日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第三章『争乱篇』

第六十四話『嫉妬』 急

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 硫黄島に着地したカムヤマトイワレヒコの発光が収まっていく。
 操縦室内のわたるが疲弊し、ひのかみかいの発動を維持出来なくなったのだ。
 わたるはがっくりとうなれ、呼吸を荒らげておおに上半身を揺すっている。
 しんの消耗、体力は既に限界に近かった。

(意識が飛びそうだ……。でもまだ……もう一度ひのかみかいを発動しないと……)

 周囲の防衛施設では慌ただしく戦闘準備が進められていた。
 しかし、強大な敵機に通常兵器では到底対処出来まい。
 この場はわたるしやちかみたおす他にこの島を守る術は無いのだ。

 わたるにとって幸いだったのは、先日銀座で勃発したひろあきらとつきゆうどうしんたい・ツハヤムスビとの戦いを経て成長し、しんが大きくなっていたことだ。
 かげで、ひのかみかい発動下でも多少は戦える様になった。
 だがそれでも、三度目の発動を敢行するのはかなりのちやである。

 先に着陸していたタカミムスビが正面から光線砲で狙ってきた。
 重力による束縛を伴う「てんめいほう」はもう使えないが、それでもきんほう並みの力の奔流がわたるに襲い掛かる。
 わたるは気合いで機体を回避させた。

「はぁ……はぁ……」

 一方のしやちかみはそんなわたるに高出力の光線砲を容赦無く連発する。
 わたるは両の目蓋を釣り上げ、死に物狂いで射撃の豪雨をかわしながらカムヤマトイワレヒコを敵機へと駆け寄らせる。

「おおおオッッ!!」

 カムヤマトイワレヒコの体当たりがタカミムスビにさくれつした。
 通常状態での兵装ではタカミムスビを破壊出来ない。
 しかし、撃破には至らずとも機体の全重量をぶつければバランスを崩すことくらいは出来るかも知れないという考えだった。
 思惑通り、タカミムスビは大きくった。

「良し!」

 わたるかさず、カムヤマトイワレヒコに次の行動へ移らせる。
 カムヤマトイワレヒコの脚がバランスを崩したタカミムスビの足を蹴り上げた。
 全高三十六メートルを誇るタカミムスビの機体があおけに倒れていく。

「甘いわッ!」

 タカミムスビは瞬時に日本刀状の切断ユニットを手に持ち、倒れ様にカムヤマトイワレヒコへ刃を振るった。
 自機の刃を振り上げていたわたるは、攻撃を中止して切断ユニットを防御に回す。
 両機の刃が激しく激突し、カムヤマトイワレヒコの切断ユニットが粉々に打ち砕かれた。

まずい!」

 わたるは一旦機体を上空へ退かせた。
 タカミムスビは両手を地に着いて機体を後転させて立ち上がり、すぐさま上方のカムヤマトイワレヒコへ光線砲を発射する。
 わたるはどうにか攻撃を躱しながら再び機体を硫黄島に着地させようと隙をうかがっていた。

(空からじゃ狙えない。ちようきゆうが戦闘用の出力で発射した光線砲が地面に着弾すると島が消し飛ぶ程度じゃ済まない。それに、やつを破壊出来るのはおそらくひのかみかい発動下の切断ユニット「ふつのみたまのつるぎ」だけだ。ここは地上戦しか無い!)

 カムヤマトイワレヒコが再度硫黄島に上陸した。
 しかし、わたるには一つ大きな問題がある。
 彼が敵を斃すただ一の武器だと考えている「ふつのみたまのつるぎ」は、ひのかみかい発動下でそれを使用するために必要な切断ユニットを破壊されてうしなわれてしまっているのだ。

(どうにかするしかない。何か代わりになるような武器を……!)

 わたるは諦めずに手立てを考える。
 だがしやちかみの光線砲連射が思考の継続を許さない。
 わたるにとって、地上戦で敵が撃ってくる光線砲は中空で狙われるよりも回避しやすかった。
 しやちかみとしても地上に着弾して島を破壊したくない為、狙いはカムヤマトイワレヒコの胸から上に限定されているのだ。

 しやちかみ側から見ると、今の状況は優位を取ったものの決定打には今一つ何かが足りない、といったところである。
 敵機が自機を破壊する手段は発光状態での切断ユニットに限られる、というのはわたると同じ見解である。
 それ故、今の様に遠距離から狙い続けるのが安全策ではある。
 しかし、機体の体格差故に胸から下を狙えないのだ。

(今後、めいひのもとへ侵攻する友軍が速度差でばらけることが無いように、拠点としてこの島は是非とも占領してしまいたい。その為にも、島ごと消し飛ばす訳にはいかんのだ)

 しやちかみしやちかみで、事態を打開する策をみいすべく周囲の状況に意識を向ける。
 だがそんな中で、彼は奇妙な感覚を抱いていた。

(しかしこの島、妙な気配がする……。どうも軍事施設があるようだが、わたしと戦おうという敵兵のものか? それにしては随分と……)

 その時、カムヤマトイワレヒコが三度金色のまばゆい光を放った。
 わたるひのかみかいを発動させ、勝負を懸けようとしているのだ。

「来るか! 良いだろう、返り討ちにしてくれる! 貴様をたおし、わたしは己の価値を証明するのだ!」

 しやちかみは自機の手に日本刀状の切断ユニットを握らせ、迎撃の構えを取らせる。
 彼はこの戦いに並々ならぬ思いを懸けていた。

 しんせいだいにっぽんこうこくの第二皇子・しやちかみ
 彼は自分を「第一皇子たる兄宮の代用品」であると考えている。

 しかし、その第一皇子・かみえいは異次元の存在だった。
 おおしくも美しい、幻想的なりように満ちた容姿も、文武両面にける圧倒的な才能も、何もかもが次期じんのうとしての異論を挟ませない。
 皇族が皇位権を巡ったいえそうどうを起こしていないのは、「絶対強者」たるかみへの継承があまりにも揺るぎ無いが為だった。
 苦言を呈されるほうとう癖すらも、気さくな人柄を肯定的に見る向きさえある。

(代用品を必要としない兄様の代用品としてしか価値の無い存在がわたしだ。ならばわたしは……何の為に生まれてきたのだ)

 生まれた時から兄を知り、弟妹達より長く接してきた彼の劣等感は格別に深刻だった。
 それは彼のしんにも悪影響を与えている。
 彼が末妹のこまかみらんに侮られているのは、皇族の中で最も乏しいしんに原因がある。
 皇族のしんは他とは一線を画すものの、その中では余りに大きな格差があるのだ。

 絶対的な兄の存在はしやちかみひどむしばんでいた。
 兄と同じ世界に居たのでは惨めな思いが募るばかりだ。
 彼が自分の命に価値を見出す為には、生まれ育った環境から外へ飛び出す必要があった。
 それで、しやちかみは軍に入ることを決意したのだ。

なれは本気で軍へ行くつもりなのか?』

 家族全員が集まる場でその意志を伝えた時、兄はげんそうに首をかしげていた。

『兄様、わたしは皇族にさわしい人間でありたいのです』
『ううむ、志は立派だと思うが……』

 かみけんしわを寄せ、露骨に納得していないという仕草を見せていた。
 兄は自分を取り繕うということを知らない。
 しやちかみかみいらちを覚えるのは、そんな生のままの性格に理由の一端がある。
 しかし、一番の理由はそれではない。

『だがよ、なれの何がいかんとうのだ? 皇族に相応しい人間とは一体どういうことだ? なれは第二皇子だろう?』
『はい。ですからそう胸を張る為にも……』
『別に、堂々と胸を張れば良いではないか? 父上の血を引いているのだから……』

 この時、兄の言葉と仕草にしやちかみまいを覚えた。

 かみにとって、しやちかみが劣等感を覚えるあれこれは大した問題だと思えないらしい。
 昔から、兄は自分が飛び抜けて優秀過ぎるが故に、他者の優劣にほとんど興味が無い。
 圧倒的な才覚を持ちながら、自分はそれらと無関係に、ただただ血筋のみによって次のじんのうに相応しいのだと本気で思っている。
 だから、第二皇子であるしやちかみの悩みがに落ちないのだ。

『兄様は……わたしは第二皇子でさえあればそれで良い、と?』
『駄目か?』
『では、これまでのわたしの努力は、一体何だったというのですか?』
おれは偉いと思っているぞ?』

 しやちかみの口から思わず溜息が漏れた。
 兄にとって、弱いこと、劣っていることはどうでも良いことだ。
 なら、自分以外の全ての人間がどんぐりの背比べ、あり同士の力比べに過ぎないから。
 兄・かみえいは心底、弱者の気持ちが理解出来ない――その確信が、弟・しやちかみを酷く孤独にさせた。

かくわたしは今のままでは駄目なのです』
『そうか。なれがそこまで言うならばえて止めはせんが……』

 こうして、しやちかみは軍の士官学校へ入学した。
 軍隊では基本的に家柄に関係無く階級で上下関係が決まるのが、かえって有難かった。
 しやちかみは持ち前の勤勉さで頭角を現し、同期の中でも一目置かれる存在となった。
 しかし、それでも実技に於いて、ひろあきらにだけはどうしても勝てなかった。

わたしは……中身で特別な人間になりたい。その為に、誰よりも努力した。だが、わたしが望む特別には手が届かない……)

 しやちかみは軍隊に入って、今度はに苛立ちを覚えた。

こうこく最高の英雄の座、こうこく最強のどうしんたい操縦士の称号、何故わたしに授けぬ。わたしの特別は第二皇子などという、中身と無関係な、それでいて中途半端な張り子の装飾だけ、それで満足しろというのか!)

 そして今、しやちかみは目の前のわたるにも苛立ちを覚えている。

(誰かが言った。努力出来るのは環境次第だと、一定の成果は銀のさじで容易にすくえるものだと。ならば皇族という、世界で最も恵まれたわたしの努力など、結果など……! それは良い。だからこそ、わたしは頂点に立たねばならん。将軍家のまつえい・公爵家の嫡男たるもそれは同じだろう。だが貴様は……! 貴様は何だ!)

 しやちかみは自機・タカミムスビを敵機・カムヤマトイワレヒコへ突っ込ませる。
 わたるもまた、カムヤマトイワレヒコを突撃させる。
 極超音速の体当たりを敢行するわたるを、しやちかみの刃が迎え撃とうとする。

もらったァ!」

 タカミムスビは切断ユニットを水平にいだ。
 カムヤマトイワレビコは跳び上がってこれを回避、背後に回り込み、光線砲を構えてタカミムスビに狙いを定める。
 と、その瞬間、空振りしたタカミムスビの刃が光った。

「何だ!?」

 わたるが驚きの声を上げると同時に、タカミムスビの刃は激しく放電した。
 全高三十六メートルの巨神が持つ剣が稲妻を放ったのである。
 それはまるで、小さな島に大雷が落ちたかの様であった。

「ぐあああああっっ!!」

 意表を突いたかに思えたわたるだったが、しやちかみの狙いは最初からこの雷撃だった。
 稲光はカムヤマトイワレヒコを貫き、島中をはしり抜けて基地設備を破壊した。
 機体はこの一撃で多くの装甲を砕かれ、見るも無残なボロボロの姿で黒煙を上げている。
 だが内部のわたるは外装以上に深刻な危機に陥っていた。

(感覚が……しているっ!)

 極超音速の機動力と光線砲で辺り合うどうしんたい同士の戦闘に於いて、操縦士の命綱となるのは、しんって常識外に研ぎ澄まされた感覚である。
 視覚・聴覚・触覚などの五感はもちろんのこと、それを超えた第六感の神懸かった作用が無ければ戦いに勝てない。
 タカミムスビの攻撃は、そんな操縦技能の根幹を奪う恐るべきものだった。
 つまり、敵の思惑は刃を振り抜いた腕でそのまま光線砲の狙いを定め、確実にわたるを仕留めることであった。

「このっ……!」

 わたるは必死に自らの意識を機体へとつなぎ続ける。
 何も見えない、聞こえない、感じられない。
 だが、何もしなければられるとだけはわかる。
 わたるは懸命に、記憶の敵影を狙って光線砲「きんほう」を撃った。

「ぐがアッッ!?」

 きんほうはタカミムスビが光線砲を発射しようとした砲口を撃ち抜き、またしても暴発を誘った。
 爆発は砲口だけでなく手も吹き飛ばし、更には先程猛威を振るった切断ユニットまでも宙へ投げ出させた。

「しまった!」
「よし、麻痺が解けた!」

 感覚を取り戻したわたるは空かさずカムヤマトイワレヒコを動かし、こぼれた敵機の切断ユニットを追い掛けさせた。
 剣は刃を地面に突き立て、さながかの伝説の如く抜く者を待っている。
 その柄はカムヤマトイワレヒコの手に握られ、引き抜かれた剣は新たな持ち主を得た。

(行けるか? こいつを新しいふつのみたまのつるぎに出来るか?)

 カムヤマトイワレヒコの機体から発せられる金色の光が切断ユニットを包み込んでいく。
 わたるは直感で、新たな刃にひのかみかいの力が行き届いたのだと察した。

が正念場だ! 振り絞れ、最後の一滴まで!)

 わたるはカムヤマトイワレヒコをタカミムスビへと向かわせる。
 両手を破壊したとあっても、まだ秘めたる恐るべき力があるかも知れない。
 加えて、しやちかみしんがいつ機体を再生させないとも限らない。
 わたるは、次の交錯で勝負を決めなければもう目は無いと感じていた。

 一方で、しやちかみは焦っていた。
 強力な兵装を軒並みつぶされたタカミムスビをこれ以上戦わせるには、破壊された部位を再生させなければならない。
 ただ、タカミムスビは唯でさえ皇族の強大なしんがあって初めて動かせる機体である。
 しやちかみしんを持ってすれば再生は可能だが、大きな隙を生むことは避けられない。

(機体全身の副砲でけんせいし、再生に必要な隙を作るしか無い)

 タカミムスビの機体には全身に光線砲の発射口が隠されている。
 カムヤマトイワレヒコを一発で仕留められる威力は無いが、此処はそれをく使って間を繋ぐしか無い。

らえ!」

 カムヤマトイワレヒコが剣を振り上げたと同時に、タカミムスビの全身が発光した。
 だがその時、今度はカムヤマトイワレヒコの刃が激しく放電した。
 光線砲を発射しようとしたタカミムスビの副砲を電流が貫き、そのことごとくが暴発して破壊される。

「何ィィィッ!? な!!」
「うおおおおおおっっ!!」

 全ての反撃手段を喪い倒れたタカミムスビに、止めの刃が振り下ろされた。
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