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第二章『神皇篇』
第二十九話『色魔』 急
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勝負は付いた。
航が放った最後の光線砲は、鷹番の股間を焼きながら一直線に駆け抜けた。
その多大な苦痛に、鷹番は立ち上がることが出来ない。
「わ、私のっ……! 私のがァッ……!? うぐぉぉぉっ……!」
これはまさに象徴的敗北である。
鷹番が焼き払われたのは、強者としての自負の根源に他ならない。
尤も、彼の身に付けた能力ならば再生することも可能だろう。
だが、性器という急所を欠損するダメージが神為に与える影響、消耗は甚大である。
「おの……れぇ……!」
鷹番は涙目で歯を食い縛り、惨めに地面を這いずっている。
それは敗者、負け犬の姿に他ならなかった。
しかし一方、航とて無事ではない。
止めの一撃を放つ一瞬とはいえ、航は鷹番のバックルを掴み、体に触れたのだ。
大幅な筋力低下は避けられない。
航は自分の体を支えていられず、その場に倒れ込んだ。
そんな航の様子を、鷹番は片目を開けて憎々しげに見ている。
「よくも……下賤で軟弱な雑魚雄の分際で……!」
鷹番は腕を伸ばして航の体を掴もうとする。
航は動けない。
この状態でも首を絞めればまだ逆転はある。
しかし、鷹番はもう一人の存在を忘れていた。
「見苦しい」
「ぐぇっ!?」
鷹番の手を魅琴が踏み躙った。
酷く冷たい眼で、地べたに這いつくばる敗者を見下ろしている。
「負け犬の分際で往生際が悪いのよ。身の程を弁えなさい、この雑魚雄が」
「ぐッ……」
魅琴は「フン」と鼻を鳴らすと、今度は航に肩を貸して立ち上がる。
「や、やあ。参ったな、全然動けないや。結局情けない姿を見せてしまったね」
「何を言っているの? 微塵もそんなことないわ。格好良かったわよ」
魅琴は嬉しそうに微笑みを浮かべ、勝者を称えた。
そして靴を脱ぐと、足の指で鷹番の髪を掴み上げる。
航との扱いの違いから、鷹番の顔がこの上無い屈辱に歪んでいた。
「どれ程優れた能力を持っていようと、舐めプしている内に使いもせずに負けるなんて間抜けなだけね。所詮お前は能力に感けた愚物」
魅琴はそのまま鷹番を立ち上がらせた。
恐るべきは、何秒も鷹番に触れたにも拘わらず七十瓩の航を背負いながら百瓩近い鷹番の体を脚で持ち上げてI字バランスの体勢を取れるという、驚異的な膂力・体幹・柔軟性である。
(やっぱりとんでもないな、こいつ……)
航は改めて魅琴の次元の違う強さを実感し、軽く気後れを覚えた。
立たされた鷹番はまだ顔を顰めている。
「ば、化け物が……!」
「嫌だわ、この程度で化け物だなんて。お前が口程にも無いだけでしょう」
いや、それは無い――航はそう魅琴にツッコんだが、口には出さなかった。
何やら魅琴の声は弾んでおり、興を削ぎたくないと思った。
僅かに嗜虐的な愉悦を覗かせる魅琴。
もしも自分が鷹番の立場だったら――そう考えると、背筋がゾクゾクとしてしまう。
魅琴は鷹番から足を離し、手で胸倉を掴んで微笑む。
「もしも航がこうやって胸倉を掴んで光線を撃っていたら、お前は今頃心臓を撃ち抜かれて死んでいる。そんな航の慈悲に免じて、今回だけは見逃してあげるわ。但し、次に会ったら今度は私が相手をしてあげる。その時は覚悟しなさいね。一方的に終始ボッコボコにして、泣こうが喚こうが許してあげない。這い蹲って命乞いをしようが笑って流し、死してなお魂が傷の痛みに呻き続けるような生き地獄を味わわせてから、きっちり本当の地獄へ送ってあげるわ。それでも良いならどうぞまたいらっしゃい」
魅琴の手が鷹番のシャツを厳く締め上げる。
凄まじいまでの膂力を体感した鷹番は奥歯をガタガタと震わせ始めた。
そんな鷹番に魅琴はわざとらしく笑い掛けると、そのまま片腕で空の彼方へと放り投げた。
「ええ……」
冗談の様な力に、航は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
「と、飛んだな……。あの高さ、落ちたら普通に死ぬんじゃ……」
「気絶していないなら神為は多少残っているわ。落下の衝撃で気を失って暫く再起は出来なくなると思うけれど、命に別状は無いでしょう」
「ていうか、僕が戦った意味無くない?」
「あら、今頃気付いたの?」
抑も、最初から魅琴に負ける要素は無かったように思われる。
航と鷹番の戦いになったのは、勝手に航が割り込んだだけの理由だ。
そして航は鷹番によって筋力を低下させられ、今では全く動けなくなっている。
「助けてくれれば良かったじゃないか」
「ふふ、だって見たかったんだもの」
「なんだよそれ」
「御想像にお任せするわ。精々好き勝手に妄想しなさい」
思わせ振りな魅琴の言い草だが、航は悪い気がしなかった。
魅琴に揶揄われるのはいつものことだ。
寧ろ平常運転に戻った嬉しさがあった。
しかし、航は同時に一つやらかしたことに気付いていなかった。
「ところで航……さっきから私の背中に硬いのが当たるんだけれど、これは何?」
「え? あ……、げっ……!」
航の頭から血の気が引いた。
魅琴からの評価が上げ止まり、急落していくのが手に取る様に分かる。
「ごめん……」
「あら、何を謝っているの? どういうことか訊いているのよ? 質問に答えてほしいわね。ま、答えに依っては今後の付き合い方を考えることになるけれど」
意地悪く問い詰められ、更に逃げ道も塞がれた航は必死に言い訳を考える。
魅琴の何がこの様な反応を呼んだのか、その真実だけは決して悟られてはいけない。
「あの……近くで良い匂いがしたものだから……つい……」
シャワー室にあった女性用シャンプーのことを思い出した航は、多少は普通の男にありがちな答えを咄嗟に導き出した。
下品で最低なことは確かだが、それでも魅琴の見せた嗜虐性の片鱗に興奮したと素直に言うよりはマシである。
(この性癖がバレたらマジで終わる。絶対に生涯隠し通さないと……)
航はそう胸に固く誓った。
だが、魅琴にとっては知る由も無く、そしてどうでも良いことだ。
呆れと軽蔑を隠そうともしない、露骨な溜息を吐いた。
「折角ここ数日で大いに見直したのに……今は逆に見損ないそうだわ」
「ごめんって……」
「全く……担いであげないといけないのがムカつくわ。さっさと戻りましょう」
「いや、別にゆっくりでも良いんじゃないかな?」
「あ? 何か言った?」
「いえ、何でも御座いません……」
「さ、ビルの地下に戻ったら貴方に相応しい地べたに降ろしてしまいましょうね、雑魚雄の航君」
しょぼくれる航を背負い、魅琴は一先ず潜伏していた工事中のビルへと戻っていった。
明日の早朝まではまだ余裕がある。
それまで休み、筋力の回復を図るのだ。
⦿⦿⦿
栃樹州は山岳地帯、鷹番は航達から遠く離れた山の中腹で目を覚ました。
「うぅ……」
山肌には大きなクレーターが出来ており、その中心に埋まっている彼が衝突した強さ、即ち投げ飛ばされた力の凄まじさを物語っている。
鷹番は指一本動かせない。
全身を骨折し、尽き果てた神為による恢復を待たなければならない状況だ。
「目が覚めたようですね、鷹番様」
鷹番の耳にどこか覚えがある、男とも女ともつかない声が聞こえてきた。
クレーターの中でも一際深く埋まった彼を、何者かが見下ろしている。
(誰……だ……?)
逆光で、鷹番からは顔が能く見えない。
その時、鷹番の腹に僅かな重みが加わった。
「天下の六摂家当主、公爵・鷹番夜朗様もこうなってはお終いだ。この時を長年待ち望んでいましたよ」
「な、何をする? 何をするつもりだ!?」
「何って、この地を鷹番様の墓場にして差し上げるのです。山一つを墓標とするなんて、まるで古代の帝の様ではありませんか。皇別摂家でなくなった鷹番公爵家の当主としては、少々大袈裟かも知れませんね」
人影はそう言うと、鷹番の上にせっせと何かを落としていく。
鷹番は自分の状況を察し、背筋に冷たいものを感じた。
人影が落としているのは土砂、つまり鷹番は埋められようとしているのだ。
神為が尽きたこの状況で生き埋めになると到底助からない。
「ま、待て! やめろ、何が望みだ? そうだ、金ならいくらでも出す! それとも女か? 何人でも譲ってやるぞ?」
「女が欲しいか、ですって? 鷹番様、この私にそんなことを仰るのですか?」
その瞬間、一瞬雲が陰となって逆光が弱まった。
鷹番は自身を生き埋めにしようとしている人物の顔に見覚えがあった。
「お、お前は……!」
「お久し振りです、鷹番様。嘗ては逞しい貴方様に愛しい妻の有姫様を寝取っていただき、その上直々に犯して雌にしていただいた逸見樹ですよ。今は有難くも武装戦隊・狼ノ牙に拾っていただき、最高幹部『八卦衆』の地位を賜っております。貴方様もよく御存知の私の能力で、無力になった懐かしい御方を見付けて、喜びの余り馳せ参じた次第です」
逸見樹――別の世界線に於ける日本に財閥の御曹司として生まれ、財力に物を言わせて横暴な生き方をしていたが、祖国が皇國に吸収されたことで落魄れてしまい、鷹番に雌にされて奴隷にされて、女装男娼として体を売るよう強要され、最終的には捨てられてしまった男である。
「母なる大地に、抱かれる者の気持ちを教えてもらうと良いですよ」
逸見は恨み骨髄に徹すといった様子で土砂を鷹番に掛ける。
「待て! 待ってくれ! 解った! 私が悪かった! あいや、私が悪う御座いました! 鷹番家の全財産を以て償っても構いません! ですからどうかおやめください! お助けくばふぁっ!?」
土砂が鷹番の顔に掛かった。
ここから先は、声にならない叫びをモゴモゴと口籠もることしか出来ない。
六摂家の一角を担う鷹番公爵家の当主・鷹番夜朗は斯くも悲惨な末路を辿り、二度と這い上がってくることは無かった。
航が放った最後の光線砲は、鷹番の股間を焼きながら一直線に駆け抜けた。
その多大な苦痛に、鷹番は立ち上がることが出来ない。
「わ、私のっ……! 私のがァッ……!? うぐぉぉぉっ……!」
これはまさに象徴的敗北である。
鷹番が焼き払われたのは、強者としての自負の根源に他ならない。
尤も、彼の身に付けた能力ならば再生することも可能だろう。
だが、性器という急所を欠損するダメージが神為に与える影響、消耗は甚大である。
「おの……れぇ……!」
鷹番は涙目で歯を食い縛り、惨めに地面を這いずっている。
それは敗者、負け犬の姿に他ならなかった。
しかし一方、航とて無事ではない。
止めの一撃を放つ一瞬とはいえ、航は鷹番のバックルを掴み、体に触れたのだ。
大幅な筋力低下は避けられない。
航は自分の体を支えていられず、その場に倒れ込んだ。
そんな航の様子を、鷹番は片目を開けて憎々しげに見ている。
「よくも……下賤で軟弱な雑魚雄の分際で……!」
鷹番は腕を伸ばして航の体を掴もうとする。
航は動けない。
この状態でも首を絞めればまだ逆転はある。
しかし、鷹番はもう一人の存在を忘れていた。
「見苦しい」
「ぐぇっ!?」
鷹番の手を魅琴が踏み躙った。
酷く冷たい眼で、地べたに這いつくばる敗者を見下ろしている。
「負け犬の分際で往生際が悪いのよ。身の程を弁えなさい、この雑魚雄が」
「ぐッ……」
魅琴は「フン」と鼻を鳴らすと、今度は航に肩を貸して立ち上がる。
「や、やあ。参ったな、全然動けないや。結局情けない姿を見せてしまったね」
「何を言っているの? 微塵もそんなことないわ。格好良かったわよ」
魅琴は嬉しそうに微笑みを浮かべ、勝者を称えた。
そして靴を脱ぐと、足の指で鷹番の髪を掴み上げる。
航との扱いの違いから、鷹番の顔がこの上無い屈辱に歪んでいた。
「どれ程優れた能力を持っていようと、舐めプしている内に使いもせずに負けるなんて間抜けなだけね。所詮お前は能力に感けた愚物」
魅琴はそのまま鷹番を立ち上がらせた。
恐るべきは、何秒も鷹番に触れたにも拘わらず七十瓩の航を背負いながら百瓩近い鷹番の体を脚で持ち上げてI字バランスの体勢を取れるという、驚異的な膂力・体幹・柔軟性である。
(やっぱりとんでもないな、こいつ……)
航は改めて魅琴の次元の違う強さを実感し、軽く気後れを覚えた。
立たされた鷹番はまだ顔を顰めている。
「ば、化け物が……!」
「嫌だわ、この程度で化け物だなんて。お前が口程にも無いだけでしょう」
いや、それは無い――航はそう魅琴にツッコんだが、口には出さなかった。
何やら魅琴の声は弾んでおり、興を削ぎたくないと思った。
僅かに嗜虐的な愉悦を覗かせる魅琴。
もしも自分が鷹番の立場だったら――そう考えると、背筋がゾクゾクとしてしまう。
魅琴は鷹番から足を離し、手で胸倉を掴んで微笑む。
「もしも航がこうやって胸倉を掴んで光線を撃っていたら、お前は今頃心臓を撃ち抜かれて死んでいる。そんな航の慈悲に免じて、今回だけは見逃してあげるわ。但し、次に会ったら今度は私が相手をしてあげる。その時は覚悟しなさいね。一方的に終始ボッコボコにして、泣こうが喚こうが許してあげない。這い蹲って命乞いをしようが笑って流し、死してなお魂が傷の痛みに呻き続けるような生き地獄を味わわせてから、きっちり本当の地獄へ送ってあげるわ。それでも良いならどうぞまたいらっしゃい」
魅琴の手が鷹番のシャツを厳く締め上げる。
凄まじいまでの膂力を体感した鷹番は奥歯をガタガタと震わせ始めた。
そんな鷹番に魅琴はわざとらしく笑い掛けると、そのまま片腕で空の彼方へと放り投げた。
「ええ……」
冗談の様な力に、航は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
「と、飛んだな……。あの高さ、落ちたら普通に死ぬんじゃ……」
「気絶していないなら神為は多少残っているわ。落下の衝撃で気を失って暫く再起は出来なくなると思うけれど、命に別状は無いでしょう」
「ていうか、僕が戦った意味無くない?」
「あら、今頃気付いたの?」
抑も、最初から魅琴に負ける要素は無かったように思われる。
航と鷹番の戦いになったのは、勝手に航が割り込んだだけの理由だ。
そして航は鷹番によって筋力を低下させられ、今では全く動けなくなっている。
「助けてくれれば良かったじゃないか」
「ふふ、だって見たかったんだもの」
「なんだよそれ」
「御想像にお任せするわ。精々好き勝手に妄想しなさい」
思わせ振りな魅琴の言い草だが、航は悪い気がしなかった。
魅琴に揶揄われるのはいつものことだ。
寧ろ平常運転に戻った嬉しさがあった。
しかし、航は同時に一つやらかしたことに気付いていなかった。
「ところで航……さっきから私の背中に硬いのが当たるんだけれど、これは何?」
「え? あ……、げっ……!」
航の頭から血の気が引いた。
魅琴からの評価が上げ止まり、急落していくのが手に取る様に分かる。
「ごめん……」
「あら、何を謝っているの? どういうことか訊いているのよ? 質問に答えてほしいわね。ま、答えに依っては今後の付き合い方を考えることになるけれど」
意地悪く問い詰められ、更に逃げ道も塞がれた航は必死に言い訳を考える。
魅琴の何がこの様な反応を呼んだのか、その真実だけは決して悟られてはいけない。
「あの……近くで良い匂いがしたものだから……つい……」
シャワー室にあった女性用シャンプーのことを思い出した航は、多少は普通の男にありがちな答えを咄嗟に導き出した。
下品で最低なことは確かだが、それでも魅琴の見せた嗜虐性の片鱗に興奮したと素直に言うよりはマシである。
(この性癖がバレたらマジで終わる。絶対に生涯隠し通さないと……)
航はそう胸に固く誓った。
だが、魅琴にとっては知る由も無く、そしてどうでも良いことだ。
呆れと軽蔑を隠そうともしない、露骨な溜息を吐いた。
「折角ここ数日で大いに見直したのに……今は逆に見損ないそうだわ」
「ごめんって……」
「全く……担いであげないといけないのがムカつくわ。さっさと戻りましょう」
「いや、別にゆっくりでも良いんじゃないかな?」
「あ? 何か言った?」
「いえ、何でも御座いません……」
「さ、ビルの地下に戻ったら貴方に相応しい地べたに降ろしてしまいましょうね、雑魚雄の航君」
しょぼくれる航を背負い、魅琴は一先ず潜伏していた工事中のビルへと戻っていった。
明日の早朝まではまだ余裕がある。
それまで休み、筋力の回復を図るのだ。
⦿⦿⦿
栃樹州は山岳地帯、鷹番は航達から遠く離れた山の中腹で目を覚ました。
「うぅ……」
山肌には大きなクレーターが出来ており、その中心に埋まっている彼が衝突した強さ、即ち投げ飛ばされた力の凄まじさを物語っている。
鷹番は指一本動かせない。
全身を骨折し、尽き果てた神為による恢復を待たなければならない状況だ。
「目が覚めたようですね、鷹番様」
鷹番の耳にどこか覚えがある、男とも女ともつかない声が聞こえてきた。
クレーターの中でも一際深く埋まった彼を、何者かが見下ろしている。
(誰……だ……?)
逆光で、鷹番からは顔が能く見えない。
その時、鷹番の腹に僅かな重みが加わった。
「天下の六摂家当主、公爵・鷹番夜朗様もこうなってはお終いだ。この時を長年待ち望んでいましたよ」
「な、何をする? 何をするつもりだ!?」
「何って、この地を鷹番様の墓場にして差し上げるのです。山一つを墓標とするなんて、まるで古代の帝の様ではありませんか。皇別摂家でなくなった鷹番公爵家の当主としては、少々大袈裟かも知れませんね」
人影はそう言うと、鷹番の上にせっせと何かを落としていく。
鷹番は自分の状況を察し、背筋に冷たいものを感じた。
人影が落としているのは土砂、つまり鷹番は埋められようとしているのだ。
神為が尽きたこの状況で生き埋めになると到底助からない。
「ま、待て! やめろ、何が望みだ? そうだ、金ならいくらでも出す! それとも女か? 何人でも譲ってやるぞ?」
「女が欲しいか、ですって? 鷹番様、この私にそんなことを仰るのですか?」
その瞬間、一瞬雲が陰となって逆光が弱まった。
鷹番は自身を生き埋めにしようとしている人物の顔に見覚えがあった。
「お、お前は……!」
「お久し振りです、鷹番様。嘗ては逞しい貴方様に愛しい妻の有姫様を寝取っていただき、その上直々に犯して雌にしていただいた逸見樹ですよ。今は有難くも武装戦隊・狼ノ牙に拾っていただき、最高幹部『八卦衆』の地位を賜っております。貴方様もよく御存知の私の能力で、無力になった懐かしい御方を見付けて、喜びの余り馳せ参じた次第です」
逸見樹――別の世界線に於ける日本に財閥の御曹司として生まれ、財力に物を言わせて横暴な生き方をしていたが、祖国が皇國に吸収されたことで落魄れてしまい、鷹番に雌にされて奴隷にされて、女装男娼として体を売るよう強要され、最終的には捨てられてしまった男である。
「母なる大地に、抱かれる者の気持ちを教えてもらうと良いですよ」
逸見は恨み骨髄に徹すといった様子で土砂を鷹番に掛ける。
「待て! 待ってくれ! 解った! 私が悪かった! あいや、私が悪う御座いました! 鷹番家の全財産を以て償っても構いません! ですからどうかおやめください! お助けくばふぁっ!?」
土砂が鷹番の顔に掛かった。
ここから先は、声にならない叫びをモゴモゴと口籠もることしか出来ない。
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