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プロローグ
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夕暮れ。誰もいない教室でひとり楽譜を開いた。今年の演奏曲「チンギス・ハーン~大いなる約束の大地~」中学校最後の曲。私たち3年生の曲。フルートのソロから始まるこの曲は広大なモンゴルの地を馬に乗り駆け抜けるチンギス・ハンを連想させる。吹奏楽部員なら一度は聞いたことがあるのではないだろうか。
トランペットを構える。思い切り息を吸い込む。広大な草原を思い浮かべる。この曲の見せ場の一つ。木管の主旋律の裏で金管が大きなフレーズを力強く豊かに演奏する約36小節。
ーやっぱり、ここでどうしても止まってしまう…ー
ここは曲の中でも特に印象を残す大切なところ。そして金管の中でもトランペットが特に頑張らなければいけないところ。そう思っていても、どうしても途中の高音で止まってしまう。遠くからはソプラノサックスの高音が聴こえてくる。気分転換にと窓を開けた。途端、風が一気に吹き込み楽譜のページがめくれた。
ページを戻そうと伸ばした手が止まった。「ミス・サイゴン」懐かしいその曲名に心が躍る。私が1年生の時の自由曲。私の大好きな曲。2年前はあそこで先輩が楽器の練習をしていたな。そんなことを呟きながら目を閉じて耳を澄ませる。聞こえてくるのは聴き慣れたフレーズ。聴き慣れた音。しかし、その中に先輩の音はない。少し寂しい気がして空を仰いだ。
コンクールはまだ先だ。でも、地域の演奏会は後一か月くらいに迫っていた。演奏会にはたくさんの中学校から吹奏楽部が集まる。中にはライバルとなる学校もあり、ここでどんな演奏をするかで今年のレベルが測られると言っても過言ではなかった。私の学校はほとんどが中学校から楽器を始めた人ばかりだが、ここ数年は毎年3コンクール全て金賞、毎年1つは代表をとるといったそこそこの実績と伝統がある。今まで先輩が築き上げてきたものを私たちの代で崩す訳にはいかなかった。
もう一度、目の前の楽譜を見る。あの頃から2年の月日が経った。あの頃引っ張ってくれた先輩はもういない。私がその役になるんだと心の中で繰り返す。
揺れたカーテンと4月の涼しい風が何故か入学したての頃を思い出させた。
トランペットを構える。思い切り息を吸い込む。広大な草原を思い浮かべる。この曲の見せ場の一つ。木管の主旋律の裏で金管が大きなフレーズを力強く豊かに演奏する約36小節。
ーやっぱり、ここでどうしても止まってしまう…ー
ここは曲の中でも特に印象を残す大切なところ。そして金管の中でもトランペットが特に頑張らなければいけないところ。そう思っていても、どうしても途中の高音で止まってしまう。遠くからはソプラノサックスの高音が聴こえてくる。気分転換にと窓を開けた。途端、風が一気に吹き込み楽譜のページがめくれた。
ページを戻そうと伸ばした手が止まった。「ミス・サイゴン」懐かしいその曲名に心が躍る。私が1年生の時の自由曲。私の大好きな曲。2年前はあそこで先輩が楽器の練習をしていたな。そんなことを呟きながら目を閉じて耳を澄ませる。聞こえてくるのは聴き慣れたフレーズ。聴き慣れた音。しかし、その中に先輩の音はない。少し寂しい気がして空を仰いだ。
コンクールはまだ先だ。でも、地域の演奏会は後一か月くらいに迫っていた。演奏会にはたくさんの中学校から吹奏楽部が集まる。中にはライバルとなる学校もあり、ここでどんな演奏をするかで今年のレベルが測られると言っても過言ではなかった。私の学校はほとんどが中学校から楽器を始めた人ばかりだが、ここ数年は毎年3コンクール全て金賞、毎年1つは代表をとるといったそこそこの実績と伝統がある。今まで先輩が築き上げてきたものを私たちの代で崩す訳にはいかなかった。
もう一度、目の前の楽譜を見る。あの頃から2年の月日が経った。あの頃引っ張ってくれた先輩はもういない。私がその役になるんだと心の中で繰り返す。
揺れたカーテンと4月の涼しい風が何故か入学したての頃を思い出させた。
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