエの腕の中で隠れるように小さくなる。サブリエの身体は大きいから、すっぽり包まれてしまえば、きっと問題はない。
「ほれ。オフィリアもわしの腕のなかを望んでおる」
都合よく解釈したサブリエが、腕を回して、身体を隠してくれた。
ほっと息を吐いて、ようやくオフィリアはリンネルが立っているだろう場所を振り返る。
「…………あれ、リンネルは?」
「拗ねてどこかへ行ったわ」
「拗ねる?」
「オフィリアを包むのは自分の役目だと思っているからな」
くすくすと笑うサブリエの腕が少しゆるむ。オフィリアはサブリエの顔を見上げてみたが、思いのほか、じっと見下ろされたことに顔を赤く染めた。
「……っ、くしゅん」
「リンネルが去ったのを理由にされても困る。わしの服を羽織っておれ」
上着を一枚脱いだサブリエを見つめていたら、その服で包まれたのは自然の流れ。大きな服は一枚で肩から膝ほどまで隠してくれるのだからありがたい。
「ありがとう、サブリエ」
オフィリアは袖に手を通しながらサブリエに礼を言った。サブリエは特に返事もせず、読んでいた本を置いて自分の膝の上に招いてくる。
「何の本を読んでいたの?」
背中にサブリエの熱が当たる。
大きな座椅子だと思えば特に支障はない。座り心地も案外悪くない。
視界には本の海と棚が並び、背後から回ってきたサブリエの腕が見える。
「ただの暇つぶしだ」
ぶるりと神経が震えた気がした。
頭上、もしくは耳の近くで、低くて甘いサブリエの声は心臓に響く。
「気になるのか?」
手渡されたのは、リンゴと花の紋章が刻印された古い書物。一枚布を羽織った裸婦。聖女アヴァルの挿し絵が入った本。テンバス協会が承認した「聖女アヴァルを信仰するための本」だということが一目でわかる。
「わざわざ読まなくても知ってるよ?」
十歳で両親の元を離れて、修道院で過ごした。
毎日祈りと家事、雑用を繰り返す日々だったが、聖女アヴァルに感謝を捧げて生きてきたのだから、教本として染み付いている。
「瘴気が噴き出し、デファイが生まれた。楽園はデファイのものとなり、人間は果ての地へと旅立った。楽園を追われた人間は聖女アヴァルの導きにより、十国を築き、いまの平和を保っている」
要約すればそんなものだと、オフィリアは表紙を撫でながら暗唱した。
「クレドコンパスは死者の森であり、決して安易に立ち入るべからず。生還する者は、聖女アヴァルへ忠誠を誓ったテンバス騎士団の庇護のもとで歩む。さもなくば、クレドコンパスに潜むデファイの腹へ招かれるだろう」
「人間とは面白い空想を書き記すのが好きだな」
「空想?」
「テンバス騎士団とは、黄金の甲冑に黒のローブをまとった連中だろう。あやつらと共にいたところで、わしらの領域から生還できる保障はない」
サブリエの右手が表紙を撫でるオフィリアの手に重なる。ついでに体重を左側へ移したサブリエの顔が、オフィリアの左肩にアゴを乗せた。
「クレドコンパスで生き残るには、魔女に許されなくてはならない」
「………え、私が許すの?」
囁く声から逃れるように、オフィリアは左肩をすくめて、サブリエを振り返る。
端整な顔立ちに浅黒い肌、黒い髪が映える。仄暗い瞳は底が知れないが、それを差し引いても、胸が高鳴る雰囲気をしている。
「さよう」
重なった右手がピクリと跳ねた。
結局、逃げ場などあるはずもなく、オフィリアはサブリエに唇を奪われていた。
「………っ、ん」
「シュガーが言っていたとおり、反応が良くなったな」
「………ぅ?」
「腰の痛みはどうせ、あとからダイスが治す」
「ん……っ……ぁ」
「滞りなく流れるために調整してやろう」
角度を変えた唇が、深さを増して重なってくる。どういう意味か問いたくても、先ほどからドキドキと胸が高鳴って仕方がない。
サブリエの傍にいると、いつも落ち着かない。反面、触れていたくて、離れがたい。
これが俗に言う「恋」なのかと思ったけれど、それは早々に「違う」とサブリエ本人によって否定された。
「オフィリアはわしを一等愛している」
確信した声で告げられると、そんな気もしてくる。サブリエを一番、愛している。脳内でその言葉を反芻して、それから、オフィリアは困ったように瞳を伏せた。
「わしを一等愛するならばわしも愛そう」
「………っ、ん」
ずるい。わかっている。
サブリエと口づけを交わすことを優先して、大切にされていると感じられる空間を優先して、オフィリアは口を閉ざす。
いまは、サブリエの他に誰もいない。
サブリエが一番だと告げても、ふたりだけの秘密にしてしまえば、それは誰にもわからない。
「…………っ」
「どうした、オフィリア?」
変化に目ざとい。
知らないふりをするときもあるくせに、あえて気付いたことを告げてくるときもある。
「……ぁ……」
重なる右手を捕まえたまま、自由に動く左手が首筋から鎖骨を落ちて、右の胸に触れてくる。
乳首はざらついたサブリエの手のひらに反応して、かたく変わったが、それは問題ないだろう。大きな手は、簡単に包んでしまう。心も体も。
「リンネルも執拗にいじっていたが、愛撫されるのが好きなようだ」
「………っ…ち、が」
「そうか。ならば好きになればいい」
そうして唇をふさがれる。もちろん、胸を揉む手は離れない。離れようと奮闘してみても無意味だろう。
サブリエの手が右胸から左胸に移動してくる。
下着を身につけていない肌は、サブリエから借りた服をゆるやかに広げて、尖った胸の先を視界に写す。
「鼓動が早い。心地いいのであろう」
「………っ」
ついでに顔も真っ赤だと思う。
服を借りた意味がない。大きなサブリエの服は前開きにはだけて、オフィリアの全裸をさらしている。
「顔色がよくなった。血の巡りも悪くない。オフィリア、なぜ逃げる」
自分で着せた服を剥ぎ取る勢いで引っ張られて、オフィリアはサブリエに背中を預けるしかなかった。
しかも、なぜか後ろ手で縛られている。
大きな服はオフィリアの腕を簡単に後ろ手で縛らせて、サブリエの行為を応援している。
「さぶり、ぇっ……ん」
足が開いて、本が落ちた。
サブリエの手がするりと滑って、割れ目を往復し始めるのは当然のこと。
「………っん…ぁ」
指一本で十分だったらしい。
下の唇をはむはむと甘噛みされているあいだに、熟れた果実は侵入者を許している。
自己主張の激しい花芯がその証拠だと、サブリエにも伝わったに違いない。
「わしから逃げるつもりだったか?」
「ちが…っ…ぁ………ッ」
「ならば、このまま背を預けておれ」
それが証明になると言われてしまえば、背を預けるほかない。
左胸の先端。右側から深く潜り込んできた指先。どちらも器用に動くせいで、腰が自然と前後に揺れる。
「オフィリア、じっとできぬか?」
「………っ」
恥ずかしい。
静かに囁かれたことが羞恥を煽って、動くこともできなくなってしまった。
じっと耐えるだけの時間が続く。
口付けは深さと角度を変えながら一定の距離を保ち、指先は強さと速度を変えながらより密着してくる。
「ァ……はぁ…ッ……はぁ」
浅い息が熱を帯びてくるのがわかる。
段々と細くなり、息を飲んで我慢しているのがわかる。
「…………ぁ」
ぴたりと止まった行為に疑問符が浮かんだのは、ちょうど腰が浮きそうになったときだった。
「オフィリア」
「………っ、ぅ」
「わしを望めば対価を支払ってやるぞ」
鼻先が触れるほどの距離で、仄暗い瞳に問いかけられる。
どう反応するのが正解なのだろう。
ランタン、サック、シュガー、リンネル、それからダイス。サブリエと、五人へ対する気持ちに差はない。誰か一人を選ぶ。その選択肢は元から存在していないのだから、断言するサブリエのほうがおかしい。
「私、は……私……は」
答えられない。
求められた唇を閉じたせいで、銀色の糸がサブリエとオフィリアを繋いでいる。
いつ切れるかわからない不安定な糸。
まるで、いまの関係のようだとオフィリアは困った顔で視線を落とした。
「っ、ぁ」
後ろ手で縛られたまま横に倒れたのは、サブリエが押したせいだが、左足の上にまたがったサブリエに右足を開脚させられたとあれば、はなしは変わってくる。
ベルトをゆるめたサブリエは、興奮した自身を取り出して、それから悠然とオフィリアを見下ろした。
「わしを一等愛するか?」
「………私……は」
「王を孕む器は、王を宿したがっているのだ。わしが入れば答えがわかる」
「ひ……ッ、ぅ」
ぐっと重力がのったサブリエの腰は、オフィリアの意見を無視して侵入をこころみる。
そもそも、問いかけたくせに答えは求めていないのか。
不自由な体勢でサブリエを受け入れるしかないオフィリアは、眉をしかめて身体をのけぞらせていた。
「………ぁ」
右足がサブリエの肩に乗せられた流れで折れ曲がってくる。それはより深くサブリエを迎え入れるかたちになり、オフィリアの声を甘く変えた。
「んっ……ぁ……サブリエ…っ」
足を支えながら姿勢を起こすサブリエを眺めていると、自分だけが取り残されたような錯覚に陥る。
後ろ手で縛られているせいかもしれない。
無防備な肌はもちろん、胸や太ももを撫で下ろす手のひらが、挿入部分を指で広げてくるせいかもしれない。
「……ッ……ぃ」
サブリエは左足にまたがって、埋まったまま、右足、太ももの内側に口付けてくる。それだけならまだしも、もう片方の手で淫核の皮を剥いて、指の腹でしごき始めた。
「ぁ……ひ、ぃ……っ…く」
先ほど、寸で止められた快楽の頂点が見えてくる。呆気ないほど簡単に、いかされる。
「……~~~~ッ…ぅ」
静かな絶頂。
サブリエがどこかぼやけて見えるのは、視界がにじんでいるせいに違いない。
キモチイイと悔しいが入り交じって、溢れた蜜の気配に、サブリエの口角があがったのがわかった。
「やはり、わしを一等愛している」
「………ッぁ」
「これほどまでに溢れ、求めておいて違うわけもあるまい」
「ァ、サブリぇ…っ……ゃ……ぁ」
「対価には対価を。よかろう、オフィリア。注げぬようになるまで、存分に可愛がってやろう」
肌がこすれ、密着した場所から飛沫する水音が響く。ぐちゃぐちゃとかき混ぜ、速度を変え、角度を変えて、それは自在に動き回る。
手を拘束され、足を固定されて、他にどう快楽を逃がせばいいのか。わからない。わからないまま、執拗に打ち付けられる腰が、勝手に快楽を得て震えていく。
「……ッく…ぃ、ちゃ……ぅ……サブリエ…っ…ゃ、また……ひっ~~~ぅ……く」
何度も波打つ身体が、サブリエの手で元の形に広げられていく。
とくとくと鳴る心臓の音が聞こえる。
全身を流れる血が沸騰して、頭が溶けてしまったのではないだろうか。のぼせたみたいにふやけて、与えられる刺激に揺られる。
「オフィリア、わしも愛している」
熱を帯びない瞳が告げる。
本当にそう思ってくれているのか。
それはわからない。
彼ら、デファイは人間を主食にする生き物。六賢人だけが例外だとは思えない。
食べるための免罪符として告げられる言葉が「愛」なのであれば、これほどまでに無情な行為はないと思う。
それでも期待してしまう。彼らは、六賢人だけは例外なのだと。
「…………はぁ」
オフィリアは、わかりやすく不機嫌な息を吐いて頬を膨らませた。
暖炉の火が木の灰を積もらせて、その上に炭が複数転がっている。
部屋は温かい。ソファーの上でふわふわの毛布に包まれているから寒くはない。
それでも、火が消えてしまう前に追加の薪を暖炉に放り込むべきだろう。
「………腰が……痛い」
リンネルはどこへいったのか。
無人の室内に苛立ちが募る。
「指いっぽん、動かしたくない」
どうせ誰も聞いていないのだから、文句や愚痴を呟きたくなる。それでも悲しいかな。修道院で培われた自己犠牲の精神が染み付いた身体は、もそもそとソファーを降りて、暖炉にくべる薪を探していた。
「オフィリア、起きたか」
「……サブリエ?」
すぐ近くにいるようで、遠くから聞こえてきた声にオフィリアは首をかしげる。
見える範囲に人影はない。
時刻は夕方をすっ飛ばして夜になりかけている。窓から差し込む最後の光が細くなって消えていくから間違いない。
「サブリエ、どこ?」
「階段を上った先だ。そこにおる」
そうして顔をあげた場所に合点がいった。
室内の半分ほどを占める中二階部分。本棚や低いテーブルや椅子が置いてある書斎、または、読書室というべきかもしれない。
彼らは「賢人」というだけあって、色々な書物を好んで保管している。
「サブリエ、ここにいるの?」
オフィリアは薪をくべるのをあきらめて、階段をのぼることにした。毛布をマントのように巻き付けているのは、リンネルが全裸で放置していったせい。
「オフィリア、こっちだ。ゆっくりでいい」
壁に設けられた窪みの椅子に座る影が本を閉じて手招く。片ひざを立てて座っている影のかたちは、サブリエで間違いないだろう。
「なんだ、リンネルも連れてきたのか」
「………え?」
「今からの時間、オフィリアはわしと過ごす」
伸びてきた手に捕まって、オフィリアはサブリエの腕のなかに招かれた。その際、まとっていた毛布が落ちたのは仕方がない。
その毛布が消えて、代わりにリンネルが立っていたのはどういうわけか。
それは、深く考えてはいけない。というより、考えられない。
オフィリアにとっては、突然全裸にされたことのほうが衝撃的な事実。
「……ッ、ぅ」
サブリエの腕の中で隠れるように小さくなる。サブリエの身体は大きいから、すっぽり包まれてしまえば、きっと問題はない。
「ほれ。オフィリアもわしの腕のなかを望んでおる」
都合よく解釈したサブリエが、腕を回して、身体を隠してくれた。
ほっと息を吐いて、ようやくオフィリアはリンネルが立っているだろう場所を振り返る。
「…………あれ、リンネルは?」
「拗ねてどこかへ行ったわ」
「拗ねる?」
「オフィリアを包むのは自分の役目だと思っているからな」
くすくすと笑うサブリエの腕が少しゆるむ。オフィリアはサブリエの顔を見上げてみたが、思いのほか、じっと見下ろされたことに顔を赤く染めた。
「……っ、くしゅん」
「リンネルが去ったのを理由にされても困る。わしの服を羽織っておれ」
上着を一枚脱いだサブリエを見つめていたら、その服で包まれたのは自然の流れ。大きな服は一枚で肩から膝ほどまで隠してくれるのだからありがたい。
「ありがとう、サブリエ」
オフィリアは袖に手を通しながらサブリエに礼を言った。サブリエは特に返事もせず、読んでいた本を置いて自分の膝の上に招いてくる。
「何の本を読んでいたの?」
背中にサブリエの熱が当たる。
大きな座椅子だと思えば特に支障はない。座り心地も案外悪くない。
視界には本の海と棚が並び、背後から回ってきたサブリエの腕が見える。
「ただの暇つぶしだ」
ぶるりと神経が震えた気がした。
頭上、もしくは耳の近くで、低くて甘いサブリエの声は心臓に響く。
「気になるのか?」
手渡されたのは、リンゴと花の紋章が刻印された古い書物。一枚布を羽織った裸婦。聖女アヴァルの挿し絵が入った本。テンバス協会が承認した「聖女アヴァルを信仰するための本」だということが一目でわかる。
「わざわざ読まなくても知ってるよ?」
十歳で両親の元を離れて、修道院で過ごした。
毎日祈りと家事、雑用を繰り返す日々だったが、聖女アヴァルに感謝を捧げて生きてきたのだから、教本として染み付いている。
「瘴気が噴き出し、デファイが生まれた。楽園はデファイのものとなり、人間は果ての地へと旅立った。楽園を追われた人間は聖女アヴァルの導きにより、十国を築き、いまの平和を保っている」
要約すればそんなものだと、オフィリアは表紙を撫でながら暗唱した。
「クレドコンパスは死者の森であり、決して安易に立ち入るべからず。生還する者は、聖女アヴァルへ忠誠を誓ったテンバス騎士団の庇護のもとで歩む。さもなくば、クレドコンパスに潜むデファイの腹へ招かれるだろう」
「人間とは面白い空想を書き記すのが好きだな」
「空想?」
「テンバス騎士団とは、黄金の甲冑に黒のローブをまとった連中だろう。あやつらと共にいたところで、わしらの領域から生還できる保障はない」
サブリエの右手が表紙を撫でるオフィリアの手に重なる。ついでに体重を左側へ移したサブリエの顔が、オフィリアの左肩にアゴを乗せた。
「クレドコンパスで生き残るには、魔女に許されなくてはならない」
「………え、私が許すの?」
囁く声から逃れるように、オフィリアは左肩をすくめて、サブリエを振り返る。
端整な顔立ちに浅黒い肌、黒い髪が映える。仄暗い瞳は底が知れないが、それを差し引いても、胸が高鳴る雰囲気をしている。
「さよう」
重なった右手がピクリと跳ねた。
結局、逃げ場などあるはずもなく、オフィリアはサブリエに唇を奪われていた。
「………っ、ん」
「シュガーが言っていたとおり、反応が良くなったな」
「………ぅ?」
「腰の痛みはどうせ、あとからダイスが治す」
「ん……っ……ぁ」
「滞りなく流れるために調整してやろう」
角度を変えた唇が、深さを増して重なってくる。どういう意味か問いたくても、先ほどからドキドキと胸が高鳴って仕方がない。
サブリエの傍にいると、いつも落ち着かない。反面、触れていたくて、離れがたい。
これが俗に言う「恋」なのかと思ったけれど、それは早々に「違う」とサブリエ本人によって否定された。
「オフィリアはわしを一等愛している」
確信した声で告げられると、そんな気もしてくる。サブリエを一番、愛している。脳内でその言葉を反芻して、それから、オフィリアは困ったように瞳を伏せた。
「わしを一等愛するならばわしも愛そう」
「………っ、ん」
ずるい。わかっている。
サブリエと口づけを交わすことを優先して、大切にされていると感じられる空間を優先して、オフィリアは口を閉ざす。
いまは、サブリエの他に誰もいない。
サブリエが一番だと告げても、ふたりだけの秘密にしてしまえば、それは誰にもわからない。
「…………っ」
「どうした、オフィリア?」
変化に目ざとい。
知らないふりをするときもあるくせに、あえて気付いたことを告げてくるときもある。
「……ぁ……」
重なる右手を捕まえたまま、自由に動く左手が首筋から鎖骨を落ちて、右の胸に触れてくる。
乳首はざらついたサブリエの手のひらに反応して、かたく変わったが、それは問題ないだろう。大きな手は、簡単に包んでしまう。心も体も。
「リンネルも執拗にいじっていたが、愛撫されるのが好きなようだ」
「………っ…ち、が」
「そうか。ならば好きになればいい」
そうして唇をふさがれる。もちろん、胸を揉む手は離れない。離れようと奮闘してみても無意味だろう。
サブリエの手が右胸から左胸に移動してくる。
下着を身につけていない肌は、サブリエから借りた服をゆるやかに広げて、尖った胸の先を視界に写す。
「鼓動が早い。心地いいのであろう」
「………っ」
ついでに顔も真っ赤だと思う。
服を借りた意味がない。大きなサブリエの服は前開きにはだけて、オフィリアの全裸をさらしている。
「顔色がよくなった。血の巡りも悪くない。オフィリア、なぜ逃げる」
自分で着せた服を剥ぎ取る勢いで引っ張られて、オフィリアはサブリエに背中を預けるしかなかった。
しかも、なぜか後ろ手で縛られている。
大きな服はオフィリアの腕を簡単に後ろ手で縛らせて、サブリエの行為を応援している。
「さぶり、ぇっ……ん」
足が開いて、本が落ちた。
サブリエの手がするりと滑って、割れ目を往復し始めるのは当然のこと。
「………っん…ぁ」
指一本で十分だったらしい。
下の唇をはむはむと甘噛みされているあいだに、熟れた果実は侵入者を許している。
自己主張の激しい花芯がその証拠だと、サブリエにも伝わったに違いない。
「わしから逃げるつもりだったか?」
「ちが…っ…ぁ………ッ」
「ならば、このまま背を預けておれ」
それが証明になると言われてしまえば、背を預けるほかない。
左胸の先端。右側から深く潜り込んできた指先。どちらも器用に動くせいで、腰が自然と前後に揺れる。
「オフィリア、じっとできぬか?」
「………っ」
恥ずかしい。
静かに囁かれたことが羞恥を煽って、動くこともできなくなってしまった。
じっと耐えるだけの時間が続く。
口付けは深さと角度を変えながら一定の距離を保ち、指先は強さと速度を変えながらより密着してくる。
「ァ……はぁ…ッ……はぁ」
浅い息が熱を帯びてくるのがわかる。
段々と細くなり、息を飲んで我慢しているのがわかる。
「…………ぁ」
ぴたりと止まった行為に疑問符が浮かんだのは、ちょうど腰が浮きそうになったときだった。
「オフィリア」
「………っ、ぅ」
「わしを望めば対価を支払ってやるぞ」
鼻先が触れるほどの距離で、仄暗い瞳に問いかけられる。
どう反応するのが正解なのだろう。
ランタン、サック、シュガー、リンネル、それからダイス。サブリエと、五人へ対する気持ちに差はない。誰か一人を選ぶ。その選択肢は元から存在していないのだから、断言するサブリエのほうがおかしい。
「私、は……私……は」
答えられない。
求められた唇を閉じたせいで、銀色の糸がサブリエとオフィリアを繋いでいる。
いつ切れるかわからない不安定な糸。
まるで、いまの関係のようだとオフィリアは困った顔で視線を落とした。
「っ、ぁ」
後ろ手で縛られたまま横に倒れたのは、サブリエが押したせいだが、左足の上にまたがったサブリエに右足を開脚させられたとあれば、はなしは変わってくる。
ベルトをゆるめたサブリエは、興奮した自身を取り出して、それから悠然とオフィリアを見下ろした。
「わしを一等愛するか?」
「………私……は」
「王を孕む器は、王を宿したがっているのだ。わしが入れば答えがわかる」
「ひ……ッ、ぅ」
ぐっと重力がのったサブリエの腰は、オフィリアの意見を無視して侵入をこころみる。
そもそも、問いかけたくせに答えは求めていないのか。
不自由な体勢でサブリエを受け入れるしかないオフィリアは、眉をしかめて身体をのけぞらせていた。
「………ぁ」
右足がサブリエの肩に乗せられた流れで折れ曲がってくる。それはより深くサブリエを迎え入れるかたちになり、オフィリアの声を甘く変えた。
「んっ……ぁ……サブリエ…っ」
足を支えながら姿勢を起こすサブリエを眺めていると、自分だけが取り残されたような錯覚に陥る。
後ろ手で縛られているせいかもしれない。
無防備な肌はもちろん、胸や太ももを撫で下ろす手のひらが、挿入部分を指で広げてくるせいかもしれない。
「……ッ……ぃ」
サブリエは左足にまたがって、埋まったまま、右足、太ももの内側に口付けてくる。それだけならまだしも、もう片方の手で淫核の皮を剥いて、指の腹でしごき始めた。
「ぁ……ひ、ぃ……っ…く」
先ほど、寸で止められた快楽の頂点が見えてくる。呆気ないほど簡単に、いかされる。
「……~~~~ッ…ぅ」
静かな絶頂。
サブリエがどこかぼやけて見えるのは、視界がにじんでいるせいに違いない。
キモチイイと悔しいが入り交じって、溢れた蜜の気配に、サブリエの口角があがったのがわかった。
「やはり、わしを一等愛している」
「………ッぁ」
「これほどまでに溢れ、求めておいて違うわけもあるまい」
「ァ、サブリぇ…っ……ゃ……ぁ」
「対価には対価を。よかろう、オフィリア。注げぬようになるまで、存分に可愛がってやろう」
肌がこすれ、密着した場所から飛沫する水音が響く。ぐちゃぐちゃとかき混ぜ、速度を変え、角度を変えて、それは自在に動き回る。
手を拘束され、足を固定されて、他にどう快楽を逃がせばいいのか。わからない。わからないまま、執拗に打ち付けられる腰が、勝手に快楽を得て震えていく。
「……ッく…ぃ、ちゃ……ぅ……サブリエ…っ…ゃ、また……ひっ~~~ぅ……く」
何度も波打つ身体が、サブリエの手で元の形に広げられていく。
とくとくと鳴る心臓の音が聞こえる。
全身を流れる血が沸騰して、頭が溶けてしまったのではないだろうか。のぼせたみたいにふやけて、与えられる刺激に揺られる。
「オフィリア、わしも愛している」
熱を帯びない瞳が告げる。
本当にそう思ってくれているのか。
それはわからない。
彼ら、デファイは人間を主食にする生き物。六賢人だけが例外だとは思えない。
食べるための免罪符として告げられる言葉が「愛」なのであれば、これほどまでに無情な行為はないと思う。
それでも期待してしまう。彼らは、六賢人だけは例外なのだと。
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