211 / 297
第三章『争乱篇』
第六十四話『嫉妬』 破
しおりを挟む
為動機神体の空中戦は、その速度故に衝突の位置を目紛るしく変える。
日本国の超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコと皇國の極級為動機神体・タカミムスビ、両機の戦いは小笠原諸島の火山列島、北硫黄島上空に舞台を移していた。
タカミムスビが腕の砲口をカムヤマトイワレヒコに向ける。
凄まじい光の巨柱が奔り抜けるが、射撃の瞬間にカムヤマトイワレヒコは大きく回避した。
発射の瞬間ならば重力の束縛から解放される――航は最早完全にそのタイミングを掴んでいる。
鯱乃神は初めの頃と違い、タイミングを計られまいと捕捉とほぼ同時に発射しているが、最早無闇に撃っても航に中てることは出来まい。
今度はカムヤマトイワレヒコがタカミムスビに光線砲を撃った。
射撃は見事にタカミムスビを捉えたが、まるで堪える様子が無い。
航は連射しつつ敵機に接近し、日本刀状の切断ユニットで斬り掛かった。
しかし、刃は装甲に傷一つ付けられず、航は退避を余儀無くされた。
航はタカミムスビに対し攻撃を通せず、鯱乃神はカムヤマトイワレヒコを捉えられない。
両者は互いに決め手を欠き、硬直状態に陥っていた。
つまり、戦局を動かす為に次の手を講じる必要があるのは両者とも同じ。
岬守航と鯱乃神那智、二人の操縦士の思考、それらが大きく渦巻き、互いに交錯する。
全てを読み解くことが出来るのは神の視座のみであろう。
(金鵄砲どころじゃない化物大砲をバカスカ撃ってきやがって。やはり皇族の神為は底無しか……)
(「天鳴砲」をここまで回避されるとは……。輪田を斃すくらいだ、それくらいはやって来るか……)
二人は互いに相手の力量に脅威を感じていた。
しかし、状況的に有利なのはタカミムスビ、鯱乃神那智の方だ。
(こっちは一度日神回路の発動を見せてしまっている。一方、あいつが唯こっちの動きを封じて撃ってくるだけの能無しとも思えない)
(敵が此方に有効な攻撃を仕掛ける為にはあれをもう一度発動する他あるまい。長時間使える代物ではなかろう、タイミングは厳選してくる筈だ。一方、私には「天鳴砲」の他にもまだまだ手はある)
航は全神経を研ぎ澄まし、仕掛ける機を窺う。
敗ける訳にはいかない、仮令相手が皇族であろうと、どれ程の強敵であろうと。
皇國から日本を守り、この戦争を生き延びる。
そして、自らを待つ大切な人々の許へ帰るのだ。
対する鯱乃神は思い出す。
自身がなぜ軍人を志し、為動機神体操縦士として頂点を極めようとしているのかを。
この世には二種類の人間が存在する。
生まれながらに価値が有る者と、何かを成して初めて価値が生じる者。
「私は皇國最強の為動機神体操縦士となる! 貴様を斃して! その為に散れ!」
タカミムスビの背中から十機の弐級為動機神体が飛び出した。
丁度同じことを輪田衛士の特級為動機神体・ツハヤムスビも仕掛けてきた。
「銀座の時とは違いそうだな。唯の弐級じゃなさそうだ」
航は弐級の動きを警戒する。
しかし、次にタカミムスビが取った行動は予想外だった。
鯱乃神はタカミムスビの砲口をカムヤマトイワレヒコに向けてきたのだ。
「何? 味方を呼び出しておいて撃つのか!?」
驚く航を「天鳴砲」の重力が捉える。
敵の光線砲は強大な威力を誇るが、その分何も考えずに撃てば味方を巻き込む危険が大きい。
弐級を呼び出したのだから撃ってこないだろうと、航がそう思い込んでも無理の無いことだった。
「死ね!」
鯱乃神の命に応える様にタカミムスビの砲口から巨大な光が奔った。
航は瞬刻回避が遅れ、肩の装甲の一部を消し飛ばされてしまった。
だが、今回の攻撃はそれだけでは終わらない。
光線砲には弐級も何機か巻き込まれたが、それらは悉く無傷のまま航の周囲を飛び回っている。
(まさか、こいつら……)
航にはそれが酷く不気味に思えた。
一先ず弐級を光線砲で狙撃したが、弐級には傷一つ付かない。
(硬いな。あの威力で壊れない弐級か。だがそれだけじゃないんだろうな。何を仕掛けてくる?)
航は警戒を強めた。
何か嫌なことが起ころうとしている。
そんな彼の予感を裏付ける様に、タカミムスビの「天鳴砲」を受けた弐級が機体から火花放電させて小刻みに震えている。
「さあ萌え芽吹け、そして顕現せよ。『原級為動機神体・ウマシアシカビヒコヂ』!」
火花を散らす弐級為動機神体が変形していく。
というより、松笠が鱗を広げる様な振る舞いで体積を増していく。
それは明らかに元の質量に収まることが出来る範囲を超え、壱級相当、超級相当に巨大化し、そして遂にはカムヤマトイワレヒコの大きさをも追い抜く。
十機のうち三機――それらが辿り着こうとしている形状は航を戦慄させる。
「マジかよ、嘘だろ……?」
三機はとうとう変形を終えた。
その姿はまさに、極級為動機神体・タカミムスビの色違いであった。
原級為動機神体・ウマシアシカビヒコヂと呼ばれたそれらは一斉に腕の砲口を構えようとしている。
「じ、冗談じゃねえぞ!」
航は必死で、兎に角機体を彼方此方に全速力で駆け巡らせた。
悪い想像の通り、タカミムスビの色違いの機体達は各々が「天鳴砲」と何ら遜色無い巨大な光のエネルギーを迸らせた、
(てんで的外れの狙いだが、それでも操縦に多少影響を受けた。間違い無くあの新しい2Pカラー共も本体と同じく重力崩壊の原理で光線砲を撃ってやがる)
更に恐るべくは、ウマシアシカビヒコヂ三機の放った光線砲が別の弐級を巻き込んだことだ。
新たに光線砲を浴びた弐級も同じように火花放電し、変形していく。
「僕はロボットにそういうの求めてないんだよな……。もっとこう、あくまで科学的なワンダーであってほしいっていうか……」
「愚かな。抑も為動機神体は神為で動く超常の兵器だ。直靈彌玉さえ残っていれば自己再生可能な代物を貴様らの常識に当て嵌めるな」
航の冗談めかした抗議で強がって見せたが、鯱乃神はそれにふざけず答える律儀な男であった。
航は少し肩透かしを食らった気分だったが、敵本体と色違いの機体が七機並んだところで状況を分析する。
(神皇が魅琴にやられて動けなくなった今、敵の為動機神体は戦いの中で再生出来なくなっている筈だ。だが、今相手をしているのは皇族軍人・鯱乃神那智。神皇に次ぐ強大な神為を持つこいつにだけは未だに再生能力を使えるってことか……)
残る三機の弐級にもウマシアシカビヒコヂの光線砲が浴びせられ、恐るべき変形が始まった。
そんな中、航は意外な程落ち着いていた。
(多分、こいつらが本体と同じ性能ということはあり得ない。だったら最初から今の姿で引き連れて来ればいい話だ。何か、それが出来なかったデメリットがある筈だ。それに、多分思った程の脅威じゃない)
航には一つ確信があった。
十機になったウマシアシカビヒコヂは一斉に光線砲で航を狙おうとする。
その動きにこそ、確信の根拠が秘められている。
(こいつら、唯僕を狙って撃ち墜とそうするだけだ。戦略も何もあったもんじゃない。つまり、鯱乃神の意思が動かしている訳じゃない。自動操縦だ)
航は縦横無尽、複雑に動き回りながらウマシアシカビヒコヂの一機に接近する。
そしてカムヤマトイワレヒコの機体を激しく発光させる。
「うおおおッッ!!」
再び日神回路を発動させた航は、韴靈劔で一機、また一機と敵機を斬り裂いていく。
自動操縦のウマシアシカビヒコヂはカムヤマトイワレヒコの動きに全く対応出来ていない。
実はもう一つ、航はウマシアシカビヒコヂが自動操縦だと考える理由があった。
それは鯱乃神の技量が明らかに輪田衛士より劣っていることだ。
確かに鯱乃神はそれなりに驚異的な腕前の操縦士ではあるが、輪田の領域には至っていない。
そんな彼が、自機と同じ規格の別機体を十機も操るなどという、銀座で輪田がやってのけた芸当以上のことをやれるとは思えない。
「こんな意思の無い取り巻きに墜とされるかよ!」
次から次へと、ウマシアシカビヒコヂが撃墜されていく。
航は既に半分の五機を斃していた。
鯱乃神にとっては良い状況では無いが、彼は一切狼狽えていなかった。
基よりこの結果はある程度想定通りだ。
(今の私にはまだウマシアシカビヒコヂを自分で制御する技量は無い。だが、いつかその領域まで、輪田を超えるまでに成長してみせる。兎に角今は自動操縦でやれる戦い方をするまでだ)
鯱乃神はタカミムスビの光線砲を構えた。
完全にカムヤマトイワレヒコに狙いが定まっている。
つまり、超重力で敵機は光線の軌道上に釘付けられる。
今までは発射の瞬間の急発進で回避されていたが、今回は一味違う。
「しまった! 動けない!」
何故なら、カムヤマトイワレヒコに狙いを定めているのはタカミムスビだけではないからだ。
本体の他に二機、ウマシアシカビヒコヂも両脇から引き合う様に敵機を狙っている。
カムヤマトイワレヒコは三機の重力に引かれている。
そしてこの状態でタカミムスビが「天鳴砲」を発射すれば、ウマシアシカビヒコヂの重力で動けないままの敵機を確実に抹消出来る。
「終わりだ! 死ね!」
鯱乃神はタカミムスビの光線砲「天鳴砲」を解き放とうとした、その時だった。
突如、構えられていたタカミムスビの砲口が爆発したのだ。
「ガアアアアッッ!? な、何ィ!?」
驚愕の鯱乃神は少し遅れて、敵が何をしてきたのか理解した。
航は「天鳴砲」が発射されるまさにその瞬間、タカミムスビの砲口に「金鵄砲」を撃ち込んだのだ。
カムヤマトイワレヒコの力だけでなく「天鳴砲」の力も暴発したタカミムスビは砲口を破壊された、という訳だ。
同様の方法で、敵は二機のウマシアシカビヒコヂの砲口も暴発させていた。
(ぐ、しまった……。これではもうタカミムスビからは「天鳴砲」を撃てん……)
鯱乃神は事前にタカミムスビの整備を水徒端早辺子に命じていた。
それは、タカミムスビは万全の状態でないと電子を重力崩壊に導く内圧を出せないからだ。
勿論、残る光線砲ユニットで通常の射撃は可能だが、威力は大幅に落ちる上に重力による束縛効果は無くなってしまう。
「斯くなる上は……!」
鯱乃神は頭を切り替えた。
幸い、ウマシアシカビヒコヂは残り三機である。
三機程度なら、短時間だけ自らの意思で操縦することが出来る。
「こいつらを使って……!」
ウマシアシカビヒコヂ三機は切断ユニットでカムヤマトイワレヒコに斬り掛かる。
航は敵の動きが変化したことに少し驚かされていた。
だがすぐに冷静さを取り戻す。
三機纏めて地力の遠隔操作に切り替えたことはすぐに解った。
そして本来の技量を充分に発揮出来ていないことも。
「さっきの一番強いミロクサーヌ零式並の動きか。こんなんじゃ僕の命は殺れないな」
航は切断ユニットの刃を受け流しつつ、韴靈劔で敵機を貫いた。
更に、突き刺さった敵機を別の一機にぶつけ、怯んだ隙に真上から一刀両断。
最後に残った一機は「天鳴砲」を狙ってきたところを逆に暴発させ、その隙に胴から真二つに斬り裂いた。
鯱乃神がタカミムスビから送り出したウマシアシカビヒコヂは十機全て斬り裂かれたことになる。
鯱乃神はしかし、然程動揺や焦燥、苛立ちを感じていない。
何故なら狙い通りだからだ。
ウマシアシカビヒコヂを遠隔操縦に切り替えたのは、カムヤマトイワレヒコの撃墜では無く別の目的があった。
「辿り着いたぞ!」
鯱乃神はタカミムスビを急降下させた。
その足下には基地設備の建設された島がある。
航は瞬間、気付いて青褪めた。
為動機神体同士の戦いはその速度故に目紛るしく位置を変える。
いつの間にか、戦いの部隊は南へ移動して硫黄島上空へ辿り着いてしまっていたのだ。
「しまった!」
航は慌ててタカミムスビを追い掛ける。
タカミムスビは島からの通常兵器による迎撃をものともせずに目的地へ着陸した。
「くっ!」
硫黄島へ上陸しようとする航だったが、タカミムスビが光線砲で迎撃しようと腕の砲口を向ける。
航は金鵄砲並みの射撃を躱しつつ、硫黄島へ着陸した。
戦いは嘗ての激闘の島で地上戦に縺れ込もうとしていた。
日本国の超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコと皇國の極級為動機神体・タカミムスビ、両機の戦いは小笠原諸島の火山列島、北硫黄島上空に舞台を移していた。
タカミムスビが腕の砲口をカムヤマトイワレヒコに向ける。
凄まじい光の巨柱が奔り抜けるが、射撃の瞬間にカムヤマトイワレヒコは大きく回避した。
発射の瞬間ならば重力の束縛から解放される――航は最早完全にそのタイミングを掴んでいる。
鯱乃神は初めの頃と違い、タイミングを計られまいと捕捉とほぼ同時に発射しているが、最早無闇に撃っても航に中てることは出来まい。
今度はカムヤマトイワレヒコがタカミムスビに光線砲を撃った。
射撃は見事にタカミムスビを捉えたが、まるで堪える様子が無い。
航は連射しつつ敵機に接近し、日本刀状の切断ユニットで斬り掛かった。
しかし、刃は装甲に傷一つ付けられず、航は退避を余儀無くされた。
航はタカミムスビに対し攻撃を通せず、鯱乃神はカムヤマトイワレヒコを捉えられない。
両者は互いに決め手を欠き、硬直状態に陥っていた。
つまり、戦局を動かす為に次の手を講じる必要があるのは両者とも同じ。
岬守航と鯱乃神那智、二人の操縦士の思考、それらが大きく渦巻き、互いに交錯する。
全てを読み解くことが出来るのは神の視座のみであろう。
(金鵄砲どころじゃない化物大砲をバカスカ撃ってきやがって。やはり皇族の神為は底無しか……)
(「天鳴砲」をここまで回避されるとは……。輪田を斃すくらいだ、それくらいはやって来るか……)
二人は互いに相手の力量に脅威を感じていた。
しかし、状況的に有利なのはタカミムスビ、鯱乃神那智の方だ。
(こっちは一度日神回路の発動を見せてしまっている。一方、あいつが唯こっちの動きを封じて撃ってくるだけの能無しとも思えない)
(敵が此方に有効な攻撃を仕掛ける為にはあれをもう一度発動する他あるまい。長時間使える代物ではなかろう、タイミングは厳選してくる筈だ。一方、私には「天鳴砲」の他にもまだまだ手はある)
航は全神経を研ぎ澄まし、仕掛ける機を窺う。
敗ける訳にはいかない、仮令相手が皇族であろうと、どれ程の強敵であろうと。
皇國から日本を守り、この戦争を生き延びる。
そして、自らを待つ大切な人々の許へ帰るのだ。
対する鯱乃神は思い出す。
自身がなぜ軍人を志し、為動機神体操縦士として頂点を極めようとしているのかを。
この世には二種類の人間が存在する。
生まれながらに価値が有る者と、何かを成して初めて価値が生じる者。
「私は皇國最強の為動機神体操縦士となる! 貴様を斃して! その為に散れ!」
タカミムスビの背中から十機の弐級為動機神体が飛び出した。
丁度同じことを輪田衛士の特級為動機神体・ツハヤムスビも仕掛けてきた。
「銀座の時とは違いそうだな。唯の弐級じゃなさそうだ」
航は弐級の動きを警戒する。
しかし、次にタカミムスビが取った行動は予想外だった。
鯱乃神はタカミムスビの砲口をカムヤマトイワレヒコに向けてきたのだ。
「何? 味方を呼び出しておいて撃つのか!?」
驚く航を「天鳴砲」の重力が捉える。
敵の光線砲は強大な威力を誇るが、その分何も考えずに撃てば味方を巻き込む危険が大きい。
弐級を呼び出したのだから撃ってこないだろうと、航がそう思い込んでも無理の無いことだった。
「死ね!」
鯱乃神の命に応える様にタカミムスビの砲口から巨大な光が奔った。
航は瞬刻回避が遅れ、肩の装甲の一部を消し飛ばされてしまった。
だが、今回の攻撃はそれだけでは終わらない。
光線砲には弐級も何機か巻き込まれたが、それらは悉く無傷のまま航の周囲を飛び回っている。
(まさか、こいつら……)
航にはそれが酷く不気味に思えた。
一先ず弐級を光線砲で狙撃したが、弐級には傷一つ付かない。
(硬いな。あの威力で壊れない弐級か。だがそれだけじゃないんだろうな。何を仕掛けてくる?)
航は警戒を強めた。
何か嫌なことが起ころうとしている。
そんな彼の予感を裏付ける様に、タカミムスビの「天鳴砲」を受けた弐級が機体から火花放電させて小刻みに震えている。
「さあ萌え芽吹け、そして顕現せよ。『原級為動機神体・ウマシアシカビヒコヂ』!」
火花を散らす弐級為動機神体が変形していく。
というより、松笠が鱗を広げる様な振る舞いで体積を増していく。
それは明らかに元の質量に収まることが出来る範囲を超え、壱級相当、超級相当に巨大化し、そして遂にはカムヤマトイワレヒコの大きさをも追い抜く。
十機のうち三機――それらが辿り着こうとしている形状は航を戦慄させる。
「マジかよ、嘘だろ……?」
三機はとうとう変形を終えた。
その姿はまさに、極級為動機神体・タカミムスビの色違いであった。
原級為動機神体・ウマシアシカビヒコヂと呼ばれたそれらは一斉に腕の砲口を構えようとしている。
「じ、冗談じゃねえぞ!」
航は必死で、兎に角機体を彼方此方に全速力で駆け巡らせた。
悪い想像の通り、タカミムスビの色違いの機体達は各々が「天鳴砲」と何ら遜色無い巨大な光のエネルギーを迸らせた、
(てんで的外れの狙いだが、それでも操縦に多少影響を受けた。間違い無くあの新しい2Pカラー共も本体と同じく重力崩壊の原理で光線砲を撃ってやがる)
更に恐るべくは、ウマシアシカビヒコヂ三機の放った光線砲が別の弐級を巻き込んだことだ。
新たに光線砲を浴びた弐級も同じように火花放電し、変形していく。
「僕はロボットにそういうの求めてないんだよな……。もっとこう、あくまで科学的なワンダーであってほしいっていうか……」
「愚かな。抑も為動機神体は神為で動く超常の兵器だ。直靈彌玉さえ残っていれば自己再生可能な代物を貴様らの常識に当て嵌めるな」
航の冗談めかした抗議で強がって見せたが、鯱乃神はそれにふざけず答える律儀な男であった。
航は少し肩透かしを食らった気分だったが、敵本体と色違いの機体が七機並んだところで状況を分析する。
(神皇が魅琴にやられて動けなくなった今、敵の為動機神体は戦いの中で再生出来なくなっている筈だ。だが、今相手をしているのは皇族軍人・鯱乃神那智。神皇に次ぐ強大な神為を持つこいつにだけは未だに再生能力を使えるってことか……)
残る三機の弐級にもウマシアシカビヒコヂの光線砲が浴びせられ、恐るべき変形が始まった。
そんな中、航は意外な程落ち着いていた。
(多分、こいつらが本体と同じ性能ということはあり得ない。だったら最初から今の姿で引き連れて来ればいい話だ。何か、それが出来なかったデメリットがある筈だ。それに、多分思った程の脅威じゃない)
航には一つ確信があった。
十機になったウマシアシカビヒコヂは一斉に光線砲で航を狙おうとする。
その動きにこそ、確信の根拠が秘められている。
(こいつら、唯僕を狙って撃ち墜とそうするだけだ。戦略も何もあったもんじゃない。つまり、鯱乃神の意思が動かしている訳じゃない。自動操縦だ)
航は縦横無尽、複雑に動き回りながらウマシアシカビヒコヂの一機に接近する。
そしてカムヤマトイワレヒコの機体を激しく発光させる。
「うおおおッッ!!」
再び日神回路を発動させた航は、韴靈劔で一機、また一機と敵機を斬り裂いていく。
自動操縦のウマシアシカビヒコヂはカムヤマトイワレヒコの動きに全く対応出来ていない。
実はもう一つ、航はウマシアシカビヒコヂが自動操縦だと考える理由があった。
それは鯱乃神の技量が明らかに輪田衛士より劣っていることだ。
確かに鯱乃神はそれなりに驚異的な腕前の操縦士ではあるが、輪田の領域には至っていない。
そんな彼が、自機と同じ規格の別機体を十機も操るなどという、銀座で輪田がやってのけた芸当以上のことをやれるとは思えない。
「こんな意思の無い取り巻きに墜とされるかよ!」
次から次へと、ウマシアシカビヒコヂが撃墜されていく。
航は既に半分の五機を斃していた。
鯱乃神にとっては良い状況では無いが、彼は一切狼狽えていなかった。
基よりこの結果はある程度想定通りだ。
(今の私にはまだウマシアシカビヒコヂを自分で制御する技量は無い。だが、いつかその領域まで、輪田を超えるまでに成長してみせる。兎に角今は自動操縦でやれる戦い方をするまでだ)
鯱乃神はタカミムスビの光線砲を構えた。
完全にカムヤマトイワレヒコに狙いが定まっている。
つまり、超重力で敵機は光線の軌道上に釘付けられる。
今までは発射の瞬間の急発進で回避されていたが、今回は一味違う。
「しまった! 動けない!」
何故なら、カムヤマトイワレヒコに狙いを定めているのはタカミムスビだけではないからだ。
本体の他に二機、ウマシアシカビヒコヂも両脇から引き合う様に敵機を狙っている。
カムヤマトイワレヒコは三機の重力に引かれている。
そしてこの状態でタカミムスビが「天鳴砲」を発射すれば、ウマシアシカビヒコヂの重力で動けないままの敵機を確実に抹消出来る。
「終わりだ! 死ね!」
鯱乃神はタカミムスビの光線砲「天鳴砲」を解き放とうとした、その時だった。
突如、構えられていたタカミムスビの砲口が爆発したのだ。
「ガアアアアッッ!? な、何ィ!?」
驚愕の鯱乃神は少し遅れて、敵が何をしてきたのか理解した。
航は「天鳴砲」が発射されるまさにその瞬間、タカミムスビの砲口に「金鵄砲」を撃ち込んだのだ。
カムヤマトイワレヒコの力だけでなく「天鳴砲」の力も暴発したタカミムスビは砲口を破壊された、という訳だ。
同様の方法で、敵は二機のウマシアシカビヒコヂの砲口も暴発させていた。
(ぐ、しまった……。これではもうタカミムスビからは「天鳴砲」を撃てん……)
鯱乃神は事前にタカミムスビの整備を水徒端早辺子に命じていた。
それは、タカミムスビは万全の状態でないと電子を重力崩壊に導く内圧を出せないからだ。
勿論、残る光線砲ユニットで通常の射撃は可能だが、威力は大幅に落ちる上に重力による束縛効果は無くなってしまう。
「斯くなる上は……!」
鯱乃神は頭を切り替えた。
幸い、ウマシアシカビヒコヂは残り三機である。
三機程度なら、短時間だけ自らの意思で操縦することが出来る。
「こいつらを使って……!」
ウマシアシカビヒコヂ三機は切断ユニットでカムヤマトイワレヒコに斬り掛かる。
航は敵の動きが変化したことに少し驚かされていた。
だがすぐに冷静さを取り戻す。
三機纏めて地力の遠隔操作に切り替えたことはすぐに解った。
そして本来の技量を充分に発揮出来ていないことも。
「さっきの一番強いミロクサーヌ零式並の動きか。こんなんじゃ僕の命は殺れないな」
航は切断ユニットの刃を受け流しつつ、韴靈劔で敵機を貫いた。
更に、突き刺さった敵機を別の一機にぶつけ、怯んだ隙に真上から一刀両断。
最後に残った一機は「天鳴砲」を狙ってきたところを逆に暴発させ、その隙に胴から真二つに斬り裂いた。
鯱乃神がタカミムスビから送り出したウマシアシカビヒコヂは十機全て斬り裂かれたことになる。
鯱乃神はしかし、然程動揺や焦燥、苛立ちを感じていない。
何故なら狙い通りだからだ。
ウマシアシカビヒコヂを遠隔操縦に切り替えたのは、カムヤマトイワレヒコの撃墜では無く別の目的があった。
「辿り着いたぞ!」
鯱乃神はタカミムスビを急降下させた。
その足下には基地設備の建設された島がある。
航は瞬間、気付いて青褪めた。
為動機神体同士の戦いはその速度故に目紛るしく位置を変える。
いつの間にか、戦いの部隊は南へ移動して硫黄島上空へ辿り着いてしまっていたのだ。
「しまった!」
航は慌ててタカミムスビを追い掛ける。
タカミムスビは島からの通常兵器による迎撃をものともせずに目的地へ着陸した。
「くっ!」
硫黄島へ上陸しようとする航だったが、タカミムスビが光線砲で迎撃しようと腕の砲口を向ける。
航は金鵄砲並みの射撃を躱しつつ、硫黄島へ着陸した。
戦いは嘗ての激闘の島で地上戦に縺れ込もうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる