日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第四章『朝敵篇』

第七十九話『合流』 破

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 わたる達は階を上がって、小型の会議室へと入室した。
 高級ホテルに用意された会議室だけあって、広くはないが備品の全てに高級感があふれている。

えず、時間は今からもう入れますが、開始まではまだまだ時間がありますので、親交を深めちゃってください」

 びやくだんはあっけらかんとした調子で言ってのけた。
 つい先程、トラブルから一名が参加出来なくなったことなどお構い無しと行った様子だ。
 元々細かい事は気にしない大らかな彼女らしいといえばらしい。

「あ、さん、お久し振りです……」
「はい……」

 わたると、ロビーで出来なかった挨拶を交わした。
 すがに命のりを経てしまった今、どうしてもさが漂ってしまう。

「お元気そうで何よりです……」
さきもり様こそ……」

 まるで初対面の様に、会話がぎこちない。

「そうそう、昨日の夜なんですが、わたりと戦いましたよ」
「あ、そうなんですね。あの男も年貢の納め時という訳ですか……」
「出来れば生きて捕えたかったんですけどね」
「それはさきもり様に何が何でも生かそうという覚悟が足りなかったのではないですか? まあ、わたくしわたりに生かす価値など有ったとは到底思えませんが」

 の反応は少し、出会ったばかりの頃を思わせた。
 そういえば当初はわたるに対してこの様に辛辣な口当たりだった。

「そうかも知れませんね。所詮、ぼくの言うことは口先だけのれいごとに過ぎないのかも知れません……」
「口先だけでも言えることが大事なのよ」

 ことが会話に割って入ってきた。

「大事なことを胸にしつかり抱き、言葉にすることが出来る……。それは常に目指すべき目標が見えているということ。ならば今はつかめなくとも、いつかは辿たどく可能性がある。目指してさえいればね」
こと……」

 わたることの言葉に少し救われた気がした。

「現に、さきもり様は目標を掴んでもいたと思いますよ。わたくしの時には、断固たる覚悟で命を掴んで離しませんでした」
さん……」

 もまた、わたるを落ち込ませたかった訳では無かったらしい。
 ただ、死なせてもらえなかった身で一言とげを刺しておきたかったといったところか。
 そんなに対し、ことわたるの肩に手を置いて誇らしげに胸を張る。

「素敵でしょう、わたしの彼氏は?」
「ええ。放っておかない女性はさぞ多いことでしょう。うる様も、くれぐれも御用心くださいませ」
「御忠告有難う。でも、彼には確り首輪を掛けてあるから心配は無用よ」
「飼い主がそのつもりでも脱走してしまう犬は多いものですよ」

 ん?――わたることの間に妙な空気が流れていることに気が付いた。
 心做しか、二人の視線の交わりに火花が飛んでいる様な気がする。

「それならそれで、わたしに考えがあるので。ね、わたる?」
「え?」

 わたるは背筋に寒気を感じた。
 まだ残暑は充分だというのに、冷房が効きすぎているのだろうか。

「色男は大変ですねー」

 びやくだんはその様子をくつろぎながら見ていた。
 色恋沙汰の修羅場も他人事ならさぞ面白いのだろう。

 そんなこんなで、わたる達はつかの時を過ごした。

    ⦿

 時刻は十六時を迎えようとしていた。
 びやくだんが本題に入るべく、モニターの準備に取りかかる。
 この時間帯まで待った理由は、わたることに加えて二人の人物を合流させるためである。
 あぶしんは高校の授業を終え、まゆづきはフレックス制度を利用して会社を早退し、それぞれこの集まりに参加していた。

さーん、聞こえますかー?」

 びやくだんはマイクスピーカーに向けて呼び掛ける。
 会議室内の大型モニター画面にはきゅうの姿が映し出されていた。

『ああ、問題無い。ちらの音声は届いているか?』
「大丈夫でーす」
『では、始めよう』
「あ、その前に一つ。ちょっと一名、日本に来て早々体調を崩されまして、今は部屋で休んでもらっています。ので、その方以外の参加となります」

 びやくだんごくの欠席をオブラートに包んで伝えた。
 流石に、出会って早々トラブルを起こしてことに締められたとは言えなかったのだろう。
 わたるは苦笑いを浮かべ、ことは気不味そうに目を背ける。

『何だ、けか? まあ仕方が無い。後で内容を伝えておいてくれ』
「はいはーい」

 どうやらこの場はすことが出来たらしい。

て、ちらから見せたい映像がある。知ってのとおり、現在我が国とこうこくは停戦と講和に向けて和平交渉を行っているまっさいちゅうである。今回、こうこくから派遣されてきた使節は表向きその為の特使であり、我々の活動に御協力頂くのは両国に友好関係を締結する一巻であるということをく心得ていて欲しい。その上で、こうこくかたから平和を祈念してメッセージ、ことづてを頂いている。心して御覧頂きたい』

 画面の映像が切り替わった。
 びゆまんれいひらつじは、映し出された人物の姿に驚きの声を上げる。

「た、たつかみ殿下!? まさかたつかみ殿下がわたし達にことを!?」
「皇族が……すごい……。信じられない……」

 燃える様な赤い髪、りんとしたちの皇妹・たつかみがそこに居た。
 彼女は静かに語り始める。

『先ずは、たび両国の間に起きてしまった事態、痛惜と遺憾の意を表したい。開戦を避けられなかったが故に失われた貴国の命に対し、心よりの謝罪を申し上げる。全てはわらわの力が及ばなかったが故だ。申し訳無かった』

 頭を下げるたつかみの姿に、れいは仏頂面を見せていた。
 皇族が戦争相手国に見せる態度として納得がいかないのだろう。
 映像は続く。

『しかし、多くの犠牲の果てに事態は収束を迎えようとしている。それ自体は素直に歓迎したいところだが、一つ、両国には大きな懸念点が生まれてしまっている。こうこくから貴国へと逃れたはんぎやく勢力、そうせんたいおおかみきばのことだ。おおかみきばは三箇月程前、貴国より七名の民を不法に連れ去り、己が目的の為に使役すべく虐待染みた訓練に従事させ、死者すらも出すという蛮行に興じた。更に、先月の革命に敗れて貴国に逃げ込んでなお、目的の為に牙を研ぎ続けているだろう。おおかみきばは貴国の平穏を脅かす重大な社会不安になり得、またこうこくの統治及びこくたいを否定した重罪人だ。これを討伐することに、両国の利害が一致するのはろんたない。よって、早急な解決の為に四名の新華族令嬢を派遣することに決めた。四名はめいひのもとの指揮系統を守り、能く協力し合い、その才覚を役立てて欲しい』

 れいは互いに視線を合わせた。
 皇族からこう言われてしまっては、素直に日本国の指揮下に入らざるを得ない。
 常識の違うこうこく貴族が日本国で行動する上で、この念押しは必要なものだった。

『そしてもう一つ、この場を借りて二人の人物に伝えておきたいことがある。さきもりわたるうることきみ達のことだ』

 わたるは息をんだ。
 無論、心当たりはある。
 ことは先代じんのうを暗殺しようとし、それにってこうこくは彼のしんを失って大きな国難に見舞われた。
 そのことこうこくから逃がしたのはわたるで、そればかりか戦争ではいちじるしい戦果を挙げている。

 その末にこうこくで起きたのが先の革命動乱であり、たつかみはそれに因って父を始めとした多くの家族をうしなっている。
 わたることからすればそうするしか無かったとはいえ、こうこくで二人を何かと手助けしたたつかみの立場から見れば裏切られたも同然なのだ。

 わたるたつかみからの恨み言を覚悟した。
 こともまた、腹をくくった表情をしている。

『物事の道理で言えば、わらわきみ達のしたことをとがめる権利など無いだろう。こうこくが貴国に対し武力侵攻したことは事実で、きみ達はそれに対して国を守るべく可能な限りの抵抗をしたに過ぎない。一方で素直な感情としては、きみ達の行いによって最終的に三人の家族が喪われ、心がさざなみっていると認めざるを得ない。だがそれはきみ達とて同じだろう。むしろ感情の正当性はきみ達にこそ有ると言える。その上で、犠牲になったこうこく臣民にこそ寄り添うのが皇族としての在るべき姿であるし、そうしたいのがわらわの本心でもある。海を隔てた互いの国民感情はあまりにも複雑にこじれ、ほどくことは極めて困難となってしまった』

 画面に映るたつかみは眉根を寄せて硬く目を閉ざしていた。
 きつ、彼女の立場があまりにも多くのものをころさせているのだろう。
 しばし黙した後、たつかみおもむろに再び目を開けた。

『だが、わらわはそれでもきみ達と再び握手がしたい。全てをんだ上で、これからの両国、いては世界の為に共に歩めるようになりたい。無論、今はまだ難しいだろう。だが、いつか再びこの目できみ達とあいまみえる日を、心より待ち望んでいる』

 わたるは画面越しのたつかみに平和への揺るぎない信念と国を背負って立つ覚悟を見た。
 彼女もまた、家族を喪ったかなしみを背負っている。
 その上で、全てを呑み込んで友好の為に言葉を選び、伝えてきたのだ。

『では、両国の争いが一刻も早く終わることを切に祈り、結びの言葉としたい』

 映像はここで終わった。

『以上だ。たつかみ殿下も深い悲しみの中、よく我々に言葉と臣民を預けてくれた。心からの敬意を表したい』

 たつかみの言葉を受けてまとめた。
 おそらく、としても彼女の言葉で両国の人員を結束させることを狙ったのだろう。

『では前置きが長くなったが、いよいよ本題に入ろう』

 話はこの場に集まった者達に託された任務、そうせんたいおおかみきばの始末に移る。
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