【R18】狂存トライアングル

皐月うしこ

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第五章 動き出す人々

第八十三話 メイクアップ

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強制的に椅子に座らせられて、無言を強要された流れのまま、問答無用でメイクを落とされ、髪を固定される。
カナコ愛用のキャリーバッグからは、猫型ロボットも驚くほどの化粧品と関連器具の数々が飛び出してくる。
ロイたち三人は「気が散るから部屋から出ろ」と一括されたが、「バージルに納期を迫られた仕事がある」と大義名分をそれぞれ掲げて、カナコからの滞在許可を勝ち取っていた。つまりは、この部屋に大人が五人存在している。


「マジで三人おるやん。なんなん、アヤちゃんが大事なんわかるけど。監視されてたら、やりにくくてしゃーないわ。溺愛通り越して普通にやばない?」

「そんなこと言って、バージル叔父さんが、ここにいないから寂しいんでしょ。ずっと一緒にいたもんね。ねぇ、そんなにボクたちが羨ましい?」

「ガキの恋愛と一緒にせんといて。バージルとは遠距離が当たり前やったし、むしろその方が都合ええくらい。今はほんま、自由時間が嬉しいてしゃーない。離れられてせーせーするわ」

「あ、バージル叔父さん」

「え、バージル。もう、ええんって、ロイ。来てへんやんか!?」

「ちゃっかり見てるじゃん。ね、スヲン」

「見た。な、ランディ」

「ああ、確実にな」

「カナコってば、気にしちゃって可愛いねぇ」

「くそ、やられた。あんたら、からかうんならほんま出ていきや。可愛くないわ。まったく」


なんだかんだで仲が良いのか。
いつからの知り合いか知らないが、三人とカナコが普通に同じ空間にいることが、不思議で、意外。ロイはともかく、スヲンとランディですら顔見知り同然、言うなれば、それ以上の自然さでカナコと接している。


「三人は知り合いなの?」

「アヤちゃん、喋ったらアカン言うたやろ。口、縫い付けてまうで」

「……ぅ」


理不尽だと思いながらもパタパタ音をたてて塗られていくカナコの動作に、アヤも渋々口を閉ざす。
けれど、疑問に答えてくれる優しさはあるのか、カナコはアヤの肌と配合した液体の色を見比べながら「メイソンの」と、口を開いた。


「まだフリーで活動してたときに、縁あって、オーラル・メイソンコレクションのメイクやったことがあるんやわ。スヲンは、存在だけは知っとったけど。ロイとランディは、バージルと付き合ってから。といっても、三人とは数える程度の顔合わせやけどな。でも、まあ、毎日、バージルから話を聞いとったから、なんや、昔からの知り合いみたいな錯覚はあるわ。実際に会うたんは、アヤちゃんが日本に帰って来てからやで。一緒に付いてくるとか、どんなアホな男かと思ってたら、滅茶苦茶モテるてきい……」

「そうそう。ボクもバージル叔父さんから毎日カナコのことを聞いてたし、初対面なのに全然初めましての感じがしなかったんだよね」

「……ロイ。ほんま、ええ性格しとるわ」

「そんなに褒めないでよ、カナコ。バージル叔父さんとは、日本で運命的再会を果たしたのがきっかけなんでしょ。誰にも本気にならなかった二人が、国を飛び越えて一緒になるなんて素敵だよ。ね、アヤ?」


アヤの顔が、明らかにロマンスの匂いを嗅ぎとって、目を輝かせている。
間近でそれを眺めていたカナコは、女関連の話題から話を切り替えたロイの言葉に顔をひきつらせて、うなずけないアヤの肌を指でたたく。それを微笑みと共に見つめていたロイは、その雰囲気が無くならないうちに「で、バージル叔父さんは何してるの?」と再度カナコに話を促した。


「バージルは、なんや。どこぞのお嬢さんに掴まって、船内連れ回されてるわ。なんでも『私のロイ』ってやつを探してるらしいで?」

「あー、それでボクたちに八つ当たり?」

「ええ匂いしたお嬢さん。ここにも来たやろ?」

「いい匂い?」

「そんなやつ来たか?」

「さあ。俺たちが知る限りでは、アヤしかいないな」


突然、身内の前で口説くのはやめて欲しい。
わかりやすく顔を赤く染めたアヤを見つめる瞳は多種多様。たったひとり、カナコだけが「は?」みたいな顔をしていたが、それは当然の反応だろう。


「アヤは今まで出会った誰よりもいい匂いがするよ。ボクのストレスは、アヤを嗅げば一瞬で消えるし、アヤがそこにいるだけで、空気が浄化される」

「見ているだけでも癒しになる。アヤを閉じ込めたい気分にかられるのは、ロイだけじゃない」

「ああ。最高の女だ」


あれだけ駄々をこねて、仕事を理由に同室の権利を勝ち取ったにも関わらず、ロイたち三人は仕事をせずに、愛の言葉を投げつけてくる。結局、口実に過ぎなかったのが明白で、わかりやすい現実に、アヤの方が申し訳ない気分にかられた。「うちの彼氏たちがすみません」と、口に出来るならしておきたい。三人はどこから持ってきたのか、トランプで賭けを始めているし、その合間にカナコをからかうし、愛の言葉を投げてくる。アヤは痛む頭に気付かないふりをして、黙っていることしか出来なかった。


「あんたらは、いちいち口説かな生きていかれへんのか?」

「社長に比べたら俺たちなんて、全然可愛いものだと思うが?」

「だな。あれはところ構わずすぎて、聞いている方が恥ずかしかった」

「ランディはあまり言葉にするタイプじゃないから余計に冷めた目で見てたよな」

「そういうスヲンも呆れた態度だったじゃん。ねぇ、ランディ」

「一番はロイだろ?」

「だって、毎日、毎日。寝言までカナコ、カナコ、カナコ。悪魔に呪いをかけられたのかと思えるくらい酷かったんだよ。等身大パネルが家中にあったときの、あ、写真見る?」

「抱きついてキスしてたな」

「それは動画」


女子高生かと思うほどの盛り上りを見せる声を背後に、今度はカナコの顔が赤く染まる。無理もないとアヤも思う。
自分の知らないところで、それも遠く離れた異国で、等身大パネルに向かって口説く彼氏はあまり想像したくない。


「アホや思てたけど、ほんまアホやな」


口と同時に手も動かせるタイプのカナコが、小さく何かを呟きながら、刷毛で肌を塗りたくってくる。
施術されるアヤとしては、肌に当たるその強弱で、カナコの無言を真摯に受け止めるしかなかった。


「ねぇ、カナコ」

「今度はなんやの!?」


ロイの呼び掛けに振り返ったカナコの顔が、携帯のカメラに収まる音が聞こえてくる。それを素早くどこかへ送信したのか。軽快な音がしたと思ったら、またロイたち三人は顔を見合わせて楽しそうに笑っている。


「バージル叔父さんに、カナコの照れ顔をあげたら、もう少し頑張れるかもしれないでしょ?」

「……っこの、悪魔か!?」

「絶対の味方って、本当大事だよね」

「味方にすることやないし。ほんま、バージルのこと、あんまいじめたらんとって」

「やだなぁ。それじゃあ、ボクが悪魔みたいじゃん」

「せやからそう言ってるやろ。立派な耳は飾りか?」

「え、よく聞こえなかった。ねぇ、ランディ。カナコは何て言ったの?」

「ムチばかりじゃなくて、飴をやってくれだとさ」


トランプで何をしているのかは謎だが、テーブルにカードを投げ捨てながら談笑する三人をアヤは盗み見る。しかし、カナコの手がアイシャドウに取りかかったせいで、当然のように目を閉じるしかない。
仲がいいことはよくわかった。カナコの写真で、バージルがメリルを確保する時間が延びたことも悟った。そのせいで、カナコの動くスピードがあがった気がするのは、気のせいではないだろう。
アヤとしては、普段見ることのない彼らの一面を見ている気がして、もう少し眺めていたい気持ちもある。次に目を開けたそこに、レモンキャンディーを見つけるまで。


「飴といえば、アヤはこれ、好きだよね?」


三人に見つめられて下半身が疼く。
連想ゲームじゃあるまいし、瓶に入った黄色のキャンディーが持つ意味を浮かべるなんて、どうかしている。きっと、身体に染み付いているのだろう。
カナコは別の化粧品を探していて三人の顔は見ていない。それを横に感じながら、アヤはバレないように小さくひとつ頷いた。


「アヤ、可愛い」


にこりと笑ったロイが、見せつけるように瓶から飴を取り出して、指で摘まんだそれを舌先で軽く舐める。
下半身に力がこもったのは不可抗力。
リングをはめられた敏感な突起物が、自分もそうされたいと望んでいるのか。言い様のない熱が、じんじんとそこに溜まっていく。


「やっぱこっちの色やな、持ってきといてよかったわ……て、なんかあった?」


カナコの手が再び肌に触れるのをアヤはじっとやり過ごす。カナコに至っては仕事モードに切り替わったのか、真剣な目をしていた。どうやら化粧品を探している内に調子を取り戻したらしく「いま話しかけたら、その綺麗な顔にも粉、はたくで」と、カナコの声がロイたち三人を脅し返していた。
「はーい」と、だらけた返事をした三人だったが、意外にも、脅しが効いているのか、誰も何も喋らなくなった。
トランプの音と飴を舐める音が、静かな妄想を焚き付ける。
身体の熱はくすぶったまま。火をつけた彼らは、ひとつずつ、口の中でキャンディーを楽しんでいる。時折、見せつけるように舌先に乗せたレモンを出して、笑いかけてくる。意地悪しないでほしい。三人で仲良く視線だけで会話をしないでほしい。恥ずかしいから、やめてほしい。でも、やめないでほしい。
そうしてからかわれるのが、嬉しくて、むず痒くなる。


「見ていて飽きない。な、ロイ?」

「スヲン、悪い顔してるの隠しきれてないよ。ね、ランディ?」

「人のこと言えないだろ」

「そりゃ、だって。ねぇ?」


クスクスと囁きあうのをやめてほしい。顔が勝手に赤くなる。
カナコのメイクを施す音だけが、黙々と続く室内。
「血色が邪魔」と、わけのわからない怒りをぶつけられても、アヤ本人は、彼らの意味するものに下半身が悶えるのだから仕方がない。ここまでイタズラ好きな人たちだなんて知らなかった。でも、それを向けられるのが嬉しいだなんて言ったら、どんな顔をするだろう。
もっとしてほしいと、その歪んだ愛を向けてほしいと思ってしまう。
変態かもしれない。
それを喜ぶ彼氏たちで本当に良かった。


「肌質よーなったな、アヤちゃん」

「えっ、ほんと?」

「こら、喋るな。ほんで、動くな」

「そんな、理不尽…ッ…ん」

「えーから、黙って、じっとする」


首がもげそうな強さで矯正されたアヤは再度黙り込む。視界の端でまた笑われた気がしたが、それも込みであれば多少の気は紛れる。
本格的なメイクが何分で仕上がるのかは定かではないが、時計の針が三時半を示す頃には、アヤは別人のように仕上がっていた。さすが、プロ。そう言いたいのに、なぜか鏡を見るのを禁じられている。


「あんたらも遊んでんと、さっさと着替え。自分等で仕上げるんやったらかまへんけど」


カナコの声がトランプで遊ぶ三人を叱咤し始めた。何が始まるのか。「はーい」と、相変わらず間の抜けた返事をして、三人が服を脱いでいく。
それをじっと見つめていたのは不可抗力。
ロイに「アヤのエッチ」と微笑まれて、言葉につまる。ここ短時間で免疫がついたのか、それらのすべてを無視したカナコが筆を置く気配がした。


「アヤちゃん。はい、立って」

「え?」

「そのままの格好で出れんやろ。帯閉めて、総仕上げせな」

「総仕上げ?」

「ええから、言われた通りにする」


ずっと座っていたせいで、立ち上がりは若干、心もとない。しかも立ち上がったときに、体重で押し潰されていた淫角が、真珠と擦れあって、変な刺激を与えてきた。
声をあげなかっただけ、偉いと褒めて欲しい。
幸い、カナコはそれに気付くことなく、どこからか取り出した帯で腰回りを飾りつけ、最後にアヤの髪にかんざしを突き刺し、納得の息を吐いていた。
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