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第参章:八束市の支配者

07:源泉の揺らぎ

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何か思い出した気がする。
初めてなのに、どこか懐かしい気がする。生まれたときから欠けていた何かが埋まるようで、幸せだとか、嬉しいだとか、恋が成就した感情よりも先に、郷愁に似たしっくりと馴染む感覚が胸をつく。


「……炉伯…っ…朱禅」


初めは青だったのに、次に目を開ければ赤に変わった。乙女は奪われた。それは覚えている。交互に痛みと刺激を連れてきて、やがて痛みはどこかへ消えてしまった。
あるのは、身体を揺らして何度も教え込まれた。弾ける快楽の果てだけ。
心地よく無条件な絶頂に犯されて、炉伯の肩に咲く朝顔の花が見えたと思った瞬間、胡涅は抱き上げられて、硫黄の匂いを嗅いでいた。


「よお、起きたか」

「………ぅ?」


一瞬、どこにいるのか本気で忘れていた。


「胡涅、湯をかけるぞ」

「ひヤァッ」


八束市が誇る緋丸温泉。源泉を引く有名な老舗旅館。の、離れ個室。
まさか、備え付けの露天風呂にいると思わなかった胡涅は、声らしい声も出ないまま、色気のない息を吐いて目覚めた。


「暴れるな、危ない」

「ぇ、え、え?」

「ほーら、いい子だな。胡涅、大人しくしてろ」

「ひゃ……ぅ」


頭から湯をかけられて胡涅はゴホゴホと咳きこむ。本当に彼らは容赦がない。いたわりと思いやりの気持ちが足りないと、胡涅は朱禅に洗われているあいだ、炉伯の身体につかまっていた。


「胡涅。目覚めのキスは?」

「……ッ…ん…ぅ」


密着する全てが気持ちいい。服がないと肌に触れる体温が混ざりあって、もっともっと近くに感じる。寝起きのキスも味が違う気がする。温泉の味だと言われればそうかもしれないが、そこは炉伯と肉体を交わした結果だと思うことにして、胡涅は炉伯のキスに集中する。
そうして炉伯のキスに応えていると、今度は朱禅に頭からお湯をかけられた。


「胡涅、炉伯だけにやるのか?」


そんな風に言われたら断れない。朱禅は甘え方が上手だと、胡涅は意識を朱禅に向けて、その唇が近づいてくるのを受け入れる。


「………はっ…ぁ、ンッ…」


朱禅からもキスをもらう。舌を絡ませ、唾液が混ざりあって、炉伯から朱禅に身体が渡っていく。


「ンッ……ぁ…はぁ…はぁ」


触れられるすべてが気持ちよくて、思わず身体をくねらせる。朱禅も炉伯も上機嫌に笑うだけで愛撫はずっと続いている。


「ァッぅ……ふ…ァッ」


朱禅の指が無遠慮に膣に入ってきて、そのまま深い場所でぐっと折れた。
陰茎とは違うピンポイントの刺激に思わず朱禅の腕に爪をたてたが、朱禅は妨害のぼの字も感じなかったのだろう。何かを探るように数回ぐにぐにとしただけで、すぐにそこを見つけると合図のキスを送るように胡涅の額に口付けた。


「朱禅、ゃッ……しゅ」


朱禅の赤い瞳がイタズラに光って、焦りを見せ始めた胡涅の姿をじっと眺める。
表向きは微動だにしないのに、胡涅の内部に埋まる指は落ち着くことなく動き続けている。ゆるく微笑んで、抵抗する胡涅の泣き言をうんうんと慰めていた。


「ま、待って……朱禅、そ、それぇ、そこぉ」


両手で朱禅の手首をつかんでいるのに、なぜこんなにも余裕でいられるのか。
わからないから怖くなる。


「胡涅、手を放せ」

「ッや、ァぁ、やっあぁあぁあぁ」


朱禅の腕をつかんでしがみつくのに、自分の股の間で朱禅の腕はがつがつと動いている。
尿意に似た何かがこみあげてきて漏れ出そうになるから止めて欲しいのに、そういう停止の声をあげているはずなのに、朱禅とは逆側に陣取った炉伯が耳元で「怖くねぇよ。いくだけだ」と囁くせいで、抵抗もままならない。


「炉伯……ッ、朱禅……出る、でちゃうぅ」


ぐちゃぐちゃと、これまでにない水の音が響いて、羞恥と困惑が入り乱れるなか、炉伯と朱禅によしよしとなだめられながら胡涅の蜜が飛沫していく。


「出る……ッでちゃ、ヤ、とま……ぅ……やだ、ヤダヤダァぁアアァぁ」


大きく頭ごと後ろにのけぞった胡涅の身体を朱禅と炉伯は簡単に抱き留めて、びしゃびしゃと愛液をばらまく胡涅の股を凝視している。
ここが本館から離れた部屋に備え付けられた専用露天風呂でよかった。
そうでなければ蜜をすするために顔を埋めた朱禅の白髪を眺めながら、連続で絶頂を叫ぶ醜態を何人に知られていたかわからない。


「ヒぃ…ッ…吸わにゃ……ヤッ、噛まなァアァアあ」

「暴れても無駄だ。足を閉じるのもな」

「炉伯……しゅ、朱禅ッ、ぅ」


盛大に飛び散る愛蜜は、元からの温水と混ざりあって朱禅の唇に吸い上げられて消えていく。ごくりごくりと朱禅の喉が動いているのをすぐ間近で感じる恥ずかしさは、膝裏に手を差し込んで、まるで子どもに用を足させようと持ち上げてくる炉伯にはわからないに違いない。


「…くッ…ぃ、く……ぅ…ヒィ」


ずるりと抜けた朱禅の指が肘辺りまで濡れている。
全力疾走した後みたいに全身で息をする胡涅は、朱禅がそうなった原因を見なかったことにして、涙と鼻水と嗚咽を誤魔化すように両手で口元を隠していた。


「胡涅」


低くて甘い朱禅に名前を呼ばれて、胡涅はゆるりと顔をあげる。
ゆっくりと重なるだけのキスが落ちてきたが、警戒した胡涅の唇はそれさえも不機嫌に避けようとする。


「うまく潮を噴けたな」

「……ッや……も、ャだ」

「それは無理だ。一度外すと決めた枷、今さら我慢など性に合わん」


なだめながら抱き上げて、胡涅を自分と対面に迎えて朱禅は足を開く。
体力がなさすぎて自分の身体すら支えられない胡涅は、ぐったりと朱禅にされるがまま身体を預けて、足が無防備に広がっていくのに従っていた。


「そのまま力を抜いてろよ」


そういえばなぜ、炉伯から朱禅に体を預けられたのだろうと、炉伯が囁く言葉の意味を考える前に、胡涅は真後ろから肛門に刺さってきた炉伯のそれに気付いて、しがみつく朱禅の肩に爪を立てた。はずだった。


「アァァ…ッひ…ぅ゛、ャァッ」


力が入らない。
体力のなさをこんな時に痛感したくなかったが、後ろから無遠慮に割り入ってきた炉伯の行為に胡涅は目を白黒させながら唇を噛み締める。


「りょ…はクッ…ぅ゛……しゅぜ…ンッ…」

「胡涅、唇を噛むな」

「ァ゛ッ…ぁ…そこ…ヤッぁ…やだ…ぁ゛」


前から朱禅に怒られて口付けられるが、胡涅は後ろから突いてくる炉伯へと腕を伸ばす。


「胡涅、力を抜けって」

「無理ィ゛…痛ッ、大きいィ゛ぃ……」

「あまり抵抗すると尻の筋肉が切れて使いものにならなくなるぞ?」


そうやって脅すならやめてほしい。
力を抜かなければ悲惨な将来が待っているなど、棋風院家の跡取りを得るものとして威厳も何もないと胡涅は降参を訴える。


「まだ先端だ、そんなことでは日が暮れちまう」

「ひィッ……ぃ゛ッ…ぁ…」


後ろに伸ばした手を炉伯にまとめられ、引き上げられて反った上半身が、無防備に朱禅の眼前に胸の先端を差し出す。案の定、朱禅にそれらを摘まれ、舐められ、しごかれて、胡涅はイヤイヤと髪を振り乱した。


「ィヤァぁぁぁあ」


また、朱禅の指が前から無遠慮に足の間を滑って膣の中に潜り込んでくる。
炉伯のものが入ってきて苦しいのに、息がまともにできないのに。刺激だけが昇り詰めてきて、胡涅はたまらず暴れていた。


「まるで犯されているみたいな声を出す」

「本当に犯すか?」

「ヒッぃ゛ぃ……ぁっヴぅ」


腕を解放される代わりに後ろから炉伯に口を塞がれる。
口を塞ぐ炉伯の手を両手で引きはがそうとしているのに、はがれないばかりか、腰を抱え込まれて真後ろから好き勝手に犯される。
そして思い知った。
今までがどれほど優しく、丁寧に扱われていたのか。


「………ッぐ…」


直立不動、ではない。炉伯に口を後ろから塞がれ、腰を密着させた足が浮き上がり、肛門にオスが深く突き刺さっていた。冗談じゃない。全体重が肛門に集中して、炉伯のオスを内部で歓迎している。


「あーあ、全部入っちまった」


もっと時間をかけて楽しみたかったのにと、顔の見えない炉伯の声が耳をかすめて泣きたくなる。


「胡涅、しばらく俺に犯されろ」


それは死刑宣告か何かか。
口をふさがれていてよかったと、瞬時にわかる。ゆっくりと抜かれる時に逆立った神経が、新しい快感を連れてきて、胡涅はパニックになったような悲鳴をあげた。そしてまた最奥まで侵入を許す。ゆっくり抜いて、ゆっくり入る。馴染むように、押し広げる様に、炉伯の形を覚えこませる前振りのように、時間をかけて虐げられる。


「ッ……ぉ……ぐぅ」

「うまいぞ、胡涅。好きなだけ叫んで、いくといい」


指など比ではない圧力に、内臓が押し上げられて息ができないのに、炉伯は聞く耳も持たずに生まれたての子羊のように悶える胡涅のそこを犯した。


「胡涅、後ろの穴が馴染むまで前を貸せ」


指だけでは不満だと、立ち上がった朱禅の顔がすぐ近くに見える。
半分立った状態で炉伯に犯される胡涅の足を持ち上げて、今まで指を突っ込んでいたそこに朱禅が入ろうとしている。
いや、現在進行形はおかしい。
実際、問答無用で朱禅は埋まっていた。
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