61 / 297
第一章『脱出篇』
第十九話『惡の華』 急
しおりを挟む
彼は、生きているのか、死んだのか。
定かでない中、折野菱の意識だけが誰にも聞こえない独白を並べる。
……ムカついていた。
あの何とかって冊子を読み終えた時からだ。
そりゃあ、都合良く俺を攫って逃げるチャンスをくれたことは感謝すべきかも知れねえ。
だが、奴らは無法を働いておいて正義を自称する。
皇國の政府が良いのか悪いのかは知らねえ。
実際、この世界に顕れてから大概な事をやらかしているから、巨悪だとは思う。
だが、その巨悪と戦うなら自分はどんな事をしても正義でいられると思っているのか?
それとも、自分達は皇國に比べてちっぽけで弱いから?
悪の反対なら正義だなんて、そんな簡単な訳ねえだろうが、糞が。
善悪と強弱は全く別の概念だろうが、呆けが。
大体、「武装戦隊・狼ノ牙」って何だ?
自分たちを戦隊ヒーローだとでも思っているのか?
片腹痛えわ。
人間攫って戦闘員にしようとする悪の組織の癖しやがってよ。
悪は悪の自覚を持って、高らかに己の悪行を謳い上げてこそだ。
それも出来ねえ滓が、やれ義賊だ、抵抗者だ、弱者だ、被害者だと、悪以外の何かを装おうとする。
美学がねえよ。
だが、そんなことに拘る時点で、俺も悪としては半端者だったのかも知れない。
そう自分に言い聞かせないと、悪行に言い訳をしてしまいそうで怖かったのかも知れない。
自分はそこまで悪くないのではないかと、そんな思い込みに逃げてしまいそうで、恐ろしかったのかも知れない。
気を抜くとありもしない期待を抱いてしまう弱い人間だと、どこかで自覚していたのかも知れない。
虎駕憲進、あいつのことは嫌いだった。
あいつは俺のことを、最後まで「人殺し」とは呼ばなかった。
裁判で罪が確定するまではあくまで推定無罪だと、そう拘っていたんだろう。
俺自身、罪を否定しちゃいねえのにな。
どこまで真面目なんだか。
まあ、それがあいつの通すべき筋だってことだろう。
それと、岬守航、あいつもふざけた奴だ。
俺なんかさっさと棄てれば良いものを、日本に連れて帰ることに拘った。
本当に鬱陶しかった。
御望み通り行かなくて残念だったな、と、心の底から嗤ってやりてえ。
だがあいつは、それ以上に只者じゃない気がする。
あの巨大ロボットでいきなり戦闘し、自分が墜とされる前提の賭けに出るとは、正気じゃねえよ。
もしかしたら、遠くない未来に何かすげえことを成し遂げるのかもな。
まあ、俺にはもう関係ねえけどな。
そして、繭月百合菜、俺には貴女が眩しい。
貴女が何か、悍ましい物を胸に抱えていることはすぐに分かった。
貴女に比べれば、俺の内面など小者も良いところだったのかも知れない。
互いの胸の内、秘められた邪悪を比べたら、態々自分を悪だと意識しなければならなかった俺なんて、屹度吹けば飛ぶ様な存在だったのだろう。
自分の悪を確固たるものとする為に殺し・悪徳を積極的に重ねてきた俺なんて、屹度虫螻蛄の様に踏み潰される程度の存在だったのだろう。
これ、言い訳だな。
やっぱり俺は糞以下の存在だ。
美学なんて烏滸がましい。
そんな貴女が、俺とは違って真当な人間として生きていけることが、俺には心底眩しかった。
到底敵わないと思った。
貴女は俺の女神だったんだなあ……。
だから、貴女に不届きを働いた屋渡やモヒカンがムカついたのかも知れない。
確かに、さっさと虎駕の方を殺して逃げりゃ良かったよ。
……いや、多分俺はしなかっただろうな。
どういう訳か、あいつらを殺そうとは思えなかった。
岬守を屋渡から助けた時、椿を炙り出した時、墜落をどうにか回避した時、俺は自分でも能くやったと思った。
あの操縦席の球体を壊した時、最後にモヒカンをぶっ壊した時、俺がやらなきゃならねえと思った。
どうしてかな?
どうでも良いか。
所詮、俺はその程度の下らない存在だったということだ。
だが、俺は悪党として死ぬ。
最期まで人を殺して死ぬ。
小者なりに美学を貫けただろうか。
女神様に一矢でも報いられただろうか。
だからという訳じゃないが、繭月百合菜よ、貴女は貴女で、ずっと俺の女神でいてくれないか。
真当な人間のままで、眩しすぎる存在のままで、その人生を全うしてくれないか。
惚れ込んでいたよ、貴女に。
嗚呼、何だか自分が消えていく気がする。
本当に死ぬんだな。
……此処は何処だ?
女神様の腕の中か。
おかしいな。
人間、死ぬ時は漆黒の闇に墜ちていくものだと思っていたが。
……。
光り溢れて、眩しいなあ……。
⦿⦿⦿
⦿⦿
⦿
川の細流が沈黙に死別の音色を添えていた。
折野菱の死体を抱き抱える繭月百合菜、傍らに立ち尽くす虎駕憲進。
死んだ極悪人の顔に女の涙が零れ落ちる。
「この人ね、屋渡に酷くされた私を慰めてくれたの」
繭月はいつかの夕刻を思い出す。
処刑されかかった岬守航や、嬲り物にされた水徒端早辺子の陰に隠れてしまったが、彼女もまた屋渡に尊厳を踏み躙られた。
その傷に寄り添ったのが、今彼女の腕の中で眠る折野である。
「確かに、碌でもない人だったと思う。でも、この人のお陰で助かったこともあったよね」
虎駕憲進が何も言えないのは、こうなった原因は自分だという自責の念からだろうか。
自分に油断され無ければ、折野を解き放つ事も死なせる事も無かったかも知れない。
繭月は折野の目蓋を閉ざした。
彼女が立ち上がってから、虎駕は漸く思い口を開く。
「岬守が来たらすぐに出発しましょう。折野の死を無駄には出来ない。宿に着いたら此処で起きた全ての顛末を話す。そうして公的機関に処断を仰ぐ。それまでは、下手に現場を弄らない方が良いでしょう」
「そうね。死体遺棄になっちゃうかも」
「皇國の法律は分かりませんが、隠蔽を疑われるのは間違い無いでしょうね」
繭月は天を仰ぐ。
折野の最期の思いは、彼女に届いているのだろうか。
いつだったか、折野は「内面はどうあれ、真当に生きる人間は真当なのだ」と告げた。
繭月が折野の為に出来るのは、真当に生き続けることだろう。
「変かな? 私、この人のこと、そんなに嫌いじゃなかった」
「そういうこともあるでしょう。内面は人それぞれなんだから」
川の細流が遣る瀬なさの旋律を奏でていた。
⦿⦿⦿
雲野研究所の地下室に足を踏み入れた航は、驚くべき光景を目撃した。
混凝土詰めの部屋一面に、大量の花が狂い咲いている。
「なんだこりゃ?」
明らかに異様な光景だ。
花の咲き方は明らかに部屋と不釣り合いで、元からこうだったとは到底考えられない。
間違い無く、後から予定外に植え付けられたものだ。
「これは……まさか……」
航は茎を掻き分けて地下室の奥へと進む。
部屋の半ば程まで歩くと、二人の男がだらしのない半笑いを浮かべて仰向けに倒れていた。
「いざ……闘……わん……」
「我ーらがーもーのォー……」
どうやら、寝言で歌っているらしい。
原因はこの花だろうか。
「どうなってんだ?」
二人の命に別状は無さそうだ。
奇妙な姿が気になりはしたものの、航は先程の気掛かりを確かめる為に奥へと進んだ。
もし、この花が何らかの術識神為によって咲き乱れているとしたら……。
「あはははは、あはははははは」
笑い声が聞こえる。
航は最後の茎を掻き分け、地下室の最奥へと辿り着いた。
そこで待っていたのは、何処か浮き世離れした笑みを湛え、少女の様に朗らかな姿で舞い踊る久住双葉だった。
「く、久住さん!?」
「あ、岬守君」
双葉は困惑する航に気が付くと、普段の彼女からは想像も付かない蠱惑的な表情で近寄って来た。
「ねえ見て、岬守君、凄いでしょ?」
双葉は誇らしげに腕を振るい、辺り一面の花を見る様に促してきた。
まるで、立派な砂の城を作って見せびらかそうとする子供の様な振る舞いだった。
「これ、久住さんがやったの?」
「そうだよ。私、今とっても気分が良いの。とても力が溢れて、何だって出来そう!」
まるで美酒に酔いしれるかの様に妖艶な立ち振る舞いを見せる双葉の様子に戸惑う航は、周囲に原因を探る。
目に付くのは、壁際に二つ立て並べられた人間大のカプセルである。
大量の配管と電線が繋がれ、モニターと上下水に接続されたカプセルは、この場の全てを司るかの様な存在感を放っていた。
「これは……」
その時、航の脳裡に人の気配が閃いた。
どうやら、二つのカプセルの中に誰かが入れられている。
航は異様な気配を訝しんだ。
「そこに……誰か居るのか?」
航は何故カプセルに問い掛けてみようと思ったのか、自分でも分からない。
カプセルの中に人間が入っていたとして、声による意思の疎通など出来る様には見えない。
だがその予想に反して、何かが航の意識に直接反応を返す。
『居ます、此処に居るのです』
『来てくれてありがとう。僕達はずっと、誰かを待っていた』
同時に、二つのカプセルがゆっくりと扉を開いていく。
中にはそれぞれ小さく非常によく似た少年と少女が鎮座していた。
瞬間、航は自らの脳裡に記憶の本流が迸るのを感じた。
特に少年の方は、嘗て見たことがある気がする。
「桜色の……髪……?」
嘗て麗真魅琴の家で見た写真、そこに映っていた桜色の髪の少年。
その彼とそっくりな顔の少年と少女は、両目を開き徐に立ち上がった。
「初めまして。貴方は岬守航さん、其方は久住双葉さん?」
口を開いたのは少女の方だった。
「私は兎黄泉。此方は兄の幽鷹。男女ですが、元は同じ遺伝子から生まれた双子なのです。この『雲野研究所』で生まれた、雲野幽鷹と雲野兎黄泉……」
異様な双子の兄妹は、事態を上手く呑み込めない航の許へゆっくりと歩み寄って来た。
定かでない中、折野菱の意識だけが誰にも聞こえない独白を並べる。
……ムカついていた。
あの何とかって冊子を読み終えた時からだ。
そりゃあ、都合良く俺を攫って逃げるチャンスをくれたことは感謝すべきかも知れねえ。
だが、奴らは無法を働いておいて正義を自称する。
皇國の政府が良いのか悪いのかは知らねえ。
実際、この世界に顕れてから大概な事をやらかしているから、巨悪だとは思う。
だが、その巨悪と戦うなら自分はどんな事をしても正義でいられると思っているのか?
それとも、自分達は皇國に比べてちっぽけで弱いから?
悪の反対なら正義だなんて、そんな簡単な訳ねえだろうが、糞が。
善悪と強弱は全く別の概念だろうが、呆けが。
大体、「武装戦隊・狼ノ牙」って何だ?
自分たちを戦隊ヒーローだとでも思っているのか?
片腹痛えわ。
人間攫って戦闘員にしようとする悪の組織の癖しやがってよ。
悪は悪の自覚を持って、高らかに己の悪行を謳い上げてこそだ。
それも出来ねえ滓が、やれ義賊だ、抵抗者だ、弱者だ、被害者だと、悪以外の何かを装おうとする。
美学がねえよ。
だが、そんなことに拘る時点で、俺も悪としては半端者だったのかも知れない。
そう自分に言い聞かせないと、悪行に言い訳をしてしまいそうで怖かったのかも知れない。
自分はそこまで悪くないのではないかと、そんな思い込みに逃げてしまいそうで、恐ろしかったのかも知れない。
気を抜くとありもしない期待を抱いてしまう弱い人間だと、どこかで自覚していたのかも知れない。
虎駕憲進、あいつのことは嫌いだった。
あいつは俺のことを、最後まで「人殺し」とは呼ばなかった。
裁判で罪が確定するまではあくまで推定無罪だと、そう拘っていたんだろう。
俺自身、罪を否定しちゃいねえのにな。
どこまで真面目なんだか。
まあ、それがあいつの通すべき筋だってことだろう。
それと、岬守航、あいつもふざけた奴だ。
俺なんかさっさと棄てれば良いものを、日本に連れて帰ることに拘った。
本当に鬱陶しかった。
御望み通り行かなくて残念だったな、と、心の底から嗤ってやりてえ。
だがあいつは、それ以上に只者じゃない気がする。
あの巨大ロボットでいきなり戦闘し、自分が墜とされる前提の賭けに出るとは、正気じゃねえよ。
もしかしたら、遠くない未来に何かすげえことを成し遂げるのかもな。
まあ、俺にはもう関係ねえけどな。
そして、繭月百合菜、俺には貴女が眩しい。
貴女が何か、悍ましい物を胸に抱えていることはすぐに分かった。
貴女に比べれば、俺の内面など小者も良いところだったのかも知れない。
互いの胸の内、秘められた邪悪を比べたら、態々自分を悪だと意識しなければならなかった俺なんて、屹度吹けば飛ぶ様な存在だったのだろう。
自分の悪を確固たるものとする為に殺し・悪徳を積極的に重ねてきた俺なんて、屹度虫螻蛄の様に踏み潰される程度の存在だったのだろう。
これ、言い訳だな。
やっぱり俺は糞以下の存在だ。
美学なんて烏滸がましい。
そんな貴女が、俺とは違って真当な人間として生きていけることが、俺には心底眩しかった。
到底敵わないと思った。
貴女は俺の女神だったんだなあ……。
だから、貴女に不届きを働いた屋渡やモヒカンがムカついたのかも知れない。
確かに、さっさと虎駕の方を殺して逃げりゃ良かったよ。
……いや、多分俺はしなかっただろうな。
どういう訳か、あいつらを殺そうとは思えなかった。
岬守を屋渡から助けた時、椿を炙り出した時、墜落をどうにか回避した時、俺は自分でも能くやったと思った。
あの操縦席の球体を壊した時、最後にモヒカンをぶっ壊した時、俺がやらなきゃならねえと思った。
どうしてかな?
どうでも良いか。
所詮、俺はその程度の下らない存在だったということだ。
だが、俺は悪党として死ぬ。
最期まで人を殺して死ぬ。
小者なりに美学を貫けただろうか。
女神様に一矢でも報いられただろうか。
だからという訳じゃないが、繭月百合菜よ、貴女は貴女で、ずっと俺の女神でいてくれないか。
真当な人間のままで、眩しすぎる存在のままで、その人生を全うしてくれないか。
惚れ込んでいたよ、貴女に。
嗚呼、何だか自分が消えていく気がする。
本当に死ぬんだな。
……此処は何処だ?
女神様の腕の中か。
おかしいな。
人間、死ぬ時は漆黒の闇に墜ちていくものだと思っていたが。
……。
光り溢れて、眩しいなあ……。
⦿⦿⦿
⦿⦿
⦿
川の細流が沈黙に死別の音色を添えていた。
折野菱の死体を抱き抱える繭月百合菜、傍らに立ち尽くす虎駕憲進。
死んだ極悪人の顔に女の涙が零れ落ちる。
「この人ね、屋渡に酷くされた私を慰めてくれたの」
繭月はいつかの夕刻を思い出す。
処刑されかかった岬守航や、嬲り物にされた水徒端早辺子の陰に隠れてしまったが、彼女もまた屋渡に尊厳を踏み躙られた。
その傷に寄り添ったのが、今彼女の腕の中で眠る折野である。
「確かに、碌でもない人だったと思う。でも、この人のお陰で助かったこともあったよね」
虎駕憲進が何も言えないのは、こうなった原因は自分だという自責の念からだろうか。
自分に油断され無ければ、折野を解き放つ事も死なせる事も無かったかも知れない。
繭月は折野の目蓋を閉ざした。
彼女が立ち上がってから、虎駕は漸く思い口を開く。
「岬守が来たらすぐに出発しましょう。折野の死を無駄には出来ない。宿に着いたら此処で起きた全ての顛末を話す。そうして公的機関に処断を仰ぐ。それまでは、下手に現場を弄らない方が良いでしょう」
「そうね。死体遺棄になっちゃうかも」
「皇國の法律は分かりませんが、隠蔽を疑われるのは間違い無いでしょうね」
繭月は天を仰ぐ。
折野の最期の思いは、彼女に届いているのだろうか。
いつだったか、折野は「内面はどうあれ、真当に生きる人間は真当なのだ」と告げた。
繭月が折野の為に出来るのは、真当に生き続けることだろう。
「変かな? 私、この人のこと、そんなに嫌いじゃなかった」
「そういうこともあるでしょう。内面は人それぞれなんだから」
川の細流が遣る瀬なさの旋律を奏でていた。
⦿⦿⦿
雲野研究所の地下室に足を踏み入れた航は、驚くべき光景を目撃した。
混凝土詰めの部屋一面に、大量の花が狂い咲いている。
「なんだこりゃ?」
明らかに異様な光景だ。
花の咲き方は明らかに部屋と不釣り合いで、元からこうだったとは到底考えられない。
間違い無く、後から予定外に植え付けられたものだ。
「これは……まさか……」
航は茎を掻き分けて地下室の奥へと進む。
部屋の半ば程まで歩くと、二人の男がだらしのない半笑いを浮かべて仰向けに倒れていた。
「いざ……闘……わん……」
「我ーらがーもーのォー……」
どうやら、寝言で歌っているらしい。
原因はこの花だろうか。
「どうなってんだ?」
二人の命に別状は無さそうだ。
奇妙な姿が気になりはしたものの、航は先程の気掛かりを確かめる為に奥へと進んだ。
もし、この花が何らかの術識神為によって咲き乱れているとしたら……。
「あはははは、あはははははは」
笑い声が聞こえる。
航は最後の茎を掻き分け、地下室の最奥へと辿り着いた。
そこで待っていたのは、何処か浮き世離れした笑みを湛え、少女の様に朗らかな姿で舞い踊る久住双葉だった。
「く、久住さん!?」
「あ、岬守君」
双葉は困惑する航に気が付くと、普段の彼女からは想像も付かない蠱惑的な表情で近寄って来た。
「ねえ見て、岬守君、凄いでしょ?」
双葉は誇らしげに腕を振るい、辺り一面の花を見る様に促してきた。
まるで、立派な砂の城を作って見せびらかそうとする子供の様な振る舞いだった。
「これ、久住さんがやったの?」
「そうだよ。私、今とっても気分が良いの。とても力が溢れて、何だって出来そう!」
まるで美酒に酔いしれるかの様に妖艶な立ち振る舞いを見せる双葉の様子に戸惑う航は、周囲に原因を探る。
目に付くのは、壁際に二つ立て並べられた人間大のカプセルである。
大量の配管と電線が繋がれ、モニターと上下水に接続されたカプセルは、この場の全てを司るかの様な存在感を放っていた。
「これは……」
その時、航の脳裡に人の気配が閃いた。
どうやら、二つのカプセルの中に誰かが入れられている。
航は異様な気配を訝しんだ。
「そこに……誰か居るのか?」
航は何故カプセルに問い掛けてみようと思ったのか、自分でも分からない。
カプセルの中に人間が入っていたとして、声による意思の疎通など出来る様には見えない。
だがその予想に反して、何かが航の意識に直接反応を返す。
『居ます、此処に居るのです』
『来てくれてありがとう。僕達はずっと、誰かを待っていた』
同時に、二つのカプセルがゆっくりと扉を開いていく。
中にはそれぞれ小さく非常によく似た少年と少女が鎮座していた。
瞬間、航は自らの脳裡に記憶の本流が迸るのを感じた。
特に少年の方は、嘗て見たことがある気がする。
「桜色の……髪……?」
嘗て麗真魅琴の家で見た写真、そこに映っていた桜色の髪の少年。
その彼とそっくりな顔の少年と少女は、両目を開き徐に立ち上がった。
「初めまして。貴方は岬守航さん、其方は久住双葉さん?」
口を開いたのは少女の方だった。
「私は兎黄泉。此方は兄の幽鷹。男女ですが、元は同じ遺伝子から生まれた双子なのです。この『雲野研究所』で生まれた、雲野幽鷹と雲野兎黄泉……」
異様な双子の兄妹は、事態を上手く呑み込めない航の許へゆっくりと歩み寄って来た。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる