日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第三章『争乱篇』

第五十八話『国産』 急

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 銀座上空の戦いはいよいよ大詰めだ。
 防衛側の機体はさきもりわたるの駆るちようきゆうどうしんたい・カムヤマトイワレヒコととよなかたいようの駆るいつきゆうどうしんたい、侵攻側の機体はひろあきらの駆るとつきゆうどうしんたい・ツハヤムスビと遠隔操縦される二機のきゆうどうしんたいと、開戦当初とは逆に侵攻側の方が数的有利となっていた。

 戦況は悪い。
 侵攻を食い止めるには何よりもずツハヤムスビをとさなければならないが、カムヤマトイワレヒコの光線銃を直撃させても威力が足りず装甲を破れなかった。
 つまり、現状では防衛側には敵をたおす手段が無い。
 この状況を打破するためにはカムヤマトイワレヒコの特殊な回路を作動させなければならない。

「くっ! さきもりさん、ひのかみかいの発動はまだか! このままではおれたない……!」

 とよなかは二機のきゆうどうしんたいを相手取り、追い詰められていた。
 今まで一機を相手にも苦戦していたのだから無理も無い。
 そして、とよなかにはわたるが虎の子の切り札を発動させられない理由も身に染みてわかっていた。
 と戦いながらでは、回路発動に必要な深度まで自身の内部に意識を向けられないのだ。

「勝つ為には先ず敵の注意をかなければならないということか。つまりおれがなんとかしないと……!」

 とよなかは意を決していつきゆうを、接近していたきゆうへと向かわせた。
 なりかまわぬ体当たりを敢行し、捨て身で活路を開こうとした。
 操縦士の技量がどうあれ、機体の大きさで勝るいつきゆうが一回り小さいきゆうと衝突すれば、きゆうの側がはじばされるのは道理だ。
 この時、二機のきゆうの位置関係は離れた位置でツハヤムスビと戦っていたカムヤマトイワレヒコと一直線上に並んだ。

『今だ!』

 カムヤマトイワレヒコの光線砲が二機のきゆうどうしんたいを同時に貫いた。
 とよなかわたるの操縦能力ならこの隙を逃さないであろうと信じており、そのもくが実を結んだのだ。
 だがこれは大きなリスクの伴う賭けだった。
 二機のきゆうを撃墜した瞬間、カムヤマトイワレヒコもまた背中の飛行具に敵機の光線砲をかすらせてしまい、再び一部を損壊してしまった。

さきもりさん、すまん! 大丈夫か!」
『問題無いですよ。むしろ、ここまで狙い通りです』

 カムヤマトイワレヒコは確かに飛行具を損壊した。
 それも二度にわたって、である。
 しかし、そもそも一度目の損壊でわたるは機体の平衡を取るのが困難な状態に陥っていた。
 今回、再び飛行具を一部失うことで、寧ろ左右の揚力が均衡して機体の平衡が幾分か回復したのだ。

『隙を見せれば狙ってくると解っていた。それを利用させてもらった』
『成程な、ごとなものだ。だがこのわたしにしてくれた代償は高く付くぞ』

 何はともあれ、きゆうの全てをうしなった。
 この場はツハヤムスビ一機撃破すれば良い。
 後から追い付くという彼の部下のちようきゆう部隊が合流する前に決着を付けるのだ。

さきもりさん、ちらでなんとか敵を揺動してみる。その隙にひのかみかいを発動させてくれ」
『いや、それよりももっと良いやり方があります』
「何?」
『そのいつきゆうの光線砲でぼくを撃ってください』

 とよなかは耳を疑った。
 何故なぜカムヤマトイワレヒコを、共に戦うわたるを撃たなければならないのか。
 わたる自棄やけになって正気を失ったのか。

「何を言っているんだ?」
『説明は出来ません。かくやってみてください。ただ、カムヤマトイワレヒコが墜ちないギリギリの威力でお願いしますよ』

 とよなかは考える。
 墜ちない威力で撃てということは自暴自棄の懇願ではないのだろうが、随分と突拍子もない提案だ。
 だが、これまでの戦いでわたるの大胆な発想力は見せて貰った。
 何か狙いがあるのなら、その言葉に賭けてみるのも悪くないだろう。

「解った、やってみよう!」

 とよなかいつきゆうの手をカムヤマトイワレヒコに向け、光線砲の照準を合わせた。
 一応、カムヤマトイワレヒコの搭乗経験なら自分にもある。
 引き出した性能は充分から程遠いが、それでも耐久力は熟知しているつもりだ。
 破壊しないギリギリの威力で狙えというなら、やれないこともないだろう。

 だが、敵もこちらの行動をわざわざ待ってくれたりはしない。
 ツハヤムスビはたび胸の前で腕を交差し、背中の翼の様な装備をひろげた。

『そんなに撃たれたいのならわたしが撃ってやろうか? 仲間もろともな』

 ツハヤムスビは翼の砲口から無数の光線砲を発射し、わたるとよなかを撃ち墜とそうとする。
 カムヤマトイワレヒコはかわし切れずに何発か被弾し、装甲の一部を破壊された。
 そしてとよなかいつきゆうもまた胴部への直撃をらい、機体の維持が出来なくなった。

とよなかさん!』
「駄目だ、これは墜ちる……!」

 はや操縦室を射出しなければとよなかは助からない。
 しかし、彼にはいまだ仕事が残されている。
 それをやり遂げるまで終わる訳には行かなかった。

「せめて一発、最後の任務をすいこうしてから……!」

 とよなかは光線砲を発射した。
 光の筋がカムヤマトイワレヒコを直撃し、爆煙を上げる。

『そこまでして同士討ちを? 何をたくらんでいる?』

 いぶかしんだその時、カムヤマトイワレヒコを包んでいた煙がまばゆい金色の光で粉々に引き裂かれた。
 どうやら機体が激しく発光したらしい。

『ぬぅっ……!?』
ひのかみかい、発動したか。おれの役目はここまでだ。脱出させてもらおう。見せてくれ、日本の底力を。メイド・イン・ジャパンはまだ死んでなんかいないってことを証明してくれ……!」

 とよなかは機体から自身の操縦室を射出させ、落下傘を拡げた。

『これは……すごい! 機体の力が今まで以上にみなぎってくるのが分かる!』

 ひのかみかいを発動させて、わたるは手にした力に興奮しているようだ。
 そんな彼に、戦線を離脱したとよなかは必要な情報を通信する。

ひのかみかいしんを大きく消耗し、長時間発動を維持することは出来ない。しかしその代わり、カムヤマトイワレヒコの機体性能を全て大幅に向上させる。一体感も、機動力も、耐久力も。中でも二つの兵装、切断ユニットと光線砲の破壊力の上昇は特に大きく、回路発動下でのそれらは特殊な通称が付けられている」

 カムヤマトイワレヒコは刹那にしてツハヤムスビに肉薄し、切断ユニットの刃を振るった。
 さながら、金色の眩い光を放つ聖剣の様だ。
 ツハヤムスビも自身の切断ユニットで受け止めようとしたが、刃が交わった瞬間にツハヤムスビのそれはひびれて砕け散ってしまった。

『何!? な!』

 きようがくしながらカムヤマトイワレヒコから距離を取ろうとする。
 しかし、その際にわたるからの追撃を受けて飛行具を大きく損傷した。

ひのかみかい発動下にける金色の切断ユニット『ふつのみたまのつるぎ』は地上最強の剣、どんな頑強な装甲も打ち破る!」

 今度はツハヤムスビが機体の安定を失った。
 それでも、は持ち前の操縦技術で立て直してくるだろう。
 その前にわたるは次の行動に出た。
 腕の砲口で、一時的に逃れようとするツハヤムスビに照準を合わせた。

「そしてもう一つ、ひのかみかい発動下に於ける光線砲は『きんほう』と呼ばれ、立ちはだかる全ての敵を圧倒的な光の威力でせる!」

 カムヤマトイワレヒコの腕の砲口からすさまじい光の奔流が放たれ、ツハヤムスビをんだ。
 そしてツハヤムスビは激しいごうおんと共に爆発四散、脅威の機体は銀座の空から跡形も無く消え去った。

「やった……か……」

 緩やかに下降する中で、とよなかあんして胸をろした。
 結局自衛隊機は残らず撃墜はされたものの、彼を初めとして何人かは生き残っている。
 しかし、直後に緊迫したわたるの声がとよなかの元に届いた。

『まだ終わってない! あいつ、脱出しやがった!』
「なんだと!?」

 再び緊張が走った。
 周囲に意識を向けると、確かにいつきゆうのものとは異なる球状の操縦室「なおだま」が一つ、銀座の空を緩やかに降下している。
 どうやらカムヤマトイワレヒコの「きんほう」で狙われた際、さっさと機体に見切りを付けて脱出していたようだ。
 は引き際の見極めに掛けても超一流の操縦士だった。

 そして、ツハヤムスビを斃したカムヤマトイワレヒコの発光は収まっていた。
 ひのかみかいは維持出来なくなり、通常の状態に戻ったのだ。
 同時に、南の空から数機の敵影が確認された。
 の部下の駆るちようきゆうどうしんたい・ミロクサーヌれいしきが今追い付いてきたのだ。

「こちらとよなか隊。銀座上空にて敵機撃墜。操縦士は操縦室と共に脱出降下。直ちに確保に……」
『駄目だ!』

 の身柄拘束を要請しようとしたとよなかだったが、わたるの制止が入った。

こうこくの敵は生身でも化物みたいに強いんです! 警察や普通の自衛官じゃ捕まえるどころかみんな殺される!』
「じゃあどうするんだ! やつが市街地に降り立ったら国民が危ない!」
ぼくに心当たりがある。さんに連絡して、対処出来るしんの使い手を向かわせて貰います。それから、ぼくの方は敵の援軍を迎え撃ちに行きます』

 カムヤマトイワレヒコは南の空へと飛んで行った。
 とよなか達自衛官の見守る中、敵のなおだまが不気味な存在感と共に東京の街中へと降下していく。
 銀座防衛戦は第二の局面を迎えようとしていた。



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次回更新予定:4月16日(水)
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