日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第二章『神皇篇』

第五十五話『帰還』 急

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 病室で関係性を前に進めたわたることの様子を、室外のが扉の影からうかがっていた。

さきもりわたるさん、頑張りましたですね」
すがに事に至っても言えないようでははや望みなど無かっただろうからな。世話の焼ける男だ」

 親しい二人の関係性と今後というプライベートな話し合いを盗み聞きするというのは褒められた行いではないだろう。

「逆にそれがまったとも言えるか。このタイミング以外ではうる君はさきもり君を振らざるを得なかっただろうからな」

 は温かなで二人の様子を見守っていた。
 彼もまたうる家のいんねんと宿命に深く関わり、ことの使命と運命をうれえていた男である。
 その彼女が愛する人と手を取り合う結果に至ったことに思うところがあるのだろう。

「あ、見てくださいきゆうさん」
「距離近いな。早速イチャ付き過ぎだろう」

 丁度、ことわたるの手を引いて耳元でささやいたところだった。

「あの二人、横でにいさまが寝ていること忘れてません?」
「幸せをめるのは結構だが、羽目を外し過ぎんようにくぎを刺した方が良いかもな」

 が快とも不快とも言えないもどかしさから微妙に苦い表情を浮かべていると、彼のポケットでスマートフォンが振動した。
 こうこくで使用していた端末とは別の、国内で使用していた本来のものだ。

君すまん。少し電話を折り返して来る。先にあの二人と合流しておいてくれ」
も付いて行くですよ。もう少し二人で居させてあげましょう」
「……ああ、そうだな」

 は眉根を寄せて病室で談笑するわたることに目をり、そして背を向けた。

しばらくはわざわざ釘を刺さんでも良さそうだな……」

 二人は電話スペースへ向かい、病室から離れた。

    ⦿

 病室では引き続きわたることが談笑していた。
 二人の間にあったもろもろわだかまりも解け、これからは健全な恋人同士として未来へ歩んでいくだろう。
 ここから先、関係が再びこじれないとも限らないが、今まで経験した以上のトラブルがあるとも考えがたい。

しん、全く無くなってしまったのかい?」
「ええ、暫くは普通の人間として生活せざるを得ないわね。ちゃんのかげは跡形も無く治るっていうのは救いだけれど」
「普通の人間、ねえ……」

 わたるは思い出す。
 ことちようきゆうどうしんたいもと手で解体するほどのりよりよくの持ち主だ。
 しかもその行ためしんの強化無しで行わなくてはならない為、完全な素の力なのだ。

きみしん無しでも普通じゃないだろう」
「それもそうね」

 ことは生まれついてのしんの使い手である。
 従って、一度しんを使い果たしてしまうと回復するまで相当の期間を要するのだ。
 そしてそれはじんのうもまた同じである。
 裏を返せば、じんのうは相当の期間の後に元の状態に回復する。

「それまでが勝負か……」
「え?」
「あ、いや……」

 わたるは小さくつぶやいたところをことに聴かれ、はぐらかした。
 この平和はつかのものである。
 だがそれはまぐれも無くこともたらしたもので、だからこそわたることがより好きになった。

「早く元気になりなよ」
もちろんよ。あ、でも……」

 ことは再び意地悪なほほみを浮かべた。

「入院している間は彼氏のわたるが何をしているか把握出来ないわね」
「あ、うんまあ、それは大丈夫だよ。ぼくを信じて」
「いいえ、別に良いわよ、浮気しても」
「え?」

 意外な言葉に驚くわたるだが、ことは満面の笑みでその真意を告げる。

「その代わり、浮気したらお仕置きとして昨日の続きが待っているわよ」
「アッハイ」
「今度こそ貴方あなたをたっぷり時間を掛けて完全に壊してしまうのも、それはそれでたのしくなりそうだから、わたしはどちらでも構わないわ。それでも良いならどうぞ」
「勘弁してください一生貴女あなたに操を立てます」

 それは彼女ならではの警告と脅迫だった。
 わたるあおめながら、もうことから一生逃げられなくなったのだと悟った。

(人生終わったかも……)

 わたること一筋な様に見えて、意外と心が揺れ動く青年である。
 ことはそんな彼のことをく見抜いているのかも知れない。
 しかし、本命から眼をらさずに済むのならそれは幸せでもあるだろう。
 わたることに人生を終わらせてもらえることに感謝した方が良い。

「ま、大丈夫だよこと。入院中のことは心配しなくて良い」
「どうだか」
「いや、本当に心配無いんだ」

 わたるは確信を持って、ことの眼をまつぐ見て言った。

「その間、ぼくには一寸ちよつとやらなきゃいけないことがあるからね」
「え……?」

 意味深なわたることは驚きを見せた。
 と、そこへがやや急ぎ足で入ってきた。

さきもり君、事態が動いた。おれと一緒に横田飛行場へ向かうぞ」
「そうですか。わかりました」

 突然に同行するよう求められたわたるだったが、彼は最初からわかっていたかの様に何の疑問も挟まずに立ち上がった。
 流石にことは訳が解らないようで、困惑したように問い掛ける。

「どういうことですか?」
うる君、さきもり君は行かなければならないんだ。こうこくは昨日、日本に宣戦布告してきた。その後、きみじんのうを一時的に行動不能にしてくれた御陰でえずの命運はつながったが、それでもこうこくが完全に諦めた訳じゃない」
「え……?」

 ことは青褪めてどうもくした。
 今のの言葉と、わたるが「行かなければいけない」という事情を考えると、最悪の想像がおのずと浮かび上がるはずだ。

「まさか、わたるを戦場へ行かせるつもりですか? どうして!」
ちようきゆうどうしんたい・カムヤマトイワレヒコだ。あの機体には二つの重大な欠陥がある。一つは、波動そうさいを発動させてしまうとしんの発光を抑えられないというもの。これは感覚による察知を主とするどうしんたいの戦闘にいてマイナスとなる。そしてもう一つ、ちらはより兵器として最悪と言わざるを得ないのだが……」

 は苦しそうに眼を閉じ、じくたる思いをのぞかせながら続ける。

「カムヤマトイワレヒコは、操縦士が性能を発揮すればするほど個人に適合してしまう。もし限界性能で飛行したり、激しい戦闘を行ってしまったりとすると、最早その人物以外には動かすことが出来なくなってしまうのだ」

 が告げた事実、それはあまりにも過酷で残酷なものだった。
 現状、日本国がこうこくと戦う上でちようきゆうどうしんたい・カムヤマトイワレヒコを抜きにすることなどあり得ない。
 国産どうしんたいは開発が始まったばかりで、いっきゅう以下もしようであるし、ちようきゆうに関してはカムヤマトイワレヒコしか存在しないのだ。
 つまり、そのカムヤマトイワレヒコを操縦出来るのがわたる唯一人となってしまった以上、こうこくとの戦争にわたるを欠くことなど出来なくなってしまったということである。

「それって……。わたしを助ける為にあれに乗ったから……」

 ことは震え始めた。

わたしのせいでわたるが!」

 それは天国から地獄へと突き落とされた様な心地だろうか。
 ことは今、愛する人が、世界で一番大切な人が死と隣り合わせの戦場へ向かい、無力故に止められない、何も出来ずに見送るしか無い立場に置かれてしまった。
 そんなことに対し、わたるは両肩に手を置いて言い聞かせる。

きみの気持ちは解る。本当に能く解るよ」
「ごめんなさいわたる……。わたし、なんてことを……!」
きみのせいじゃない。きみが行動を起こさなければ、こうこくに国を奪われたぼくの運命はもっとひどいものだっただろう」

 わたることを抱き締めた。
 わたるの胸がことの涙でれる。

「何も心配しなくて良い。きみが命を懸けて戦った意味を決して消させはしない。きみが一人で背負い込んだ重荷を、今度はぼく達で支える番だ。今度はぼくきみを守る」
「お願い、死なないでわたる……! 必ず帰って来て……!」
「勿論だよ。今、国はカムヤマトイワレヒコの後継機を極限の生産力で製造しているという話だ。ぼくはそれまでの繋ぎをしに行くだけだよ。じんのうの力が欠けた今、生きて帰ってこられる可能性は充分ある」
「充分じゃ嫌。必ずよ……!」

 ことわたるすがいて懇願してきた。
 彼女の心境はほどのものだろう。
 わたるはそんな彼女の頭をでる。

「ああ、約束する」

 わたることの身体が離れた。

「ごめん、痛かった?」
「それは大丈夫。身体の方は本当に平気なの。でも、心はすごく痛いわ」
「そうか。ごめんね……」

 涙を流すことわたるは微笑んで見せた。

ぼくが帰って来たら、きみが元気になったら、その時は思いっ切り恋人同士を楽しもう」
「ええ、待ってるから……」

 無理に笑うことの頭に、去り際のわたるてのひらで軽く触れた。
 そして彼はに連れられて横田飛行場へと向かう。

 これは防衛大臣兼国家公安委員長のすめらぎかなが仕組んだことである。
 わたるは全てを承知の上で引き受けた。
 何が何でもことを連れ戻したかった。
 仮令たとえその代償として、自身が戦場へ行くことになっても。

 わたるは考える。
 彼は二つの誓いを果たさなければならない。

 一つは、彼の亡き友であるけんしんの魂が己を許して安らかに眠れるようにすること。
 その為には、友を愚かな亡国のかんとしてはならない。
 一つは、彼の恋人であるうることの覚悟を決して無駄にしないこと。
 その為には、危険を承知で戦い抜かなければならない。

 彼は心に決めた。
 必ず日本を守り、そして帰って来ると。

『かくすれば、かくなるものと、知りながら、むに已まれぬ、大和魂』

 ――よししょういん

 今、さきもりわたるは自らの意思で新たな戦場へと向かう。




 ――第二章『じんのうへん』完
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