日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第四章『朝敵篇』

第九十一話『迅雷』 破

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 かげは宙空で苦しみをらす様に奇声を上げ、四方八方に火花を放電する。
 瞬間、ようが頭を抑えてその場にうずくまる。
 二人は距離が近いと、相手の放電に影響を受けてしまうのだ。

「大丈夫か、椿つばき!」

 わたるしんようもとへ慌てて駆け寄る。
 そんな二人を目掛けて、かげてのひらから雷光を放った。
 攻撃はわたるが生成した障壁に遮られて飛び散った。

「ウぅぅぁぁああああああッッ!!」

 しかし、再度の放電にようは悲鳴を上げてその場に倒れ伏してしまった。

「あいつ姉貴のことが見えてねえのかよ!」

 しんようかばう様にかがんでかげにらみ上げる。
 そんな彼の脇で、静かに前へ出たのはわたるだった。

あぶ、あいつは僕が止める。お前は椿つばきを安全な場所まで連れて行ってくれ」
さきもり……」

 しんようをそっと担ぎ上げた。

「成程な、確かにおれにはあいつの攻撃から身を守る方法がねえ。ここはお前に任せるのが正解だろうな」
「ああ。なるべく早く遠くへ行ってくれ」

 わたるの両手に光線砲ユニットが形成される。
 地上のわたると空中のかげ、二人の視線が交錯し、戦いの始まりに向けて空気をたかぶらせていく。
 そんな中、次の指示を出したのはだった。

びやくだんすめらぎ先生の事務所にわずかだがそうがんの予備が残っていたはずだ。あぶ君と椿つばきようを連れてを離れるついでにそれを取って来てくれ。あぶ君は移動中にまゆづき君に緊急連絡。仕事中に申し訳無いが、一刻も早くホテルへ来て裏側から入ってもらい、くも兄妹の護衛に付いてもらってくれ。後、ホテル内で余計なトラブルが起こらないよう新華族令嬢をとおどう様に抑えてもらわないとな。これはおれから要請する。済んだらおれさきもり君に加勢しよう。この一件、誰の差し金か大方察しが付いているからな」
「ええ、任せてください。びやくだんさん、二人を頼みます」
「わ、わかりました! さ、あぶさん車に乗ってください!」

 びやくだんの指示に従い、しんようを載せたワゴン車を急いで発車させた。
 ホテルの駐車場前にはわたる、そしてかげだけが残されている。

「返……セ……!」

 かげは呼吸をあららげながら辛うじて言葉を発した。
 焦点の合っていない赤い目がらんらんと輝き、皿の様に見開かれて怒気をいている。
 その有様は狂気をとうに通り越して乱心の域に至っていた。

「返セェェェ……!」
「何を言っているんだ、こいつ……?」

 かげの焦点がわたるに定められた。
 そして、叫び声と共にわたるに襲い掛かってくる。

「姉サンヲ返セェェェッッ!」

 かげは一瞬にしてわたるとの間合いを詰め、拳の連打を繰り出す。
 わたるはその猛攻を腕で防ぎながらあと退ずさる。
 決定打を食らうことは防げているが、ちらから反撃を繰り出す余裕は無い。

(こいつ……この武術は……!)

 わたるはこの手応えを知っている。
 そうせんたいおおかみきばとらわれて訓練を強いられていた一月足らずの期間、彼は仲間達との組み手を一通り経ていた。
 その相手には内通者だった椿つばきようも含まれている。
 かげが駆使する武術は、そのようと同じ椿つばきりゆうごうたいじゆつなのだ。

(だが、こいつ……!)

 ただ一つ、違うことがある。
 わたるかげの連撃を受け、それを痛感していた。

(こいつ、姉よりはるかに強い!)

 そう、かげ椿つばきりゆうごうたいじゆつようのそれよりもはるかに強力なのだ。
 まず単純に、男女の身体能力さが大きな要素として挙げられる。
 一発一発の攻撃のはやさと重さが姉弟間で段違いだ。
 そしてそれだけでなく、技の熟練度自体もかげの方が大きく積み上げられている。

 ようは武術を祖父の椿つばきはるあきから教わった。
 その目的は椿つばき男爵家のを前提とした護身である。
 故に、相手を積極的に打ち倒す術はそれ程磨かれていない。
 わば、武道家としての業の部分には踏み込んでいないのだ。

 対してかげは、父親のどうじようふとしから戦いの術としてたたまれている。
 革命戦士として役立たせるべく、かなり実践的な内容を深く身に付けさせられている。
 更に、精神の均衡を失う程に増幅されたしんりよりよくを大幅に強化している。
 今やかげの戦闘能力ははつしゆうわたりりんろうはなたまを優に超越し、六摂家当主などのこうこく有力貴族にも匹敵する水準にあるのだ。

(油断していたらられるレベルだ。それなのにこっちは……!)

 わたるは後跳びで距離を取った。
 一旦体勢を立て直す必要があると判断した。
 通常ならここで光線砲を撃ち、急所を貫けば勝利である。
 しかし、今のわたるにはそれが出来ない。

椿つばきにあんなことを聞かされたからな。こいつを殺してしまう訳にはいかないよな)

 わたるは光線砲の使用をかなり限定しなくてはならなかった。
 頭部や胴部を狙ってしまうと、かげを殺してしまう。
 撃つならば腕や足を狙って相手を無力化するにとどめなくてはならない。
 今まで命のりの中で力を付けてきたわたるにとって、この制約は大きかった。

(だがかく、やれることをやるしかない!)

 再び距離を詰めようとするかげ
 わたるは拳を向け、光線砲の照準をかげの肩口に合わせる。
 そして、相手が飛び掛かろうと隙をさらした瞬間に発射。
 見事に肩を撃ち抜き、かげひるませることに成功した。

「良し、この隙に!」

 今度は逆にわたるかげとの間合いを詰め、反撃に打って出ようと拳を構える。
 この場をしのぐには、うさぎに角かげを気絶させて無力化するしか無い。
 そのためには、慣れない格闘戦を挑むしか無いのだ。
 光線砲はあくまでその補助として、相手の拳を封じる為に使う。

 だが光線が貫いた筈のかげの肩からは傷口が消えている。
 かげはこの短時間の間に傷を修復し、逆にわたるの懐へと飛び込んで来た。

(もう治ったのか! まずい!)

 小柄なかげに間合いの内側へと潜り込まれると、わたるとしては極めてやりにくい。
 そしてかげには密着した間合いならではの強力な奥義がある。

ばっけんちゅうげき椿つばき

 細かく振るう拳と肘の、かんだん無き二連撃。
 衝突の際、拳の反作用力は肘によってそうさいされ、甚大な破壊力を生むという技だ。
 わたる鳩尾みぞおちに鉄球を叩き込まれた様な衝撃に襲われた。

「ぐはっ……!」

 たまらず上半身を屈めて血を吐くわたる
 しかしそんな彼に、かげの更なる奥義が容赦無く襲い掛かる。

ばくちゅうえっけんげきえのき

 両肩の関節を外し、上から後頭部目掛けて両腕で肘と拳の二連撃を叩き込む技だ。
 わたるは脳天に雷を落とされた様な衝撃を受け、視界に火花が飛ぶ感覚に襲われた。
 かげわたるの顔面に向けて更なる奥義を叩き込まんと足を振り上げている。

めるなァッ!」

 わたるとつに体当たりを繰り出し、片足で不安定になったかげを押し倒した。
 その状態から上体を起こし、馬乗りになってマウントを取ろうとする。

 だが危機を察したかげは脚を曲げてわたるの鳩尾を蹴り上げた。
 わたるの身体が宙に浮き、かげは反動を付けて勢い良く起き上がる。
 わたるは宙返りしてかげの背後に回り込み、光線砲を向けた。

(駄目だ!)

 わたるは咄嗟の反撃を止めた。
 無意識のうちに、仕留める動きをしてしまっていた。
 長らくどうしんたいを操縦し、死線をくぐけてきたわたるは、無意識下で命を奪おうとしてしまっていた。

(これじゃまずい、このままじゃ……!)

 わたるためいをかげは逃さない。
 逆にかげの方からわたるへ掌を向け、指先から火花を漏らす。
 遠距離からの放電に戦い方を切り替えたらしい。
 だが掌から雷光が放たれるかと思われた、その時だった。

「こっちにも居るぞ!」

 が横からかげの顔面に蹴りを見舞った。
 どうやらとおどうへの要請が終わり、加勢出来るようになったらしい。
 不意打ちに怯んだかげは二人から距離を取る。

「待たせたな、さきもり君。ここからは二人だ」

 わたるを加えた二人と、かげの戦い。
 流れは一気にちら側へ傾く――かに思われた。
 しかしその時、不気味な、それでいて聞き覚えのある声が響いてきた。

「それはずるいな。ならばかげにはぼくが加勢するとしようか……」

 の背後から小柄な男が現れた。
 その姿、特ににとっては忘れようも無い相手だ。

おと……やはり貴様の差し金か……!」
「そうだよ、きゆう。いい加減ぼく達のことを嗅ぎ回られるのもうつとうしいんでね、此処いらできみのことは始末してしまおうと思ったんだ。というわけで、きみぼくが御相手させてもらうよ」

 おと征一千は両手に弓と矢筒を形成する。

そうしんけずりゆみ

 おとから目を離せない隙に、かげが再びわたるに掌を向ける。
 かげすさまじい火花を散らす雷光の固まりがその手に生成した。
 再びわたるに向けて放電し、わたるに甚大なダメージを与えようとしているのか。

かげ、そっちの餓鬼は任せる。さあ、強化されたきみの圧倒的しんで調子に乗った凡夫を消し炭にしてやるが良い」

 おとは得意気にかげけしかけようとする。
 だが、わたるとて何度もやられっぱなしではない。

「グァッ……!?」
ぼくを舐めるなよ。確かに思ったよりも出来るんで驚いたが、勝てないかと言われたら全然そんなことはないんだよ」

 わたるは瞬時に光線砲をかげに向けて発射し、雷光を生成する腕を撃ち抜いていた。
 遠距離での撃ち合いならばわたるの領域だ。
 どうしんたいで数々の強敵を打ち破ってきたわたるにとって、かげの雷光に先を取るのはさほど難しいことではなかった。

「ゴオオオオッッ!!」

 今の攻防で影ともそれを悟ったのか、再び接近戦に持ち込もうと飛び掛かってきた。
 そんなかげを、わたるは光線砲で迎え撃つ。
 放たれた光の筋は、かげ蟀谷こめかみかすめて背後の空へとはしり抜けた。
 回避に成功したかげの戦闘勘は間違い無く一流の域に達しているだろう。

 しかし、わたるにとってこれは作戦通りだった。
 紙一重で光線砲をかわしたかげは、顔を動かす軌道上にわたるの拳が繰り出されていることに気が付かなかった。

「ラァッ!!」
「ガッ!?」

 反対側の蟀谷こめかみわたるの拳がさくれつした。
 堪らず怯んだかげの胸に、蹴りの追撃。
 驚いたかげ退いて距離を取っていた。

「はっきり言って、お前じゃぼくは殺せない。そうがんが届くまでに気絶させれば、おとたくらみも終わりだ、違うか?」

 わたるかげと向き合い、拳を構える。

さん、こいつら二人で一網打尽にしましょう。かげを救い、おとに引導を渡しましょう!」
「言われるまでもない」
「年齢二桁の餓鬼共が……。だが、ぼくがこの程度の対策をしないと思っているなら愚かだな。お前達は間違い無く絶望の扉を開くことになるというのに……」

 わたるおおかみきば二名、彼らの戦いは今、最終局面を迎えようとしていた。
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