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第参章:八束市の支配者

04:赤と青の二人

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「ダメだよ」


とりあえずダメ出しをしておく。
雇用したヤクザが目を離したすきに人殺しをしてました。なんて、洒落にもならない。
世間体を背中に掲げて生きる名前がある以上、黙って見過ごすことも出来なかった。


「胡涅」

「炉伯、そんな顔してもダメなも…ッ…ちょ、変なところ触らないで」

「んじゃ、キス」

「外ではしないってば」


これを第三者からすれば、ただのじゃれ合いか、バカップルに見えるのだろう。実際、何人かの通行人が見ては行けないものを目にしたみたいに、足早に通り抜けていく。
迷惑な話だ。


「俺らの傍を離れるなよ」


小声で囁く炉伯の声に反応してしまう自分もどうかしている。


「最近物騒だからな」


恋人に告げるみたいに甘くて低い炉伯に耳をかじられて、赤く染まった顔を何人の通行人に見られたのか。
明日は、きっと噂の的に違いない。


「はぁ……襲ってくるとすれば男じゃなくて女だと思う」


遠い目にもなる。
以前、二人の目を盗んで町でウィンドウショッピングをしていた胡涅はよくわからない女に襲われた。刃物のような何かを振りかざしていたが、途切れた記憶では、二人のどちらかの元彼女だと認識している。
残念ながら、元彼女は胡涅を襲う直前で現れた朱禅と炉伯に捕縛され、いや、返り討ち、いや、実際どうだったのか覚えていない。とにかく胡涅はひどい頭痛で、外部のいざこざにかまってる余裕はなかった。
けれど、その日から。朱禅と炉伯の過保護が促進されたのは確かだ。


「男だろ?」

「私を襲う趣味のある男はいないよ」


モテる男たちの女選びの基準はわからないが、どうか変な女だけは引っかけないでほしいと切実に願っている。今は大人しいので、うまく遊んでいると信じているが、事件なんてまっぴらゴメンだ。


「私はね、棋風院の孫娘っていう看板があるから、身代金目的はあっても、他で狙われる要素はないの」


自分は二人と違って節操なしじゃないと、胡涅は怪訝な顔で眉を寄せる炉伯を軽く睨んだ。


「行くぞ」


部屋が取れたらしい朱禅が、胡涅と炉伯に顔の仕草だけで先を促す。行くぞといわれ足を運ぶ場所はひとつしかない。


「いらっしゃいませ、棋風院さま」


女将直々に挨拶をもらい、案内された部屋は貸切露天風呂が併設された特別室。八束岳を一望でき、緋丸温泉の源泉を引く由緒正しい高級旅館の特別室は、三人で使うには広すぎるくらい広くて贅沢だった。


「………はぁ。落ち着くぅ」


香りのいい畳の匂いに癒される。
先に部屋へ一人飛び込んで、思わず両手を広げて肺に空気を送れば、後ろに続く朱禅と炉伯が揃って笑うのがわかった。


「あー、今絶対バカにしたでしょ」


振り向いて、二人を部屋から出迎える。
旅館の特別室はいつもそうであるように、部屋へ繋がる襖と廊下の間に、専用の鍵以外では開かない扉がある。音もなく密閉する重厚なそれは、全員の収容を確認するなり静かに閉まった。


「……ッ…ん」


重厚な扉よりも威圧感のある二人は、なだれ込む壁のように胡涅を抱き寄せる。
白い髪が目の前を踊るので、本当に雪崩に襲われた感覚になるが、彼らは冷たくない。その証拠に、重なり落ちてきた唇からねじ込まれる舌は熱く、すぐに瞼を落とさせてくる。


「……ぁッ……」


キスが美味しいという表現は、きっと正しくない。わかっていても、実際、交互にかわすキスが美味しいと感じてしまう。
空腹が最大の調味料というのであれば、それを満たすのは朱禅と炉伯の二人だと本能が囁いている。


「しゅ…ぜ……っん、ろ…は、く」


前から炉伯が抱き締めれば、必然的に朱禅が後ろに回る。ついて早々、前後を男に挟まれて、視界が二人の顔と手のひらなんてバカげてる。


「………もっと」


バカげていても、やめられない。
胡涅は右手を後ろの朱禅の首に、左手を炉伯の肩に置いて、顔をあげてキスをねだる。


「ん……ぅ……ンッ…ぁ」


足りない。
キスだけじゃ足りない。
そう告げたとして、この二人はどう思うだろう。いずれ離れていく二人と、これ以上深い関係になるのはよろしくない。わかっていても、男女の関係を望んでしまう。


「胡涅」

「………ん、ぅ?」


いったいどちらが名前を呼んだのかと、全体重を預けていた意識が浮上して、同時に胡涅は長い指を口のなかにねじこまれた。


「な…にゅっ……ちょこ?」


炉伯の指と、朱禅の指がそれぞれ小さなチョコレートの欠片を口内に送り込んできたらしい。甘くて苦い味が二人の指で溶かされて、どろどろと口の中から抜けていく。


「………ァ…ッ」


二人の指先を逃がすまいと、それぞれの手首を掴んで吸い付いたのは無意識。べろべろと舌を動かして、ときどきあたる関節や爪の形を味わって、のどの奥まで咥える。
チョコレートの味が消えてなくなるまで数分、胡涅は哺乳瓶を抱える赤ん坊のように、二人の腕の中で彼らの指を吸い続けていた。


「うまいか?」


前に回ってきた朱禅が、頬に手を添えながら聞いてくる。


「うん……っ…おいし」


言いながら腰が抜けた身体を炉伯に抱えあげられて、胡涅は部屋のなかに連れ込まれた。


「風呂に入るだろ?」

「………うん。でも、自分で脱げる」


部屋に備え付けられた露天風呂の脱衣場は、簡易な椅子とかごが置かれている。胡涅をそこへ座らせる。ではなく、一緒に座りながら炉伯は胡涅の服を脱がしている。
自動で衣服を脱がす椅子。
そんな椅子はいらないと、胡涅は後方から回ってくる炉伯の腕を叩いた。


「胡涅」

「だ、から…ッ…耳元でそんな声ださなぃ……で」


朱禅のスーツの上着は元より、薄紫のカーディガンもすでに無い。早々に剥ぎ取られて、どこかに飛んでいった。残るワンピースのせいで、上からめくれた服は胡涅の胸をさらけ出す。
甘く囁く炉伯の声に目を閉じてしまったとは言え、次に開けた視界に映る光景は、少々衝撃的すぎた。


「…ッ…ふぁ…」


いつの間にブラジャーがなくなったのか。そんなことは、この際どうでもいい。そう思えるほど、びりびりと走る感覚が口をついて、胡涅は思わず両手で自分の口を押さえた。


「~~~~っ…ん…くッ」


じたばたと暴れることが出きるなら、両手で口を押さえて、天井を見つめながら悶絶はしない。
背後から炉伯が持ち上げた胸に、前方から膝をついた朱禅の白い髪が吸い付いて、目の前でふわふわと揺れている。


「…ひっ…ャ…ぁ」


視線を下げても見えるのは艶のある白髪だけで、その綺麗な顔についた唇が何をしているのかは見えない。それでもわかる。現在進行形で、しつこく舐められ、味わうように吸われ、歯で軽くかんで掘り起こされる刺激に、吐き出したことのない声が口から漏れていく。


「ャッぁ…あ……まっ、ま……」


待ってほしいと、ようやく朱禅の肩を掴めたのに、朱禅はびくともしない。それどころか鼻さえ埋もれるほど肌に近付いて、じゅっと音をたてて吸い付いてくる。


「胡涅」


思わずびくりと跳ねた身体を慰めるつもりが本気であるのか、真後ろから回ってきた大きな手に首ごと持ち上げられ、ほぼ直角の状態で炉伯にキスを迫られる。
自然とせりだした胸には朱禅の顔。
視界に映るのは炉伯の顔。
どちらも息をきらさないくせに、執拗に求めてくるから手に余る。


「待って…っ…朱禅、そこ、だめ」


ワンピースを脱がせることより、めくりあげる方が早かったことは認める。元からひざ丈のスカートの中に潜り込んだ朱禅が消えて、股の間に顔を埋めたのがわかった。


「やだ…炉伯も…と…め……ちょ」


炉伯という名前の椅子は、朱禅がそこを舐めやすいように足を広げていく。その際、どういう力業か、朱禅がショーツを剥ぎ取っていった。


「……………ッぅ」


恥ずかしい。
ウエスト部分にたまったワンピースが、余計に羞恥心を煽ってくる。視界に映るのは、肩から胸元と下半身を露出した半裸の肌色。
自慢できる胸ではない。
手術の痕が残っているから好きではない。
見惚れるほど綺麗な胸をもつ女を抱いてきただろう彼らに愛されるには、容姿に絶対的な差がありすぎる。


「胡涅、綺麗だ」


無意識に傷を隠そうとしていた胡涅の手をとって、二人は交互に告げてくる。
可愛い、愛らしい、キレイ、素敵。好意的な台詞で肯定のキスを至るところに落としてくる。


「胡涅」


優しく名前を呼ばれると従ってしまう。
泣けるほど嬉しい二人の言動に、すべてを許し、身をゆだねてしまいたくなる。


「胡涅。力を抜け」


炉伯に膝裏から手を差し込まれて開脚させられた足の間には、見慣れた赤色の瞳をした朱禅の手が近付いている。
長い指、大きくて、綺麗な形をしているくせに関節が男らしい指先が、胡涅の割れ目をすっとなぞる。


「…ぁ…朱禅…ん…」


指で開かれて、ついで朱禅の顔がそこに埋まる。抵抗する気がないと悟られたのか、炉伯は足を持つ権利を朱禅に譲って、自分は胡涅の乳首を弄ぶことに決めたらしい。


「ャッぁ…っめ…だ、め」


強すぎる刺激に腰が揺れる。
腰だけじゃなく、全身が与えられる刺激に連動して跳ねていくが、そんなことではこの二人の体幹は揺らがない。
平然とした空気のまま、各々にやりたいように、ただ楽しむだけ。


「ィッ…く、ぃ…っ…」

「今日はイクの早やそうだな」


ピタリと止まった絶頂への道。
あと少しというところで、愛撫の腕が同時にやむ。


「ここまで腫らせばそうだろう、なあ、胡涅?」

「…なん…ぁ…やめちゃ……ャッ」


べっと舌を出した状態で顔をあげた朱禅と自分との間に、細い愛蜜の糸が見える。連なる空間に垂れた透明の液体は、ぷつりと切れて朱禅の舌に舐めとられていた。


「うまい」

「胡涅にまずいところはない」

「そうだったな」


言いながら、今度は二人で割れ目で育てられた芽を指でいじり始める。
そんな風に焦らされてはたまらない。高みに果てるときはイクことを告げるように教えた二人は、その道をピタリとふさいで、荒い吐息を繰り返す胡涅にキスを送る。


「………ャッ、そこ……ん、ぅ」


人の意思を無視して進めたくせに、ここに来て止まる意味がわからない。
彼らの黒く塗りつぶされた指先は、相変わらず肌の上を好き勝手になで回すのに、肝心の刺激がなくなったせいで、胡涅は苦しみ、悶えるしかない。


「メッ…ゃ…ァッ、ぅ……ぉ願っ」


涙をため、舌がもつれ、震える指先を連れて、胡涅は全身で訴える。
逃げているのか、望んでいるのか。
自分でもよくわからない刺激を求めて、キスの合間からその先を促していた。
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