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第弐章:崩壊の足音

06:失言を吐く口

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「ぁ…っ…んッ…ぅ…」


朱禅にまたがっているから足は閉じられない。なぜか開いていく一方で、落ちないように朱禅の肩に手を掛けてしがみつけば、それはますます彼らを調子にのらせた。


「ほら、胡涅。さっき練習しただろ」

「……ッゃ…アぁ」

「忘れたなら思い出せるまでしつけてやろうか?」


さっき洗っただとか。そこばかりイヤだとか。バカのひとつ覚えみたいに、同じ言葉しか吐けないが、そんなことで自我の強い彼らの行為を止められるはずもない。


「ヤッ、やだぁぁっ」

「泣いてばかりだと終わらないぞ」

「終わらないほうが、我らにとっては都合がいいがな」


簡単に割り広げられた場所がぐちゃりと粘着質な音をあげて、あきらかに浴室に響く音ではない音が聞こえてくる。


「そ、そりぇ…しょ…こぉ」


背中を舌で舐められ、花芯を指でつまんでくる炉伯の行為に悪寒が走る。
明るい浴室だからよく見える。朱禅との間に差し込まれた炉伯の指がつまんでしごくのがイヤでも視界に入ってくる。
「胡涅」二人そろって耳に囁く名前に、神経が跳ねる。そこから先は、記憶に刻むまでもなくつい先ほど教えられたばかり。忘れるはずもない。二人の指の往復に告げる高鳴りはひとつだけ。


「……ッく…ィク…っぅ…いくいくいッやアァァ」


二人の腕の中で、胡涅はわかりやすく教えられた反復行為を繰り返していく。
腰が前後に揺れ、全身が震えるものの、朱禅の指は抜けず、炉伯の指は淫核をとらえて離さない。


「…め…なさぃ…ッ…ごめんなさ…い」


そこから何分、いや、何十分か。すっかりおしりの穴がふやけ、花芯が赤く膨らみ腫れるまで、胡涅は彼らの腕の中で腰を振り続けていた。
たかだか二本の腕、四本程度の指先から逃げられないとは、体力のない自分の身体が心配になる。


「ァあッ…ゃ…ぁ…ッ…」


淫核から滑るように膣に入ってきた炉伯の指に全身がビクリと跳ねるのも条件反射のせいにしたい。


「嗚呼、やはりいい。破るのが楽しみだ」

「ふたつ塞げば大人しいな、胡涅。我らを受け入れたあかつきには、たくさん埋めてやるから、しかと励め」

「ヤッだ…ぁ゛…ぅ…あ」

「イヤと泣きながら吸い付いて離さねぇのは胡涅の方だろ?」

「無言でイクな。逃げたところで、我らが逃がすと思うか?」


そうして、どこまでも追いかけてくる指の形を自分の知らない場所で覚えさせられる。
顔、首、背中、鎖骨、胸。前からも後ろからも朱禅と炉伯の舌が愛撫して、優しくなだめる声をかけてくれるのに、膣とお尻の穴に埋まる指先だけが意地悪に犯してくる。


「……ぅっ……ヒッ…ぅー」

「鳴き声が枯れてきたな」

「一度しまうか」


絶頂の連続が怖くて胡涅が本格的に泣き始めたところで、ようやく停止した二人は、指を抜き、キスを繰り返し、頭を撫でて、そして冒頭に戻る。
胡涅の機嫌は最悪の一択でしかない。


「…………あがる」


すっかり溶けて、のぼせた身体を洗われて、放り込まれた浴槽。背中を預ける炉伯の腕が、胡涅の両脇を支えている。


「いま浸かったばっかりだろ」


水面から出た肩に、炉伯はお湯をかけてくれるが、誰のせいでこうなっているのかと深く問い詰めたい。
炉伯の指が、先ほどから視界の横を行き来している。それから血管の走る腕、肩、と視線で追って、朝顔の花の刺青が目に映る。一般人とは思えない、たくましさがある。深く問い詰めたいが、炉伯を問い詰めたところで、ふやけた身体では返り討ちにしかあわないだろう。


「炉伯…っ…当たってるんだけど」

「そりゃ当たるだろ」


何がとはいわないが、ナニが尾てい骨に当たるのだから気にもなる。


「なんで一緒にお風呂に入ってるのか意味不明なんだけど」

「胡涅、ワガママを言うな」

「そ……っ、朱禅ちょっと」

「なんだ?」

「なんだ、じゃ……なく、て」


本気で目のやり場に困る。
十八歳から六年間。彼らは年中無休、不眠不休で常に隣にいた。
こんなことをいうと、何を今さらと笑われるかもしれない。それでもご立派な彼らのいちもつを拝んだことはなく、まして、眼前にぶら下がるなど想像もしていなかった。
朱禅も一緒に湯船に入るつもりらしい。
目線の高さにあった朱禅の息子が揺れて、湯船の中のお湯を外に放り出した。


「………明らか、狭くない?」


人生史上最大に緩んだお尻のせいで、もぞもぞと居心地の悪い体勢にしかならないのに、二人との密着具合がさらに窮屈を感じさせる。
一人で入れば、それなりに広く思っていた浴槽も、巨大な二人が一緒に入れば狭い以外の言葉がない。極めて当然の感想にもかかわらず、朱禅と炉伯はそろって不機嫌に眉をしかめた。


「胡涅は、色気も情緒もねぇな」

「無理矢理喘がせた方が素直になるか?」

「ちょ、ダメ…っ…次、変なことしたら本気で怒るから」


四方から囲む腕を出来る範囲で叩いて牽制を図る胡涅に、やはり二人は笑ってかわす。


「彼氏でもないのに一緒にお風呂に入る意味がわかんないんだけど。もう、これは、絶対よくない。よくないよ。お祖父様にバレて、本気でお嫁にいけなくなったらどうするの?」

「嫁?」

「誰が、胡涅が?」

「マジな顔が腹立つ。うちを継ぐ婿養子を得るためにも、お祖父様のことだから、何人か見合いくらいさせるわよ。恋愛結婚はさせてくれないにしても、嫁の貰い手くらい見つけてくる……はず」


急に自信を失くしたのは、真正面から右側に回り込む朱禅と、真後ろから左側に身体を移動させた炉伯のせい。
異性関係に困ったことのない二人に挟まれれば、いろんな意味で肩身が狭い。
両サイドから怪訝な顔で、不機嫌なときと同じように眉をしかめられると、さすがに居心地が悪くなる。笑うなら笑う、怒るなら怒る。どちらかにしてほしい。


「まあ、たしかに……恋愛とは無縁なことは自覚してるというか」


彼らと違って、モテるという単語とは無縁の人生を送ってきた。そもそも他人とのコミュニケーションは、保倉先生と祖父を覗けば、医療従事者以外にほとんどいない。
他には、マンガやアニメ、小説で会話文を覚えたといっても過言ではない。
今はこうして朱禅と炉伯がいるから、素直に話せているが、彼ら以外とは距離のとり方も会話の運び方も全然わからない。


「だから、朱禅と炉伯が私の処女を大事にとってくれてるのはありがたいんだけど、もらってくれてもいいからね。ほら、将来の旦那さんと失敗したくないし」


処女は大事に取っておいたところで、きっと無駄になる。
これから先、恋人なんか絶対できない自信がある。
近い将来、婿養子を取れば役目は子作り一択。元から世間に触れずに生きてきたのだから、例え家から出られない生活でも、その辺の支障はないと思いたい。
それでも、未來の見知らぬ男だけが生涯だなんて悲しすぎる。こんなに経験豊富なイケメンが近くに二人もいるのだから、思い出作りくらい構わないだろう。


「でも、まだ心の準備がさぁ」


そんな感想をつらつら付け加えていれば、今度こそ本気で二人が笑い始めたのだから胡涅は顔をひきつらせる。
お湯が揺れて、湯船から溢れたお湯が排水溝に流れていった。


「もう、そ、そんなに笑うことじゃ…ッ…な、なに?」


右に朱禅、左に炉伯を眺める姿勢になったところで、胡涅はぐっと言葉をのみこんだ。
声と態度が笑っているから、てっきり笑っていると思ったのに、赤と青の瞳がまったく笑っていない。わかりやすく鳥肌がたち、背筋を駆け抜けた悪寒に、胡涅は逃走本能が刺激されるのを感じていた。


「胡涅」

「はっ、はい」

「我らを軽んじると悪いことしかおきんぞ」

「は、はい?」


炉伯に呼ばれて、引き寄せられて、朱禅に脅されて首をかしげる。
不可解な疑問符を浮かべた胡涅の態度に、二人は柔らかく笑って、そろって肩にかじりついてきた。
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