ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第2部

第13試合 - 国生の罠

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「何ッスかね、夜宮のやつ、尻餅つきましたよ」

 リンク内を見守る者はたったの二人。
 パルテノンの重鎮、鏑木と、パルテノン傘下の名もなきチームメンバー。

 二人はスケートリンクで行われている天晴と国生のデュエルをつぶさに観察していた。

「エアガンのカードだ。
 威力が低すぎて、滅多に使われないが、この不安定な足場なら効果抜群だろうな」
「エアガンッスか……。めちゃめちゃ低レアのテクニカルタイプ用カードッスね」

「ああ。しかも空気放出用のバレルとマズルが開いているタイプじゃないと使えない」
「えっと、そんな穴開いてたら、ギアブレード、脆そうッスよね」

「脆いよ。ブレードで打ち合ったら、相手がオールドタイプとはいえ、力負けする。
 だからこそ、このスケートリンクという状況が合うんだ。
 チマチマとエアガンで態勢を崩させるなんて、やる事がこすっからいというか、なんというか……」
「でも態勢崩してるだけじゃ、勝てないッスよ」

「もちろんだ、必ず決め手のカードがある。
 テクニカルタイプ使いは、様々なカードを使いこなすからこそ、テクニカルタイプと呼ばれるんだからな」
「……ウィッス」

 * * *

「どうしちゃったの、何もしてないのに尻餅なんてついてェ」
「くっ、この……」

 立ち上がろうとする天晴のギアブレードに、的確にエアガンの効果を当てていく国生。

「うわっ」

 再び倒れ込む天晴。

 その性格はともかく、国生はテクニカルタイプのシューターとしては一流である。

 パルテノンで二番手に甘んじていたのも、黒澤の鉄壁すぎるディフェンスが破れなかった為であった。
 それは単純明快なギアブレード同士の相性差といっても良い。

 条件が同じなら、国生は決して黒澤に劣る存在ではない。
 それほどまでに、国生の技量は群を抜いていた。

(ギアブレードの先端がこちらに向けられている……。
 あのギアブレード……先端に、穴……?)

「そら、そらぁッ!」

 ──パチ、パチン!

「くっ!」

 手の甲を狙われた。
 撃たれた箇所が、ひりひりする。

(間違いない、あのギアブレードの先端から、何か飛び道具を出して撃ってるんだ)

 天晴の読みは、限りなく正解に近かった。

 エアガンのカードは、ギアブレード内のバレルを通して圧縮された空気をマズルから発射するカードだ。

 最大射程距離は約3メートルと、そう長くないが、人体の急所に当たると大変危険であり、防具をつける正道ならともかく、デュエルとなると失明の危険性すらある凶器となる。

(威力は大したことないけど……こう何度も撃たれてちゃ……)

 さらに、スケートリンクのもうひとつの魔の手が、じわりじわりと天晴を蝕んでいく。

(手が、寒さでかじかんできて、ギアブレードが握りにくい!)

 寒さによる握力の低下、そして。

 ──クゥゥ、ゥゥン……。

 同じく寒さによる、ギアブレードの機構へのダメージである。

 天晴のギアブレードはオールドタイプとはいえ、区分としては精密機械である。
 コアを排出しないまでも、結露などのダメージによっては駆動が止まってしまう可能性がある。

 一応、公式ルール上、コアを排出せずに駆動が止まった場合、10秒以内に再駆動すれば負けとは認められないため、デュエリスト内でもそれは共通認識とされているが……。

 長引けば長引くほど不利。
 自ら飛び込んだ罠とはいえ、天晴は急激な対応を迫られていた。

(何とか攻め込まないと……!)

 不安定な氷上を、絶妙なバランスで走り寄る天晴。
 懸命にギアブレードを振るうが……。

 * * *

「ダメッスね、国生さんの方が動きが軽いッス」
「さすが、ホームグラウンドだけあって防寒対策もしっかりしてあるみたいだ。あんまり着込んでるようには見えないんだけどな」

「そッスね。着込んでると動きにくいからじゃないスか?」
「そうかもな。打ち合いに弱く、カードに頼るテクニカルタイプは機動力が生命線だ」

「俺、思ったんッスけど、耐久力を上げるカードをテクニカルタイプに差し込んだらどうなるんッスか?」
「タフネスやカーリッジのカードとかか?
 どうかな、システム的な耐久上限が上がっても、ギア本体が打ち合いに耐えられずに分解しそうだ」

 ギアブレードの分解はコアの排出と同じく、敗北扱いとなる。

「なるほど……だからエアガンしか撃たないんッスね」
「夜宮が近づけば離れ、離れれば近づき、エアガンの射程を維持している。
 おそらく、長期戦に持ち込んで、寒さで動けなくなったところを決めに行く算段だろう」

「うっわ……そんなハンターみたいな事やられたら、勝てっこないッスよ!」
「それが国生のスタイルだ。
 黒澤も含め、パルテノンはそうやって必勝の型を相手に押し付ける事にかけては、相当な域にあるんだぜ」

「でも、黒澤さん、負けちゃったッスよね……あの夜宮って奴に」
「そのようだ。あの鉄壁のディフェンスを、あんなオールドタイプでどう破ったかは知らないが……。
 夜宮がどう戦うのか、しっかりと見させてもらうぜ」

「俺、特に黒澤さんに憧れてたんで……国生さんには、絶対カタキ、討ってもらいたいッス」
「それなら安心して見ているといい。
 国生の戦い方を見る機会なんてそうそうないし、このホームグラウンドであいつが負けるなんて事はありえない」

「そッスよね! よっし、応援してますよ、国生さん!」

「……負ける事なんてありえない……多分な」

 * * *

(バランスだ、バランスをもっと大切にするんだ。
 足で立つんじゃなくて、重心を落として、身体全体で……!)

 天晴は急激な進化を求められていた。
 国生の狙撃は正確無比であり、天晴をいたぶるように、バランスを崩して消耗させるように撃ち込んでくる。

 何とか近づけばひらりと離れ、逆に離れれば寄ってくる。
 前後移動を何度も繰り返してみるも、先にバランスを崩すのは天晴。

 このままでは敗北は必至であった。

(なかなか耐えるじゃねェかよォ、オールドタイプのクセに。
 おーおー、可哀そうに、あんなに手が赤くなっちまいやがって……。
 クッククク……、そろそろ終わりだなァ)

 国生、動く。

「いたっ!」

 撃たれた箇所の痛みが先ほどまでよりも強い。

(威力が、上がった……!?
 カードの効果か……?)

 天晴には圧倒的に知識と経験が不足している。
 それ故に、至極単純な事にも気付かない。

(とにかく、立つ。
 立って、歩くんじゃなく……身体全体で滑っていく!)

 * * *

「いっけぇ、国生さんっっ!」
「国生が近づき始めたな、決めに行くつもりだ」

「夜宮のやつ、もう倒れそうッスね!」
「うん……そう見えるんだが、なかなか倒れないな」

「そう言われてみれば……むしろさっきよりスムーズに動いている気がするッス……」
「まさか、氷上に対応しているのか?
 スパイクもない、普通のスニーカーで」

「あ、ありえないッスよ!
 俺なんてスケート靴でも滑るのに!」
「逆だぞ、スケート靴は滑りやすいように作られてるんだ。
 要はバランスと体の使い方の問題なんだ。
 ……はっ、まさか」

「ど、どうしたんッスか、鏑木さん」
「氷上では、少ない摩擦を利用して立ち上がろうとすると、滑って失敗する。
 これまでの戦いを見てきて、夜宮のスニーカーは特別滑り止め効果の強いスニーカーでない事はわかる。
 むしろ靴底に溝の少ない、滑りやすいタイプだと推測できる。
 ……それなら、自分から滑っていけばいい、と……そう考えているのか?」

「そ、それこそありえないッス!
 そんなことやれたら、バケモンッスよ!」
「いや、理論上は可能だ。
 この土壇場どたんばで、いきなりそんな事をやろうって考える事は、十分にバケモノじみているがな……」

 * * *

 ──スーーーーッ! ジャッ、ジャッ!
 ──……ゥゥゥゥゥン……。

(なんだ!? 急に迫ってくる!
 氷の上だぞ、ありえねェ!)

 勝負を決めに行こうと近づいた国生は酷く動揺していた。
 自分が圧倒的優位に立ち、獲物を追い詰めたはずが、逆に追い詰められている気分になっている。

窮鼠きゅうそ、猫を噛むってかァ!)

「はああああっ!」

 天晴の咆哮と共に吐き出される息は白い。
 その白い息が、天晴の後ろに流れていく速度で、天晴の動きは相当なスピードをもっている事がわかる。

(どうする、エアガンのまま距離をとるか?
 いいや、ありえねェ、圧倒的に有利な状況を作ったのは俺だ!
 デュエルは流れを支配した奴が勝つ! これは道理だ!)

 素早くカードを引き抜き、器用にポケットのカードと交換する。

 ──ピッ。

「これで決めてやるよォ!」

(とらえた!!)

 相手がようやく射程内に入った、そう感じた天晴は、再び自身のギアブレードと共に、一筋の光となる──!

 ──ガァン!! バチチッ!!

 激しい音と光が交差し合う。

 * * *

「あ、あんなカード見たことないッス!」
「国生の決めカード、エクスプロージョンだ!」

「げぇっ、あの限定配布の超レアカードッスか!?」
「ああ。ブレードに細かい金属の粒子が飛び散って、それが相手のブレードと擦れて火花を発する。
 威力だけは高いが、誰も使わない。その理由は……」

「あの火花ッスよね……!」
「そうだ、あの火花は自身のブレードにもダメージを与える。
 エクスプロージョンというカードは、高威力と引き換えに、自身の耐久力も削る、諸刃の剣なんだ!」 

「テクニカルタイプでそんなハイリスクのカードを使うなんて……やっぱ、国生さんもすげぇ……並のデュエリストじゃねえッス……」

「だが、一撃で決められなかった……」

「この戦い、どうなってしまうんッスかねえ!?」
「どうもこうもない、決めカードで決められなかったんだぞ。
 二合目の打ち合いが始まった時点で、ギア同士の勝負は決してしまった……」

「そ、そんな……」
「残るは使い手の差だが……ダメだ、国生の動きが精彩を欠いている。
 必勝パターンに持ち込んだはずが、それが破られた事で動揺を抑えきれてない」

「か、鏑木さぁん……」
「……対して、夜宮は……この状況に完全に対応している。
 どう重心をかければ、どう滑るのか、完全に理解していやがる。
 見ろ、氷の上であんなスウェーなんか、ありえるかよ。
 ……デュエルは続いているが、もう国生に勝ちの目は……ない」

「……なんなんッスか……、なんなんッスか、夜宮ってやつはぁ!!」

「とんでもなくやばい奴だ……。
 俺達は勝負を挑む相手を、間違えた」


 * * *


「ただいま……」
「おかえり、無事だったか」

「ごめん、ギアブレードをまた痛めちゃったよ……」
「ギアブレードは壊れるもんだ、気にするな」

「いや、壊れてはいないけど……見てよおじさん。
 ブレードに細かい傷がたくさんついてるんだ」

 ふぅん、と天晴のギアブレードを手に取り眺める店長。

「やすりで擦ったみたいな傷つき方だな」
「なんか、相手のギアブレードが最後にさ、爆発したんだ。
 それまでも火花が散ってて、これ、刀身をすり合わせたら危ないなって思って」

「カードは色々あるからなぁ……」

(ふぅん……この傷、アタックタイプか、テクニカルタイプと戦ったな)

「ところで、勝ったのか?」
「一応、勝ったよ。多分、勝ちでいいと思う」

「なんか歯切れ悪いな。まあ、勝ったって言うなら勝ったんだろうけど」

「おじさん……。
 勝つと敵が増えるって、本当なんだね」
「ん……そうだな。
 かと言って、逃げてもいい事はあんまりないんだぜ」

「俺、またギアブレード壊す事になるかも」
「いいんじゃないか? 修理は俺に任せとけ」

「……ごめん、おじさん」
「いいって事よ」

 * * *

「お前はもう帰っていいぞ、今夜の事は言いふらしても構わない」
「そ、そんな事しないッス。
 俺だけの……心にとどめておくッスから……。
 鏑木さん、パルテノンの事、よろしくお願いしまッス……」

 足早にその場を去っていく男を見つめ、鏑木は目を細めた。

「はぁ……」

 スケートリンクから戻ってきて茫然としている国生に対し、鏑木が話しかける。

「国生」

「……なんだよ、無様だって笑いにきたのかよォ……」

「それもあるが、なぜあそこで決めにいったんだ。
 エアガンで時間を稼いでいれば自動的にお前の勝ちだったはずだ」
「ああ……なんか、いけるって思っちまったんだよォ……。
 相手がオールドタイプだからかなァ……」

「油断が招いた結果、って事か」
「油断してるつもりなんてなかったよォ……。
 あの黒澤に勝った奴だからよォ……って、なんだよこれ、黒澤を評価してるみたいでクソムカつくぜェ」

「必勝のパターンに、必勝の場を作った。常識で考えればお前の負けはない。
 それが、お前の見えない慢心に繋がったんだろう」
「……ザコ相手にやりすぎたって事かァ……。
 まあさァ、そこまで言うんなら、お前なら勝てるんだろ、鏑木ィ」

「いや、パルテノンは終わりだ。
 今日限りで解散する」
「なっ、なんだよそれ。やる前から負け宣言してんじゃねェ!」

「違う、俺は夜宮とはやらない。
 この戦いの情報を、伝えるのが俺の役目だからだ」
「伝える……って、誰にィ!?」

 興味のなくなった相手をさげすむように立ち上がる鏑木。

「鏑木、おめェ、一体……」

「パルテノンの監視は必要なくなった。
 俺は元のチームに戻らせてもらう」
「なッ!? て、てめェ、なに言ってんだァ!?」

「俺は鏑木ではない」

 鏑木の瞳が怪しく光る。
 今まで感じた事のない圧迫感に、国生の背筋が冷える。


「俺は、チーム・ラグナロクのブラギ。
 オーディンの指令で、パルテノン結成前からお前達を監視していた」


 衝撃の事実に、さしもの国生も驚愕の表情を浮かべ、開いた口が塞がらない。

「パルテノンは今夜で解散だ。
 じゃあな国生、別に楽しくはなかったぜ」

 
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