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子供時代
No.7 知らない
しおりを挟む「ねぇ、ゴッダードさん、僕、サングラスをしなくてもいいの?」
「ああ、あんなもの、ただのガラスと同じだからな、着けなくても大して変わらない」
あれから僕は、お母さんにさよならをして、外に出た。お母さんは僕にお薬を塗ろうとしたけど、ゴッダードさんはお母さんのことなんか気にしないで僕を連れ出してしまった。
「それに、外はガラスを一枚挟んで見るより、自分の眼で見た方が綺麗だろ」
確かにそうだった。サングラスを着けずに見る外は、とってもキラキラしている。
「ねぇ、ゴッダードさん、あれ何?」
入口がなくて、吹き抜けになっている家。こんな家を見るのは初めてだった。
「店だよ、肉屋だ、あそこで肉を買う」
確かに良く見たら、赤ピンク色の大きい肉がぶら下がっている。
「あそこから、どうやって肉をもらうの?」
「貰うんじゃなくて、買うんだ」
そう言ってゴッダードさんはズボンのポケットから、丸くて平べったい、とてもキラキラしたものを出した。
「これはお金だ。これを渡すと、あの肉を貰うことが出来る」
付いてこい、と言って、ゴッダードさんはお店に近づいて行った。
「そこの右のが欲しいんだが、銀貨三枚でどれぐらい買える?」
「だいたいこれぐらいだな」
お店の人はそう言って、つる下げられている肉を切って、ゴッダードさんに渡した。
「ありがとう。美味しそうだ。ワインと一緒に食べるよ」
そういってお金を店の人に渡した。
「さぁ、行くぞ」
そう言ってゴッダードさんはさっさと進んでいく。
僕は返事をして、ゴッダードさんを追いかけた。ゴッダードさんは歩くのが速くて、僕は走らないと追いつけなかった。
ザクザクと、雪を踏む音が聞こえる。外で走るのは初めてで、風が僕を押してくれるみたいでとても楽しかった。
走っているうちに、自然とかぶりものが頭から外れた。すると、ゴッダードさんはすぐに僕の腕をつかんだ。
「外れないように気をつけろ」
そう言って、僕の頭に無理やりかぶりものを被せた。
「どうして?かぶりものを外していた方が気持ちいいよ?」
「お前の見た目を、怖いと思う人がいるんだ。忘れるな」
それだけで、僕は理解した。僕がかぶりものを被らなきゃいけないのは、僕が化け物みたいな見た目のせいで、全部、僕のせいなんだ。
僕は泣きそうになったけれど、ゴッダードさんは気にしないで進んでいくから、僕はついていくしかなかった。
「さあ、着いたぞ、後は好きにしてくれ」
ゴッダードさんの家に着いた。ゴッダードさんは、好きにしてくれと言ったけど、僕はそんな気分にはなれなかった。
僕は化け物。その言葉がずっと頭の中を回っていた。
「気分はどうだ?」
晩御飯の時、ゴッダードさんはそう聞いてきた。
「あんまりよくないよ」
「自分の見た目が気に入らないんだろう?」
僕は何も答えれなかった。
「だが、知れてよかっただろ、嘘を吐かれ続けて、気味が悪かったはずだ」
確かに気味が悪かった。でも、
「こんなことなら、知らなくてよかった」
僕の言ってることなんかお構いなしに、ゴッダードさんは話を続けた。
「いずれ知ることだった」
けど、今知らなくても良かったのに。
「知らなかったら、僕、何も知らないで、楽しかったのに」
「お前が聞いてきたんだ。どうしてサングラスを着けなきゃいけないのかって」
でも、こんなことを教えられるだなんて思ってなかった。
「受け入れるしかない。どうしようもないんだ」
そんなこと言われても、受け入れられない。
「この事実を知らぬまま生きても、早死にするだけだ」
「ねえ、ゴッダードさん。死ぬってなあに?」
この前は教えてくれなかったこと。冬の夜に外で寝たら死んでしまう。死ぬってことは悪いこと、でも死ぬって言うことが何なのか、僕は知らない。
「全て無くなることだ。楽しいことも、苦しいことも、全て、何もかもなくなること」
とっても単純で、とっても怖いことなんだなと、僕は思った。でも、僕には、死ぬことが魅力的に思えて仕方がなかった。
「ねえ僕、生まれたときからこうなの?」
「ああ、そうだ。生まれた瞬間から、誰のせいでもない。仕方のないことだ」
そうゴッダードさんが言ったのと同じに、僕は晩御飯を食べ終わった。
「生まれたときからこうなら、どうして僕を死なせてくれなかったの?死なせてくれれば、こんな思い、する必要なかったのに」
バンッっと、僕の頬から大きな音が鳴る。ゴッタードさんが僕の頬を叩いだみたいだ。ゴッダードさんは何も言わずに席を立って、部屋から出て行った。
初めて叩かれた頬は、じんわりとした痛みが広がっていた。
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