日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第三章『争乱篇』

第六十八話『個人的仇敵』 急

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 電撃に滅多打ちにされたカムムスビの操縦室「なおだま」、その内部でかみが身体をかがめてこらえている。
 今の、と融合した状態のわたるは、カムヤマトイワレヒコの兵装を極限まで強力化させている。
 特に、ひのかみかい発動によって破壊力を引き出された光線砲「きんほう」と切断ユニット「ふつのみたまのつるぎ」ははやどうしんたいの領分をはるかに超越している。
 刃から放たれた雷光の威力は火星と同じ大きさの火の玉をこなじんに砕く程に絶大な出力を誇り、これをらっては皇族すらも涼しい顔ではいられないのだ。

『っ……!』

 電撃が収まった。
 なおだまの内部、かみは目をすがめてわたるにらみ上げていた。

しやくっ……!』

 一方で、わたるは既に次の行動を起こしている。
 振り抜いた機体の腕を曲げ、きつさきを前へ向けた構えは刺突の予備動作だ。
 そのまま一気になおだまへ刃を突き入れれば、如何いかかみといえども絶命は免れない。

『これでわたくしを追い詰めたつもりですか!』

 だがわたるがとどめの一撃を繰り出そうとした瞬間、カムムスビのなおだまから小さな白い光の球がこぼれ出た。
 それは風船のように中空を漂いながらカムヤマトイワレヒコへと向かって来る、かと思いきや、突如として爆発。
 目が消し飛ぶ程にまばゆい七色の光がカムヤマトイワレヒコの全身を打ち付け、辺り一面の空間をつぶしながら膨れ上がり、機体を圧迫する。

がんみそぎ

 恐るべき圧力を掛けられたカムヤマトイワレヒコは身動きが取れない。
 機体内部のわたるさえも耳と目から出血する程、凄絶なる力を掛けられている。

「ぐううううッッ……!!」
わたくしにこれを使わせた健闘は素直に称賛しましょう。しかし、勇敢なる抵抗も最早終わりです。これなるはしんによる擬似的な超新星爆発! 破壊対象を選ばずにその気になれば銀河系をも光で包む! さいに己の無謀さを思い知り、わたくしの手を振り払ったことを後悔しながら死んでいきなさい!』

 カムヤマトイワレヒコの四肢が砕けていく。

(駄目だ……! こんなの、こたえられない……!)

 わたるはどうにかしてこの圧力から逃れる術を探す。
 そんな彼に対して勝ち誇るかみの声が聞こえる。

『一つだけ安心させてあげましょう。こうこくまえたちめいひのもとの抵抗に対し、正当なる名誉を保証します。まえ達の積み重ねとやらに対する誇りをわらわせはしません。敵ながらくやったと永遠にたたえ続けようではないですか』

 カムムスビから小さな白い光の球がもう一つ零れ出た。
 駄目押しの一手、といったところだろうか。

『このに焼き付けましょう。散りゆくまえの最期の輝きを!』

 わたるは焦燥を禁じ得なかった。
 四肢を失ったカムヤマトイワレヒコは既に胴体の走行も崩れ始めており、完全崩壊は時間の問題だ。

(一瞬、せめてほんの一瞬だけでもこの圧力から逃れられれば……!)

 圧力の中、わたるはどうにか機体を表裏反転させる。
 背中を破壊圧にさらせば飛行具が破壊され、墜落を余儀無くされてしまう。
 だがそれでも、わたるには飛行具の推進力を逆向きにする必要があった。

(飛行具が壊れる間際、一瞬だけブースターを噴射する! それで敵の攻撃からわずかに離れられるはず……)

 わたるもく通り、カムヤマトイワレヒコは飛行具が壊れる瞬間僅かに浮いた。
 同時に、胴体部に細い木のつるが巻き付く。

(良し、引張れ!)

 木の蔓は遥か下方から伸びていた。
 空中戦を続けていて顧みられていなかったが、はミッドウェー島上空である。
 その陸地から伸びている、天まで届く長い蔓がカムヤマトイワレヒコに巻き付いていた。

 地上では急成長した蔓の巨大な球こんが地表に飛び出していたが、新たな根が伸びて蔓ごと地中へと引き戻される。
 この根は「けんいんこん」と呼ばれ、成長に伴い地上へ飛び出そうとする球根を引き戻す役割を持つ。

 遥か上空のカムヤマトイワレヒコはその牽引に引き寄せられて急降下。
 わたるはどうにか敵の攻撃の圧力から逃れた。
 とはいえ、最早わたるに墜落を止める術は無い。
 木の蔓は燃え尽き、機体はただあおけにちていくばかりである。

『ほう、思い切ったかわし方をしましたね。先程から気になっているのですが、まえは複数のじゆつしきしんを使っていますね。鏡の障壁に、木の蔓……それらは誰か知り合いの能力ですか? まあ何にせよ、そうなってしまってはわたくしの勝ちですね』

 かみは勝利を確信したのか二つの光を消滅させ、機体から外へ出て自らの姿を曝した。
 どうやら既に、墜落する機体から脱出するわたるを追討する準備に入っているようだ。
 だがこれは悪手である。

「まだまだ、どうしんたいの勝負は最後まで警戒を解いちゃ駄目なんだぜ!」

 わたるもまた機体胸部のハッチを開いた。
 機内のわたるは自身の腕に形成した光線砲ユニットを構えている。
 そう、まだわたるにはじゆつしきしんで形成する武器が残っていた。
 しかもこの光線砲は能力で作り出すもの故、しんの許す限り破壊力を高められる。

ぼくの勝ちだ、かみせい!」

 わたるの砲口から一筋の巨大な光がはしり、かみせいをカムムスビごとんだ。
 勝ったと思い込んで機外に出てしまっていたかみは機体を操縦する術を失っていた。
 かみが慣れていたのは生身の戦いであり、どうしんたい戦の経験不足があだとなったといえよう。
 もつとも、彼女の腕ではように意表を突く攻撃は躱せなかったかも知れないが。

 カムムスビは跡形も無く消し飛び、ボロボロになった一人の女が落下していく。
 一方で、わたるとカムヤマトイワレヒコも海面が近い。
 ずカムヤマトイワレヒコが、続いてわたるが、最後にかみそろいも揃って着水し、体の大きさに見合ったみずぶきを上げた。

「ぶはっ!」

 わたるはなんとか海面上に顔を出し、水面に浮かんでいたカムヤマトイワレヒコのなおだますがいた。
 残念ながら他の部品は沈んでしまっただろう。

(これじゃ作戦続行は無理だ……。おまけに戻ることも出来ない。なんとかしてとよなかさん達に救助要請を出さないと……)

 わたるなおだまを開き、通信機能が生きていることを祈って操縦室内に入った。
 その間、わたるの視界に水面を漂う女の姿が映った。
 かみせいは海水を赤く染めながら、わたるに向かって弱々しくほほんでいる。
 それはこれまでの高慢な彼女が決して見せたことの無い表情だった。

ごとです、さきもりわたるまえこそ、真の日本男児……」
「マジかよ、あれで死なないのか……」

 小さくつぶやいたかみの唇を読んだわたるあきてて操縦席「あらみたまくら」にもたかった。
 それと同時に、わたるからが分離し、副操縦席「にぎみたまくら」で眠りに落ちる。
 そしてわたるも、最早まとに動く気力すら残っていない。
 最後の力を振り絞り、とよなかたいよう一尉に通信をつなぐ。

とよなか一尉、聞こえますか……? ちらさきもり……」
ちらとよなかさきもりさん、無事か? 何があった?』
「敵特別機を撃墜しました。しかし此方も撃墜されての相打ちです。敵操縦士は第一皇女・かみせい、彼女も生存して海上を漂っています。ぼくは力を使い果たして救助どころではありません。どうか助けてください。彼女の生死は取引に使える筈です。場所は……」

 わたるもうろうとした意識の中でかすれる声を辿たどたどしく繋ぐ。
 だが戦いの中で受けた傷は深刻で、全てを言い切る前にいよいよ指一本動かせなくなってしまった。

(うわ……。これ、ヤバいな……。死ぬ……かも……)

 わたるは小島の海岸になおだまが打ち上げられたと感覚で理解し、そのまま深い深い眠りに落ちていった。

さきもりさん! おい、応答しろ! カムヤマトイワレヒコ、応答せよ! 応答せよ!』

 日本時間八月十三日未明、日本国自衛隊の特別作戦は続行断念を余儀無くされた。
 とよなかたいよう一尉とこうこくの部隊長は交渉の末、カムヤマトイワレヒコとカムムスビの操縦士をそれぞれ回収。
 スイゼイ部隊はカムヤマトイワレヒコのなおだまと共にハワイへと撤退した。

 日本国側の損害はちようきゆうどうしんたいカムヤマトイワレヒコ一機、スイゼイ四機、シキツヒコ十機の喪失に、シキツヒコ操縦士十名の戦死。
 カムヤマトイワレヒコはなおだまこそ回収出来たものの、再生には長期間かかり、当分は戦線に復帰出来ないだろう。
 なお、カムヤマトイワレヒコ及びスイゼイの操縦士に死者は出なかった。

 こうこく側の損害はぜっきゅうどうしんたい・カムムスビ一機、ちようきゆうどうしんたい・ガルバケーヌしき九機の喪失に、ガルバケーヌしき操縦士七名の戦死。
 カムムスビの操縦士は生存したが、戦闘に敗北してしんを喪失している。

 また、ハワイでもどうしんたい戦が繰り広げられた関係で、パールハーバー・ヒッカム統合基地にも一部施設に被害が及んでいる。

 日本国はすめらぎかな防衛大臣兼国家公安委員長のきもりで始めた終戦のための特別作戦に失敗してしまった。



    ⦿⦿⦿



 こうこく首都とうきようおお区、はね国際空港。
 一月前に破壊され、復旧が進むこの場所は、早朝から騒然としていた。
 戦闘から帰還したちようきゆうどうしんたい・ガルバケーヌしきから、二人の将校に肩を担がれてかみせいが重体で運び出されたのだ。

はや中尉・ひらつじ少尉! 早く殿下を此方へ!」

 滑走路には既に救急車が乗り入れ、担架と輸液の点滴道具が用意されている。
 しんを失い、激しく出血した状態で海面を漂っていたかみは、国防軍に救助された時には既に危機的な状態だった。
 はやてつ中尉とひらつじらい少尉による適切な応急処置が無ければ今頃絶命していてもおかしくなかった。

「殿下、もう少しの辛抱です。すぐに皇宮へお運びします。御弟妹のしんをお貸しいただきましょう」

 はやかみをそっと担架に寝かせ、努めて穏やかな口調で言い聞かせた。
 彼は自機を乗り捨ててでもかみを救助したひらつじに同乗し、可能な限りの応急処置とかんだん無き容態観察をしながら彼女を此処まで運んできた。
 ひらつじひらつじで、新華族としてのつてを使っていちはやく皇宮の侍医に連絡を入れてある。
 彼らがこの様に献身するのは、自らの戦場で一度ならず二度までも皇族を死なせる訳にはいかないという思いからだ。

はや中尉、ぼくはガルバケーヌしきに戻ります。道が混雑する場合は排除してでも、殿下を最速で皇宮までお送りせねば」
「……ああ、頼む」

 ひらつじは自分の機体に向けて振り返る。
 民草の生活を顧みない貴族ならではの過激な物言いははやちゆうちよさせたが、火急を要する事態に首肯せざるを得なかった。
 しかし、戻ろうとするひらつじの手首をかみの冷たい手がつかんだ。

「殿下?」
「なりませんよ、ひらつじ。皇軍の武威を徒に臣民へ向けるのは……」

 かみは力の無い声を絞り出す。

「殿下、どうか御安静に」
はやわたくしのことは皇宮ではなく病院へ運びなさい。けんは陛下の代わりにこうこくを支えねばならぬのです。そのしんわたくしの為に使わせる訳にはいきません」
「な、何をおつしやいますか!」

 驚いて身を乗り出すはやだったが、背後からひらつじが肩に手を置いた。
 振り向いて彼の方を向くと、ひらつじは渋い表情で首を振る。

はや中尉、仰せのままにいたしましょう」
ひらつじ少尉……!」
「殿下のことを、民を思われるこころないがしろにしてはなりません」

 先程までの威勢はへやら、すっかりしおらしくなったひらつじだったが、その眼には有無を言わさぬ強い意志が宿っていた。
 はやはそんなひらつじに、こうこく社会の本質を見た。
 表向き、軍隊という組織の上下関係が働いているようで、根本的なところで皇族を頂点とし、それに連なる華族に対し、一兵士のはやには逆らえない領域がある。
 この確固たる貴族社会では上流階級による理不尽がまかとおってしまうが、一方で頂点たる皇族に民草の守護者としての自負心があってどうにか安定を保っているのだ。

わたくしは……まえ達兵士に謝罪しなければなりません。の戦死を受け、わたくしまえ達をだらしがないとそしった。しかし、まえ達に助けられなければわたくしは今頃……。戦場をめてだらしがない為体ていたらくを曝したのはわたくしだったという訳ですね……」
「殿下、お体に障ります。どうか御自愛を」

 これ以上語らせて負担を掛けまいとする二人の将校に、かみは力無く微笑みかけた。

「信じていますよ。我がいとこうこくたけつわもの達よ……」

 かみはそっと両目を閉じた。



    ⦿⦿⦿



 日本時間、八月十三日午後四時。
 未明に行われた特別作戦についてすめらぎかなが記者会見を開いていた。

「先程も申しましたとおり、本特別作戦はミッドウェー島上空の交戦による機体の損傷状態を考慮した結果、第一次上陸作戦が中止の運びとなったのであり、失敗とは認識しておりません」
「しかし、結局のところこうこく軍に敗北し撃退されてしまったのでは?」
「それは違います。今回の戦いにける我が国の損害はちようきゆう五機、対して戦果は特別機含む三十機と報告されています。加えて此方側の機体は全て再生可能な状態で回収されており、既に第二次上陸作戦も視野に入れて準備を進めております」
「大臣、大臣はそう仰いますが、開戦以降防衛省の発表はこうこくや海外の報道との大幅な食い違いが指摘されております。この点については如何お考えですか?」
「不確かな情報に惑わされることなく、公的な発表に基づいた正確な報道をお願いしたい所存で御座います」

 すめらぎはそう言い残すと、記者達の追求を黙殺して会見を打ち切った。
 詰めかける報道陣を警護が身体を張って抑える中、逃げる様に会場を後にする彼女だったが、その眼には一つの思惑に鋭い光を宿していた。
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