日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第四章『朝敵篇』

第九十一話『迅雷』 序

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 そもそ何故なぜさきもりわたるあぶしんは二人して街中をろついていたのか。
 彼らが椿つばきようと接触したのは偶然だったのか。
 その答え合せは、同日の午前中にまでさかのぼる。
 丁度、椿つばきようずみふたと接触すべくかくを出た頃だ。

 電車を降り、あだ歩で大学へ向かっていたわたるに一本の電話が入った。
 きゆうからだ。

「もしもし、どうかしましたか?」
さきもり君、たった今匿名の通報が入った』
「通報?」
『手配写真に似た女が街中で誰か人を待っているらしい』

 から手配写真の女、と言われて思い当たるのは一人しか居ない。
 そうせんたいおおかみきばの関係者で指名手配された女は二人、はつしゆうはなたましゆりようДデーの娘・椿つばきようだ。
 はなの捜査は終了しているのだから、該当人物は椿つばきだけだ。

『具体的な場所はきみの大学から比較的近い。もしきみが良ければ、行ってくれないか? もちろん、強制はしない。もう大学の後期講義は始まっているだろうからな』
「いや、行きますよ。講師には特殊防衛課の事情で欠席の連絡を入れれば良いし、講義ノートは友達に見せてもらえますから」
『そうか、悪いな……。通報のあった場所は後で送る』
「ええ、お願いします」

 わたるとの電話を終えた。
 もしかすると、椿つばきように会えるかも知れない。

(そういえば、あぶ椿つばきやつに何かきたいことがあるって言ってたな……)

 わたるあぶしんにも情報を共有しておくことにした。
 ようを捕まえることが出来れば、彼と面会する場を設けても良いかも知れない。
 しかし、メッセージに対するしんの返信はわたるが思っていたより前のめりだった。

おれも行くぜ。場所を送ってくれ』

 わたるしんの反応に少しあきれた。
 彼も高校の二学期が既に始まっているはずだ。
 しかも、講義に空きコマがある大学と違って高校は今頃授業中だろう。

『行くって、お前学校はどうするんだよ?』
『授業中だろ?』

 返信はすぐだった。
 どうやら現在進行形でスマートフォンをいじっているらしい。

『一日くらいサボってもどうにかなるって』
『トイレに行くとか言って抜け出せばいい』

 わたるは溜息を吐いた。

(あいつ、真人間になるんじゃないのか……)

 わたるしんたしなめようとも思ったが、考えてみると自分も似た様な選択をしたと思い直した。
 ならば、彼に何か言う資格は無いかも知れない。

(いや、ぼくはちゃんと通すべき筋は通して正当な理由で休むんだからな。あいつとは違うって……。まあ、最終的にあいつの人生だから好きにすりゃ良いんだが……)

 えず、わたるから展開された通報の場所をしんにも展開した。
 くして二人は椿つばきようの捜索へ向かい、彼女と接触して特殊防衛課が本拠地としているホテルへと連れ帰ることになったのだ。



    ⦿⦿⦿



 一方、うることは街中をじゆうおうじんに駆け回っていた。
 駆け回る、といっても彼女が移動するのは地上ではない。
 都市部にいて、ことは建物から建物へと飛び移ることでてつもない速度を発揮する。
 それははや人間業ではないだろう。

「なんだあれ?」
くろひようかな?」
「物騒だな、熊だけじゃねえのかよ」

 目撃者のほとんどは、飛び回ることの姿を人間だとすら認識出来ない。
 猫科の大型動物か何かと誤認してしまう。
 とはいえ、彼女の速度は汎ゆる生物よりはるかにはやいわけで、その錯覚すらも形容として適切ではないだろう。

何処どこだ、何処に居る?)

 ことなりかまわず疾駆するのは、たった一人を一刻も早く見付け出すためだ。
 わたるしんようと昼食をっていた頃、研究室で卒業研究に取り掛かろうととしていた彼女にもまた一本の電話が入った。
 電話の相手はずみふたの番号だったが、聞こえてきたのは彼女の声では無かった。

『もしもし、うることさんかい? ぼくだよ、おとせいだ。一度会ったことがあるけど、覚えてくれているかな? この電話は一時的にぼくが預かっている。この意味がわかるなら、早く取りに来た方が良いんじゃないかな? ま、場所は教えてあげないけどね。精々必死いて探し回ると良いさ。じゃあ、一応待っているよ』

 しんえいたいてんのうの一人・おとせいは一方的にしやべった後、電話を切ってしまった。
 ことはすぐさま研究室を飛び出し、ふたの捜索へと向かったという訳だ。

おとせい、どういうつもり? わたしを呼び出して、何がしたい? ずみさんは無事なんだろうな!)

 今まで、彼女はこうやって幾度と無くわたるの危機を救ってきた。
 だがことわたるもとへ駆け付けることが出来たのは、都度強大な脅威を簡単に気取ることが出来た時だけだった。
 高校が占拠された時や、拉致が行われた時はことの手からこぼちてしまっている。
 危機の気配が弱かったからだ。

 今回もまた、ふたの身に迫る危機の気配はじんも感じられない。
 しかし一方で、おとの手にふたのスマートフォンがあるというのは明白にただごとではない。
 その不可解がことらせ、いらたせていた。


まずい、ずみさんの行方が全くわからない。このままじゃ……!)

 ことはスカイツリーの外壁を駆け上がる。
 地上六三四メートルの高さから、都心全体にを向けて探し出そうと考えたのだ。
 だが、その時だった。

うることだな」

 突如、ながやりを携えた偉丈夫がことに飛び掛かってきた。
 この男もまたスカイツリーの外壁を駆け上がってきたということになる。
 ことは空中でやりの柄をつかんで刺突を受け止める。

「お前は……!」
しんえいたいてんのうが一人、もんてんつきしろさく! 同志、ぞうじようてんおとせいへの義にりて、御相手つかまつる!」

 つきしろさくは空中で槍を手放し、身体をひねって胴回し蹴りを繰り出した。
 槍での戦いにこだわらない機転と、恐るべき運動能力のせる業である。
 しかし、ことには通用しない。

「邪魔をするな!」

 ことつきしろの足首を掴むと、そのまま勢い良く地面に向けて相手を投げ放った。

「ぬぅぅぅぅっっ!」

 つきしろの身体は地面に激しくたたけられ、落下点はれきつちぼこりと悲鳴が飛び交った。
 自らの攻撃で徒に被害を広げるのは、普段のことらしくない行いである。
 余程の焦りと苛立ちがあったのだろう。
 その彼女は、つきしろの落下点付近にゆっくりと着地する。

「悪いけれど、わたしは今すこぶる機嫌が悪い。痛い目に遭いたくなければ大人しくしていた方が身の為よ」
「ククク、それは出来ん相談だな……」

 土煙の中、つきしろの影がゆっくりと起き上がる。

わたしの役割は一秒でも長く貴様を足止めすること。つまり、貴様を邪魔しに参ったのだ」

 つきしろは再び長槍を携え、土煙の中からその姿をあらわした。
 そんな彼を、ことは冷たい眼でにらける。

「そ。なら、力尽くでお前を役立ててやるわ。お前にずみさんの居場所を吐かせれば手間が省けるものね。わたしの邪魔をするなんて、千年早いのよ」

 ことは構える。
 わたるしんようと接触する裏で、何やら不穏なたくらみがうごめいていた。



    ⦿⦿⦿



 びやくだんあげの運転する車でホテルの駐車場に到着したわたるしんに出迎えられた。

さきもり君、それとあぶ君も居るのか、御苦労だった」

 は二人の脇で思い詰めた表情を浮かべるようへと目をる。

椿つばきよう、話は聞いている。きみに色々と訊きたいことはあるが、何よりもずは弟のかげの居場所だ。一刻も早く彼を確保し、そうがんを投与しなければならない」
「ありがとうございます。どうか弟を頼みます」

 わたるしんは車内でに事情を伝達していた。
 はそれを受け、そうがんの小瓶をあらかじめ用意してくれていた。
 潜伏先を訊き出し次第すぐにでもどうじようかげもとへ向かい、投与する為だ。
 は小瓶から一錠を取り出し、先ずはようへとそれを手渡す。

「先にきみにもこれを飲んでもらう。きみのことも無力化しておかなければならないからな」
「解っています」

 ようそうがんを受け取り、口に入れようとした。
 しかし、その時だった。
 青白い稲光が二人の間をはしり抜け、錠剤と小瓶を焼き払ってしまった。

「うぐぁっ!!」
「何ぃっ!? しまった、そうがんが……!」

 ようはそれぞれ手にダメージを負い、胸に抱えてうつむく。
 稲光が奔り抜けた先には、激しい火花放電をまとった一人の青年が宙空へと昇っていく。

「グルルルルルル……!」

 うなごえを上げる青年が徐々にその全貌を現す。
 あおい雷光を纏うその姿は、まさしく渦中の青年そのものだった。

「グゥウウウ……うウグガァァァアアアアッ‼」

 正気を失ったどうじようかげが宙に浮かび、激しい火花放電と共に狂ったたけびを上げていた。
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